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リンカーネーション  作者: 鹿十
最終章 帰還編
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熾の剣

呪縛種シンドの生み出した術式『呪術』には二つの特徴ある】


【まず一つに『呪い返し』。呪術は対象に対し難解な負荷を掛けることが一般的な運用法だが、その発動に失敗又は発動しただけでも『呪い返し』の効力が術者に降りかかるケースがある。つまり術者の発動した呪術がそっくりそのまま自分に返ってきてしまう危険性を孕む】


【強力な呪術ほど『呪い返し』が起きる確率が高く、かつ返ってくる呪いの威力も当然高い。シグルドと相対した呪縛種シンドは『契約儀式』を用い、この『呪い返し』をそっくりそのまま術者に返ってくるという対価を払い、シグルドにも呪術が効くように威力を大きく底上げした】


【呪術の特徴二つ目が、呪術の構成に用いる『ルーン文字』の特性。『ルーン文字』は“その使用者・伝聞者の数に比例して強力になる”という性質を持っている。そのため『ルーン文字』及び呪術の使用者が増えれば増えるほど呪術そのものの威力が飛躍的に向上していく】


【呪術に対する対立術が確立しておらず、かつ呪術が異世界で猛威を振るっていた2、3百年前は、今よりも十数倍、ルーン文字の使用者が多かったせいで、呪術の脅威度も今とは比べ物にならないほど大きいものだった】


【そのため呪縛種シンドを除く8種族は現在、『ルーン文字』の使用及び伝聞を禁止している】



 グリムヒルトにより抜刀された魔の剣「グラム」。

 その術式効果は斬撃範囲の拡張。

 斬撃の届く範囲を、使用者の眼に映る視覚範囲まで拡張することで斬撃を銃弾のように「飛ばす」ことができる術が宿っている。


〔『式』系統は闘素。器は『剣』――神楽流:旻天〕


 グリムヒルトは魔剣グラムを器にして神楽流の術を発動。

 振るわれた魔剣から斬撃が分離、歪曲した斬撃が暗闇の中を走る。

 その一発だけでなく、グリムヒルトは舞いを踊るようにして斬撃を次々に暗闇の中に手当たり次第放っていく。


 そして十数秒後、ザシュッという何かが切られる音が鳴ると、グリムヒルトはここで攻撃を止め、音の反響してきた方角めがけて走り出した。


(斬撃の反響音が聞こえた!! 結界に斬撃が当たり弾けた音だ、つまりこの暗闇の空間内には端がある!! どこまでも永遠に続く無限空間ではない!! 通常の結界術式とは異なり、この『この世ならざる力』で構築された空間には結界の大元が存在しないだろう!! ならばこの空間から抜け出す方法は、結界の端にたどり着き、内側から破壊することのみ!!)


「うッ……」


 全速力で駆けているうちに、グリムヒルトの体調が加速して悪化していく。

 暗闇の空間内に呪術の作用が満ちており、この空間に長居すればするほど呪いを受け弱体化、最悪の場合死ぬこともある。

 グリムヒルトは一刻も早く空間から逃れなくてはならない。


(クソ……先程よりも呪術の濃度が上がっている。我に掛けられた呪術の数が増えているのか?! まずいな、呪術の進行速度が我の予想を遥かに上回る!! このまま結界の端に辿り着いて、結界を破壊するまで持ちこたえられるか!!??)


 めまい、吐き気に続き寒気がし、体の節々が痛み初め、ついには内蔵が焼かれるような痛みが襲った。

 暗闇で知覚できないが、グリムヒルトの体には呪術の刻印が何十にも重ねて走っている。

 この空間内にいる呪縛種の術者の数はおよそ10以上。

 その全員が「契約儀式」を結び、死を代償にすることで、本来大量の工程を経て発動される呪術をグリムヒルトに的中するよう超広範囲化&短縮化を実現させていた。


 勿論、一般的な妖術でも同じようなことは可能だろう。

 しかし単純な妖術によるデバフは、対立術などで簡単に解毒および無力化される可能性が高い。

 そのため、解呪が難しい呪術を選び、グリムヒルトに向け発動している。


「がっ……」


 結界内からグリムヒルトを逃さず確実に殺害するために、呪縛種の術者は急遽大量の呪術を編纂して放出。

 過剰な呪術を受け、グリムヒルトはついに耐えきれずその場に転がるようにしてこけた。

 四肢は震えていて、まともに剣すら持てない状態だ。


(クソ!! 結界の端にたどり着くのは無理か…………体がもう動かない……詰みか……)


 だがグリムヒルトは震える右手を震える左手でおさえ、なんとか立ち上がり魔剣を握り、上へと掲げるようにして構える。


(最後の一振りだ……あと術を編纂できるのは一回。これが失敗すれば、呪術に呪い殺され我は死ぬ……だが)


 死の間際で、グリムヒルトは全ての技量を剣のこの一振りに集中させる。


(今までの鍛錬を思い出せ、グリムヒルトよ)


