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リンカーネーション  作者: 鹿十
第二章 ダンジョン編
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フレン

「では、改めて説明する。上級魔獣と相対して戦う意思を損失した者、自らの内に湧き出た不安や恐怖に打つ勝てない者は、支給された式具を用いてダンジョンからの脱出を図ってくれ」


 アマルネは、デュラハンたちと遭遇した時に散っていった突入部隊のギルド隊員を、もう一度集合し直してから、そう伝えた。

 改めて指揮をするアマルネの右頬は、手の形をした赤色の腫れが出来上がっている。

 その手の形から推測するに、スノトラにビンタをされた痕だろう。


 デュラハンやセイレーンを目視し、その凶悪さと強さを嫌というほど実体験した突入部部隊の隊員の大半は、もはや戦意を喪失していて、生気の無い虚ろな目を下に傾けている。

 それも無理もないことだ――とアマルネは内心で彼らの恐怖心に同情を示していた。

 スノトラがいなければあそこでアマルネを含む全てのギルド隊員は悲惨な死を迎えていただろう。

 

 アマルネは苦汁を噛む思いで、右手の拳を深く握りしめる。

 上級以上の魔獣と遭遇した際に何も出来なかった自分。

 あれほど大口を叩いて、皆を指揮するような発言を振りまいていた自分。

 そしてセイレーンが無力な自分を見下す――あの絶望感。


 もはや戦意を喪失し、ダンジョンからの退却を願っていたのはアマルネの方だった。

 しかし部隊を統制する立場のある者が動揺していると、その恐怖は部隊の隊員にまで波長する。


 今はまだ震える心を抑え、統括をする責任あるリーダーとして振舞わなければならない。

 アマルネの提案を受け、ギルド隊員は挙手をする。

 一人、二人とその数は増えていき、ついにアマルネとヨゼフ、スノトラを除く全員がダンジョンからの脱出を懇願した。


「……分かった」


 アマルネは彼らの臆病さをあげつらうこともなく、淡々と受け入れ、首にかけていたペンダントを外し、横にいるヨゼフの手の中に置いた。


「何を……」


 ヨゼフはアマルネのその行動の意味が分からず困惑する。


「ヨゼフ、お前は僕とスノトラ以外の全員を連れて、このダンジョンから脱出しろ」

「ば、馬鹿言えよッ。僕は残るぞ!」


 ヨゼフは声を震わせながら怒る。しかしアマルネは首を振って、笑顔を振りまきながら


「このペンダントを起動するには大量の内包樹素を必要とする。お前と俺、スノトラ以外はその条件を満たせない。俺たち三人の誰かが脱出を手伝わなければならないんだ」

「な、ならアマルネもッ」

「駄目だ。スノトラだけを残して帰れないだろう? それに……樹素感知能力を持っているお前は人類にとっても、計り知れない財産だ、僕の代わりはいくらでもいるが、ヨゼフ、お前の代役となれる人間は滅多にいない」

「……」


 ヨゼフは下唇を噛みながら、クマのある不健康そうな目を開いて、アマルネを見つめる。

 アマルネは怯むことなく、表情を変えない。

 どうやら決意は固い様子だ。


「……分かったよ。僕は帰還する」

 

 先に折れたのはヨゼフの方だった。アマルネから渡されたペンダントを握り、ズボンのポケットにしまった。


「毎度すまないね、ヨゼフ」アマルネは糸目を更に細め微笑む。

「いつもこうだろ。いつも折れるのは僕の方さ」


 アマルネは踵を返し、ヨゼフ以外のギルド隊員の方を向き


「では、これより君たちは帰還を行う。僕とスノトラはここに残り探索を続ける。君達は地上に戻った際、このダンジョンの規模感と遭遇した上級魔獣の存在を、ギルドに伝えてくれ、頼んだぞ」アマルネの発言を受け、申し訳なさそうに俯くギルド隊員たち、どうやらアマルネとスノトラを残して先に離脱することに後ろめたさを感じているようだ。しかし君たちはよくやったと思う。僕の拙い指示を受け、迅速に行動してくれた。あの時も、僕の命令に従ってくれなければ、君達の何人かは死んでいただろう。誰一人欠けることもなく生存できたのは、君達の協力があってこそだった。礼を言う」


 アマルネの言葉を聞き、俯いたギルド隊員たちの顔が幾分か晴れた。

 彼らはアマルネに詰め寄り涙を流したり激情に駆られたりしながら感謝と応援の言葉を告げた。

 そして――


「じゃあ、僕とスノトラは探索を続ける。ではここで、一旦別れだ」


 緩和した空気が一気に張り詰め、アマルネは腕まくりをして足を動き出した。

 スノトラも澄ました表情を浮かべながら気だるげに、彼の後についていく。

 最後、アマルネに背を向けたままヨゼフが


「『一旦の』別れだぞ。永遠にするなよ」

「必ず生きて帰るさ、約束する」


 アマルネは顔を合わせず、そう告げてから、暗闇の先に消えていった。

 ヨゼフは心配しつつも、ただ彼らの後ろ姿を茫然と見つめることしか出来なかった。



 偶然にもスノトラとアマルネが突入部隊と別れを遂げた時は、王都から派遣された小数の軍兵五十名ほどがダンジョンに侵入し、第五層へと下るために経由する必要のある終座に辿り着いた瞬間と重なっていた。


 軍兵とアマルネ達が出会えなかった理由は、このダンジョンがあまりにも広大で、「内部の構造が変化する」という術が組まれていたことが第一に挙げられる。

 

 五十名の兵は訓練により完全に組織化した動きをし、臨時で結成されたギルド突入部隊とは一線を画す迅速さで、ダンジョンの攻略を推し進めていた。

 完全に調和した連携は、上級魔獣すら数分足らずで屠り、第四層の終座へと彼らを導く。

 もはやダンジョン制覇は時間の問題と思われていた――が。


 第四層の終座に君臨する魔族が、その行く手を塞いでいた。

 第四層の最終空間、終座に繋がる大扉を開け、軍兵たちはその空間へと足を踏み入れ。

 そして――悉く八つ裂きにされた。


 今の今まで上級魔獣相手ですら、完全な連携により白星を上げ続けていた王都の軍兵。

 鍛え上げられた体に、「剣術」と呼ばれる武具の使用を視野にいれた身体強化系統の術式を付与させ、長い年月を必要とする訓練の果てに、組織としての協同と団結を身に着けた彼らを。

 小細工も必要とせず、真っ向勝負で完封したのは――十五,六歳程度の少女。


 黄金よりも輝く金髪をサイドテールに纏め、ルビーよりも赤く染まる瞳は一線の切込みが入っている竜の目。

 一面黒色の重厚感と可愛らしさのあるワンピース一枚で身を包んだ少女は、口元から鋭い八重歯を覗かせ、地面に広がる血の溜まりに足をつけながら


「な~んだ。人類種ヒューマニティの王族部隊。こんなもんか」


 不吉な笑みを浮かべ、そう呟いた。

 中央に置かれた玉座に腰をかけ、足を組み、肘掛けに肘をついて、

 悠々自適に、不遜な笑みを表し。

 王都の軍兵五十名を返り討ちにした、上級の魔種イフリートであるフレンは、ただ人類を劣等種と見下す。

 



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