第一ラウンド
「メゾフォルテ・フレアを、ガルム=ノストラードに使用」
須田の詠唱が終了すると、再び、炎の渦がガルムに直撃する。
回避しても無駄だと悟ったのか、ガルムは調教された犬みたいに、やる気なくその場に座り始めた。
「アッチィ! ンだよこれはァ。回避不可能の魔術とか……もうやる気無くすぜェ……」
ぶつくさと文句を呟くガルム。
〔ターン変更 プレイヤーサイド〕
と機械音が鳴り響く。
陽太は現状を冷静に纏めようとした。
(これで僕らのターンだ。各ステータスの値は確認出来ないらしい。とりあえず、さっき聞いたルールを纏めろ……まずこの戦闘はラウンド制が用いられている。三ラウンド存在し、三分の二のラウンドを勝ち取ったサイドの勝利だ。そしてラウンドは……APだっけ? それが枯渇した時点でのHP総量により勝敗が決まる……俺たち六人のHP総量の二倍の数値が須田正義には割り振られている。説明通り、HPが俺たちに均等に振り分けられていると仮定した場合、単純計算で、須田の持つHPの数値は、六×二で俺の十二倍。六百だ)
一件プレイヤーサイドが圧倒的に不利な条件下にある。
が、それは違うと陽太は思う。
(重要なのはHPではない。「固有スキル」と「AP」だ。スキルは一人につき一つ配布されているらしい。つまり須田の固有スキルは一つだけ。だが俺たちは六個の固有スキルを保有している。APも二倍だ。そして各ステータスが実際の能力を元に定められているのならば……)
陽太は頭をかき、眉間に皺をよせ困り顔で
「クソ……これは指定する行動をちゃんと考えなきゃならねえ」
陽太が悩んでいると、シグルドが口を挟む。
「行動可能回数とやらが、我らの方が勝っているのだろう? ならば、その回数を多量消費する『こてーすきる』とやらを用いた方が良いのではないか?」
「ああ、その通りだ」陽太は同意を示す。
「では『こてーすきる』とやらを使用して、あの奇妙な男を屠って見せよう」
〔シグルド。APを三消費して実行。固定スキル『重ねた者』を使用〕
シグルドの発言に鼓動するように機械音が反響する。
「これで自由に動けるといった所か…………貴様、スダマーサ=ヨシという人物らしいな。今回のダンジョン出現の件もよもや貴様が元凶だと言った所か。対立術式を付与した結界の構築術式の派生型だな? 樹素のコントロール能力は、我をも上回っていると拝見できる。その技量については天晴だと褒めて称えよう。しかし貴様がしでかしたことは倫理を大きく逸脱している愚行極まりない所業である。よって我が剣をもってその命を絶やs――」
〔シグルドの行動タイムが終了いたしました〕
しかしシグルドの長文説教を遮るように鳴り響いたのは無慈悲な機械音だった。
「え?」
陽太は阿保らしい声を出して、シグルドの方を見つめる。
「……もう動けん。罠だったか」
赤面して、シグルドは顔を左に向けてそっぽを向けたまま硬直していた。
「……もしかしてシグルドってアホ?」
陽太の右隣りにいるフレンは蔑むような視線を向けながら言う。
(冗談じゃねえ。もしかして固有スキルだけは順番通りじゃなく、指定した後に即実行されんのかよ、ってことは今、シグルドはAPを三も消費して、ただ突っ立っていただけか)
「ま、まあ落ち着け」
陽太は自分に言い聞かせて、高ぶった気分を宥める。
(須田の実力がどの程度かは不明だ。しかし、俺と同じ異世界転生者なら、ステータスは高くないだろう。こっちのAPは二十四。須田の二倍だ……そのアドバンテージを活かし、まず俺がやるべきことは……自分の持つ手札を確認することだな。特に固有スキル、推測は不可能だな。まず、APを使い、各自のスキルがどんなものなのかを把握しておくべきだ)
「アマルネ、ガルム、フレン、固有スキルを発動してくれ。スノトラは魔法攻撃」
陽太の指示通りにコマンドを入力していくプレイヤーサイド。
