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リンカーネーション  作者: 鹿十
第二章 ダンジョン編
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贖罪

「説明を」


 須田は冷たい地面に寝転びながら、傷口を抑えている。

 しかし、手で抑える意味がないほどに傷口からは大量の出血が流れ出ていた。


「なんだよ。シグルドが全部説明しただろ」


 陽太は腰を落としながらそんな彼を見つめる。


「……納得できないんだ、まだ」

「……もう第三ラウンドを取られ、負けることを確信したから、僕たちが勝てる可能性があるのは、『自由戦闘』で勝利することだけだった。だからどうやって自由戦闘に行き着かせるかを必死に考えた。アマルネのスキルが死後も持続している様を見て、もしかすると、お前のスキルは、死後の状態を継続させたまま復活させるのかもしれない、と仮設を立てた。その予測が見事当たっていたとしたら……あとは簡単だ、『部外者』を発動したまま死んで、お前のスキルで僕を復活させれば、お前は永久的に持続する僕のスキルで永遠に行動がキャンセルされ続ける。なんせ、俺を仲間にしちまえば、お前も俺のスキルの効力範囲内に入ることになるからな。しかし、須田、もしお前が、『部外者のスキルは行動指定が不可能』だと知ってしまったら、お前は僕に『死体運用』を発動しないだろう。だから『部外者』のスキルは『細かい指定の対象が可能』だと誤解させる必要があった。こっちのやり方は簡単さ、『部外者』を発動した後に意味もなく声高らかにガルム達を指定する。そうすれば、あたかも『部外者は指定先が自由に選べる』とお前に誤解させることが出来る。しかも、シグルドを先に『重ねた者』を使用させて行動させておけば、シグルドはさも僕のスキルの効力を受けずに行動出来ているかのように見せかけることが可能だ。実際はシグルドも『部外者』のスキルの効果範囲内に入っていたけどな。そうやって『部外者』について誤解させてお前に取り込まさせたってわけ」

「つまり、私は勝手に君のスキルを勘違いしていたわけか、簡単なトリックに気づかずに」

「そうゆうことだね」

「……クソ、『部外者』なんてスキル、狡いな。私のスキルに対する天敵じゃないか」

「だとしても、だ。僕がやってたことをよく観察していれば気づけたはずだぜ? トリックの種は至って簡単なんだからよ」

「……騙し合いで負けたということか。いや賭け事で負けた……のか」

「そうだな。僕のスキルをちょっとばかし高く見積もっちまったな」

「ハハ……」

「……さてと、須田、アンタがこのダンジョンの最後の門番だろ? まさかこの先に六階層目もありますなんてこと言わないでね?」


 陽太は立ち上がり、冗談を言うように聞いた。


「ここで終わりだ。暗闇の先を歩いていくといい、地上へと繋がるゲートがある」

「そうか。須田、お前がこのダンジョンを作り出した首謀者だな」

「まあ、そうなるな。そこのフレンという魔族の少女をあまり強く叱ってやるなよ、陽太君。彼女も僕に強制されていたに過ぎないからな、巻き込まれた被害者側だ」


 命の灯火が消えかかっている須田を目の前にして、陽太は微かな同情心を抱いたのか。


「そうか……重症を負っているようだけど、治すか?」と聞いた。

「まさか。自分が完全に有利な土俵の上での戦いで負けたんだ、またステータスでも上げて再戦を申し込むとするかな、ハハ……RPGゲームの基本だね」


 陽太は少しばかり不憫な目を、死にゆく須田にぶつける。

 須田は自身に向けられた同情を笑い飛ばすように


「ハハ、私はこの異世界に来るために、女子中学生を殺し犠牲にした犯罪者だ。しかもこのダンジョンに迷い込んだ人を七人ほど、この手で殺している。同情の余地は無い」

「お前……他人の死体を式に利用して、異世界転移をしたのか」

「君もそうではないのかい?」

「いいや」

「そうか。ならば君が勝利するのも当たり前の話だな。私は自分以外の存在を犠牲にしてここにたどり着いた人間。君は自分で全て掴み取ってきた人間だ」

「関係ねえよ。僕もまだ、何も成し遂げてない」

「ちょっと、ヨータ。早くしないと門が閉じちゃうよ?」


 フレンが暗闇の先から陽太に声を掛ける。

 三十メートルほど離れた所には、光が差し込んでくる場所があり、フレンたちが横に並んで、陽太に手を振っている姿が影と成って彼の眼に映し出されている。


「じゃあな、須田。同じ異世界転生者として、もうちょい話してたかったけど、時間が足りないみたいだ……本当にいいんだな? お前はここで一人……死んでいくことを選んで」

