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リンカーネーション  作者: 鹿十
最終章 帰還編
193/193

王都陥落①

 シグルドが罠にはめられ、冥府へと転移させられている中、一方その頃王都では――。


〔略式〕


 短縮形の詠唱と共に空間内に斬撃が走る。

 ここは王都の西側、魔物の頻出する地帯。

 子グマほどの大きさのある魔獣を倒した後、一人の剣士は鞘に剣を収めた。

 

 中位ほどの魔獣を倒した剣士はため息を吐き


「これで全部終わりましたよ、ビヨルンさん」


 背後の路地裏であぐらを掻いて座っている40代ほどの男に声をかけた。

 

「いい加減、俺に雑用を押し付けるの辞めてくれませんかね」

「そりゃあミミズク、せっかくお前が『座』剣士に昇格したっつーから、剣の腕前を見てやろうとしたんだ。少しは期待したが……見て損した、3年前と全く変わっちゃいねえ」


 ビヨルンと呼ばれた男は浴衣のような胸元のゆるい服を着用し、口には葉巻を加えている。

 職人のような見た目をしており、髪は灰色、襟足から髭にかけてまで毛が繋がっていて、左目には切り傷が刻まれていて潰れているのか目を閉じている。

 腰に一本だけ、一応剣士であるという証明のように剣が鞘ごとぶら下がっていた。


「一応、省略形で式を発動出来るようにはなりましたし、ビヨルンさんに稽古をつけてもらっていた時と比べて大幅に剣の技術も上達したんですけどね」

「そんなの俺からすれば誤差の範疇だ。第一、剣に一番必要なのは速度じゃなく『重さ』だ、お前の剣には重さがてんでない」

「俺は見ての通り小柄っすから、力は無いんで。だから介者流から居合流に転向したの、忘れましたか?」

「そんなの関係ねえな、介者流は万年人材不足だ、それに俺から剣を習った奴は皆、俺の部下みたいなもんだ。生憎、後継者不足でな、ミミズク、お前みたいな玉無しにすら、家元の後継を任せたくなっちまうくらいには」

「介者流なら、門弟が沢山いるでしょう? そいつらに頼んでくださいよ」

「見どころのある奴らはここ数年でほぼ死んだ。どいつもこいつも……俺に似ず、勇敢で真面目な奴らだった。お前と一緒に介者流を抜けたボドカもそうだった」

「……」


 ミミズクはビヨルンの言葉を聞いて黙り込む。

 幽霊都市での一件におけるボドカの死、あれから1年半以上経過するが、まだミミズクの心にこびり付いている。

 表向きでは気にしていない風を装ってはいるが、何年も剣をともにした友を失った事実はミミズクの心に影を落としてしまっていた。

 ミミズクはこれ以上気分が落ち込まないように、話題を変えた。


「それにしても、俺はともかくとしてビヨルンさんまでもが王都全体の護衛を任されている意味は」

「そりゃ追悼祭があるからだ」

「なんすかそれ」

「お前そんなことも知らないのか? 相変わらず常識がない奴」

「ビヨルンさんにそんなこと言われたくないっす」

「……追悼祭はその名の通り昔の大量呪殺による死者を追悼する日だな、211年前の今日、特定排斥種による同時多発的、異世界全土人口集中区画においての大型呪術の式が発動されたんだ。噂によるとたった一日で十数万人の人間が死んだっつー話だ。目的は不明。中でも被害が酷かったのが人間種ヒューマニティ小人種ドワーフ森霊種エルフの三種族で、他の種族の奴らもボロボロ死者が出たそうな。当時の状況はまさに地獄絵図だったらしい。どれくらい酷かったっつーと、種族間でバチバチに仲が悪い八種族が、これを期に連帯・協力して特定排斥種相手に戦争を仕掛けたくらいだ。後にも先にも八種族全員が協力したのはこの時だけだな」

「へえ、そんなこと習ったような習ってないような」

「ミミズク、お前本当に何も知らないのか?」

「ガッコウの勉強は苦手だったんすよ。元々、剣士の道に進んだのも勉強が嫌だったからっす、やる気のない剣士なんて皆、俺と似たような理由で入隊してますよ」

「それだと年取って苦労するぞ。俺はお前と似たような考えで勉強から逃げてきて、30手前で苦労した。当時惚れてた女に『アンタはあまりに物を知らなすぎるから無理』と振られてな、そこから本気で本を読み漁ったもんだ」