〔アマルネ、ガルム、フレン、スキル発動。アマルネ「分相応」発動、自分のステータスを一時的に低下させる代わりに、仲間のステータス値を底上げします。対象者を選択した後、実行されます。ガルム、「鉄と牙」発動、飛躍的に威力が上昇した物理攻撃か、鉄壁の守り、そのどちらか片方を選択し実行できます。フレン、「魔と王の血」発動、魔法攻撃に限り威力が上昇します。またこのバフは数ターンの間持続します〕
陽太は解説を聞き、ガルムとスノトラに視線を移し
「『分相応』はスノトラに。ガルムは、スキルは物理攻撃の方を選んでくれ」
「了解」「おっけェ」スノトラとガルムは同意した。
「俺は防御だ」
最後に、陽太が自分の行動を宣言して、行動入力時間は終了する。
同時に、陽太とシグルド以外の全員は、体の拘束が解け、自由になる。
「やっと自由になれたなァ。嬉しいぜェ、ハグしてやろうかァ? スダ~」
ガルムは肩を回し、舌で上唇を舐めた後、跳躍して、その爪で須田を切り刻む。
須田の頭上に浮かぶ緑色の円形グラフは、ガルムの攻撃を受け赤色に染まり直される。
ガルムは二撃目を食らわせようと、間髪入れずに左の爪を掻き立てた。
が、その攻撃は須田に届かず、ガルムは元の定位置に戻される。
どうやら、入力したコマンド以外の行動は不可能らしい。与えられる攻撃は一回のみだ。
「あァ? ンだよ、須田の野郎ピンピンしてやがるぜェ~全く攻撃が効いてねェ!」
自分の攻撃を食らっても、五体満足で立っている須田を見て、不審がるガルム。
どうやら攻撃を受けても、直接的な怪我を負うわけではないようだ。
しかし、須田のHPは確実に減少しているだろう。
「大丈夫だ、ガルム、ダメージは入っている」
陽太はガルムを諭した。
アマルネのスキル「分相応」のバフを施されたスノトラが放つのは、巨大な猫型の炎魔術。
直撃した須田のHPを大きく削り
〔ターン終了 ボスサイド〕
ボスサイドへとターンが移行する。
一連の攻撃を受けた須田は思考を巡らす。
(想像以上だな。ガルムとスノトラの攻撃を食らっただけで、HPが大きく削られた。これは少し、急いだほうがいいな。MP量が尽きない範囲で、計算して最適な攻撃をガルムに……)
予測を超えたプレイヤーサイドの猛攻撃を受け、考えを改め直し
「『フォルテ・フレアをガルムに』」魔法攻撃を、標的は変えずに放つ。
〔ターン終了 プレイヤーサイド〕
ここで陽太は須田の行動に疑問を抱いた。
(何故須田はガルムを集中的に狙うんだ? HPの配分量はプレイヤーサイドで均等だ。つまり、ステータス値は異なるが、HP量は全員同じ五十。攻撃を受けた際のHP減少量がDP数の高さに依存するなら、まずは率先してDPが少ないだろう俺やスノトラを削ればいいはず。須田は本当にゲームを楽しんでいる? だがDP数が高いガルムを狙う必要性は無いだろ)
須田は勝とうとしていない。
いや、ゲームを楽しんだ上で、最終的に勝利をもぎ取ろうとしているのだろう。
彼は生粋のゲーマーだ、と陽太は確信した。
本当に勝利だけを求めているのならば、最初のターンで陽太を狙うはずであるからである。
(もしかすると、須田は第一ラウンドの勝利をこちらに譲ろうとしている? 何か策略があるのか? ……須田のHPはマックスで六百。頭上のパラメーター、その緑の部分がHP残量を表しているのだろう。ガルムとスノトラの攻撃で四分の一以上が削れたから、須田のHPは現時点で四百五十以下だ。固有スキルが不発含め計四回。それ以外の行動が「説明」を含め計三回……つまり僕たちのAP数は二十四から十五を引いて九……仲間のHPは確認できないから、ガルムがどれだけ削られているかは定かではないが、三回、須田の魔法攻撃を受けている。多めに見積もってガルムの体力は二十程度かな? なら、こちらのHP総量は三百三十程度だ。何とかして、須田のHPを三百以下、半分以下まで削らなくては……)
これ以上考えている時間は無いことに陽太は気づき、思考をそこで止めた。
「まあいい。どちらにせよ、第一ラウンド、貰えるのなら貰っちまおう」
