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リンカーネーション  作者: 鹿十
最終章 帰還編
185/193

七つの魂

この最終章の主人公は二人。

表の主人公が陽太、裏の主人公がシグルド、みたいな感じで書いてます。


 ニーズヘッグ討伐後、不可侵領域へと派遣されたシグルド含む剣士隊は王都へと凱旋。

 目標討伐に多大なる貢献をしたシグルドは、十三神使族に呼ばれることになる。



「ご苦労、『龍殺し』よ」

「いえ」


 シグルドを中心にして13の議席が囲む。

 金銀財宝で装飾された議席に座るのは――十三神使族の当主たち。

 ジギタリス家やネリネ家、ゼフィランサス家など一部の神使族の当主は不在だったが、堂々たる面子が揃っている。

 その中の一人「家」の当主がシグルドに労いの言葉をかけた。

 その場は、シグルドの功績を褒め称える場であるはずなのに、まるで中央にいるシグルドを弾圧するような雰囲気があった。


「して、何の御用でしょうか」


 シグルドは畏まって聞く。


「……世界樹が燃やされ枯れ木となり、原初ユミル様が安定なさった今、今日まで結ばれてきた『契約儀式』は全て破棄されていることは知っているな?」

「はい」

「また『ヴィーグリーズの間』での戦いによる反乱者『リーヴ=ジギタリス』の死と、各種族の統治者が損傷を受け引退した今、異世界は混沌で満ちている。誰も統治者がおらず、各種族が混乱している。そんな中、我が十三神使族の栄光を一足早く世界中に示すために、ニーズヘッグ討伐を命じ、お前はその任務を達成してくれたわけだが……」

「……」


 十三神使族は言葉上ではシグルドを褒めているが、その内心では「怯え」や「恐れ」が垣間見えた。

 シグルドを、人ではない、「獣」のような存在として認識している目をしている。

 十三神使族の「家」当主は言葉を濁しつつも、はっきりと要求を突きつける。


「……『龍殺し』、お前の持つ神器『霊剣リジル』の共有化の法を成立する」

「!!」

「神種が消えると共に大部分の神器も消滅した今、唯一神器を持つ者がいれば、世界の調和を乱しかねない。この法は、我々十三神使族が提案したものであるが、他種族も『七帝協和』にてこの法に同意を示した。ニーズヘッグを討伐した今、早ければ明日からこの法が制定する予定だ」

「左様ですか」

「ああ、ニーズヘッグを討伐した英雄にこんな頼みをするのは悪いが、目をつぶってくれ」

「それが命令とあらば、我は従うまでです」

「そうか、話が分かる奴で良かった。では、法律に従い『霊剣リジル』の所有権・保有権はあくまで『十三神使族』が持つものとし、軍品のようにお前に貸し与える形式として扱う」


 そう言われると、シグルドは発言の意図を察し、腰に携帯していた霊剣リジルをベルトから外して差し出した後、その場を後にした。

 ギシリと門が閉まると、蝋燭で照らされた薄暗い廊下で、壁を背にして両腕を組み待っていたのは「熾」の剣士グリムヒルト。

 赤毛の単発が蝋燭の光で照らされ、炎のように輝いている。


「十三神使族め、またつまらん策略を……」


 不満を顕にするグリムヒルトを前にすると、シグルドの態度が僅かに緩み


「グリムヒルト、十三神使族の方々を侮辱するなよ」

 

 と笑って注意した。


「ふん」


 グリムヒルトは腕組を解いて、廊下の先を鉄の靴を鳴らしてカタカタと歩いていく。

 その後を小走りで追うシグルド。

 二人は横並びで歩きながら語り合う。


「どうせ貴様は十三神使族から霊剣を奪われたのであろう? あやつらめ……無理してニーズヘッグを討伐したにも関わらず、剣士に労いの言葉もなしか」

「ニーズヘッグは不可侵領域のみならず空想界にまで出て暴れていたため皆が困っていたから仕方ない。それに霊剣が共有化されるのは良いことじゃないか? あれだけの神器、我だけが独占していては勿体がない。皆が必要な時に使えるよう、権利を十三神使族に置くのは英断だ」

