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リンカーネーション  作者: 鹿十
第二章 ダンジョン編
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最終局面

 須田は首に手を添えながら左右に動かす。

 ポキッという骨が擦れる音が鳴り響く。


「勝ったな。剣士シグルド、私の勝ちだ『死体運用』」


 須田の勝利宣言と共に、陽太はゆっくりと起き上がり、HPを全回復して立ち上がる。

 重心を揺らしながら起立する陽太を見て勝利を確信する須田。

 だが――突然鳴り響く機械音が、須田の傲慢な笑みをかき消した。


〔「部外者」の効力により、立花陽太の行動はキャンセルされます〕

〔追記、「部外者」の効力により、ボスサイドの全行動は実行不可能となりました〕

〔ターン変更 プレイヤーサイド〕


 ピー、という警告音に似た音が空間内を飛び回った。


「は……?」須田は口を開けて驚愕する。


「やはり、陽太の予測通りだったか」


 シグルドだけが何が起きているのか理解している様子だ。


「どうゆうことだ」

「……先ほど『あなうんす』とやらが説明をしたであろう? この決闘は硬直した」

「……いや、おかしい。おかしいだろう? 『部外者』は、『指定した仲間の行動をキャンセルする』というスキルなのだろう? 何故、私までその効力範囲内に入っているのだ?」

「貴様は、自分のスキルを理解していないな」

「は?」

「陽太が語っていた仮設をそっくりそのまま話してやろう。今更種明かしをしたところでこの状況が打開できるはずがないだろうしな……まず、陽太は二点の大きな疑問を抱いた。アマルネが死んだ後も、アマルネのスキル『分相応』とやらの効果が持続している点について、だ」

「……」


 須田は黙ってシグルドを見つめる。


「この疑問に対して、陽太が導き出した回答は、単純だった。『死体運用を用いて復活した場合、アマルネは、死後の状態・・・・が永続化されたまま復活したのではないか』とな」

「……つまり、アマルネは死ぬ前にシグルド、君に『分相応』のスキルを発動していたから、アマルネを復活させると、永遠にそのスキルの効力が続いていく、と?」

「その通りだ。この仮説が正しいのならば、『死んだ陽太』にも同じことが適応されるはずだ」

「『部外者』のスキルの永続化、か。確かに永遠に味方の行動をキャンセルし続けることになる」

「その通り。つまり、須田、貴様のスキルとやらは『死んだ敵サイドの人間を、死後状態を持続させたまま復活させる』能力であったわけだ」

「だ、だとしても、だ。だとしても、理由が足りないぞ。陽太君が死ぬ間際に指定した『部外者』は『アマルネ、スノトラ、フレン、ガルム』の四名だけだ。私に指定したわけではない。にもかかわらず、何故私がそのスキル対象に入っている?」

「……そこも貴様は勘違いをしている」


 須田は固唾をのみ込みながら、シグルドの話に聞き入る。


「陽太のスキルが、『細かい指定が可能』だといつ語られた? 陽太のスキルは、実際は、細かい指定は不可能だ。発動したら『問答無用で味方全員に適応』される」

「あり得ないね。だとしたら、シグルド、何故君は自由に動けていた? 細かい指定が不可能ならば、『部外者』を発動した時点で、シグルド、貴様も行動不可能になっていたはず」

「簡単なトリックだ。いや、トリックとも言えないほどの粗末なものだ……固有スキルのみは、選んだ瞬間に即実行される……単純な話だ、我は陽太のスキルが発動される前に行動していただけの話。我がただ何も考えず固有スキルを連発していたとでも貴様は思っていたのか? それは違う。我には『固有スキル』以外選択する道は無かったのだ」

「……成程。大体、理解できたよ。まだ納得できぬ点は多々あるが、な」

「随分と余裕そうだな、須田正義。はて、貴様は『部外者』の効果永続化により永遠に行動できない。対してプレイヤーサイドに残されたAP数は二か……それだけあれば、我も貴様を削り殺せるかどうか……怪しいが、試してみるか?」


 須田は、シグルドの連撃を思い返す。

 もしかすると、体力を削り切られる可能性もゼロではない。

 須田のHP残量はもう残り僅かであると、須田自身も推察していた。


(だとするならば、より勝利の確実性が高いのは……)


