次の未来
「あーーーーー疲れた!! ほんと、集会ってイヤになる!! 堅っ苦しいし、つまんないし!!」
「しょうがないでしょ。フレン様はこれから八代目の邪神様になるかもしれないお方なんだから」
「その『フレン様』って呼び方、やめてってば、ナンナ」
見渡す限りの草原で、金髪の少女と眼鏡をかけた女性が喋りながら歩いている。
フレンの方は、珍しく優雅なドレス姿であり、首元や耳には宝石が光っていて、ナンナも正装に身を包んでいた。
ただフレンの方は形式ばったその服が嫌いなのか、集会が終わった後、すぐさま着崩しており、アームカバーなんかは外して、タオルのようにクルクルと手で遊びながら持っている。
「邪神になるってこんなに大変なことだったのね。魔界でしか暮らしたこと無かったから、強くてふんぞり返ってれば邪神は務まるものだとばかり思ってた」
「今までの邪神は、ね。これからの邪神は魔族の長として、そして何より他種族との友好関係を築ける者としての才覚と振る舞いが必要なの。ただ強いだけじゃ務まらない、呪うなら時代の変化を呪いなさい」
「ちぇ~。これなら、邪神になるって豪語するんじゃなかった」
「あら? お母様の後を継ぎたいって言い出したのはフレンちゃんの方でしょ?」
「そうだけど……まさかナンナに上手く利用されて……七帝協和の取り決めや会議にまで参加させられるとは思ってなかったわ」
「ふふ、夢だったからね。魔族と人間が仲良く七帝協和で話し合って今後を決める世界にするのが、それが私の夢。これからの時代、種族間のいざこざは無し!! 神様がいなくなったんだから、他の種族が協力して生きなくちゃ滅びちゃうよ……それに……」
ナンナはフレンの方を横目でチラリと見る。
フレンは気の抜けた顔であくびをしている。
そんな情けない顔を見て、ナンナは笑いながら
「陽太くんは今や、新神を打倒し異世界を救った英雄の一人だよ? フレンちゃんがもたもたしてたら、異世界の他の可愛い女の子に取られちゃうかもね? この前も、私が陽太くんと知人だからか、エルフの美人な子たちに、陽太くんのことについて沢山聞かれちゃったし」
「は???!!! 今!! 陽太の!! ことが!! アタシと!! 何の関係が!! あるってのよ!!」
フレンは怒り出す。
フレンの怒りを察知したナンナは笑いながら、いち早く草原の先を駆け出していった。
「あははははは、図星かな~~~??」
フレンも、ナンナの後を全速力で追って、そのうち追いついた二人は、じゃれながら揉み合いになり、二人して草原の丘をゴロゴロと転がっていった。
*
場面は転換し、冥府へと移る。
辺りは薄暗く、墓地や枯れ木が目立ち、空は黒紫色に染まり、死肉を漁るカラスの鳴き声が響く中、一人の魔法使いの少女が、霧でまみれた気味悪い宮殿内部を歩く。
壊れかけている甲冑の石像が両端に置かれている通路を歩いていくと、いきつく先には巨大な椅子に座った一体の大きな老婆がいた。
老婆らしき人物は、突然現れた紫髪の少女を見つめ
「ククッ……アンタがアグネの末裔かい? 『魔術革命』の『契約儀式』にて生まれた稀代の術師……そんなオマエが、冥府に、なんのようだい? ふざけた理由で来たってんなら、話すら聞いてあげないよ」
その老婆は半身は青く、半身は人肌の色をしていた。
髪は長く地面にまで伸びていて、大きな鷲鼻で、皺が刻み込まれた鬼のような表情でいる。
優に10mは越すほどの巨体であり、少し動くだけで宮殿が振動し、天井の埃が落ちてきた。
「貴方が『冥妃』ヘルね。私の名前はスノトラ。ここに訪れた目的は一つ、1年半前の『ウィーグリーズの決戦』にて死亡し、冥府へと流れ着いた獣人『ガルム』の命を復活してほしいだけ」
「……ガルム……はて、そんな者がいたかどうか……何しろ冥府には、毎日何千の異界の霊魂が流れ着く……1年半前に冥府に流れた者なんて、そう簡単に特定することもできないね」
「……嘘ね」
唯一残された旧神のヘル、彼女の白々しい嘘を看破するスノトラ。
「貴方は過去、『神食い』のフェンリルが樹界大戦で死した後、彼の霊体を利用して、冥府の番人にしたてあげようとしたことを私は知ってる。その時は、貴方はフェンリルの核を特定して手に入れることが出来なかった。その前回の失敗を教訓として、次にフェンリルの情報を引き継いだ転生体が生まれ、その者が死んだ場合、貴方は何としてでも、冥府でその転生体の核の情報を手に入れようとするはず……そして今回はその試みが成功している……」