「霊剣など、貴様以外の者はまともに扱えん。あれは『龍殺し』、貴様から神器を奪うための口実だ」

「そうとは限らない」

「そうに決まっている。現に我は以前、貴様から霊剣アレを貸し与えられたが、剣を鞘から抜けすらしなかった。極めて身勝手で好き嫌いが激しい神器だ」

「それはグリムヒルト、貴様に適正が無かっただけだろう?」

「我で無理なら、我以外の剣士は全て不可能に決まっているのだ。何故なら我以外に貴様に並び立つような剣士はいないからな……見どころがあるのは貴様の師匠くらいだが……あの者は老いぼれておりやる気がない」

「我は師匠の悪口も許さんぞ」


 「ヴィーグリーズの決戦」から1年と半年。

 徐々に時間をかけ、グリムヒルトとシグルドは相棒とは言わずとも良き仕事仲間のような関係性になっていた。

 最初はどちらも目の敵にしていたが、剣士の減少により、任務が重なるにつれ徐々に意気投合。

 正反対のように見えた二人だが、どちらも剣士としての高いプライドと、プライドに見合う実力、そして鍛錬を重ね追求する向上心を持っており、実は根っこのところで似ていることに、二人は気づいていない。

 だが、こうして互いに本気で刃をぶつけた過去から一変し、現在では仕事の愚痴を言い合える程度の気心しれた関係となっている。

 

「それより、グリムヒルト、てっきりお前は十三神使族側の人間だと思っていたが……」

「ふん。我が命をかけると誓ったのはあくまで『ジギタリス家』だ。十三神使族が、ヴィーグリーズの一件以来、ジギタリス家を除名しようと圧力をかけている今、神使族の奴らも敵同然だ。それに『契約儀式』が全て破棄された今、『大樹の盟約』も既に枯れている。十三神使族あやつらも今や形だけの偽りの権力者よ、侮辱して何が悪いか」

「……それでも、我らは剣士だ。王家につかえているのだ……」


 少しだけ、シグルドがグリムヒルトを諌める言葉に自信が無かったのは、シグルドも同様に以前よりも神使族に対する忠誠心が薄れている故か――。

 使えるべき君主が君主足り得ぬ今、誰に忠誠を誓い、誰のために剣を振るうべきか。

 身に宿す強力すぎる力の発露を、どの方向に向けるべきか、悩み苦しんでいるがため。

 だが己の感情の機微に疎いシグルドは、自らの葛藤を理解出来ていなかった。


「それよりも――」


 そんな時に話題を変えたのがはグリムヒルト。

 今日の彼はよく喋る、それはシグルドを信頼しているからだろうか。


「目前の脅威は分かっているな?」

「ああ」


 シグルドの視線が凍てついていく。


「先代巫女ハーラル=ヒルデダントが残した最後の予言“13人の系譜の出現”……だが、文献をあさり返し歴史を振り返ってみても、最大で6名しか系譜の出現が確認されていない、つまりあと7人の系譜は『これからの未来』にこの異世界へと出現するということ」


 樹界大戦時、勇者ヘグニ=ウォードの仲間にいた「熊野和くまのニコ」。

 城郭都市グラズヘイムの大規模ダンジョンの主「須田正義」。

 幽霊都市ブレイザブリクでの事件に関わった「樂具同」と「零式」。

 そして巫女の護衛担当だった「大月桂樹」。

 ヴィーグリーズで戦った「リーヴ=ジギタリス」。


 これら全員で「6名」。

 まだ13人の半分も満たしていないという事実。


「ヴィーグリーズの一件で神も各種族の猛者も消えた今、系譜が現れては確定した異世界を再び荒らしかねん、もやは系譜とまともに戦えるのは『龍殺し』、貴様しかいないわけだ」

「ああ分かっている」

「それにも関わらず、神使族は貴様の力を恐れて霊剣を奪う始末。無能もここまで来ると道化だな。取り敢えず、いつ系譜の奴らが襲撃してくるかも分からん、いつでも動けるよう準備は怠るな」

「ああ」


 そう忠告してグリムヒルトはマントをたなびかせ、長く暗い廊下の先へと消えていった。

 一人取り残されたシグルドは己の大切な使命に向き合う。


「残り七人の系譜……か」


 シグルドは感じていた、仄かに確信していた。

 単なる「人」であるはずの自分がこれだけ身に余る力を宿している意味を。

 もしかすれば、自分はその七人の系譜を打ち払うべく生まれてきた存在であったのかもしれない、と。

 それは根拠なき妄想であったが、シグルドには確信めいた宿命であった。


 自身が所有している神器、霊剣に宿された7つの宝石、そして残り7人の系譜。

 その数が妙に一致しているのは、偶然とは思えなかったのだ。






 




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