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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
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ヴィーグリーズ最終決戦 決着

 リーヴは「ヴィーグリーズの間」を抜け更に降下、根が生い茂る空間を下り、ついに世界樹の最奥――座へと移動していた。

 傍らには横たわったまま空中を浮遊して、リーヴの傍から離れない、仮死状態の巫女ヴォルヴァがいる。


 新神の使命である「旧世代の神の駆逐」を終え、巫女ヴォルヴァの魂をも回収した今、リーヴの役割はその魂を座である原初ユミルに届けることしか残されていない。

 それが終われば――異世界が確定し、恒常的実在が許され、代わりに現実世界が滅びる。

 そうすれば――


(我の贖罪もこれで終わる)


 リーヴは過去の因縁を払拭したかのような清々しい面持ちだった。

 そのまま地面に着地し、生い茂った根の中で輝く巨大な光球――ユミルの魂へと近づいていく。

 すると――


「がッッ……」


 リーヴより僅か遅れて、遥か上空から誰かが落ちてきた。

 着地に失敗したのか砂埃をあげ、だらしない転び方をしている。

 その砂煙が晴れた先にいた人物を見て、リーヴの三白眼が驚きで大きく開いた。


「馬鹿な……」


 そこにいたのは、自分が自ら屠ったはずの「立花陽太」。

 陽太は砂埃を吸って咳をしながら、ボロボロの身体を震わせてなんとか起き上がる。


 陽太の存在がリーヴを確かに震わせた。

 リーヴは直ぐ様、たった先ほどの戦闘の顛末を思い出す。

 確かに術式で陽太を殺したはずだ。

 「ヴィーグリーズの間」での決戦は新神たるリーヴの勝利で終わったはず。

 なのに何故――この者は立ち上がって、今もリーヴの前にいるのか。


「地獄の底から蘇ってきたってやつさ」


 陽太は冗談交じりに言い放つ。

 リーヴは動揺しつつ、笑い


「おかしいな……我は確かに貴様にとどめを刺したはずだが」

「刺しどころが悪かったんじゃないのか?」

「……」


(それだけではない)


 リーヴは今の陽太を見つめた。

 死亡した以前と比べて明らかに変わっている点があった。

 それは陽太が纏う「正の因果」の量。

 先ほどよりも更に格段に、その量が大きくなっている。

 その収束量は――原初ユミルや巫女ヴォルヴァをも超える量。

 

 対して――。

 リーヴの纏う因果律は先程より低下していた。

 

 リーヴはましても「根源の異なる力」を展開し、陽太を再び殺害しにかかるが――


(!!!!)


 展開された自己世界領域は一定の範囲を超えると自壊していく。

 これでは「根源の異なる力」が使えない。

 

(我の「根源の異なる力」が使用不可にッ?! これが先程、立花陽太を仕留めきれなかった原因かッ?! しかし何故……まさか……)


 立花陽太の死後の「正の因果」の増加。

 立花陽太を殺害できなかった理由。

 そしてリーヴの「根源の異なる力」の自壊。


 リーヴは頭の中でとある仮説を立てる。

 過去に感じたことのある謎の違和感も、この仮説通りならば説明がつくからだ。

 この現象の原因は――


(我が取り込んでいた魂は、巫女のものではなく、立花陽太のものだったのかッ?!入れ替わっていた魂が先程の死をトリガーに、返還されたのだッ!! 理由はわからないが、巫女ヴォルヴァの身体に立花陽太の魂が、立花陽太の身体に巫女ヴォルヴァの魂が、交換されていたのだ。それを知らずして、我は巫女の魂と勘違いし、立花陽太の魂を取り込んでいたのか……いや、そんなことはもはや今更となっては、どうでもいい。それよりもあり得ないことは……)


 リーヴは戦慄し生唾を飲み込む。


(普通、魂が交換されていたとしても、巫女ヴォルヴァほどの魂と、立花陽太の魂を間違えるはずがない。実際、ウプサラの神殿で我が巫女の魂を取り込んだのは、その魂が座と成るに、十分すぎるほどの、正の因果を纏っていたからだ。つまり……)


