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リンカーネーション  作者: 鹿十
最終章 帰還編
200/203

王都陥落⑦

 一人の婦人が洗濯物をベランダに干している。

 干された衣類はそよ風で優しく靡く。

 心地よい日常の昼時、そんな中、宅配物が届いたことに気づき、婦人は玄関に駆け寄った。

 ポストの中には一通の手紙が入っており、王家の紋章の封蝋が押されていた。


「ああ、そういえば今日は追悼祭ね」


 婦人は一人呟き、机の上にある羽ペンで手紙に自分の名をサインをする。

 あらかじめ手紙には薄字で婦人の名が描かれており、その上をなぞるだけでよかった。


「毎回思うけど、この字ってどこの国のものなのかしら?」


 サインを終えたと同時に、台所にあった鍋が沸騰し始め、婦人は急いでそちらに駆け寄った。



 場面は代わり、聖霊堂の内部へ。

 中心の位置する巨大なモノリスの周辺を囲むように草木が生い茂っている。

 そのモノリスを軸に、式となる魔法陣を製作する呪縛種シンドの「代表者」たち。

 

 その中の一人「ᛃ」の仮面の男は時間を気にしつつ


(……呪術ノ高マリヲ感ジル…………現時点デノルーン文字ノ使用者ㇵ少ナク見積モッテモ……十数万ㇵ超エル……コレダケノ力ガ有レバ……異界ノ門ヲ開クコトモ難シクㇵ無イ……)


 呪術に使用する式媒体「ルーン文字」はその使用者が増えれば増えるほど、呪術自体の力も増すという特性を持つ。

 呪縛種シンドはこの特性を儀式に利用、追悼祭で異世界の人民に配られる手紙には、ルーン文字でのサインが求められ、この手紙自体が式であり、サインをすることで、サイン主は「ルーン文字を使用した」という術式的な役割を担うことになる。

 

 これにて、述べ数十万以上の人間が一時的とはいえルーン文字を使用しているという判定になり、呪術の力は爆発的に増加、この力をもって、「系譜」七名の召喚に挑む――これが呪縛種シンドの策略の全貌であった。


 原理的、術式的、契約儀式的な側面においても、「系譜」七名の転移を実行できるだけの計画であるといえよう。

 ただ唯一呪縛種かれらに誤算があったとすればそれは――


 龍「殺し」の力を甘く見積もっていたことに尽きる。


「!!」


 モノリスの部屋へと繋がる聖霊堂の扉が突如として開く。

 その向こう側にいる人影を目視し、呪縛種シンドは大いに焦る。

 姿を表したのは――


「ひっ……」


 修道服に身を包んだ、十数歳程度の幼い少女。

 彼女は呪縛種シンドたちの姿を見て驚き、思わず尻をついた。

 体は恐怖でブルブルと震えており、空いた口が恐怖で塞がらない。


「……ガウア……」


 「代表者」の一人が入ってきた少女を指さし「ᛃ」の男にどうすべきか人語以外で尋ねる。


「……タダノ一般人ダ……我ラノ計画ノ邪魔二ㇵナラン……縄デ縛ッテ拘束シテオケ」


 「ᛃ」の男の指示通り、「代表者」たちは修道服の少女――アザミに近づき、縄で彼女の細い胴体を縛り動けなくすると、乱暴な動作でアザミを床へと放り捨てた。

 アザミは恐怖でブルブルと震えてるのみで、抵抗する意思を見せない。


「全ク……驚ヵセルナ……同胞達ヨ、アノ娘ノヨウ二、聖霊堂へ逃ゲテキタ人間ガココへ辿リ着クカモシレナイ……剣士ヤ術師ダッタ場合ㇵ儀式ノ邪魔二ナルタメ、発見次第殺セ」


 「ᛃ」の男は皆に指示を出す。

 すると、再び大扉がギギギと軋んだ音をたて解錠される。

 「代表者たち」は「またか」といった具合で、拘束または殺害の準備をしようとするが――


 その門の向こう側にいたのは――逃げてきた貴族でも市民でも無く、銀色の髪に青色の目をした剣士――龍「殺し」であった。


「!!!!!!! 同胞達ヨ!! 奴ヲ殺セ!!」


 「代表者」たちは一歩遅れて、急遽戦闘態勢に入る。

  だが目視でシグルドの存在に気づいた時にはすでに遅く。

 光の残像が空間内を駆け巡ったかと思うと、遅れて剣が肉を断つ斬撃音が鳴り響き、冷静になった頃には、「ᛃ」の男を除く「代表者」全員が斬り殺され、遺体となって血に転がっていた。


