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リンカーネーション  作者: 鹿十
第三章 王都編
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師弟

「オイ、聞いたか? 先週、10歳くらいのガキの剣士が、この前単独で『龍』を倒したらしいぜ?」

「シグルドの野郎のことだろう?」

「あいつの階級は、もう『力』だ。この400年、生まれてこなかった英雄だとよ」

「あいつは人間の形をしただけの化け物さ。妖術を使って人間に化けてる最上位の魔種イフリートなんじゃねえかって噂も出てるよ、どうやらこの馬鹿げた噂を信じちまう人間も割りと多いらしい」

「そりゃそうだ、人間のやれることじゃねえぜありゃあ」

「奴の実力はもうすでに人間界ミッドガルドだけに収まらぬ。その噂は他の種族にまで伝わっているほどだ」

「俺は、今のうちにシグルドの野郎と仲良くしておくぜ。それで数年経ってあいつが真の英雄になった際、自伝を書くんだ、タイトルは『英雄の傍にいた男』だな」

「何はともあれ、あれだけの力を持った者なのだ。王都の管理も厳しいだろう」

「あのシグルドってやつは一体、何を考えてんだろうな、どんな人間なんだろうな」


「おい、ボウズ、俺を無視する気かアい?」

「……なんでしょうか」

「おめーが噂の『龍殺し』のシグルドだってな」

「トレーニングの最中です。この剣術の訓練が終わってから、話しかけてください」

「つめてー野郎だ。『龍殺し』って言われてるから来てみたがいいが、とんだちんちくりんじゃねえか。まだ下の毛すらも生え揃ってね―よ―なガキだな」

「そう言う貴方は、酒を浴びるようにのむ爺だ。剣士の風上にもおけない。我は貴方のような剣士にはなりたくないから、こうして毎日訓練を怠らないのだ」

「ククク……そうか、じゃあボウズ、手合わせしてみるか?」

「……時間の無駄になる。やめましょう」

「ビビってんのか? 『龍殺し』のチビ」


 幼きシグルドの眉間に皺が寄る。

 シグルドは振っていた木刀を止め、酒瓶を持ち歩く初老の男を睨む。


「しつこいですね。そこまで言うなら、手合わせに応じましょう」

「よし! そうこなくっちゃなあ」


 剣士の訓練場。

 一面が手入れされている芝生の平原。

 そこで2人の剣士が、相まみえる。

 一人はレイピアを弓のように引いて構え。

 そして対する幼き白髪の少年は、真剣を握りしめ、臨戦態勢に入る。

 先に動いたのはシグルドだ。


[『式』系統は闘素――器は『剣』。介者流:斬鉄]


 術を酷使し、渾身の一撃を叩き込むシグルド。

 だが、それを華麗に避け、初老はレイピアをシグルドの首元へ沿わす。

 勝負は一瞬で決まった。

 

 シグルドの額からは冷や汗が流れ落ち。

 シグルドは生まれて始めて「死」を間近に経験し、心臓の鼓動数をあげた。


「っと、こんなもんだな。勝負アリ、続けるか? ボウズ」

「……いや、いい」

「ありゃ、思ったより早く折れたな」

「アンタには敵わないことが分かった」

「……へえ、意外に物分りが良い」


 初老の男はレイピアを鞘に戻した。

 幼きシグルドはその場に膝を落とし


「何故……何が駄目だった? 身のこなし、術の精度、威力……どれをとっても完璧だったはずだ」

「そりゃ簡単な問題だ。オマエは池のヌシだからだ」

「……どういう意味だ」

「オマエは大きな魚。水の中なら誰にも負けない。が、ヌシも陸にあがらせちまえばただピチピチ跳ねるだけの魚だ」

「……」

「合ってねえんだよ、オマエ、今の戦闘法はオマエに、あってねえんだ」

「……介者流は剣士のスタンダードだ。軍兵である我は、甲冑の装着を前提とした、防御、攻撃、あらゆる側面に優れた介者流をマスターするのが、最適な選択であるはず……」

「ちげえな。オマエに介者流は似合ってねえよ。介者流ってのは、軍兵には最適な流派だろうが、誰もが習得できるよう簡略化されている、形式に囚われすぎていて、発展形がない。今はオマエの超人的な身体能力でたまたま成り立っているだけで、介者流に拘っていると、オマエの最高地点は今現在で止まるだろうな」

「……では我には、何が似合っていると?」

「自分で考えろって言いたい所だが……オマエはまだ十歳そこらのガキだしな。オマエの真の長所は、外界樹素の吸収力だ。そしてそれを身体に流す速さ。つまり初速がとてつもなく早い。理屈はよく分からねえが、テメエの周りだと、外界樹素が全く俺の命令に従わなくなる。樹素のコントロール力が高いんだ。それを活かせ」

