完封
【系譜】
【それは此岸から異世界へ転移、転生し、境界門を2回くぐり抜け、永久回帰の根源『魂』を2つ、器たる肉体に保有している者たちの名称】
【此岸から彼岸へ永久に巡り続ける魂。その無限ともいえる力は、生命活動に不必要な分をエネルギーとして変換、活用できる】
【そのため系譜は、魂をエネルギーとして用い『根源の異なる力』を行使する】
【より正確に言うならば、魂に導かれ集まる大量の外界樹素を用いて特殊な結界を構築し、その結界内に絶対厳守の力場を形勢するのが系譜の『根源の異なる力』の正体である】
【その力場は、あらゆる規則より優先される】
【その系譜の『根源の異なる力』を覆す唯一の方法は】
【因果を操作することであろう】
*
老爺はシグルドの方を向き、歪んだ笑みを浮かべ思考にふける。
(儂の力場を無視したな……わずか0,01秒にも満たない微々たる時間だが……こやつ先程……明らかに因果旋律に干渉しおった……おかしいの、前情報と違うではないか……魂を保有しない異世界の人間が因果旋律に干渉することなど不可能であるはずだが……何故だ? まさか『龍殺し』は……魂を保有している? 此岸の人間なのか? ……いいやあり得ない……しかし『龍殺し』の出生は謎に包まれているという……何か深い理由がありそうじゃが、今は些細な問題じゃろうて)
「はあ……はあ……」
シグルドは疲弊している様子だった。
額からは大量の脂汗がにじみ出ている。
(なんとか老爺の力場から脱出できたが……何だこの疲労感は……そして……なんだあの光景は)
シグルドが超加速し、異世界から0,01秒にも満たない間、完全に消滅した際。
シグルドが見たのは一面真っ白な謎の空間。
霧がかかっているように前方が見えず、ただひたすらに虚無が広がる謎の領域。
そしてそこには、一つの門があった。
その門は――聖霊堂の入り口に似た形状をしていた。
「もう一度……あそこにたどり着ければ……」
何かが掴める。
シグルドは本能的に確信していた。
新たな、未知なる領域。
まだまだ自分は成長できる、高みに行ける。
シグルドは以前劣勢のまま、しかし好戦的に笑みを浮かべる。
「こい、老爺。貴様の術、全て切り刻んでやる」
と吐き捨て、剣を構える。
「ほほ、怖い怖い。老人には優しくしなきゃ、いかんでしょうに」
〔『危険標識』幅員減少 『規制標識』指定方向外進行禁止 北〕
詠唱してから距離をつめる老爺。
シグルドも一旦距離を取ろうと動き出すが、後方に行くほどに可動距離の幅が短くなっていくのを感じた。そして更には老爺を中心にして北以外の方角には動けないようになっている。
(これがこの老爺の力……! おそらく、詠唱と共に対象者の動きや経路を指定、制約、禁止する能力か?! 我の可動域を一本道のみに絞ったか……しかしそれは悪手だ)
シグルドは身をかがめた。そして
〔略式。居合〕
短文詠唱で距離を詰める。
しかしそれより一手早く、老爺は。
〔徐行〕
瞬間、宙に投げ出したシグルドの速度が急低下する。
瞬間最大速度では音速を軽く凌駕していたシグルドの速度は僅か10キロ以下にまで急低下。
老爺は同様しているシグルドと距離を詰め、彼に触れ
〔一時停止〕
するとシグルドの身体は完全に停止した。
(まずい! しかし……もう一度……)
シグルドの身体が再び動き出そうとする。
外界樹素が波動のように急速に屈折し、乱れ、シグルドの身体は再び0,01秒にも満たない間、境界門へ辿り着こうと因果を歪めていた、その瞬間。
空から飛来したのは一本の大きな赤色の槍。
凄まじい速度で飛来し。
大きな衝撃波を発しながらシグルドの腹部に突き刺さった。
「ぐはッ」
シグルドは血を吐く。
因果旋律を干渉させ、消えかかっていたシグルドの身体がもとに戻り。
その隙を見逃さず。
シグルドが絶体絶命の状況に陥った瞬間、周囲の廃墟から突然姿を現したのは。
原生魔獣、ゴルゴン。
彼の魔眼が、静止したシグルドにめがけ蒼く光る。
シグルドの身体は節々から石化していき。
抗うまもなく、完全に石化し地面に落ちた。
「作戦は成功したぞ。フィマフェングに連絡せい」
老爺は地面に落ちた杖を拾い、痛めた腰をさすりながらゴルゴンに告げる。
老爺はシグルドを無力化したことに興味がなさそうな態度であり、それよりも痛めた腰の方を心配していた。
「これは素晴らしい……これほど見事な彫刻品を私は見たことがありません……フフ……」
ゴルゴンは。
腹部に槍を突き刺されたまま完全に石化し無力化された英雄『龍殺し』を見つめ。
不気味にそう呟いた。
人類の最終兵器。世界の均衡の抑止力「龍殺し」の完封。
ジギタリス家の掌で全てが踊らされている。
世界の終焉は刻一刻と迫っていた。