(RPGゲームはある程度戦略が固定化されている。結局のところ、最善手を選び続けるのがこのゲームの必勝法だ、こちらのステータスが不明な以上、迷う意味は無い)
決心した陽太は指示を出し始める。
「シグルドとガルムの二人がまずスキルを発動。ガルムは防御ではなく攻撃を選んでくれ」
「陽太君、シグルドさんのスキルが不明なのに、発動する意味は無いんじゃないか?」
アマルネは陽太に純粋な疑問をぶつける。
「いや、シグルドのスキルはおそらく、攻撃系統のものだろう。アマルネの『分相応』みたいに、何か特別な効果があれば機械音による説明が入るはずだ。シグルドのスキルは、説明が無く、身体の拘束が解かれていた。だからシグルドのスキルは単純な攻撃のスキルだと思う」
アマルネは陽太の推察を聞き、納得して黙る。
シグルドとガルムが二人同時に固有スキルの使用を宣言した。
固有スキルのコマンドのみは優先して実行されるので、彼らの宣言と同時に実行される。
ガルムは威力の向上した物理攻撃を須田にお見舞いし、シグルドは刀身がほぼ無い剣を振るい、須田に攻撃を加えていく。
中でもシグルドの攻撃力は圧巻であり、たった一振りで須田のHPが大きく削られていく。
更に、ここでシグルドのスキルについて全貌が明かされた。
シグルドが一度攻撃を加えても尚、彼は元の座標に転移させられることが無かった。
その隙をシグルドが見逃すはずなく、二撃、三撃……と続けて須田に刀を振るう。
四連撃を終えた時点で、シグルドは元の居場所に戻された。
シグルドのスキル「重ねた者」は「一ターンで複数回の攻撃を可能とする」ものらしい。
攻撃を受け、須田のHPを表す緑色の箇所は、時計回りで減少、四分の一ほどにまで低下。
(残りAP数は三。須田のHP残量は約百五十。対して、俺たちのHP総量は、ガルムしか削られておらず、まだ倒れていない所を鑑みるにどう考えても二百五十より上。つまり、残りのAPをこのターンで使い切ってしまえば、第一ラウンドはこちらの勝利になるのだが……)
あまりにあっけない勝利が間近に迫り、陽太は思わず罠かと疑う。
もう一度頭でAP数とHP量を計算し直すが、やはり間違いはない。
(大丈夫だ。最後のAP数は三……何に使うべきだ? 普通に考えれば、フレンとスノトラ、アマルネの三人に攻撃させるのが最善……だが、もしも第二ターンに移行する際、両者のHPが完全に回復するのならば、残り三のAP数をわざわざ消費して攻撃するのは勿体ないな。次のラウンドのために、こちらの手札がどんなものかを把握する方を優先すべきか)
「スキル発動」
陽太は自分の手札となるスキルの詳細を知るために、最後のAP消費を自分のスキル使用に用いた、しかし。
〔立花陽太、スキル「部外者」発動。しかし適応する人物がいないため実行不可〕
だが、何も生じず、ただ静寂が広がる
「え……?」
陽太の目が点になる。虚無の時間が流れ、須田は解説を付け加え始めた。
「まあ……固有スキルは、その人物の長所や生育環境、才能などによって自動的に決定される。固有スキルはその人物の人生や全てを端的に表したものだと言っていい。特に目立った長所が無い人間は、まあ、スキルも似たように、何もない空虚な能力となる」
須田は少し気を使いながら、言葉を選ぶように説明をした。
「え、僕って本当に何もないの……?」思わずショックを受ける陽太。そんな彼を励まして
「き、気にしなくていい、陽太君」アマルネが焦りながらフォローを入れた。
想定外の傷を心に負う陽太を気遣うことなく、機械音は鳴り響く。
〔第一ラウンド終了。集計結果。ボスサイドのHP残量は142。プレイヤーサイド全員のHP残量は258。勝者、プレイヤーサイド〕
あっけなく第一ラウンドを制することが出来て、ほっと一息つき、胸を撫でおろす陽太。
須田は窮地に立たされているというのに、まるでゲームを楽しんでいるかのような、そんな無邪気な笑みを浮かべていた。




