画策
「なぜこんなにも多くの人間がいる」
「ここは王都だからさ、人間界で二番目に人口が多い都市だ」
「そんなことは知っている。何故人間という種はこうも群れたがるのだと説いているのだ」
「魔族である君たちには理解できない感情かもね。取り敢えず、一息つこうか」
派手な刺繍の入れられた黒色の宮廷服を着込むロン毛の男は、路地の傍らにある店の一席に座った。
「君たちは何か飲むかい?」
「要らぬ。人が作ったものなど口に出来るものではない」
「そうか。なら僕だけいただくよ」
そう言ってロン毛の男は一杯の茶を注文する。
ロン毛の男の他にも魔族と思わしき生物が三体存在し、そのうちの一体であるコウモリのような姿をした生物と主にロン毛の男は会話していた。
コウモリのような魔獣が口を開き
「我々がなんの魔族だか分かるか?」と問いかける
「見れば分かるさ。吸血鬼にゾンビ、そしてメデューサだね。どれもこれもメジャーな魔獣だ。近年じゃ逆に珍しい組み合わせだね」
「そこらの魔獣と一緒にしてもらうと困る。我々は原生魔獣だ」
「原生魔獣? なにそれ」ロン毛の男はそれほど興味がなさそうな様子で質問した。
「太古の昔……いや、この世界が生まれた始祖の時代から生き延びている魔獣のことだ。世界樹イルミンスールと同じ時期に生まれ、今日まで生き残りし者たち。それが原生魔獣だ」
「ああ、なるほどね。どうりで……」
注文した紅茶が届き、それを啜るロン毛の男。
「で……君たちの要件はなんだい?」
吸血鬼にゾンビ、メデューサは互いに顔をあわせ、その後、吸血鬼の魔獣が喋り出す。
「端的に言う。我々と手を組め」
「なぜ」
「力が足りんからだ」
「魔族は魔族同士で結束していればいい。何故、人間と手を組む必要がある?」
吸血鬼はロン毛男の問いに対し、少し押し黙った後、語りだした。
「近年、人間が飛躍的な大きな進歩を遂げているように、魔族も徐々にだが変化しつつある。連帯感のない我々のような種族の中でも派閥争いが起きているのだ。魔族は大きく2つの種族に別れ、どちらが今後の魔界を支配するかで混乱に陥っている」
「へえ、魔族ってのは邪神と呼ばれる長が全てを仕切っている完全な実力主義社会って聞いたけど。君たち魔族は邪神が首を縦に振ればそれに逆らえない種だろ?」
「そこが問題なのだ。現在、魔大陸を統括している8代目邪神は不在なのだ」
「不在……まさか」
「正確には適正の在る者がいないということだがな」
「今の魔族ってのは、誰も邪神に選ばれないほど貧弱になってしまってるってわけかい?」
「実力では申し分ない。8代目邪神として選ばれる魔族の候補が今、6名ほどいる。しかしその誰もが、『選定』を突破できないのだ」
「選定?」
「ああ、邪神として選ばれるには選定の義を突破する必要がある」
「選定の義って……殺し合いでもさせて選ぶってわけかい?」
「いいや、選定は、『先代の邪神が掛けた呪い』を解呪できるか否かで決定されるのだ」
「呪い……呪術か」
「ああ。7代目の邪神は優秀すぎた。魔族としても、術師としても。その力は神種をも超越すると言われたほどに。7代目邪神が施した呪術を誰も解呪不可能であるため、結果として邪神不在の空白期間が訪れている」
「へえ、魔族も魔族で慣習に縛られて大変だね、人間とは違った面倒くささがあるね。で、結局要件はなんだい? まさかその邪神が掛けた呪いとやらの解呪を手伝えって?」
「いいや、違う」
ロン毛の男はテーブルを人差し指でコツンと叩き、定員を呼びもう一杯の茶を要求する。
吸血鬼の魔族は手の血管が浮き出るほど拳を強く握りしめ
「この邪神不在の空白期間を利用し、革新派筆頭の腑抜けた魔族どもを駆逐する。それが我の願いであり、達成すべき悲願である」
「ってことは、君たちは革新派ではなく保守派筆頭ってわけだ」
「そうだ」
「つまり君たちは魔大陸で一悶着戦争を引き起こしたいってわけね。しかし自分たちだと革新派には敵わない。故に僕ら人間にまで助けを求めている……と、まあ大体事情は分かったよ。で、君たちの主張は? 魔大陸をどうしたいんだ? 革新派とやらの何が気に食わない?」
「革新派の連中は小賢しい知恵ばかりをつけており、他種族と交流を深め文化的な発展を行おうなどと画策している。七帝協和に出席し、種族間の仲を取り持とうとしている腑抜けた腰抜けばかりだ。あってはならないことだ。あってはならない、絶対に」
