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リンカーネーション  作者: 鹿十
第三章 王都編
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豹変

 夜通し続いたグラズヘイムの祭り騒ぎが収まり、皆起き上がり始めた午後2時頃。

 街中のそこかしろに空き瓶やら、酒のつまみやらがゴミのように落としてある。

 二日酔いで起き上がってこない男たちの代わりに、ネズミや犬がその残飯を処理している。


 渋谷のハロウィン後のような大惨事が広がるグラズヘイムの大衆を全員起き上がらせたのは、嫁の叱責や、男たちの羞恥心によるものではなく、突如としてやってきた「王都軍隊」の登場であった。


 城郭都市の鉄格子で出来た北門が、音沙汰無く開門し、大量の騎馬兵や剣士で構成された軍隊がグラズヘイム内に無許可で侵入する。

 冷たい石畳の上で寝そべっていた男たちは、勢いよく起き上がり、北門から秩序立った歩みで中央広場に近づいてくる軍隊を訝しげな様子で伺っていた。


 その数およそ800人ほど。

 軍兵の全員が、素人ではなく「剣術」を習得した戦闘のプロである。

 彼らと比べれば一般のギルド隊員など、赤子に毛が生えた程度の存在でしか無いだろう。

 その軍兵が、地方都市でしかないグラズヘイムに800も集結し、連絡もなく突入してきたのは、異常と言うしかないことだ。

 

 まだ王都には大規模ダンジョンが6名のギルド隊員によって制圧された連絡が届いていないのだろうか?

 だから王都の連中はダンジョン攻略のため間違えて大規模の軍隊を投入してしまったのだろう。

 グラズヘイムの大衆全員がこのような思考をしていたに違いない。


 中央広場に規則正しく並べられた数百名の軍兵は、その場でピタリと行進をやめる。

 そして髭を携えた甲冑を着た一人のふくよかな大男が、グラズヘイムの大衆に向かって


「この都市の領主はどこかね、王都軍隊の少佐がお呼びだと、伝えてはくれんか?」


 先程まで路上で寝ていた男たちは縮こまって、いそいそとその場に散り始め、領主に伝聞しにいった。

 暫くすると60代半ばほどの痩せた爺さんが、少佐の前に顔を出す。

 どうやら彼がこの城郭都市の領主であるらしい。

 領主はコホンと咳をした後に


「で……そして少佐どの。今回はいかなるご用事で、この城郭都市へ?」

「中央広場に発生した大規模ダンジョンについてだ」

「ああ、それに関しては……すみませんねえ。伝書鳩が遅れてしまっているようで……先日に大規模ダンジョンがギルド隊員によって制圧されたという旨の手紙を送りましたが……」

