任命
「まあ、何はともあれ。困った者同士、仲良くやっていこうぜ」
「ああ」
月と僕は立ち上がって再び握手をする。
夕暮れ時、鐘の音が鳴り響き、空は黄昏の色に染められようとしていた。
「じゃあ僕はそろそろ戻らなきゃならないからさ。またあとで」
鐘の音が鳴る前に、中庭で寝ているシグムンドを起こさなければならなかったことを思い出し僕は慌てて巫女の社を離れ、王宮の中庭に駆け足で戻ろうとした瞬間
「気をつけろよ、お前さん」
そんな僕に警告をするように語り始める月。
「最近、人間界の情勢がきな臭くなっている。近い内に大きな混沌が訪れるぜ
、お前さんにゃ、死なれちゃ困るからな。自分の身は自分で守るしか無い」
「ああ、月こそ、死ぬなよ?」
「俺が死んだときにゃ、墓場にマヨネーズをかけておいてくれ。好物なんだ」
「ああ、考えておくよ。じゃあな、月」
「おうよ」
そう言って、陽太は駆け足で月の元から立ち去った。
そんな陽太の後ろ姿をじっとりとした視線で見つめる月。
陽太と入れ替わるように、社から出てきたのはアザミだった。
アザミは立ち尽くしている月に向かって
「月さんは、陽太さんのことがお気に入りなんですね」
とほほえみながら問う。
「あ? そう見えるか?」
「ええ、だって月さんが巫女様以外の話をあんなに真面目に聞いているのアザミ初めて見ましたもん」
「ああ、キンタマの話で盛り上がったんだ。男はキンタマの話で30分は話せるんだ、知らないのか?」
「……そうゆう汚い話はアザミは苦手ですよ」
「冗談だ…………あの立花陽太という男と俺は同郷なんだよ。だから話が盛り上がったのさ」
「へえ~月さんって陽太さんと同じ出身地なのですか? アザミ、気になりますよ」
「アザミには内緒だ」
「え~~」
アザミは露骨にがっかりした表情を浮かべる。
月は、アザミのことなど気にしていない様子で、独り言にように続けて呟いた。
「それに……立花陽太は『因果律』が異常なほど高い。よく観察しておけ。ありゃ、アイツを中心に大きな波乱が起きるぜ。面白いことにな」
*
「ちょっといいかな」
王宮の廊下で一人の男に声をかけられたシグルド。
振り向くとそこには、豪華な身なりをしたロン毛の男がいた。
胸に光っているのは花の模様が刻まれたペンダント。
その紋章は、十三神使族の者のみ付けることが許されているものだった。
シグルドはその場に片足をついて敬意を顕にする。
「これはこれは、神使族の方ですか」
「ああ、いいんだそんなに畏まらないで。もっと楽にしてくれ」
「しかし王家となろう方々にそのような無礼は出来ません」
「……まあいいか。会うのは初めてかな? 僕の名はフィマフェング=ジギタリス。長いからフィマで良いよ」
「ジギリタス家のお方ですか。存じ上げていませんでした、申し訳ない」
「いいんだいいんだ。僕は名ばかりのジギタリス家だからね。それよりも君が『龍殺し』か。噂はかねがね聞いているよ。とんでもなく強いんだってね、民衆からも大人気だそうで」
「そのほとんどが、民衆による過大評価です。日々、身の丈に合わない重圧に答えようと奮闘しているだけです」
「ははは、謙虚だね。まあ、そんなことよりさ、僕は君にある依頼があるんだ」
「……神使族からの命令ですか。なんなりとお申し付けください」
「城郭都市グラズヘイムに発生した大規模ダンジョンのことについてなんだが、詳しく教えてくれないか?」
ピクリと、シグルドの眉間が動く。
「ほぼ全ての情報は、もうすでに開示済みですが……」
「僕が聞きたいのは第五層の人物についてだ。彼は特殊な結界術を用いていたって話だけどさ、どうも僕は納得ができなくてね。ただの結界術や魔術使いに君が苦戦するはずはないと思うんだよ」
「……第五層の終座にいた人物は我にも全く理解が及ばない力を使役していました。外界樹素のコントロール力は我をも上回り、正体不明の謎の力を用いていました」
「へえ」
「唯一理解できたのは、彼が使っていた力は『この世のものではない』ことのみ。おそらく樹素によるものではありません。正体不明の莫大な力を用いてきたため、何も対応ができなかったのです」
「なるほど。『龍殺し』の君でも理解できない正体不明の力か……分かったよ、喋ってくれてありがとう」
「あまりお力になれなくてすみません」
「いいんだいいんだ。あ、あと一つ、ついでなんだけどね、君に頼みたい依頼があるんだよ」
「なんでしょう?」
「先程、王宮法廷で魔族フレンと立花陽太という男の秘匿死刑が決定した」
「‼ ……何故ですか? 彼らの刑は延期されたはずでは?!」
シグルドは顔をあげ、険しい表情を浮かべる。
「僕の一家、ジギリタス家が急遽首を突っ込んでさ、二人の死刑を強引に決定させた」
「……何故ですか?」
「ああ、勿論僕じゃないよ? 僕よりもっと上の人間……僕の父親が決めたことだ。理由は教えてくれないけど、どうやらあの二人を早く始末したがっているそうだ」
「そうですか……」
シグルドは立ち上がり、話を終わらし先へ急ごうと早歩きをする。
が、そんなシグルドを呼び止めるフィマフェング。
「ちょっとまってくれ。話はまだ続くんだ」
「なんでしょうか?」
「魔族フレンと立花陽太の殺害に手を焼いているらしくてね、ほら、今は王家は紛争により深刻な兵力不足じゃないか? だから上層部の人間はある剣士に二人の殺害を依頼した」
「…………」
シグルドは黙ってフィマフェングを見つめる。
そしてフィマの口から放たれた言葉に、シグルドの顔が暗く染まる。
「つまり『龍殺し』、君が魔族フレンと立花陽太の殺害にアデインされたということだ」
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