「昔話はいいから続けてくださいよ、追悼祭の話」


 話しを遮られて、ビヨルンは一瞬ふてくされた顔をするも、再び続ける。


「そこで八種族が協力して特定排斥種に戦争を仕掛けてだな、冥府に実際にカチコミに行ったんだ。そこで特定排斥種の幹部メンバーは軒並み倒されて、呪術の対立術構築のための情報も手に入った。その時だな、人間が『巫女』を特定排斥種あいつらから奪ったのは。王城の中央に教会みたいのあるだろ? あそこにいる礼拝服の女のことだ。『巫女』はどうやら未来を知れるそうでな、元は特定排斥種が崇めてた存在だったんだ」

「ふーん。で、今日がその呪術被害者を追悼する日なんすね~」

「ああそうだ、俺達が護衛を任されたのも、一応の警備のためだろう。しかしここ200年の間、特定排斥種の奴らを見た者はいない」

「うん、見たことありません。本当にいるんすか? そいつらって。王家の作り話じゃないんですか?」

「さあ、俺も見たことはないからな。ただ……俺はいると信じている」

「珍しいですね。こういう怪しい話しは、いつも大体、ビヨルンさんは笑って馬鹿にするのに」

「……お前は知らねえだろうが王家もとい十三神使族には怪しい裏の顔があった。噂によると“異世界を作り出した者達の意思を継ぐ”裏機関が存在したという……巫女もそいつらのうちの一人さ」

「プッ……」


 思わず吹き出すビヨルン。


「すみません、王家に裏機関なんて(笑)。そんなんあったとしたら神種が黙ってないでしょうに」

「ああ馬鹿げた噂に過ぎん。ただ…………1年半前のジギタリス家当主との不可侵領域戦闘が終わった今、神種は壊滅している。もし裏機関が存在したとしたら……それを抑える勢力は存在しない。ただでさえ統治者がおらず世界樹が焼かれ、混沌している今、巨大な勢力が表れたとしたら……? そいつらが一瞬で異世界の次期覇権を奪っていくだろう、それを止める術は存在しない」

「あるにはあるっすよ。ほら、俺達にはあの『龍殺し』がいるじゃないですか!」

「…………ああ」


 龍殺し、というワードを聞いた瞬間、ビヨルンの顔が少し曇る。


「たとえどんな奴らが出てきようとも『龍殺し』さえいれば、異世界が悪者の手に堕ちることはないっすよ」

「…………ミミズク、奴はあまり信頼するな」

「……何でっすか?」

「…………いや、特に理由はない、ただ……シグムンド、あいつの入れ込み具合は常軌を逸している。あいつとは腐れ縁だからな……」

「シグムンドさんですか? ……『龍殺し』の育ての親でしょう? 入れ込んで当然じゃないっすか、超期待特大の居合流の後継者なんすから」

「ああ……それもそうだな、俺の……ただの悪い勘ぐりだ、アイツからは獣の匂いがした……それだけの話だ」

「???」


 ミミズクが、ビヨルンの言葉の意味を聞きただそうとしたその瞬間、王都の灯台に取り付けられている警報用の鐘が鳴り出す。

 ゴーン、という鉄の反響音が街中を包み込む。


「どうやら、お喋りの暇は無いみてえだな」


 ビヨルンは面倒くさそうに立ち上がり、敵の視線をいち早く感じ取り、鞘に手を伸ばした。

 ビヨルンとミミズクを建物の上から見下しているのは、衣裳に身を包んだ一人の少年と、その傍らには「ᛃ」の文字が刻まれた白い面を被っている呪縛種シンドが一人。


「わっしは何をしたらいい」

「奴ラヲ、聖霊堂へ向カワセルナ」

「つまり、あやつらの駆除か? ククク……一緒に踊り明かそうぞ、異国の武士達よ」

「今ャ異世界最強ノ種族ト成ッタ、人間種ヒューマニティヲ倒ス事ガ我ラノ目的ナリ。ソシテ、ソレヲ達成スルニㇵ……」

「『龍殺し』と、『ど・の~とるだむ』という娘子を殺害すること」

「アア、ソシテアヤツラㇵ、ソノドチラデモナイ、タダノカスダ」


 正体不明の二人の話を聞き、ビヨルンはニヤリと笑うと鞘から剣を抜刀する。

 その剣は平らであり、明らかに研がれておらず、どちらかというと刃物というより、その役割は槌に近い。


「どいつもこいつも『龍殺し』ばっかり気にしやがって、俺をカス扱いだと? 随分と目が腐ってやがるな」


 そしてビヨルンは臨戦態勢を取り


〔介者流:稲城いなぎ


 今や3名のみしか持たない称号、剣士の最上位階級「熾」その剣術の本領を顕にする――。

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