「……自由戦闘を申し込みたい」


 須田は冷や汗を垂らしながら、嘆願する。


「……まあ、良いだろう、我もこの戦闘方式には飽き飽きしていた所だったからな」


 須田の予想に反して、シグルドが同意をした。


〔プレイヤーサイドとボスサイドの生存人物が全員、自由戦闘コマンドを承諾したので、自由戦闘モードへ移ります〕


 眩い閃光と、凄まじい消滅反応によるタイヤの空気が一瞬で抜けたような風音が鳴り響き、須田とシグルド、両者同時に下方に落下する。

 どちらも体の自由が解かれ、定位置から解放される。自由戦闘モードが始まった。


 しかし、須田の支配領域から逃れることが出来たわけではない。

 相も変わらず、空間内の四方八方は全て真っ白に染まり、果てしない地平線が続いている虚無のままである。

 須田とシグルドは地面に着地し、同時に立ち上がり、お互い見つめ合った。


「悪いね、シグルド君。説明不足だったね〔死体運用〕解除」


 須田の傀儡と化していた陽太達は、五つの眩い光と成り、須田を中心に集まっていく。


「自由戦闘モードは、ステータスが全て引き継がれる。死体運用によりボスサイドと化した仲間の数値を全て私のステータスに還元した。おかげで、君のお仲間であるガルム、スノトラ、アマルネ、フレン、陽太君の計五人の全ステータスと全HP総量が私に加算された」

「……そうか」

「残念だけど、自由戦闘モードは普通の戦闘とは違うよ? ステータスが相変わらず固定化、数値化されているし、体の自由が利き、ターン制が排除されただけだ。簡単に言うと、RPGゲームからオープンワールドゲームに変化したに過ぎない。現実世界の戦闘とはまるで違う」

「……だからどうした?」


 シグルドは須田の話を意に介さず、ゆっくりと鞘に手を添える。


「……分からないのかい? これはゲームだ。ステータスの値が高く、HPが十二倍もある相手に勝てるワケがない。どんなゲームも、結局のところ、ステータスの高さがモノを言うからね。君のような初心者相手なら、尚更さ。誘いに乗ってくれてこんなこと言うのは悪いが、自由戦闘を選択した時点で君の負けだ。君はあのまま、硬直して何もできない私に攻撃を加えていれば、ラウンド制で勝利していた可能性があったのに」


【一人になっても、お前なら勝てるよな】


 ふと、シグルドの頭に陽太の言葉が反芻する。

 シグルドは真意を理解し、噛みしめ少し笑う。


(そうか、陽太、君はそうゆう意味で、今の状況を見越した上でこの言葉を発したのか)


 須田は着ているスーツについた毛玉やゴミを手で落としてから、ステータス値に裏付けされた凄まじい速度で移動した。


 だが、シグルドは全く焦ることなく、膝を大きく曲げ、身を屈め、放たれるは。

 ――絶えず研鑽を重ね続け、たどり着いた奥義。


〔『式』系統は闘素。器は『剣』――居合:神速 肆重奏カルテット


 四連撃。


 それは「重ねた者」などという下らない単語で簡略化された「固有スキル」には到底収まりきらない技術と時間、そして伝統を内包した神業。


 ステータス値で遥かに勝っているはずの須田は、その四連撃に全く対応できず、胸から腹にかけて、十字状の傷跡が切り刻まれ、赤色の血を噴き出し、着用している純白のワイシャツを染め、耳触りの悪い嗚咽音を吐きながら、倒れゆく。


 瞬間、真っ白の領域はガラス細工のように木っ端微塵に砕け散り、瓦解し、元の岩肌と暗闇に戻される。

 須田によって発動された領域は完全に消え失せると同時に、倒れる須田の体から分散した五つの光の玉は、フレン、アマルネ、スノトラ、ガルム、陽太の形を取り戻し、硬い地面に無造作に放り投げられた。


「どうして……数値では、勝っているはず……負けるわけがない……」


 暗闇が続く天井に手を伸ばしながら、何かを掴もうとしている須田に対し、シグルドは、手にしていた鞘部分だけの剣を握り締め、言う。


「貴様の敗因は単純なものだ。ステータスやらスキルやら、下らない指標と数値のみに着目し、それにずっと拘り続けていたこと。人の力が、人の魅力が、人の積み上げてきたものが、ステータスなどという簡易的な数値で全て表せると思ったら大間違いだ、外道め」


 とだけ言い捨て、同情をせず、その剣を鞘にしまった。



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