「立花陽太、貴様の魂は既に『巫女』よりも因果律が高かったというのか?!」


(立花陽太の因果律は既に巫女を超えていた……そしてその魂が元の所有者に戻ったことで、彼奴は文字通り『正の因果の収束地点』と成ったわけか!! そして我が「根源の異なる力」は相方の魂が陽太のものから巫女のものへと交換されたことで、機能を停止してしまった……)


「だが、それでも!!」


 逆境に立たされる中、陽太とリーヴの最終戦闘が始まる。

 リーヴは「根源の異なる力」の使用も不可能になり、もはや武器はない状態。

 そのため、ボロボロの状態とはいえ陽太相手に肉弾戦で苦戦を強いられる。

 しかし――


(我にはレーク秘石により、巫女の輪廻術が掛かっている! 何度倒しても立ち上がる我を、貴様が仕留めきれると思うか!!)


 文字通り無限復活を果たすことができる今のリーヴ相手では――陽太に勝ち目がないことは変わらない。

 「至上」の神器ミョルニルを振り回し、リーヴに渾身の殴打を決めるも、直ぐ様リーヴは輪廻術により復活してしまう。

 リーヴも、僅かながらに残る神素を出来るだけ効率的に運用することで身体を強化。

 劣勢ではあるものの、陽太に着実なダメージを与えていく。


「無駄だッ! 醜い現実世界は消え失せッこの異世界こそが魂の器に足る唯一無二の世界へと定義されるのだッ!! 貴様がいくら粘ろうともッ、いくら藻掻こうともッ! 結果ラグナロクは変わらないッ! そして我の罪は……完全に払拭されるのだッ! 醜悪な物だけを押し付け、仮初の平和と理想を享受していた極悪非道の現実世界の人間は全員ッ! 今ここで潰えるのだッ!! ……?!」


 眼の前の陽太は、急に戦闘態勢を解き、腰に携帯していた「ヴィドフニルの袋」に手を突っ込む。

 すると、そこから取り出されてきたのは――式具でも武器でもなく――一人の少女。

 金髪に赤目、八重歯が特徴的な魔人。


(七代目邪神の娘ッ?!)


 急に取り出され、「ヴィーグリーズの間」へと袋を通じて転送されてきたフレン自身も困惑している。

 そしてフレンは現状を正確に理解するために、過去の記憶を掘り出す。

 それは、不可侵領域突入前のウプサラの神殿でのこと。



 小人種ドワーフのイーヴァルティから式具の説明を受け、陽太たちは小人種ドワーフから武装のために多くの式具を借り受けた。

 義手や礼装、鎧など多くの式具を譲り受けた陽太は、焦りながら質問した。


「沢山貸してもらえるのは嬉しいけど、これどこに収納すればいいんだ?」


 その質問を聞いたイーヴァルティは忘れていたものを思い出したかのような表情で


「おおそうだった。これを使え」


 自らが背負っていた大きなリュックの中から、汚い一袋を取り出して陽太に差し出す。


「これにしまえ」


 陽太は差し出された袋をとりあえず受け取る。

 何の変哲もない、使い込まれた革袋といった感じだ、サイズは小さく、小銭入れになら丁度良い。


「それは『ヴィドフニルの袋』といってな、12t以内なら何でも収納できる」

「すげえ、四次元ポケットみたいなもんだな?」


 陽太はウキウキでその袋を腰のベルトに装着すると、イーヴァルティが追加で注意事項を話す。


「正確にいえば、『ヴィドフニルの袋』は袋の中にモノを格納しているわけではない。原理的には袋の中に入れた物体を『登録』し、内部の転送ゲートを通じて、事前に『登録』した物体を必要な時に転送して袋から取り出しているのだ。だから『ヴィドフニルの袋』からモノを取り出すには、一度袋の中に詰め込まないといかん。袋自体は普通の革袋だからな、伸縮性があるからだいぶ大きなものも入るが……入れたものは『登録』されるだけで、『ヴィドフニルの袋』に収納されているわけじゃないからすぐ取り出すんだぞ」

