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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
168/193

ヴィーグリーズ最終決戦⑥

【系譜】


【魂を器である肉体に2つ以上重複して保有することで、生命維持に必要のない余剰の魂をエネルギーとして転用し、特殊な第三世界を展開する者であり、その能力は『根源の異なる力』と言われている】


【『吟遊詩神』ブラキの綴った旋律書によれば、異世界には計13人の『系譜』が異世界に転移してくることが予知されている】


【『系譜』が持つ2つの魂はそれぞれが極めて相性の良い『双子魂』の関係性にあり、境界門を通ることで彼岸から引き出され、付与される魂は自然と主の魂と『双子魂』であるものが選ばれる】


【現実世界(此岸)で『根源の異なる力』を発動するためには指向性ナノマシンが必須だが、異世界においてはその限りではない。異世界で展開された『根源の異なる力』は原初ユミル本人がその力の存在を認めているため、『世界からの修正力』は大きく働かず、限定された領域ならば第三世界を構築することが可能となっている】


【それは原初ユミルが『根源の異なる力』を持つ系譜の存在を認めていることの何よりの証拠である】


【では何故、旋律や樹素を乱し、この異世界の恒常的安定を崩す『悪魔』たる系譜を、原初ユミルは無意識下で承認しているのか――】


【それはユミルの本心が関わっているのではないか】


【もしかするとユミルは――異世界の安定を願う気持ちとは裏腹に、異世界の崩壊をも望んでいるのではなかろうか?】


【異世界の『安定』と『崩壊』相反する2つの感情の間際で葛藤をしているからなのではないか】


【とどのつまり、異世界に侵入し調和を乱す13人の系譜は――『悪魔』であると同時に『希望』なのである。ユミルの中で蠢く『異世界を壊したい』という欲求に連れられ、現れた刺客こそ、13人の系譜なのではなかろうか】


【つまりユミルは――――異世界の安定を望むと同時に】


【現実世界への愛情を捨てきれていないのだろう】



【5人目の系譜『リーヴ=ジギタリス』】


【彼は『豪都勇』と『巫女ヴォルヴァ』の両方の魂を保有することで『根源の異なる力』を手に入れた】


【その根源の異なる力 モデル:音楽】


【第三世界に顕現した鍵盤を弾くことで、あらゆる術式を再現・発動することができる能力】


【『合奏術式』や『原型術式』『原生術式』など、超高難易度の術も鍵盤で奏でた音を式として利用することで使用可能】


 シグルドは『根源の異なる力』を展開したリーヴ相手に思考と分析を続けた。


(奴の力は全術式を音に乗せて発動できるもの! いわば術式の集大成!! 展開された自己世界領域は半径およそ五十数m、ブレイザブリクでの老人はその領域をある程度自由自在に形を変えられたという……おそらくリーヴも同じことが出来ると考えていいだろう)


 発動された「根源の異なる力」に圧倒されその場に立ち尽くす陽太とシグルド。

 彼らに向け、タキシード姿のリーヴは悠々とした態度で語る。


「系譜……という存在がいる。此岸から訪れ魂を多数所有し『根源の異なる力』を使用する者たちだ……それが全13人、異世界へと渡ってくるらしい」


 下手に動けず、陽太とシグルドは話に聞き入る。


「彼らの魂は全て『原初ユミル』ひいては『巫女』の魂と『双子魂』の関係性にある。つまり系譜をこの異世界に呼び出しているのは他ならぬ異世界の神、原初ユミルなのだ。彼らは此岸の“抵抗力”そのものだ。異世界の恒常的存在確立を乱すために送られて来た者達。彼らが存在するだけで『吟遊詩神』の綴る旋律書から大きく外れ調和から遠ざかる……いわば旋律上の非協和音。我が演奏する優雅な音楽に邪魔なのだ、貴様たちのような存在は」


 リーヴはそう言い終わると鍵盤に手を添えた。

 その動作を見てシグルドは直ぐ様、根源の異なる力での攻撃を警戒。

 

