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リンカーネーション  作者: 鹿十
最終章 帰還編
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破滅への渇望

【アモル機関 文書No.7『デストルドー機関への主軸2計画引き継ぎ』について】


【『竜崎・R・ウィズダムシーカー』氏の魂が無事、神たる子『ユミル』と結合を果たしたことで『知の箱庭』は予定通り創生された、これによって大戦の終結が訪れて久しい】


【ユミルが創生した第三世界は、未だ音沙汰なし、崩壊の傾向も見られない、非常に安定している】


【そこでアモル機関ヨーロッパ支部において実施予定だった『魂の超過重複』実験を『知の箱庭』内で行う。何が起こるか予測が難しい実験であり、広大な被害を受ける可能性があるため、『知の箱庭』内で行うことがベストだと判断したからである】


【この実験が成功した暁には『座』を人の手で定義することが可能となる。これは『フィフ党閥』の悲願とする所である。実質的な傘下にある『アモル機関』は、この命令に逆らえそうにはない】


【これに伴い『カルマの浄化』のため、『知の箱庭』を利用することも決定】


【14日後には実際に『贖罪者』を『知の箱庭』へと転移させる。彼らが『知の箱庭』にて『呪縛種シンド』と呼ばれる独立の種としてその系譜を受け継げるよう設計する】


【この実験のためアモル機関のメンバーから数名、『知の箱庭』の内側へと、実験の調整のために動いてもらう必要性が生じた。よってアモル機関の一部も『知の箱庭』へと転移してもらう。このための選定は後日行い、結果が決まり次第、文書の形で通達する】


【又、亡き竜崎氏の残した実験記録によれば、未だ使い道の見いだせない負の因果律、『カルマ』が、新たな実験に利用できる可能性が見いだせた。『カルマ』は核廃棄物のようなものであるため、これが実現できれば、行き詰まりつつある因果研究論に新たな光が差し込むことになろう】


【『魂の超過重複』と『カルマの利用』、この2軸の計画を運営するため、『知の箱庭』にはアモル機関の後身たる『デストルドー機関』を設立予定。又、これら二種の計画を『デストルドー計画』としって当該機関の最終目的として据える】



「ユーザー様ㇵ、ドッペル、という存在をご存知でショウカ?」


 陽太に対し、浮遊する自立型ドローンRは問う。

 朝起きたら、いつもは大人しくしているドローンが、今日に限っては動き出し、いつの間にか陽太のベッドの真横で、彼の起床を忠犬のごとく待っていたのだ。

 朝一番で質問を浴びせられ、陽太は寝起きで朦朧とする頭をなんとか回転させながら答える。


「ドッペル? ドッペルゲンガーとか、そういうやつのことか?」

「YES。自分ノ分身であり、遭遇した者ㇵ死ヌトされていマス」

「それがどうかしたのか」

「そう言エバ、話忘れてイタと思いマシテ、本日行う異空間往来二オイテ、必要な知識であるタメ、あらかじめ伝えておいた方が良いト判断シマシタ」

「……現実世界への転移に必要なんだな? 話してくれ」


 陽太は眠い目をこすり、ドローンRの説明に聞き入る。


「私が言ウ、ドッペルとは、都市伝説として語られてイル存在のコトを指していまセン。世界の修正力ト呼ばレル、均衡を保ツタメのシステムが私タチの世界には存在してイマス。因果律の操作ヤ時空転移などノ超自然現象ガ生じた際二、この修正力が働き、発生する事象ノ埋め合わせヲスル。パラドックスは生じないよう、世界側が調整してくれるノデス」

「うん……確か、現実世界で『根源の異なる力』を発動した場合、その修正力とやらで、塗りつぶされちゃうんだっけ? 異世界ではユミルが第三者の自己世界領域の展開を許可してくれるから、その修正力は働かないんだろ?」


 陽太は世界樹にてブラキから語られた内容を思い出した。


「YES……ソシテここからガ、ドッペルの話に繋がってきマス。ゲスト様が、異世界に転移した際、異世界にいたはずのゲスト様が消滅するワケですから、ゲスト様が消えることで生じる矛盾を解消するため二、修正力が働きマス。その結果、ゲスト様の『埋め合わせ』とシテ、ゲスト様の情報を持った別の生物が発生しマス。これを、『ドッペル』と呼びマス」

「つまり……僕が現実世界から消えたのと同時に、僕のフリをした何者かが修正力により生まれて、僕のフリをして僕の代わりに生きてる、ってことか?」

「YES。現実世界に転移するため二、必要な『アンカー』とは、ゲスト様の『ドッペル』のことを指しマス。此岸に存在するゲスト様の『ドッペル』のテクスチャの上から再びゲスト様の存在を塗り潰すノデス。そうすることでゲスト様は再び、現実世界で『立花陽太』として暮らすことが出来マス」

「成る程……」


 陽太は少しだけ思考をする時間を置いて、真剣な表情でドローンRに問う。


「そんな大切な情報を、どうして今まで隠してたんだ?」

「……隠していたワケではアリマセン。ただ……」

「ただ?」

「……結果的に、その『ドッペル』はゲスト様の転移によって、存在が塗りつぶサレ、現実から事象・存在そのものが抹消されるコトになります。捉えようによっては、コレは立派な『殺害』にあたる行為……イエ、生きていた存在すらも痕跡も残らず抹消されるタメ、『殺人』よりもよっぽど重い……コノ現実を伝えることでゲスト様の心身状態に悪影響が生じる可能性を考慮し、転移前日まで情報を控えるベキだと判断しまシタ」

