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リンカーネーション  作者: 鹿十
最終章 帰還編
187/193

ラボ①

今回登場した「ドローン」は無人航空機みたいなやつじゃありません。

イメージ的にはニーアオートマタの「ポッド054」みたいな感じです。

勝手に喋るし、色々なことを知っています。

あと「ポッド054」と同じようにビームも出せます。

 意識が未覚醒だ。

 海の波の上を漂うような感覚。

 ここはどこだ。

 

 おぼろげな視界が段々とはっきりとしてきて、鮮明になる。

 同時に耳から規則性のあるリズムが聞こえて、その音も段々と大きくなっていく。

 僕はこの場所を知っていた。

 懐かしい感覚、昔はよくここで遊んでいたんだっけ。


 デパートの3階、余った空間に無理やり作られたような薄暗いゲームセンターだ。

 電灯はチカチカと点滅しており、いまにも消えそうな感じ。

 100円でメダルを10枚貰えて、メダルゲームで30枚稼いだらお菓子と交換できてさ。

 小学生の頃は、お小遣いも少なかったからよくここに籠もって遊んでいた。

 小さくて簡素な割には最新のゲーム機器が揃っていて、結構人気だったんだ。

 

 いつから行かなくなったんだろうか。

 ゲームに飽きたからか、お金に余裕ができたからか。

 いつの間にか行く機会が少なくなっていって……高校にあがる際にはもうその存在すら忘れていた。

 いまもやってるのかな、あのゲームセンター。


 そんなノスタルジックな気分に浸っていると、奥のリズムゲームから「ブブー」というブザーの音が鳴り響いた。

 そちらの方角に目を向けると、そこにはサラリーマン姿の背の高く、目元が暗い男がいた。

 その男は、一人で洗濯機のような形のリズムゲームで遊びながら


「おっと、また間違ってしまった。なかなかに難しいな」


 と独り言を漏らしていたが、奥で除いていた僕の存在に気づくと


「リズムゲームはあまりやったことがなくてね。ほら、僕のような大人が一人でリズムゲームをやってると、少し恥ずかしい気分になるからね。何しろこういうゲームをやるのは中学生とかが多いからな。だが、ここは人が少なくて良い。周りを気にせずゲームに打ち込める」


 僕はこの男の存在も知っていた。

 だけどよく思い出せない。

 誰だっけ?

 でも気の良さそうな人だ、悪い人には見えない。

 疲れ切ったサラリーマンみたいだ、僕の父親に似ていて親近感が湧く。


「……それ、僕が一番やり込んだゲームだ」

「そうか、陽太くんはリズムゲームが好きなんだな」

「うん、かして」


 そう言って、僕は強引に男の前に割り込み、リズムゲームを始める。

 高難易度のステージを難なくクリアする僕を見て、彼は関心する目つきで


「なかなかの腕前だ。ゲーマーとして少し悔しいよ」

「おじさんが下手なんだよ」

「……リズムゲームは不慣れだが、テレビゲームなら負けないぞ……ん?」


 二人で話していると、突然天井に取り付けられたスピーカーから「蛍の光」のメロディが鳴る。


「おっと、今日はここで閉店みたいだ」


 そう言うと、会話を切り上げ男は階段を下がろうとする。

 途中で取り残された僕の方を見て


「またいつか、出会えると良いな。君の『虚数領域』もなかなか悪くない。僕はいつでもここにいるから。また遊ぼう、陽太くん」

「おじさんッ!」


 僕は大声で彼のことを呼ぶ。


「おじさんの名前は?!」

「……」


 男は数秒間沈黙した後


「須田正義だ。以前君とは会ったことがある……今の君にとっては『これから出会う』存在かな」


 そう不思議な言葉を残してどこかに消えていった。


 

 ラグナロクが確定してからの約1年半。

 僕の周りの仲間がそれぞれの目標に向かって前進している間に、僕はつかの間の休暇を楽しみつつ、現実世界へ帰還するための方法を探るために異世界を徘徊していた。

 思えば異世界に転移してからというものの、落ち着いて異世界を旅したことなどなく、改めて異世界の名所やらに訪れていたわけだ。

 