〔碧〕


 霊剣リジルのを「未来印(スクルド)」の能力に切り替えて、リーヴの発動する術を未来予知しようとする、が。


「ッ!」


 視界に広がった情景に困惑するシグルド。

 未来予知発動時ならばリーヴのこの後の動きや発動した術が残像となって目に映るのだが。

 視界が僅かにボヤけるだけで、シグルドは未来の軌道を認識出来なかった。

 瞬間――


聖譚曲オラトリオ


 リーヴの展開領域で発動された合奏術式がシグルドと陽太を襲う。

 「聖譚曲オラトリオ」は浄化作用を持つ術の完成形であり森霊種エルフの作り出した合奏術式。

 その高濃度の浄化術を受け、陽太とシグルドの体は一瞬で焼け焦げる。


「がッ」


 シグルドは体表を焼かれる激痛を感じながら、とある答えに辿り着いた。


(『根源の異なる力』は『星回り』ノルンの神力であっても予知できないのかッ!?)


 「星回り」ノルンの神器「未来印スクルド」で予知出来る範囲は異世界の事象のみ。

 異世界から外れた「根源の異なる力」で生じた事象は予知不可能。

 その欠点にシグルドは推測の末気付く。


 次に動き出したのは陽太だった。

 もう一度、リーヴに「奔雷アルゲース」を浴びせ内部の魂を乱す。

 そのために距離を取って術式の編纂に努めるが。


(ッ……リーヴが『根源の異なる力』を展開したからか、外界樹素が言うことを聞かない!!)


 「根源の異なる力」を展開した者に周囲の外界樹素が集中してしまい、陽太の元に集まらない。

 この状況下では、「原型術式」などの高位の術を陽太は上手く編纂することが出来なかった。


〔『ウッド』〕


 陽太とシグルドが手間取っている間に。

 リーヴは属性を拡張させ生み出した木で攻撃を仕掛ける。

 第三領域内部から生えてきた無数の木、その先端が、シグルドと陽太の体を串刺しにしようと、蛇のように動き出す。


 シグルドは反射で避けたが、術の編纂に手間取る陽太は避けきれず右足を木の先端が貫いた。


「ッが」


(水と光と土、そして風の四種を複合して生み出した『木』属性での攻撃!! リーヴは属性の拡張をも自由自在に操れるのかッ)


 陽太が痛みを感じて動けない間、回避するために空に飛び上がったシグルドは。

 その一瞬の間で思考を整理する。


(『根源の異なる力』で発動された合奏術式により、先程までに与えていた全ての傷は治癒されてしまった!! だが、如何に合奏術式とはいえ、我が与えた『黒灰化』の術までは治癒できないだろうッ!)


 シグルドは現状を分析し終えると小さな声で。


オウ


 詠唱する。

 すると霊剣リジルに嵌め込まれた宝石が黄色に染まり。

 その状態でシグルドがリジルを振るうと、リジルの刀身から4つの玉のようなものが弾け、リーヴの周囲の地面に張り付いた。


 リーヴはリジルの効力よりも、自身に向かってくるシグルドの方を警戒していると。

 リジルから別れた4つの球体から、金色の4本の鎖が出現。

 中心にいるリーヴに瞬時に巻き付き、リーヴは拘束される。

 

(これは、獣人ガルム=ノストラードの……鉄鎖『グレイプニル』ッ?!)

 

 その正体にリーヴが感づいた時には既に遅く。

 リーヴの真横に迫っていたシグルドが霊剣リジルの刃先でリーヴの胸を刺し。


トウ


 霊剣リジルの術式効果を「レーギャルン」に変更。

 再び、二度目の「黒灰化現象」がリーヴの体内・四肢の末端にまで走る。


「ッ……」


 リーヴが領域内に入ったシグルドに対し術を発動し反撃しようとした時には。

 シグルドは回避に専念し、既に第三世界外部へと避難していた。

 

(先ほどと同じだ……黒灰化現象を我が体内に流れる樹素にぶち込んできたッ! 龍「殺し」のこの「レーギャルン」での攻撃を食らう度に、我の樹素操作が著しく乱れるッ! やはり「黒灰化」は合奏術式でも治癒できないか……それに加え我を拘束したこの鎖は『グレイプニル』だ。先程、獣人ガルム=ノストラードから吸収したものだろう。だが『グレイプニルオリジナル』のような強度は無い、ただの強固な鎖だ、簡単に引きちぎれる。絡め手以外の使用法で、それほど警戒する必要はあるまい)