「ああ、それについてはこちらも把握済みだ」

「はて、では、どのようなご用事で、ここへ?」

「そのギルド隊員6名に褒賞を与えたく、このグラズヘイムへ訪れたのだ」

「ああ、なるほど! いやはや、少佐どの自らグラズヘイムに訪れ、褒美をくださるとは……これまた大変なお手数をおかけしてしまい……申し訳ない」

「いいんだ、領主どの。それよりも、偉大なる6名をさあ、早くここに」

「……ということだ、君たち、6名を早くここへ案内しなさい」


 領主の命令を受け、その場にいた市民たちは街中に散り、各自でスノトラ、アマルネ、シグルド、ガルム、フレン、陽太の6名を探しに行った。

 領主は胸をほっと撫で下ろし、少佐の後ろに佇んでいる幾重もの剣士たちに視線を移した。


「はて……すみませんが、少佐どの。ただ彼らに褒美を与えるだけならば、なぜこれほどまでの大規模な軍隊を?」

「王都から城郭都市に行くまでの道のりに、大量の魔獣が湧いていたのだ。小規模の軍ではどうしようもない数が」

「はあ、なるほど。王都周辺にも大量の魔獣が……この街に発生したダンジョンといい、物騒な世の中になりましたな」

「ああ、物騒だ。とてつもなく、な……」


 少佐の視線の中に厳しい殺意が混じり込んでいたのを領主は見逃さなかった。

 褒美をくれてやるだけにしては、軍兵たちも、この少佐もいささか殺気じみている。

 まるでこれから戦争にでも行くような。そんな雰囲気だった。


 暫くすると、ガルムを除いた5名が広場の前に集まる。


「一人を除き、集まりましたが……少佐どの、もう一人のギルド隊員を待ちますか?」

「いや、いい。五人も集まれば十分だ」


 少佐はそう言ってニヤリと笑うと。

 背中に背負っていた大剣を抜き、大声で


「取り囲め‼‼‼‼‼‼」と怒鳴るように言うと。


 少佐の後ろで待機していた数百名の剣士が、陽太たちを中心に円になるように取り囲み、そして腰に携えた剣を抜き取り、臨戦態勢をとった。


「なんだ……」アマルネは額から汗を垂らしながら呟く。


 陽太たちはあっという間に包囲され、身動きが取れなくなってしまった。

 大衆も驚き、逃げ回り、大声を出す。

 陽太たち全員を完全に包囲した後、少佐は胸元のポケットから一枚の古紙を取り出し、語る。


「城郭都市中央広場大規模ダンジョン、その制圧者6名のうち……2名に指名手配がかかっている。これは王家から直接くだされた手配書だ。故に最重要手配。理由は分かるな? フレン。立花陽太……」


 少佐は厳しい視線を陽太とフレンに向けた。

 そして語り続ける。


「フレン。その小娘は上級の魔種イフリートだ。樹素の痕跡から、王都から派遣された50数名の軍兵を殺戮したのは貴様だと判明した。そして立花陽太。そちらの人物の罪はもっと重い……王家の方々は、審判により、貴様がダンジョンを創出した当本人であると断言した。樹素の流れを意図的に乱し、崩し、偏らせ、結果として類を見ないほどの大規模なダンジョンを生成。樹素の旋律を意図的に乱すことは、国家反逆罪に匹敵するほどの重罪。よってどちらも厳重に拘束し、王都に連行した上で、極刑がくだされることになった」


 皆が驚き、ざわめき、冷静さを欠いている中、シグルドだけがその凍てつくような蒼色の眼光で

言葉を発する。


「待て。プリオル少佐。その手配書やらは全くの虚言だ。ダンジョンを生成したのは立花陽太ではなく、他の人物であった」

「そうだよ。それにフレンは……確かに王都の軍兵を殺したけど……コイツもダンジョンに巻き込まれ、脅されて命令されていたに過ぎない」付け加えるように陽太も言う。


「黙れ立花陽太。……貴殿は『座』の階級に位置するシグルドどのか……先のダンジョンでの活躍、見事であった。しかし、いくら英雄の意見とはいえ、王家の手配書を覆せはしまい。どうか鞘を抜こうとする剣を抑えてほしいものだ。そなたの剣を抜かれると、こちらの800名あまりの剣士

と剣を交えることになってしまうぞ? いくら『龍殺し』とはいえ、この軍兵との戦いは……身が持たんでしょう……」

「試しにやってみるか?」


 シグルドは挑発を流さずに返す。

 その眼光に怖気づいたのか、先に折れたのはプリオル少佐の方だった。

 彼はわざとらしくため息を吐き、手を上げ


「分かりました。手荒な真似はやめましょう。こちらも、あの天下のシグルドとやりあいたくはない。しかし、王家の命令は絶対……立花陽太と、魔族フレンの連行は必須事項でございます」

「ああ、我もついていく」

「ご勝手にどうぞ。途中で暴れ出したりするのは勘弁ですがね」


 プリオル少佐は顎髭を整えていた右手を上に上げる。

 すると後方に続く800あまりの軍兵たちは踵を返し、調和した足取りで北門へと戻る。


「……というわけだ。ヨータ、すまない。王家の命令は絶対だ」

「……マジかよ」

「アタシたち、もしかして殺されちゃうの?」

「我が出来る限りの死力を尽くす。少なくとも、ヨータ……君の命は守る。貸しがあるしな」

「はあ、よろしく頼むぜ。シグルド」

「って、アタシの命はどうなんのよ? ねえ、アタシは?」

「「……」」


 陽太とシグルドは、フレンの顔を見て、不憫な視線を送る。

 どうやらシグルドはフレンの命を助けるつもりは無いらしい。

 その視線を受け取ったフレンは


「どうしましょ、ここらで数十名殺して、グラズヘイムから逃げちゃおっかな……」

「やめておけ、魔族。貴様の力をもってしても、おそらく、この軍隊から逃れることは不可能だ。数十名殺せたとしても、自分の立場が悪化するだけさ」

「はあ、そうね。じゃあ大人しくお縄を頂戴しましょうかしら」


(隙を見て、逃げてやりましょ)とフレンは内心で魂胆しつつ、言葉通り、縄で締められ馬車の荷台に二人とも放り投げられた。


 そして800名の軍隊はグラズヘイムをまたたく間に後にし。

 王都へと向かう。

 陽太とフレンは揺れる馬車の中で


「アタシたち、英雄なのよね? なんでこんな酷い扱い受けるわけ?」

「ああ、それについては同感だ、どうなることやら……」


 と怒りを募らせながら、連行されていった。

 


 

 

 

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