 資金なら沢山あった。

 何故なら、ジギタリス家が所有していた大量の樹石(樹素が結晶化した石)をリーヴ亡き後、ノストラードファミリーを通じて譲ってもらったからである。

 その大部分はアリストロメリア家が所有権を主張し買い取り、今やフレンのものとなっていた。

 粗悪な樹石を売って得た金を譲ってもらい、それを旅の資金として有効活用したわけだ。


 また、小人種のイーヴァルティから借りた式具も返品した。

 「打我の篭手」「礼装キャムスト」「勇者の鎧」は今や僕の手持ちにない。

 他にも、「魔剣グラム」は剣兵の元に返し、神器「ミョルニル」も「吟遊詩神」ブラキを通じて神の元へと返した。

 

 今や唯一僕の手元に残っている式具は、腰に携帯したこの薄汚れた皮袋「ヴィドフニルの袋」のみ。

 リーヴを倒した功績としてイーヴァルティがこの袋だけは僕に譲ってくれたわけである。

 代わりとして、ウプサラの祭儀で結んだ契約通りに、僕はイーヴァルティに血やら尿やら体液の一部を数ヶ月に一度送らなくてはならなくなった。

 時折、手紙と一緒に小さな瓶が僕の元に届いて、その中に採血よろしく体液を入れるわけである。

 まあ、おしっこを送るくらいでいいなら、いくらでも送ってやろう。


 そんな感じで、1年半の間はゆっくりと異世界を見て回って。

 フレンやらスノトラは各自目標に向かって忙しいから、遊んでくれないので一人行動をする時間が増えた。

 異世界を巡る旅も終わり、暇な時間を持て余していた時、ふと、とある発言を思い出し、今僕は王家の小さな中庭に建てられている「巫女の社」その眼の前にいる。


 とある発言とは――「ヴィーグリーズの決戦」前に「審判の回廊」にて大月に言われた一言のこと。


【「ああ、そうだ」】

【そして大月は何かを思い出したかのように指を鳴らして】

【「これを渡しておく」】

【首にかけていた紐を千切り、僕の手のひらに置いた。】

【紐には小さな鍵が取り付けられていた。】

【「なんだ? これは」】

【「巫女の社の地下に俺の研究室がある。リーヴを倒した後……そこに寄ってみろ。何かと便利なはずだ」】

【「分かった」】


 大月には悪いが、このやり取りを思い出したのはつい最近のことだった。

 リーヴを倒して気が抜けていたのか、僕は大月から渡されたこの鍵を、自室の戸棚の中にぶち込んだまま1年半放置していたのだ。

 つい最近、部屋を清掃しようとして戸棚を開けたら、この鍵が落っこちてきて、それでやっと、審判の回廊でのやり取りを思い出したわけである。

 ごめん大月。


 大月に関してはまだ謎が多い。

 巫女と密接に関わっていたからか、やたらと異世界や現実世界のことに詳しく、僕がどうしてよいかわからない時はいつもアイツに頼っていた。

 アイツは何でも知っていた、だがはぐらかすのが得意で、真実はついぞ教えてもらえなかった気がする。

 

 現実世界への帰還方法が分からない今、大月の研究所を覗けば、何か有益な情報が得られるかもと思い、こうして巫女の社に訪れた。

 ヴォルヴァさんや大月は当然のこと、どうやらアザミもいないようだ。

 1年半、誰も寄り付いていないのか、雑草が生い茂っており、ツタが絡まっている。

 

 なんとか絡まったツタを引きちぎり、内部へ侵入。

 社内部を探索すると、クローゼットの後ろに扉があるのを発見。

 どかして、鍵穴に鍵を差し込んでみると見事、回転。

 どうやらここが大月の「研究所」らしい。

 