 いつでも世間は「龍殺し」ばかり求めていた。

 「龍殺し」の存在が知られてから、自分の存在価値はほぼ無くなった。

 圧倒的な才覚を前にして、自分の努力など鼻息で吹いてどこかへ飛んでいってしまうほど、無力。


 だがそれでも。

 グリムヒルトは日々の鍛錬を忘れたことなど一度もなかった。

 彼が振るう剣は、シグルドのものとは違う。

 圧倒的な才能や、圧倒的な力は備わっていない、そこに絶対的な信頼感はない。


 ただ、シグルドに無くて、彼にはあるものがあった。

 それは、弛まぬ誠心。

 基礎をただ極め、強者との戦闘で経験を蓄積し、歴戦の風格が備わる一振り。


 ただの人間が、ただの剣士が極めれるだけ極め、辿り着いたその最果てには、「龍殺し」のような圧は無いが。

 そこには、ただ愚直な丁寧さがあった、彼の生きた証が確かに重みとして乗っかっていた。


〔『式』系統は闘素。器は『剣』――神楽流:月虹〕


 弧を描くようにして振るわれた剣の軌道上を沿うようにして、魔剣グラムの術式効果で拡張された斬撃が飛ぶ。

 そしてその弧の斬撃の先が、数キロ先に存在する「何か」に当たった音が響く。


「ブシュッ」


 それは何か生物が潰れたような音だった。

 瞬間――展開された深淵の空間が崩壊し、空は青さを取り戻す。

 

 斬撃の先にいたのは――この暗黒の空間を作り出した主だった。

 「根源の異なる力」で発動された空間・領域を破壊する方法は――それを展開した者を殺害すること。

 

 なんと、グリムヒルトは全ての知覚情報がシャットアウトされた状態で、数キロ先にいた、空間の展開主を一撃で殺害してみせたのだ。

 

「……最初に放った『旻天』の斬撃の役割は2つあった。1つは空間の端を見つけ出すこと、そして2つに“『この世ならざる力』の使用者に斬撃を多少なりともぶつけることで、その者を我の樹素でマーキングすること” ……結果として放った斬撃に反応した人物は十数人はいたが、その中でも異質な反応を見せた者を狙い、『月虹』にて超遠距離での攻撃を狙った。結果として成功したわけだが…………まあ、特定さえできれば容易いものだ」


 グリムヒルトは得意顔で独り言を言い放ち、魔剣を鞘へしまう。

 グリムヒルトと敵の決着がついたのと同時に、遠距離間の通信を可能とする腕輪型の式具が反応した。

 通信相手はシグルドだった。


「『龍殺し』、貴様どこにいる」

「――僻地へ飛ばされ――た――おそらく冥界だ――帰るには時間がかかる――グリム――――ルトは――一刻も早く――王都へ向かってくれ――――我は大丈夫だ――遅れ――すぐ後を追いかける――」

「分かった……先に王都ギムレーへ戻ろう」


 通信状況が悪いのか、シグルドの声は途切れ途切れになって聞こえる。


「それと――気をつけ――――呪縛種から――聞き出し――情報によると――呪縛――の中に一人――『系譜』がいるらしい」

「『系譜』か……朗報だ、今我がその『系譜』とやらを倒してしまったぞ、貴様がのんびりしている間にな」

「違う」

「何が違う?」

「――グリムヒ――が戦ったのは――おそらく――系譜――ない――――系譜の力を――一時的――授かった――『眷属』――とやら――だ――真の――譜は――王都にいると――仲間が――情報――を――――吐いた」

「何?!」


 こうしてグリムヒルトはシグルドから「王都」へ先に行くよう言われ、急いでギムレーへと帰還する。

 王都にいるらしき本物の「系譜」が、何をしでかすか分からない、がグリムヒルトはシグルドと同様に、いやな胸騒ぎがしていた。

 呪縛種シンドシグルドと自身を僻地へ誘導したのも、王都でする「何か」を邪魔されたくなかったからだろう。

 一刻も早く戻らなくては、そう思い、グリムヒルトは呪術で弱った体で駆け出した。



 一方王都にて。

 一際高い展望台の頂上に座る男と、その傍らにはルーン文字の刻まれたお面を被っている男がいた。

 座る男は、赤っ面の化粧をしており、隈取にしてある。

 花魁のような派手な浴衣を着込み、大きな襷を背負うようにして着用しており、手には1枚の扇子を手にしていた。


「わっしの力を分け与えた者が死のうた。こりゃ宴になるぞ」

「オマエㇵ、計画通リ“聖霊堂”ヲ死守セヨ」

「あのそげん大きな建物のことだろう? 任せよ」

「今宵、『龍殺し』ノ因果ㇵ、我ラ『同胞』ガ取リ戻ス」


 ケタケタと笑う男、不気味に口角を上げる呪縛種シンド

 ラグナロクが確定し1年半が経過した今このときに、最後の脅威が動き出す――。


今回明かされた通り、ルーン文字を使う人が増えれば増えるほど呪術が強くなります。

零式がオーディンと戦っているときに、オーディンがこのことについては示唆していました(ep.115参照)

しかしフレンやフレンの母親が使用していた呪術はルーン文字を使用しておらず、定形式で発動しているため、これには含まれません。


定形式で呪術を発動できるのは七代目邪神の力を継いだフレンだけです、これは凄いことで、何故かというと呪術は発動には祭儀など大量の工程を踏む必要があり、どちらかというと性質的には「合奏術式」に近い類のものだからです。


あとルーン文字を生み出したのはオーディンです。

元々は定形式に頼らない形で術式が発動できたらな、という思いでオーディンが時間をかけて開発したものでしたが、使い勝手が悪く、普及には至りませんでした、その後呪縛種シンドに情報が漏れ、呪術に扱えるよう改変された感じです。

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