スノトラの推理を聞き、ヘルの貧乏揺すりは加速する。
「このヘルの宮殿の入口にある洞窟グニパヘリルで鎖で繋がれていたあの魔獣の番犬……あれがガルムの情報を引き継いだ新たな生命体でしょ?」
「……」
「あの番犬を解放して、私に譲りなさい」
物怖じしないではっきりと断言するスノトラ。
そんなスノトラの堂々とした振る舞いを見て、ヘルは舌打ちをして笑い飛ばし
「ヒヒヒッ、こりゃあ面白い。たかが小娘、それも出来損ないのアグネの末裔が、この『冥妃』に対し、対価もなしに要求を強制してくるとは」
「言っておくけど、ただの人間だと思って舐めないことね。私は強いのだわ」
「じゃあなんだ? 私と戦うとでもいうのか? 小娘め、新神リーヴを打倒した如きで図に乗ってんじゃないッ!!! ちっとばかり才能に恵まれた餓鬼がッ!! 私が神器を解放すれば、オマエなど一瞬で塵と化すのだッ!!」
ヘルは怒りで髪が逆立つとともに、彼女の莫大な内包樹素が活性化し、衝撃波を放つ。
爆風がスノトラを襲うが、スノトラは一切恐れることなくその場に立ち、ヘルに鋭い視線をおくる。
「……なあ~~~んてねえ。久しぶりの客人に……そんな横暴なこと、わたしゃしないよ……ヒヒヒ……スノトラよ、アンタ、今日は帰りなさいな。わざわざ冥府にまで来るなんて大した度胸だ。アグネの子孫とは思えぬほどの才覚の持ち主であることは確か。だが……分が悪い。本当にあの番犬を私から奪いにくるなら…………次は『龍殺し』でも連れて来るんだね……さあ帰った帰った」
ヘラは急に温和な態度に戻ると、比較的優しい口調で、スノトラを諭した。
これ以上議論を重ねる意味はないと判断したスノトラはその場を後にし、宮殿を抜け、洞窟グニパヘリルへと戻る。
そこには、鎖で繋がれ、体にはムチで打たれた傷が刻まれ、丸くなって寝ている、大きな魔獣の姿があった。
獣人だったガルムとは異なり、彼は似ても似つかない完全な獣であった。
だが、そんな番犬からガルムの雰囲気を微かに感じ取ったスノトラは、その番犬に近づき、毛を撫でながら
「……大丈夫、ガルム。いつか絶対私が迎えに来るからね」
そう約束し、スノトラは冥府から去っていった。
*
「アマルネさんですか? ちょっといいですか?」
路上での演説が終わったアマルネに話かけてきたのは金髪の青年だった。
歳は18歳ほどで、気怠そうな目が特徴的な男、特にこれといった特徴はない普通の青年。
ただ、どことなくアマルネの友人に似ていた。
アマルネはここ半年の間、次代の王家を定めるための講演会や演説に勤しんでいた。
彼自身が民衆に訴えかけていたのは、「王家選定の世襲制と貴族制の廃止」。
民衆に投票権を平等に与え、選ばれた人間が政治を行うというシステムの普及。
ただの世迷い言に過ぎぬと始めは小馬鹿にされていたが、何度も演説を地道に行うことで、彼を指示する声は着実に増えてきている。
アマルネは自身が「悪名高い」ネリネ家の血筋であることを民衆に隠さなかった。
ときには野次を飛ばされたり、露骨な嫌がらせをされることもあったが、ぐっと耐え抜き、強く訴え続けていく中で、彼の声を聞く人々は次第に増えていき、今では路上で演説を行えば百数人は集まる。
そして先週に生じた特定排斥種による十三神使族の惨殺事件により、事実、次期王家を決めることが不可能になったため、十三神使族の末裔であり、かつ長らく選挙制を訴えかけてきたアマルネに大きな注目が集まり始めていた。
今日は城郭都市グラズヘイムでの演説が終わった。
時刻は夕方、今日の彼の演説には千人以上の人々が集まる。
当初、アマルネに向けられていた罵詈雑言の数々は息を潜め、今や賛辞の声が大多数を占める。
着実と彼の目標に近づいている中、演説が終わると共に、後ろの待機室で休憩していたアマルネに対し、話しかけてきたのが、その青年だった。
「勝手に入ってくるな」
警備の男が、その金髪の男を追い出そうとするが
「大丈夫だ、ちょうど暇な時間だったからね。何か用かい?」
アマルネは椅子から立ち上がり、その青年をきちんと対応する。
「実は……俺、急なことで信じてもらえないかもしれませんが、アマルネさんと同じく、神使族の血が流れています」
「!!」
アマルネは金髪の男の突然の告白に驚き
「ほら、最近、神使族の惨殺事件があったじゃないですか。それで世間は混乱してますし、そんな中、ネリネ家の末裔が城郭都市で街頭演説をしているっていうから、今日試しに来てみたんです。前から貴方の存在は噂ながら口伝で聞いてみました。そして今日、貴方の話を聞いてみて、自分の思いが湧き上がってきたというか……やっぱりこんな僕でもできることをやらなきゃと思ったんです」