「……後悔はない、君には仲間がいるのだろう? 早く彼らについていきなさい」


 陽太は立ち上がり、倒れている須田に踵を返し、先に歩き始めた。

 すると陽太の後方にいる須田が、最後に擦れた声を振り絞って話し出す。


「……陽太君は、何を望んでこちらの異世界に来たんだ?」


 陽太は顔も合わせず、後ろ姿のまま答えた。


「大事な人を、生き返らせるために。大切な人を、取り戻すために」

「そうか……なら、その夢、絶対叶えてくれ。私の夢を潰したんだ。絶対に、だ」

「……須田、お前にも夢があったのかよ」

「ああ、娘を生き返らせるという、ね。死んでしまったのさ。ただの自殺だよ。須田絵里って名前の、中学二年生くらいの少女だった」

「……」


 陽太は黙ったまま聞き入る、しかし決して顔は合わせない。


「クラスで虐められていたらしい。僕が絵里の異変に気付いた時にはもう遅かった。廃墟のビルから飛び降りて死んでしまったんだね。ハハ、自殺するまで、全く絵里のことを気にしていなかったよ。気づけなかったんだ……いや、気づかないフリをしていた。私の妻は薄々気づいていたようだった、時折私に相談もしてきた。しかし私はね、仕事が忙しい、と、仕事の業績がどうだとか、ね。下らないことばかり気にして、絵里のことなど全く考えてなかったのさ」

「……父親失格だな」

「そうさ。その通りだね。否定のしようがない。絵里がいなくなった後は、虐め問題を隠蔽しようとする学校側に怒りの全てをぶつけてね、それで結局、絵里を虐めていた主犯格の女子中学生を特定しようと励んだ。その調査をしていた時、偶然、異世界転移についての情報を入手してね。こちらの世界には、死人をも蘇らせる彼岸花があると聞いたから、絵里を虐めていた女子中学生の一人を殺し、その死体を儀式に組み入れて転移をした」

「……」


 陽太はただ、無言に徹する。

 しかし須田は己の人生を振り返るように語リ続けた。


「ハハハ、馬鹿だ。全てただの言い訳さ。学校のせいにした、絵里を虐めていた女子中学生のせいにした。挙句の果てには、その少女を殺した。ハハ……やっていることは、絵里を虐めて自殺させた奴らと何も変わらない、いやそれ以上に醜悪だ。全部……愚かな言い訳だ」

「お前馬鹿だったんだな、須田」

「ああ、理想を追うことでしか生きることが出来ない脆くて愚かなクズでしかない」

「……僕も一緒だ。現実が嫌になって逃げたのさ、お前みたいにみっともなく言い訳してな」

「……君は違うだろう? 陽太君、君は逃げたんじゃなくて理想を追うことを選んだのさ」

「そうじゃねえ」

「……それを証明するのはこれからの君次第だ。現実から逃げたのか、あるいは理想を追ったのか。どちらかを選択するのは、未来の君だ」

「……」


 陽太はただ、歩いていく。その足取りに覇気は無い。

 一人取り残された須田。

 傷口がジンジンと痛み、大量の出血が止まらない。

 傷口を右手で抑えるも、もはや意味などない。


「ハハ……」


【貴様の敗因は単純なものだ。ステータスやらスキルやら、下らない指標と数値のみに着目し、それにずっと拘り続けていたこと。人の力が、人の魅力が、人の積み上げてきたものが、ステータスなどという簡易的な数値で全て表せると思ったら大間違いだ、外道め】


 シグルドのセリフが、死に際になって、須田に響いてくる。


「ホント、その通りだよなぁ。俺、そういえばずっと昔から、学業成績とか、運動テストとか、可視化された数値でしか、絵里のことを褒めてやれなかったよなぁ」


 真横を見ると、幻覚か、幼き頃の絵里のような背格好をした光の影が須田の目に映る。

 須田は笑いながら、その幻覚に、震える手を伸ばし。

 過去の、他愛の無い日常の一片を、想起した。


【絵里、今日は休日だぞ。お前の係ではないだろう? 何故、わざわざ小学校に行って、兎の面倒を見に行かなくちゃ、と私に提案してきたんだ?】


 それは何時ぞやの、異世界転移する前の、ずっと前の、娘との他愛のない会話だった。


【だって、金曜当番の子たち。兎の世話をほったらかして、遊びに行っちゃったんだもん。このままだと、この子たち、土曜日曜も何も食べずにいるんだよ? 可哀想だもん】

【でも、絵里がわざわざ出向いて世話をすることはないだろう? 教師に伝えて、休日でも出勤している先生に世話を頼めばいい】

【いいの。私が気づいたから、私がやればいいの】

【……理解しがたい行動だ。何の評価に繋がるわけでも、何か利益があるわけでもないのに、率先して善行を積むとは】

【お父さんにはどうせ理解できないよ】

【……ああ、俺は成績評価に関与しないことは全くやらない子供だったからな】

【冷たい人間だね~。ね~兎ちゃん】

【…………でも、絵里のそうゆう所は、成績には繋がらないが、良い所だとお父さんは思うぞ。理解はできないが、その素晴らしさは分かる】

【そう? えへへ。お父さんにちゃんと褒められたのなんて、絵里、初めてかも】


「……何故、理解できなかったんだろう。数値化されない、人間の尊さを。絵里、お父さん、今すぐ……そっちに行くからな、そしたら、精一杯謝らせて……くれ……な……」

 伸ばした手は、幻影を掴めず、そのまま、須田正義は息絶える。


 ステータス、スキル、業績、成績、運動テスト、年収……。

 固定化され、数値化された様々な指標に執着し、その数値の多寡のみに価値の基軸を置き続け、出来上がった典型的、資本主義の傀儡。

 現代人の末路である「須田正義」は、最後に、己の罪と向き合い、死んでいくことを選んだ。


 それが、不条理に散っていった愛娘への贖罪と成り得たかは、魂のみが知ることとなる。


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