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リンカーネーション  作者: 鹿十
最終章 帰還編
199/203

王都陥落⑥

 シグルドとシグムンドが死闘を繰り広げている一方で、聖霊堂へと集まった呪縛種シンドの「代表者」達は、儀式の準備を着実に進めていた。

 系譜を異世界に呼び出す際の転移術には巫術が絡む、ただ巫術は巫女の魂の所有者でなければ習得できない。

 そのため呪縛種シンドは過去の巫女が連綿と紡ぎあげてきた知識を使用し、なんとか不完全な転移術の式を編纂。

 その上で契約儀式を用い、更に王都一帯を大規模な巨大術式園に見立てることで転移術を無理やり発動しようという策略でいた。

 

 王都ギムレーを囲むように、一定間隔で地下に式の種となる奇石を配置。

 これによって、幽霊都市での一件のように、巨大都市そのものを膨大な魔法陣として運用できる。

 

 しかし、これでも系譜の召喚にはまだ足りない。

 そもそも、彼らの悲願は残り七名の系譜の召喚と転移。

 天地創生時に生まれた時空の裂け目「ギンヌンガガプ」をこじ開け、物質界と異界を繋げ、七名の人間を異界に転移させるには、相応の膨大なエネルギーを有する。

 圧倒的に足りない、そのエネルギーを、呪縛種シンドは契約儀式を用いて補填しようとしている。

 ただ、「代表者」数名の命を捧げたところで、「ギンヌンガガプ」を開き固定するエネルギーを生み出すには満たないだろう。

 それだけのエネルギーは、国一つの人民の幾万の命を捧げることで、やっと生み出せるかどうか――。

 極端に成功率の低い儀式であると断言できる、だが「代表者」にはとある画策があった。


 転移術の準備の大半が終了すると、「代表者」の一人である「ᛃ」の記号を背負った男が、聖霊堂にいる同胞に向かっておもむろに話出す。


「今日ㇵ『追悼祭』ナリ。『追悼祭』デㇵ、王都ノ人民二、トアル『書記』が届ク。ソノ書記二ㇵ、死シタ人間ヲ哀悼スル一文ガ書カレテイル。人民ㇵ、呪術デ死シタ過去ノ人間ヲ追悼スルタメ、ソノ文二特殊ナ文字デ自身ノ名ヲ、サインヲスルトイウ風習ガアル。コレ、百年以上続ク、風習ナリテ、王都ノ人民ㇵ、コレ、スルコト疑問二モ思ヮズ」


 「ᛃ」の仮面をつけた男は、一呼吸置いて不気味な笑いを浮かべ


「馬鹿ナ者ドモメ。コノ風習ㇵ、我ラ呪縛種シンドノ下部組織『聖骸連盟』ガ広メタモノデアルト知ラズ二…………時空の裂け目『ギンヌンガガプ』ガ出現スルノハ、約2週間後ダ、ソノ時マデ二着実二準備ヲ進メテオコウ…………同胞達ヨ、案ズルナ……アト1時間モ経テバ、結界ガ封鎖スル。ソウナレバ、龍『殺し』イヤ『親殺し』ㇵ2週間後マデ聖霊堂二侵入出来マイ……アトㇵ、アノ『系譜』ガドレダケ持チコタェルヵ……ダナ」


 「代表者」一行は半ば儀式の成功を確信しながら、聖霊堂の中心「モノリス」の前に座り込み、この世の悪意を込めた笑みを浮かべて待機していた。

 この腐れきった異界の終焉と、破壊に伴う創生、彼らが実権を握る新たな時代を悲願しながら――。



 また視点は変わり、幽霊都市中心街で、系譜「洒落」と戦闘しているビヨルンたちに移る。

 ビヨルンの神器で倍加した上での猛攻と、「魔剣」を携えたグリムヒルトの攻防により、彼らはなんとか洒落と長時間の戦闘を可能としていた。

 だが、あくまで「死ななかっただけ」だ。

 

 長時間戦闘により、グリムヒルトは明らかに消耗しており、ビヨルンの方は力帯「メギンギョルズ」の度重なる使用による負荷で筋線維は、肌の下で痛んだ毛布のようにズタズタに千切れてしまっていた。

 

 他方、系譜である「洒落」は明らかに傷を負ってはいるものの、そこまでの消耗は見せていない。

 これが「根源の異なる力」の真骨頂、無限のエネルギーを持つ魂を使用しているため、力そのものに一切の減退は見られない。

 むしろ、洒落の「根源の異なる力」の出力は、戦闘の慣れにより更に出力を上げていた。


(『熾』剣士の中でも秀でた実力者二人が、伝説級の式具で武装して多対一で戦っても尚、系譜とやらには勝てないのか……?!)