「成る程……ありがとう、ドローンR」

「イエ……」


 陽太はここで始めて、自分が転移することで潰されてしまう命があることを知る。

 自分の「ドッペル」……陽太が現実世界にいない間、自分の代役を果たしてくれた傀儡の人形。

 自分の情報を持っただけの、ただのレプリカに過ぎない者であるが、それでも、命を奪う行為が正しいわけじゃない。

 

 しかし。

 陽太はその事実を聞いても、現実世界に帰還する意思は揺るがなかった。

 何より、陽太はすでにラグナロクに至るまで沢山の命を犠牲にし、多くの理想を砕いてきている。

 ここで帰還を躊躇するのは、己の覚悟が足りていない証。

 陽太の決意はすでに固まっている。


 ただ……。

 その「ドッペル」と話す機会を貰えないか、と陽太は心の奥底で願ってもいた。

 叶うならば、彼と会い、彼と話し、彼に謝罪の言葉を述べたい。

 贅沢な要求かもしれないが、無慈悲に選択権もなく命に終止符が打たれることは、あまりにも残虐な所業だと、感じたからかもしれない。


「まあ、いい……あとで考えよう」


 陽太はあれこれ考えてみたものの、およそ転移を成功させるのに関係のない話であると割り切り。

 ドッペルへの同情の心を断ち切って、そのままふて寝するように再びベッドに横になって目を閉じた。



 夢を見た。

 いつもと同じ夢だった。

 いつの間にか寝ていて、気づけばいつもここにいる。

 今日で何度目だろう。

 

 耳から絶え間なく入る機械音、耳を塞ぎたくなるくらいの大音量と、網膜に焼き付いて離れない色とりどりの光の数々。

 小学生の、人生のたった1ページにも記載されないような、ごく短な期間に通い詰めていた都内のとある古びた「ゲームセンター」。

 都市の再開発計画により、今は消えてしまった過去の思い出の残骸。


 緑亡き今、何故この場所が、立花陽太の――僕の一番大切な場所となっているのか、自分でもよくわからない。

 この場所は、懐かしい匂いがする。

 もう嗅ぐことの出来ない、ノスタルジーの匂い。

 子供の頃の、人生において一瞬の時期にだけ許される、人生の休息場。


 この場所が、僕にとっての、現実世界の象徴なのだろう。

 僕にとって現実世界といったらこの場所で、緑という自分の核となる存在との未練を断ち切った今、真に己の魂が欲する場所は、この空間だったのだ。


 こんな、小さな、どこにでもある、低俗な、古めかしい、ゲームセンターが、何故――

 自問自答しても、答えは出てこない。

 きっと明確な答えなどない、明確な答えが出てしまえば、それは理屈で考えられる表層の事柄にしか過ぎず、心の渇望の末に、出てきた答えでしかないだろうから。


 そしてこの場所には、決まってあの男がいる。


「おや、陽太くん、また来たのかね。君も暇だな、この格闘ゲーム、もう僕の方が上手いぞ? 君がもたもたしている隙に、僕はこのゲームを極めてしまった。なんせ、ここにはゲームしかないからね」


 スーツ姿の、くたびれた30代のサラリーマン、須田正義だ。

 この空間にいる時の僕は何故か小学生くらいの外見年齢になっていて、手足も短く、視線も低い。

 大人用の椅子をなんとかよじ登って、須田正義の横に座ると


「でもリズムゲームは、まだ僕に敵わないだろ?」


 と、僕は須田と会話を始める。


「あれに関しては、陽太くんは天性の才能があるね。僕はリズム感がからっきしでね。陽太くんは小さい頃、ピアノか何か習っていたのかい? リズム感、完璧だな」

「いいや、習ってなかったよ。歌も下手くそだったし、指も不器用だったから、音楽とは縁がなかった。だから……僕にとって音楽といえば……リズムゲームこれなんだと思う」

「そうか、どうりで」


 須田は何かに感づいたかのようにそう言うと、パイプ椅子から立ち上がり、服についた埃をはらうと


「さて、陽太くんもやっと辛くて厳しい現実世界に戻るんだな? いいのか? 現実こっちは残酷だぞ? 異世界のほうがよっぽど楽しい。現実こっちでは、夢も魔法もない。待ち受けているのはただ冷徹不条理な崩壊と破滅エントロピーのみだ、それでもいいんだね?」

「うん、決めたんだ。もう沢山の、夢を見れたから」


 須田は微笑むと、陽太の頭をわしゃわしゃと撫で


「そうかい、陽太君は、強い子だな。私とは違って。応援してるよ、君の選んだ決断の行く末を、僕はただ見守るとしよう」


 そう言って、須田は自動ドアを通り、ゲームセンター外の光の中へと消えていった。

 その背中はやけに哀愁漂って見えた、がある種の希望を背負っているようにも映った。





前回、箸休め回はこれで最後と言いましたが、あれは嘘でした。

許してください。

でも終わりに近づいていることは確かです。


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