 リーヴは自身を拘束している鎖を力で強引に引きちぎる。

 リーヴの神術で傀儡と化したガルムの血を霊剣が取り込むことで、ガルムを通じて式具「グレイプニル」の術式効果まで吸収されていた。


 攻撃をくらい、よろけるリーヴを観察しシグルドは確信を得る。


(思った通りだ。いくら合奏術式とはいえ、リーヴ=ジギタリスは『トウ』での『黒灰化』は阻止できないと見た。あと数回、『トウ』をリーヴの体内に浴びせられれば、我らが勝つ可能性はある)


 対してリーヴも今までの情報を頭の中で纏める。


(①未来予知 ②時間停止 ③遠隔斬撃 ④黒灰化の発生 ⑤鉄鎖での拘束……龍「殺し」の霊剣リジルが現在吸収している式具はざっとこんなもんだろう。④黒灰化の発生にだけ注意していれば良い、肉体的損傷はは合奏術式で完治できる今、霊剣リジルはそれほど脅威ではない。あとは立花陽太の『魂』属性の術だな……あれも合奏術では対処できんか、だが今『根源の異なる力』を展開した我に対し、立花陽太は近づけまい)


 シグルドと陽太の手札が全て開示され。

 リーヴは警戒心を緩める。

 二人の持つ手札、戦法はどれも全て「根源の異なる力」で対処できる。

 打ち消すことの出来ない霊剣リジルの「トウ」と陽太の「魂属性の術式」は。

 注意を割き、防御に徹している今、リーヴにはもう当たることは無い。


(このまま長期戦に持ち込めば、勝手に彼奴らは倒れていく……我の勝利は確定したようなものだ。なあ、ユミルよ)


 リーヴは不敵な笑みを浮かべながら思想にふけっている。

 そんな中、シグルドの頭の中には、とある言葉が復唱されていた。


【シグルド、あなたは、救えなかった命のことを考えたことはある?】

【シグルド、あなたは、救えなかった命のことを考えたことはある?】

【シグルド、あなたは、救えなかった命のことを考えたことはある?】

【シグルド、あなたは、救えなかった命のことを考えたことはある?】

【シグルド、あなたは、救えなかった命のことを考えたことはある?】


 かつてアザミから言われた言葉。

 シグルドの最も深く柔いところを抉り出すような無惨な真理。

 いつまで経っても、こびり付いて離れない。

 その残虐な言葉が、シグルドのより深く、抱えていた闇を引き出す――。


「……な」


 立ち上がったシグルドからは。

 黒く赤い稲妻のような光と。

 甲高い不協和音が鳴り響く。

 それは今まさに異世界の空を覆っている光景のように。


「モンガータ現象だと……」


 思わずリーヴが言葉を発する。

 シグルドの髪は逆立ち、目の光は赤色に変化し。

 黒板を引っかき回すような極めて不快な音が発されている。


 最終決戦の佳境にて。

 ついにシグルドこと龍「殺し」のボルテージが最高潮にまで上がり。

 その真の姿が顕になろうとしていた。

今回語られている通り、系譜である条件は

①魂を2つ以上所有していること(根源の異なる力を持つこと)

②ユミルの魂と双子魂であること

…でした。


ユミルの魂と巫女の魂は双子魂なので、魂の共鳴反応により、系譜の魂と巫女の魂も双子魂になってます。

あと系譜を異世界に転移させている大元も「ユミル」です。

ユミルは基本、異世界のあらゆる事象に干渉・支配できます。

そのためユミルが拒否すれば異世界転移者は転移が不可能になります。

ユミルは系譜を招かないという選択肢を持っているのに関わらず、系譜や陽太のような異世界転移者転生者の入門を許可しているんです。


系譜や異世界転移者・転生者は、異世界に「招かれた者」と「自分から入り込んだ者」「偶然転移してしまった者」の三種類います。


樂具同は「招かれた者」、自分から入り込んだ者は「須田正義」と「立花陽太」の二名のみ、そして偶然転移してしまった者は「熊野和」などです。


「熊野和」は一番最初の系譜です。彼女の遺体の一部は小人種の手に渡り「打我の篭手」などの特殊な式具が作られてしまいました。

約400年前に転移してきた子です。樹界大戦で死亡しています。

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