「ハア…………ハア…………ハア……」


 「ᛃ」の男は尻もちをついていて、彼の目の前には返り血に染まった龍「殺し」の姿があった。

 シグルドは霊剣を右手に握り、仁王立ちで「ᛃ」の男を見下ろしている。

 「ᛃ」の男は乱れた動機をなおすことに精一杯で、心臓ははち切れんばかりに鼓動を早め、死の恐怖を訴えていた。


「答えろ」

「ハア……ハア……ナ……馬鹿ナ……系譜ㇵ……系譜ヲ……」

「貴様たちが仕向けてきた白化粧の男はすでに我が殺した」

「アリエナイ……ハア……ハア……アリエルハズガ無イ!!」

「黙れ。それ以上、喚けば殺す。貴様ら特定排斥種に聞きたいことは一つ、何故王家を狙った?」


 恐怖と驚愕で冷静さを欠いている「ᛃ」の男と、対照的に殺意と冷酷で満ちているシグルド。


(……龍「殺し」トテ、系譜一体ヲ倒ス二ㇵ、数時間ㇵ必要トスル計算ダッタ!! マサカ……モノノ数分デ……瞬殺シテ来ルトㇵ!!!! アリ得ヌ!!! 断ジテアリエヌ!!!!)


 シグルドの実力のここまでの指数関数的な急成長を予測出来なかった。

 実際に、「ウィーグリーズの決戦」以前のシグルドでは、系譜に勝てたとしても数時間はかかるのは確かだ。

 だが1年半の実践を経て、彼は以前とは比べようにもないほど強くなっている。

 この成長加速度を誰が予知できただろうか? いや、予測出来た者などいないだろう。

 ましてや本人であるシグルドでさえも、己の力の源泉が分からないのだから――。


「ダ……クソ……アリエヌ!! 我ラノ計画二……失敗ㇵ無――」


 シグルドの忠告を無視し、喚き続ける「ᛃ」の男。

 瞬間――彼の右手が飛ぶ。

 切断面からは大量の血が吹き出す。

 「ᛃ」の男は遅れて悶え苦しむ。


「ガア……アアア!!」

「次に我の質問に答えなければ、今度は左手首が飛ぶ。次は右足、最後は左足だ」

「ク……ウ……ウウ」

「答えろ、何故貴様たちは王家の人間を『あのような惨たらしい方法』で呪殺した? 王家に何の恨みがあったのだ? 何故、今この期に及んで 、人類への反逆を目論んだ?」

「……ソレ……ㇵ……」

「!!」


 「ᛃ」の男が口を開きかけた瞬間、シグルドの視線が、片隅に拘束されていた少女の方へ移る。

 縄で拘束され、口を塞がれていても遠目で分かった、あの少女は


「アザミ……?!」


 彼女の名を口にしてから、シグルドはその発言が迂闊だったことに気づく。

 「ᛃ」の男は、シグルドの発言を聞いた直後、この世の憎悪が詰まったような笑みを浮かべ


〔ᚳᚢᚱᛋᛖ〕


 小節術式でルーン文字を用い呪術を詠唱。

 瞬間――アザミの体に呪印が浮かび上がった。


「ッツ……」


 しまった――と、シグルドが己の失敗を自覚した際にはもう、立場は逆転しかけていた。

 「ᛃ」は優雅にその場から立ち上がり、首を回すと


「ソノ少女二呪術ヲ施シタ。呪術ノ解呪ㇵ、我ヲ殺シテモ叶ワヌ……死シタ後モ継続スル呪イヲ掛ケタ」


 先程とは打って代わり、優勢になった途端、汚らしい笑顔を浮かべる「代表者」。

 シグルドは、下唇を噛み締め 怒りを抑えるしかない。


「何、貴様ヲ今ココデㇵ殺スツモリㇵ無イ……一度、聖霊堂カラ出テクレサエスレバイイ……」

「……我がそのような約束を結ぶと思うか?」

「我ヲ殺セバ……ソノ少女ノ命モ散ル……ソノ覚悟ガアルヵ?」

「…………」


 シグルドのふとした言動だけで、「ᛃ」の男はアザミがシグルドにとって大切な存在であることを察知。一瞬の隙で遠隔でアザミに呪術を施し、アザミの命を人質にとることで、シグルドに聖霊堂から撤退するように圧をかける。