「できること……ですか?」
「ああ、いえ。別に空席の王家の座に居座りたいとかそういう話じゃなくて……そんな大層な不相応な野望を持ってるわけじゃありません。所詮、僕は神使族の血が流れているって言っても分家も分家……今やただの市民とそう変わりません……だけど、僕の血が貴方の力になるなら……それに協力したい」
金髪の男は焦りながらも、自分の明確な意思をアマルネに伝える。
「失礼ですが、貴方の血筋について、詳しくお聞きしても?」
「はい。僕は……アリストロメリア家の人間です……『魔術革命』は知っていますよね? 400年前のアグネの旅に出てくるヘグニ=ウォードと、アリストロメイア家の愚王の妹『レスクヴァ』の子孫です、ああ名前をお伝えしていませんでしたね、僕の名はロズル。ロズル=アリストロメリアと言います」
「ロズル君か……成る程、道理で……」
アマルネは自分の中で感じていた直感の正体を悟る。
ロズルがどこか自分の友人と似ていた理由、それは彼がアリストロメリア家の末裔だから――つまりフレンと同じ血が通っているからだ。
「王家に定めらた法には『本家で無くとも三人以上の神使族の血筋が集まれば、王家に異を唱えることができる』とある。神使族がいなくなった今でも機能しているかは分かりませんが、もしまだ使えるとしたら……僕も貴方のお役に立てるはずです」
「ありがとう。ロズル君、君の協力、凄くありがたいよ。ただ……どうして君は僕に協力を?」
「単に、統治者を決めるなら貴方のような人であってほしいと感じただけです」
ロズルとアマルネは強く握手をしてお互い視線を合わせる。
そこで、アマルネは違和感とも呼べぬとある些細な事に気づき、ロズルの顔をじっと見つめる。
「? ……僕の顔に何かついていますか?」
「いや…………何だかね。僕の友人にも一人、アリストロメリア家の血筋の子がいるんだ。君は彼女とはあまり似ていないなと思って……それよりも、不思議なことにもう一人の友人の方に、どちらかというと似ていると思ったんだ」
「もう一人の友人?」
「ああ、立花陽太という子なんだけどね」
「立花陽太……?!」
ここでロズルがアマルネを握る手に強い握力が加わった。
「ああ、知っている人は知っているか、『ウィーグリーズの決戦』で新神のジギタリス家当主を討ち滅ぼしt――」
アマルネが言葉を話し終わる前に、ロズルは真剣な表情で割り込み
「アマルネさん、立花陽太、と知り合いなんですか? もし知人なら合わせてください! 渡したいモノと伝えたいことがあるんです!!」
突然の熱意ある要求に襲われ、アマルネは少しびっくりするも
「あ、ああ……いいよもちろん。丁度、1週間後辺りに、陽太くんとは城郭都市で出会うことになっているんだ。その時、君も呼ぶよ」
そう、丁度1週間後は、立花陽太が元の現実世界に帰還する前に皆で城郭都市で送別会を開く予定だったのだ。
その会に急遽、ロズルも飛び入り参加することに決まった。
こうして、「ウィーグリーズでの決戦」から1年半が経過し、各々が各自の目標と次なる未来に向けて、別の道を歩む中、陽太が現実世界に帰ってしまう前に、久々に集まることになった。
そうして送別会前に集合し、久々に遊んだあの日のことは、アマルネにとっても、スノトラにとっても、フレンにとっても、そして陽太にとっても、一生で一度も忘れられない思い出になる特別な日だったように思えた。
式具は神器を除きランク分けされています。
ランクは、性能や稀少度、作られた過程や歴史、作り手の名声…などを統合して定められています。
・基本的にランクはSからCまでで、そこら辺で安価で売られてる式具などはランク付けすらされません。
そのため最低ランクのCの式具でも、大衆からすれば入手困難な高級品です。
今まで出てきた式具の等級をざっと紹介。
S級→レーク碑石
A級→魔剣グラム、足枷グレイプニル、打我の篭手
B級→勇者ヘグニの鎧
C級→ヴィドフニルの袋、礼装「キャムスト」
C級でも購入しようとすれば現代価格で数千万はします。
A級以上の式具はもはや金で売り買いできません、王家や有力貴族、国などが独占してたり、種族内で祀られています。
S級の式具は10個あるかどうかくらいの個数があり、S級の式具は神器と同レベルの神秘を秘めています。