「うーん、つまりこの袋は『四次元ポケット』じゃなくて正確には『取り寄せバック』ってことだな」

「……何を言ってるんだこの餓鬼は」


 イーヴァルティがフレンたちに視線を移すも


「たまにヨータは意味不明なことを言うの。気にしなくていいわ」


 とあしらわれる。

 そして陽太は渡された袋を、腰につけると、あることに気づいたような様子で


「これってさ、もしかして人も転送可能?」

「……その袋に入れられて『登録』できるのなら、可能だな。儂はやったこと無いから知らんが」


 イーヴァルティが返す。

 すると陽太はニヤリと笑いながらフレンに近づき


「ためしにフレン、この中に入ってみろよ」


 と冗談交じりで言う。


「なんでそんな汚い所に入らないといけないのよ!」


 当然フレンは否定する。


「だって転送できるんだろ? 便利じゃんか。不可侵領域内でフレンを呼びたい時があったら、この袋の中から取り出して呼べるじゃん」

「それアタシじゃなくても良いじゃない!」

「しょうがないだろ。アマルネやシグルドだと身体が大きすぎてそもそも収納できそうにないんだ、フレンがギリギリなんだよ」

「なら、スノトラはッ?!」

「私は閉所恐怖症だから無理なのよ」

「だってさ」


 こうして押されるがまま、渋々フレンは袋の中に入って「登録」された。

 その様子を遠巻きで、スノトラとアマルネが見つめている。

 アマルネはスノトラに聞いた。


「スノトラは閉所恐怖症だったのか」


 スノトラは少し笑ってみせると


「いいえ、全くそんなことないのよ」

「?? じゃあなんでそんな嘘をついた……」

「あの二人を見れば分かるでしょ」


 そう言われ、アマルネは陽太とフレンに視線を移す。

 そこには、嫌々言いながらも陽太の袋の中に無理やり入ろうとするフレンの姿があった。

 その表情はとても楽しそうだった。


「成る程……」


 アマルネもその光景を見て思わず笑みが漏れる。


「フレン先生の気持ちがわからないほど、私鈍感な女でもないのだわ。まあ肝心のフレン先生本人が、その気持ちに気づいてなさそうだけど」


 そう言ってスノトラは杖をコツコツ鳴らして、遠くへ歩いていく。



 袋の中から取り出され転送されたフレンは、リーヴ同様に状況を把握出来ていない。

 だが泥だらけ傷だらけで全力で戦う陽太の姿が横にあって、その眼の前には諸悪の根源であるリーヴ=ジギタリスの追い詰められた姿がある。

 その事実だけで、フレンは自分が呼び出された理由を瞬時に察すると――

 

 フレンは袋をこじ開け、足を地につけ、手の平をリーヴの身体に伸ばし――

 放つ、邪神から受け継いだ奥義。


神聖なる敬虔スプンタ・アールマティ!!〕


 瞬間。

 リーヴの体に身が裂けるほどの激痛が走る。


(これはッ!!!!!!! 術式の抹消と解除!! 対立術よりも遥かに精度が高いッ!! 何だこの術はッ!!)


 全ての情報が記録されているはずの「記録樹素レコード」の閲覧権を持つリーヴですらも事前に知り得なかった七代目邪神が作り出したアリストロメリア家秘伝の原形術式「神聖なる敬虔スプンタ・アールマティ」がリーヴを襲う。

 その抹消術は、絶対に解けぬはずの巫女の輪廻術「回旋曲リンカーネーション」すらも、一時的とはいえ完全に解除できるほどの威力。


 役割を終えたフレンは、再び袋の中に吸い込まれていき、世界樹の地表へと戻っていくが、その間に陽太の方を見て


「後は頼んだからね、ヨータ。やっちまいな!」


 とエールを送る。

 それを受けた陽太はニコリと笑い、拳に全身全霊の樹素と炎の術を乗せ――。

 一時的に輪廻術が解除されている間の、リーヴの腹にめがけ、ありったけの力で一撃を決める。


「がッ」


 途端に――ガラスの割れたような音が響き渡り、陽太の魂に干渉する術を込めたパンチを食らったことで、リーヴは倒れ、同時に口から巫女の魂を吐き出し、その命に幕を下ろした。


 これにて。

 長きに渡る「ヴィーグリーズの間」での最終決戦は終幕。

 最終的に戦いを制したのは、此岸からの「悪魔」であり、かつ「勇者」ヘグニ=ウォードの真作である「立花陽太」だった。

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