 シグルドは下唇を噛み締めながら、体勢を低くし


〔『略式』神速〕


 術式を発動、アザミの命を投げ捨て、目の前の呪縛種シンドを殺しにかかるも――


「くっ……」


 霊剣の刃先は「ᛃ」の男の首元に沿った所で停止する。

 アザミを犠牲にする勇気が出ない。


【シグルド、あなたは、救えなかった命のことを考えたことはある?】

【シグルド、あなたは、救えなかった命のことを考えたことはある?】

【シグルド、あなたは、救えなかった命のことを考えたことはある?】


 シグルドの頭の中で加速する、アザミのあの日の発言。

 ここでアザミを見捨ててしまえば――アザミもシグルドにとって「救えなかった命」になってしまう。

 万人の命を救う救世主ヒーローならば、龍「殺し」としての自分ならば、ここで「ᛃ」の男を殺すのが正しい。

 それはシグルドにも分かっている、聚集承知している。

 

 だが、その行為を「シグルド」としての自分が全力で止めようとしている。

 矛盾、矛盾、葛藤、葛藤。

 再び問われる「剣士」としての自分か、「シグルド」としての自分か、どちらを優先するべきか、という史上命題。

 この問いに、未だシグルドは明確な答えを突き出せない。


 ただ、この時のシグルドは、王家の惨殺事件からか失うことを過剰に恐れていた。

 これ以上、大切な命を失いたくない。

 そんな思いが強くなっていたからか、この時では「剣士」としての自分に「シグルド」としての自分の気持ちが打ち勝った。


 シグルドは霊剣「リジル」を鞘に収めると、その場を後退りした。

 右手の拳は、やるせない感情で強く握られ、爪が手の肉に食い込み血が流れ出している。

 それだけの激情を抑え、シグルドはその場から撤退する選択を選んだ。


「……〔『契約儀式』カノ少女ノ解呪条件ㇵ、シグルドノ聖霊堂カラノ撤退トスル〕」


 「ᛃ」の男は今のやり取りが口約束にならぬよう、契約儀式を介することで、絶対的な契約へと昇華させた。

 これにて、文字通り、シグルドが聖霊堂から出なければアザミの命は救われることはない。


「……もう一度会った時が貴様の命が終わる時だ」


 シグルドは忠告をしてから、モノリスの部屋へ続く大扉を閉じる。

 その脅迫めいた忠告を聞き、「代表者」は笑いながら


「2週間後二儀式ガ終ワッテカラナラバ、コチラモオマエヲ歓迎シヨウ……我ノ他二……7名ノ悪魔モオ出迎ェデナ……ククク」


 シグルドが退出し、大扉が勢いよく閉まる。

 「ᛃ」の男は、シグルドがその場からいなくなると、悶えるアザミを見下ろし


「ヤハリ、因果ㇵ我二味方シテイル……コノ『アザミ』トイウ少女ㇵ……龍『殺し』ノ汚レタ血ヲ浄化シタ後……来ル我ラ呪縛種シンドノ時代ノ……女神トシテ祀ッテヤロウ………光栄ナコトダロウ?」


 そう言って、倒れているアザミを足でつつく。

 アザミは目から大量の涙を流し、呪術の苦しみから逃げるように気を失った。



 約束通りシグルドが聖霊堂から出ると、その瞬間、聖霊堂を囲むように巨大な封鎖結界が出現。

 シグルドが再び聖霊堂に侵入しようと試みても、その強固な結界に存在を阻まれる。


(……ッツ……凄まじく強力な拒絶形式の結界だ。おそらく合奏術式レベルの代物……しかも『契約儀式』で対価を結ぶことで更に結界を強固なものにしている……ルーン文字で構成されている結界だ、王家直属の魔術師でも解除は不可能だろう……あの「ᛃ」のナンバーの男は、2週間後までこの結界による封鎖が続くと言っていた……それまでは……何もすることも出来まい)


 するとシグルドは腰のベルトから霊剣を取って横に置き聖霊堂の前で居座った。


「二週間、ここで待つ」


 ただならぬ殺意を向け、2週間後の約束の日を待つ。

 

 王都はその後、地方に派遣されていた剣士や術師の軍勢が騒ぎを駆けつけ集まったことで、事態は収束した。

 王都の四割が壊滅状態にあり、王家は皆呪術にて死亡、中心街に住む有数の貴族たちも含め死亡者は多数。

 この騒ぎは話題性を集め速攻でニュースになり、「王都ギムレーの陥落」として異世界に広がる。


 そして、聖霊堂の封鎖結界が解放される約束の2週間後の日は――奇しくも、立花陽太が現実世界に回帰する日と一致していたのだった。

ついにep200達成!! おめでとう(自分に向けて)!! 読んでくださる方にありがとう!!

「リンカーネーション」はあともう少しだけ続きます。

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