「ふーん。僕からしてみれば革新派とやらの魔族のほうがよっぽど未来が見えていると思うけど。実際、魔族が優位に立てる時代は終わったよ。残念だがこれからは僕ら人間の時代だ。魔術とやらも、もうすでに君たちの特権では無くなっているし。魔種と人類種二種族の個としての差は極めて大きいが、種族としての差はもうすでに存在しないどころか、人間のほうが有利と言えるくらいだ。君たちもその事実を認め、僕たち人間とうまくやっていく道を模索した方がいいと思うけどね」
吸血鬼の魔族は握った拳をテーブルに叩きつけ、怒りをあらわにした。
「良い悪いの問題ではない。魔族としてあってはならない生き方なのだ。人間の言葉を使うのならば、道理に反しているのだ。貴様らのような脆く矮小で弱い種には到底理解できぬ思考‼ ……我ら魔族は、樹素と共に生き、樹素と共に死ぬ定め……樹素の寵愛を受けし者たち……生涯孤独に、孤高に生き、喰いたい時に喰らう種族……‼ 我らが他者と調和を保ち生き続けるなど……生き恥だ、落ちぶれている。ならばこのまま絶滅したほうがまだましなのだ」
「はいはい。分かったよ。つまり君たちの中には『魔族』としてのポリシーみたいなものがあって、昔のような魔族のあるべき形とやらに戻りたいってわけね」
「そうだ」
「他種族と調和し、和を保って生きることを否定する君たちが徒党を組んで人間に協力を求めているってのもおかしな話だけどね、矛盾してないかい? それ」
「我らは同盟を組んだわけでもないし、貴様ら人間のお仲間になるつもりはない。あくまで交渉だ。魔族としてのプライドを保つため、わざわざ人間と交渉をしにきたのだ。そうでなければ貴様など、すでに殺している」
注文した追加の紅茶が届いた。
ロン毛の男は猫舌なのか、息を吹いて冷ましてから飲み込む。
「問題なのは、君たち三人は何が出来るのってところだね。僕は君たちと組んでどうなるの?」
「戦力が手に入る」
「君たちの仲間ってのは他にもいる?」
「いるにはいるが、どいつもこいつもまるで使い物にならん。きちんとした戦力になるのは我ら3体のみだ」
「たった3体ねえ……たった3体で、革新派に歯向かうの? 向こうには邪神の候補にあげられるような実力を持った魔族が6体もいるんだろ?」
「ああ、話していなかったな。その邪神候補6名のうちの3名が我らだ」
「……本気?」
「ああ」
(実力的に、嘘はついてないみたいだな)
ロン毛の男は怪しがりながらも、彼ら魔族の話を信じる。
「まあ、だとしてもだ。暴れまわる戦力を手に入れてもね。残念ながら人間ってのは魔族ほど単純じゃないんだよ。意味もなく暴力を震えば立場を悪くするのは僕らだ。君たちという戦力は有益だが……扱いづらい。使えはしないね」
「そうか。ならばこの交渉は終わりだ。帰るぞ、ブードゥー、ゴルゴン」
交渉を強制的に終わらせ、席を立ち、帰ろうとする魔族たち。
が、しかし、ロン毛の男は立ち上がり、慌てた様子で
「あー待ってくれ。そうゆう意味じゃない。交渉には乗るよ。乗る。待ってくれ、座ってくれ」
「なんだ? 我らの戦力は要らないのだろう?」吸血鬼は振り返る。
「そうゆう意味じゃない。今のは……あー使用例の一つを上げただけだ。つまりだな、僕たち13神使族の一家が、君たちを用いて暴れさせてしまうと、反感を食らって立場を悪くするってだけでだね……君たちの力は有益で、いくらでも使いようがあることには変わらない。いい交渉だ。契約を結ぼう」
「そうか。では逆に聞く。貴様らが我らに与えるものはなんだ?」
「勝利さ。人間界も魔界もどちらも統治者不在の混乱期、うまくやれば、両方の世界を牛耳れる。お互いウィンウィンの関係を築こうじゃないか」
「そうか、それは良かった。では、よろしく頼む。ニンゲン、貴様の名は?」
「僕の名はフィマフェング、長いからフィマでいいよ」
「我の名はアルカード」
「そう、じゃあ、アルカード、早速、ある任務を頼みたい」
「任務?」
「ああ、単純な任務だ。一人の剣士を殺してほしい」
「殺し方は?」
「いかようにでも。好きなように暴れてくれて構わない」
「分かった。単純な任務だな、承ろう。そいつは誰だ」
「近頃、ぽっと湧き出てきた奴でさ。本当に目障りこの上ないわけ。誰も無視出来ないから放置してるわけだけど、まずコイツを倒さないと、人間界で好き勝手は出来ない」
「だから誰だ、そいつは」
「君たちも噂くらい聞いたことくらいあるでしょ」
残った茶を全て飲み干してからフィマというロン毛の貴族は
「『龍殺し』。こいつの討伐を頼みたい」とだけ言い捨てた。
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