殺ッセオ!!①
大地を揺るがすコングの音。
興奮で包まれた観客たちの歓声。
そのどれもが、アタシにとって馴染みのないもので、新鮮で。
人間って生き物は群れをなして暮らし、大きな都市を建設するという噂は聞いていたし。
そんな町並みは幼いアタシにとっては夢そのもので。
いつか訪れてみたいと、願っていたし。
沢山の人間に囲まれて、笑って暮らしたいと願っていたのは確かだけど。
まさか、こんな形で、夢が叶うとは思わないよね。
「出場だ。外へ出ろ! 魔族フレン‼」
錠前に鍵を差し込み、檻の扉を開く看守の男。
その檻の中で鎖に繋がれているのは、やつれたフレンの姿。
「うるさいわね。せっかく寝れそうだったのに」
「早く外へ出ろ。貴様の出番だ」
「外へ出ろって言われたって、鎖に繋がれてて出れないんですけど」
「では今から鎖を外してやる。決して暴れるんじゃないぞ」
「まあ、そんな必要もないけど」
フレンが立ち上がると、両手両足に繋がれた鎖が炎で焼かれ溶けていく。
溶解した鉄の鎖は液体となって地面に溶け落ち、フレンは肩を回しながら檻の外に出た。
その一連の様子を見ていた看守の男は、「ひい!」と怖がりながら尻もちをつく。
檻の先には階段があり、階段の先からは光が漏れ出している。
右手で光を遮り、階段をコツリコツリと歩くフレンの頭の中には。
期待と希望が渦巻いていた。
フレンが階段を上がった先に広がっていたのは。
大きな円形闘技場。
中央のフレンを囲うように何千、何万もの人間が密集して観戦している。
「やっちまえ‼」
「殺せ‼」
「暴れて見せろ魔族ッ‼」
熱気が込められた罵詈雑言の数々がフレンに降りかかるが、フレンはその言葉に全く反応を示さないで、人間の暴虐ぶりに呆れ返っていると
「ではア~~~~~~~お次は~~~~~~~~~~今回のコロシアムの目玉!! 魔族フレンの登場だあ~~~~~~~~~~‼‼‼‼」
術式を用いて声の音波を増幅し拡散するのは、解説実況役の男。
彼の解説と共に、これまた一段と観客たちの熱気のボルテージがあがる。
冷めているのは、フレンだけだ。
「この魔族フレン~~~~こ~~~~んなに愛らしい顔をしてるけど~~~~皆さん! 騙されちゃいけませんヨオ~~~~~~?! なア~んと! 城郭都市に出現した大規模ダンジョンの終座に君臨していた、いわばボスですねえ~~~~~~~美しい金髪なのは認めますし~~~~こんないたいけな少女を殺し合いに参加させるのは~~~~いくら私といえどオねえ、心が痛みます、本当に」
「嘘つけ‼‼‼‼‼」
「お~っと観客から私に罵声が飛びましたねえ~~~~今日も観客たちは捕れたての魚みたいに元気いっぱいですね~~~~~~まあ、取り敢えずゥ~~~~皆さん、かわいくて若い女性ってだけでえ~~~~チヤホヤしたりとか~~~~~可哀想だとか~~~~人権がどうだとかそうゆうばかみたいな話をするとね~~~痛い目見るって話ですよ~~~~~~~僕もねえ、妻はねえ、昔は本当に可愛くて可憐な女の子だったんすけどねえ~~~もう年が経つごとに鬼ババアになってしまいましてねえ~~いや~女性ってのは怖いもんですわ~~~」
「うるせえアホがッテメエの女房の話なんぞどうでもいいわッ」
「早く殺し合いをさせろッ」
「テメエの話とか聞きたくねえんだよ」
「はいはい。観客たちも~~~~お預けされてイライラしてるみたいでね~~~~~ってことで早速、やっていきましょうか~~~~~‼ まず第一線は、魔族フレンVS上級魔獣! 相手はデュラハンですわ~~~いや~~~これは厳しい! デュラハンを討伐するのに、剣術に秀でた剣士が5体は必要だと言われてるくらいですから~~~もしかしたら、魔族フレンはここで死んじゃうかも? な~~んつって、ってことで、なるべくあがいてくれ!! フレン!!!!」
歓声とともに、フレンの対極の位置にある鉄の門が開き、中から首なしの騎士――デュラハンが飛び出し、フレンめがけて猛突進する。
「おっと~~~~~!! 早速フレン大ピンチかあ~~??????」
歓声があがる。
観客の半数は、いくら魔族とはいえど人の、少女の形をしたフレンを戦わせることに引いていたが、彼らの声は、血と肉を求める過激な観客の歓声に飲み込まれ消えていく。
デュラハンは、その大鎌をフレンめがけて思い切り振る。
フレンはため息を吐いた後
「バッカみたい。ニンゲンってば、こんなつまんないことばっかりしてる生き物なの?」
と呟いた時には、切りかかっていたデュラハンの方が、フレンの魔術による炎で焼かれ朽ちていった。
会場内が「どっ」とざわめく。
「お、おお? おっっと~? 何が起こった? ど、どうやら、フレンは、今、魔術を用いたようですねえ~~~おかしいなあ、完全にデュラハンに斬り殺されると思っていましたが……まあ、いいでしょう!よ~っし、第一回戦はフレンの勝利‼」
歓声により大地が揺らぐ。
間髪入れず、門が再び開き、その向こう側からは一人の老兵が現れる。
解説役の男は
「さて~休む暇もありませんよ。お次は、王都の軍の剣士です。彼は歴戦の剣士であり、剣術を極め、『能』の地位に上り詰めた生粋の実力者です! これは手強いぞ~?! あ、ちなみに剣士の階級について知らない人に説明しますと、剣士の階級は下から『大』『権』『能』『力』『主』『座』『智』『熾』であり、『能』の階級以上の剣士は300名も存在しません! これは手強いですね~~~~……あれ?」
解説役の男が、熱心に剣士の階級について解説し終わった頃にはもうすでに。
『能』とやらの階級を持つ老兵は地に伏し倒れていた。
解説役の男に対し、フレンは赤色のルビーのような瞳を向け
「くだらない。こんなもんなの? 剣士とやらって」
と言い、挑発するようにカモンの合図をジェスチャーで送って見せる。
「おいおい、マジか」
「『能』剣士が一撃で?」
「洒落にならない強さだろ」
観客たちはもやは、死闘を楽しむ気力はなく、ただただフレンの圧倒的な強さに恐れおののくのみ。
「あ、え~フレンが強すぎて、お通夜みたいな雰囲気になってしまいましたが~~~ま、まだまだ!! 次は~『力』剣士の出番で、その次は『主』剣士が待ち構えていますし、まだまだ上級魔獣は沢山いまして~」
「めんどくさいから、全員纏めてかかってきなさい」
「……え?」
「面倒だから、その『リキケンシ』とか『シュケンシ』とか纏めてかかってきなさいって言ってるわけ」
「…………」
解説役の男は思わず、黙る。
ボルテージが下がる円形闘技場。
観客の恐怖に比例しようやく湧き上がってきたのは。
フレンの興奮とテンション。
殺し合いはまだまだ続く‼
ここは血肉湧き踊る‼ 天下無双のバトルコロッセオ‼
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