表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リンカーネーション  作者: 鹿十
最終章 帰還編
189/193

ラボ③

「その第三次世界大戦とやらは寄生樹のせいで勃発した戦争なんだよな?」


〈YES。21世紀中期頃に中東での武力衝突がきっかけに世界を巻き込んだ大戦へと発展しまシタ。戦略核と新兵器である「S解兵器」の使用により、世界の主要都市はほぼ壊滅。人口の三分の一が死亡。戦略核の集中利用による放射能汚染と「S解兵器」の重力力場変動により、多くの土地に人間が住めなくなりマシタ。この大戦は「アモル機構」による「異世界の設立」により樹素が使えなくなったことで終結。これは『無血調停』とも呼ばれている出来事デス〉


「アモル機構……って団体がその後、世界の実権を握ったと?」


〈三度の世界大戦を経て人間が出した結論は『行き過ぎた力や超技術を人間は完全に管理できない』というものでシタ。そのため『アモル機構』が「S解兵器」群の製造技術を独占、保管。『アモル機構』の元での監視社会体系が築かれマス。沿岸部の地域は重力変動により水位が高まり、都市として機能不全に。そのため少数の地域に残った人々が集まり「コロニー」と呼ばれる社会を形成し暮らすようになりマス〉


「……つまり僕の世界でこれから大きな戦争が起きるってわけだよな、転移して戻ったとしても……向こうは……いずれ火の海に……」


〈NO。その可能性は低いデス。ラグナロクが確定した後、双子魂とナリ安定したユミルの魂「座」が因果律操作による歴史の抹消を行った形跡アリ。おそらく寄生樹の存在、それに関わる事象すべてが消去された可能性大〉


「?! ……どういうことだ?」


〈つまリ、これから「ゲスト様」が戻る現実世界ではWWⅢは生じえません。以前の世界とは別の世界を歩むことになりマス〉


「因果律の操作って……もともとあった歴史や事実を抹消したり、そんな神様のような芸当ができるのか?」


〈「座」であるユミル・アウルゲルミルならば可能。因果律の『創造』と『抹消』は、彼のみに許された権限でアリ、通常は不可能〉


「で……でも、やばいんじゃないか?」


〈やばい、トハ〉


「あるべき過去をすべて抹消しちまったってことだろ? そしたら今までの道中がすべて無かったことになって……挙句の果てには異世界自体が消えちまうんじゃないか? せっかく確定したラグナロクが無意味だったことになったり……」


〈問題アリマセン。ラグナロクが確定――つまり因果の「結果」が確定したため、この確定した「結果」は、それに繋がる原因や道中が抹消されたとしても変わりマセン。親殺しのパラドックスという話しがアリマス。過去に遡り、自分の母親を殺したとしたら、自分が生まれなくなり、今の自分は消えてしまうのか? というテーマの学説デス。これに例えるとスレバ、先に「自分が生まれた」という結果を確定したタメ、過去に遡り親を殺したとしても、それが「結果」に干渉することは無いデス。因果律の抹消の権能を用いて、『ラグナロクが確定したという結果』そのものを排除しない限りは、ラグナロクが消え去ることはありえマセン〉


「つまり僕は……」


〈物質界も異界もどちらも救えたことになりマス。おそらくそれが「ゲスト様」の役割だったのでショウ〉



 自分が「ドローン」に「君は世界を救った」と言われてもいまいち実感が湧かなかった。

 だってそうだろ? 僕は巫女を緑を救うために眼の前の敵と戦っていただけで、それが巡り巡って両方の世界を救う結果になるだなんて、そんなこと思いもよらなかった。


 そして現実世界へ帰還する目的についてだが、準備はもうすでに揃っている。

 あとは約束の日を待つだけだ。

 彼岸花の方もわざわざ不可侵領域内部に取りに行く必要はない。

 何故なら――


 僕は袋から手のひらサイズの石碑を取り出す。

 それはリーヴ=ジギタリスが使用していた「レーク碑石」という式具。

 どうやらこの原材料に彼岸花が使われているらしい。

 つまりこの「レーク碑石」は彼岸花としての役割や機能も併せ持つはずだ。


 よって、これにて準備は整っており。

 あとは残された時間をどう使うか。

 ふとそう思った時、最初に浮かんできたのはナンナさんの顔だった。


 そうだ、しばらく城郭都市グラズヘイムに帰ってないな。

 今思えばあそこが僕の異世界生活の始まりだった。

 久しぶりに寄って、見に行こうか。


 やるべきことは沢山あった。

 伝えたいことも数え切れないほどある。

 それを丁寧に一つずつ消化して、そして――帰ろうか、現実世界に。


 別れが近いのに、気分は晴れやかな気持ちだった。

 忙しくて見る暇がなかったけど、異世界はやはり綺麗な場所だ。

 苦しいことも沢山あったけど、転移してきて良かったと思っている。

 その愛や感謝を伝えたら、戻ろう、元の世界へ――。

 そう胸に決心して、僕は「ドローンR」と共に馬車で揺られながらグラズヘイムへと向かった。




 ただ、この時の僕は気づいていなかった。

 このまま平穏に終わるとばかり思っていて。

 この後に「最悪な時間」が、訪れるなんて。



豆知識。

・不可侵領域内部にあった「コンコリ」とやらで出来た謎の古代都市の正体は東京の街です。

(コンコリとはコンクリのこと。コンクリが訛って伝わりコンコリと呼ばれるようになりました)

 アモル機関の日本支部でユミルの「根源の異なる力」が発動し、街の一部を削り取る形で異世界が構築されてしまったので、不可侵領域周辺(原初の時代の異世界の範囲)は古代都市(東京)の残骸が残っていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