 階段を下り、長い地下通路を歩いていく。

 すると真っ白に塗装された部屋に行き着いた。

 「研究所」の名のごとく、至る所にケーブルやら機械やら、異世界では見慣れない近未来的な装置が埃を被って放置されている。

 空気の排気口からはゴーゴーという音が鳴り、そこから冷たい地下の空気が入り込んできていた。


 大月は整理整頓が苦手なのか、コードは絡み合い、本棚からは数冊本が落ちていて、全体的に小汚い。

 古臭い理系大学の研究室って感じだ。

 物をどかしながら、強引に進んでいく、そしてめぼしい場所を漁ってみると、一冊大月の手記が見つかった。

 ノートをペラペラとめくり内容を読み込む。

 大月の汚い字がびっしり、読み気すら起きないがなんとか解読。

 その多くは因果律に関した研究内容だった。

 ほとんど理解できなかった。

 流し読みしながら見ていると、最後の方に書かれていた内容が僕の目に飛び込んできた。


【なんらかの事情で、俺にラボに行くよう頼まれた奴らはここを読め】


 強調されるように赤文字で書いてある。

 僕はその後の内容を丁寧に読み進めていく。


【因果律を操作し、俺は原生の時代からラグナロク確定の時まで生き延びたきたわけだが、そこで俺はめぼしい奴ら何十人かに声をかけていた。その中の一人がお前だ。正直、ウン万年もときを渡っていたせいで、これを読んでる奴がどこの誰なのか、俺でさえも分からん。だがこれを読めたということは、取り敢えず生き延びてここまでこれたってことだ。お疲れ、とねぎらいの言葉をかけてやる】


 どうやら大月にラボにいくよう指示されたのは僕だけではないようだ。


【ただ声をかけた奴らの中に一人・・だけ、この文書を読んでほしく無かった奴がいる。そいつがこの文書を読んでいるとしたら……俺はどんな顔をしていいか分からない。最悪な気分だ。だからこれを読んでるお前が、そいつではないことを俺は祈る。じゃあ何でそんな奴に研究所ここに行くよう声をかけたかというと……まあ複雑な話しになるからここでは割愛する】


 一人だけ読んで欲しくなかった者がいる? 一体誰のことだろうか。


【これを読んでる奴が誰だか知らないが、まあ大体、現実世界に転移する方法が知りたいんだろうなと予想はつく。だから今からその方法を具体的に記述する】


 ビンゴだ。さすが大月だ。僕のため? なのか異世界に帰る方法を記載してくれている。

 僕は食い入るようにページをめくった。


【現実世界に渡るにあたって、必要なものは3つある。この3つを揃えればお前は転移できるだろう。ページ数が足りないので簡潔に書く、①指向性ナノマシン ②彼岸花 ③自律制御型ドローンRL両方 このうち①と③はすでにこのラボ内にある。どっかしらに転がってると思うから、探してみてくれ。運が良けりゃ半日程度で見つかるだろ。 ②に関しては悪いが自力で集めてくれ。不可侵領域内部に咲いている可能性が高いので、その辺りを散策することをおすすめする】


 相変わらずテキトーな奴だ、と手記を見ながら大月のニヤケ面を思い浮かべた。


【まず①指向性ナノマシンは、拳銃型の注射器だ。先端に針がついていてこれを額にぶっ刺すことで、ナノマシンが注入される。これがないと因果律が操作できない。必須品だ。備蓄が残っているはずだから探してみてくれ。③は俺の愛用品だ。高性能AIが内蔵されてる、まあ可愛いロボットみたいなもんだ。だが主砲には触るな、荷電粒子砲が放たれて体が溶ける可能性があるからな。これもどっかに眠ってるから、探してくれ。起動時にのみバッテリーを消費するためコンセントに繋いで充電してから起動しろ。さて、これで全部言いたいことは伝えた。後は詳しいことはドローンに搭載されたAIの方に聞いてみてくれ、じゃあな、検討を祈る】


 テキトーな遺言を読み、「ドローン」とやらを探すこと20分程度。

 青いブルーシートに覆われた「ドローン」らしき機械を発見。

 ドローンといっても僕達が想像するような軽量の航空機型ではなく、どちらかというとロボットに近い見た目だった。

 ドラム型洗濯機のような長方形に、カメラのレンズのような目がついている。


 絡まった充電コードを指すと、額についているメーターが緑色に光る。

 待つこと数分、ピロリンという可愛らしい音と共にそれは起き上がり、僕の方をじっと見つめ


〈指紋認証または生体認証デ、コロニー番号を指定してクダサイ〉


 いかにもロボットらしい人口音声で呟いた。

 

 




1ヶ月ほど投稿をサボっていました。暇が出来たのでやっと投稿再開します。

最終章はそんなに長くなる予定はありません。

10月までになんとか完結まで持っていきたいですね!

前もこんなこと言ってた気がするけど…

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