 そんな現状を見て、サポートに徹していたミミズクは絶望する。

 このままではジリ貧だ、だが洒落の「根源の異なる力」を前にして、決定打となる一撃を浴びせることが出来ない。

 もう終わりか――死を覚悟し始めていた矢先、グリムヒルトがボソリと呟く。


「大丈夫だミミズク、我らの役割は終わった」


 ミミズクがグリムヒルトの発言を理解する間もなく、瞬間――遠方から3つの斬撃が飛来。

 その全てが洒落に着弾し、洒落は胸と腹に大きな切り傷を負う。


 ミミズクが、飛来してきた斬撃の発生源に視線を動かすと、そこには


「『龍殺し』!!」

 

 400mほど離れた先の、高い塔の先端に、一人の人物が赤いマントをたなびかせ経っていた。

 遠方から目視でも分かるほどの、黒い稲妻を体から発生させているあの男の正体が、他ならぬシグルドであることは、ミミズクでも一瞬にして理解した。


「ク……あれが『龍殺し』とやらか!! こんな短期間で儂の元まで辿り着くとは!」


(だが……小奴らとの戦いで理解した。剣士とやらは少々厄介であることは認めるが、儂の敵ではない!! この異界で最強の人物だろうが……この力をもった儂に勝てるはずはないn――!!!!)


 洒落が一瞬、ほんの一瞬、瞬きをした瞬間に、シグルドの姿は塔の上から消えており――。

 洒落は自身の両腕から凄まじい量の出血をしていることに気づく。


「!!」


 洒落の両腕がいつの間にか切り落とされ、切り落とされた両腕は勢いよく宙を舞っていた。


「馬鹿なッ」


 真後ろにはシグルドの姿が。

 僅か一瞬で、自分の元まで接近し、両腕を切り落とされた事実に気づいた洒落は、急いで「根源の異なる力」の自己世界領域を展開しようと詠唱をするも


〔隔r――??!!〕


 詠唱がまだ終わっていない間に、洒落の口から右頬にかけて、一本の切り傷が肉を抉る。

 口を切られたことで、洒落は詠唱が出来ず、慌てふためく

 対してシグルドは、冷徹な目で、丁寧かつ超速の剣技をもって、背後から洒落の胸を串刺しにし


〔橙〕


 そのまま霊剣に宿る術式「レーギャルン」の黒灰化現象を、洒落の体内に流し込む。

 すると、洒落の体がビクンと、地上に上げた魚のように跳ねた後、貫かれた胸の部分から段々と黒灰化が進行――

 

「があッ…………〔暗闘だんまり〕」

「!!」


 洒落は死に際の馬鹿力でなんとか「根源の異なる力」の一部を発動。

 その効果により、シグルドは五感が完全に封じられた、暗黒の世界へと誘われる。

 

 シグルドが〔暗闘〕の能力に対応出来ていない隙を見図り、洒落は聖霊堂めがけて一目散に逃げ出す。

 

「系譜が逃げる!! 追うぞ!! グリムヒルト!!」


 シグルドが動けぬ間、グリムヒルトとビヨルンが逃げ出した洒落の後を追おうとするも、何千体にも及ぶ大量の「黒衣」が出現し、グリムヒルトらを阻む。

 その妨害を受け、グリムヒルトとビヨルンはその場から動けない。

 

 数分後、〔暗闘〕の能力に慣れたシグルドが復活し、全速力で逃走した洒落の後を追う。

 洒落はその頃、すでに聖霊堂へとたどり着いていた。

 だが満身創痍の状態であり、胸からは大量の血が流れ、両腕は切断され、黒灰化の進行はゆっくりと進んでいる。

 あと数分の命であることは明白だった。


(ハア……ハア……あれが『龍殺し』!! 『根源の異なる力』を発動する隙すらも無かった!! 目で追うのがやっとか!! あの超人的な強さ……儂が『人形振り』状態であっても、真っ向から戦うことは不可能だ!! もはやあそこまでの化け物とは……侮っていた……だが!!)


 聖霊堂の目の前、ここでシグルドが洒落に追いつく。

 シグルドの洒落を見据えるその目は、獲物を冷酷に狩る百獣の王のように冷え切っていた。


「遺言はあるか?」


 シグルドは問う。

 すると、洒落は「ククク」と笑い


「芸者に生まれたこの身!! 最期の瞬間まで笑って笑って、舞台の上で死ぬのが本望でしょう!!」


 そう言って洒落は、根源の異なる力を無理やり発動しようとするも――

 ザシュッという斬撃音とともに、洒落の頭部は首の下と別れ――切断された頭部が地面へと転がり、体は体勢を崩しその場に血溜まりを残し倒れた。


(……親父や……儂は……舞台に立てたか? 見ててくれたか? ……儂の生き様を……)


 洒落は亡き父親の顔を浮かべながら、その生命活動を停止した。

 地面に転がる洒落の頭部は、少しだけ表情が笑って見えた。


 芸に生き、最期まで舞台に立つことが出来なかった日陰者の理想が、またしても崩れ落ちる音が鳴る。 

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