「……初速の速さ、か」感心するように呟くシグルド。

「まあ、これは俺の独り言だが、俺は居合流の人間だ。俺とお前の戦闘スタイルは似ている。まあ、そのうち、気が変わったら居合流の門を叩いてみろ」

「……先程までの無礼を許してほしい。貴方の名は」

「……シグムンド。それと無礼なんて謝らなくていい。ガキと女は少し生意気な方が可愛いってもんだ」



 職務執行。

 十三神使族の命令を一剣士であるシグルドが拒否できるはずもない。

 シグルドに慈悲はない。

 彼は昔から剣士としての流儀を叩き込まれ生まれた戦士であり。

 内から湧き出る本能や本音を理性で抑え、目的を遂行することに長けている。

 彼の心の中には「龍殺し」としての自分と「シグルド」としての自分が分断されており

 その二者は交わることはない。

 その非情さ、冷徹さが、シグルドの本領でもあり、彼を最強たらしめる要因の一つでもある。


 「龍殺し」としての自分は大義を抱え、王家のために尽力する。

 シグルドとしての自分は、とても良く笑い、その身に似合わない軽快な一面を垣間見せる。

 その両極端な自己が、シグルドという一人の中に多重人格のように重なり層をなしているのだ。

 その二者は消して交わることがない。

 今までも、そしてこれからも。


【シグルド、あなたは、救えなかった命のことを考えたことはある?】


 ああ、あるさ。

 あるよ、勿論だ。

 いつも思うんだ、何故僕にはこれほどの力が宿っているのか。

 多くの人間は脆く、弱く、矮小で、それ故に意地汚い。

 その弱さ、脆さこそ、人間の尊ぶべき美であると、そう信じている。

 だから強者である自分は、彼らを救う義務がある。

 きっと僕は英雄になるために生まれてきた男なのだ。

 その力の根源がどこにあろうとも、知ったことではない。

 ただ与えられていたのみ。ならばその力を、人のため、世界の為に用いる。

 それだけが、僕が、いや我が行える唯一のこと。

 ずっとそう信じてきた。


「お、シグルドか、久しいな」

「……ああ、陽太。君も元気そうで何よりだ」

「グラズヘイムにいた頃よりよっぽど体調が良いんだ、やっぱ王家で出てくる飯は囚人の飯とはいえ美味くってさあ」

「なかなか、良い暮らしを確約されているようだな」

「ああ、思ったより囚人暮らしの生活も悪くないな」


 王宮の渡り廊下ではシグルドと陽太が対面し世間話に花を咲かせる。

 アウストリはすでに西の山々に落ち、夕焼けに包まれていた。

 鼻孔には花の香が広がる。きっと巫女の社で育てているタタレコの匂いが風と共に運ばれてきたのだろう。


「それもこれも、全部シグルドのおかげかもな。僕の刑罰に関して言及してくれたんだろ? 助かったぜ、シグルドの抵抗がなければ、僕は今頃死刑になってたかもな」

「……ああ」

「ありがとな、シグルド。これで貸しは返してもらったぜ。まあ、気になるのはフレンだけどな。アイツも……闘技場に売り飛ばされたって聞いたけど、無事だといいんだが」


 フレンの名を出すと、シグルドの視線が地に落ちる。

 

「僕はこのまま、この王都で監視されながら生活し、情報を蓄えていくつもりだ。この王都には色々有意義な情報を持ってる奴が沢山いるからさ」

「そうか……」

「オマエも頑張れよ、シグルド。あと困ったことが……いや、オマエに限って困ったことなんか起きるはずがないと思うけど……まあ、僕を頼ってくれてもいいよ、暇だしな。まあ大したことは出来ないと思うけどな」

「…………」


 何故か無言で俯いているシグルド。

 何やら落胆しているような雰囲気を感じ、陽太はシグルドと会話をやめようとする。


「ま、まあ、困ったことがあれば、いえよ、友達、だろ? 俺ら、さ」


 陽太は動揺しながら、シグルドの右肩に手を置き、その場を離れようとした。

 が、シグルドは冷徹な声で遮り、陽太の足を止める。


「なあ、ヨータ。僕には親がいないんだ」


 突然シグルドの口から語られた身の上話。

 陽太は思わず振り返り、話に聞き入る。


「生まれた時には両親がいない。気づけばこの王都にいた。捨て子なのかどうかも分からない。物心ついた時には、流されるように僕は剣士を目指すようになっていた」

「……」陽太は黙って聞く。

「研鑽するライバルはいた、が友はいなかった。血の繋がりのある者も、この世にはいない。僕はずっと孤独で、その寂しさを埋めるために剣を振るった。気づけば、剣の腕はみるみるうちに上昇し、己に不相応な大きな力が眠っている事に気づいた。皆が僕を求め始めた。だから僕はそれに答え続けてきた。そうやってがむしゃらに生きていたら、僕は『龍殺し』となっていたんだ」

「ああ、お前はすげえよ」


 陽太は若干不審に思いながらも答える。


「言いたいことが分かるか? 僕は『シグルド』ではない。『龍殺し』なんだ。僕の力は人間のためにあり、僕のためにあるのではない。『僕』は『僕』の私利私欲で『我』の力を酷使することはないのだ。我の力はいつも、天下のために存在する。だからこそ、自身の甘い考えなど捨て、すみやかに任務を遂行すべきだと考えている。すまない、陽太。きっといつか、その犠牲は人類の礎となるだろう」


 シグルドは身をかがめ、腰に帯刀している剣の鞘に手を添える。

 シグルドの攻撃動作であると一瞬で理解した。

 しかし、陽太は理解ができなかった。

 一体シグルドは誰に対して刃を向けようとしているのか。

 分からず、動揺し、困惑し……その刃の先が自分に向けられていると知った時には既に。

 シグルドは術を発動して切りかかっていた。

 ――――


 ここで終わる。

 と思われたが。

 

「おい、シグルド。おめえ~俺のシゴトを邪魔しやがって、何様のつもりだ?」


 倒れ、尻もちをついた陽太の前に現れたのは。

 レイピアを手にした「最速の初老」シグムンド。

 そのレイピアは、シグルドの剣を真っ向から受け止めている。


「邪魔だ。シグムンド師匠」

「早く帰れよシグルド、俺のシゴトを邪魔すんじゃねえ」


 シグルドとシグムンド。

 師弟対決が火蓋を切って落とされる。


 


 



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