ヴィーグリーズ最終決戦④
(これはッ……神器「レーギャルン」の術式効果ッ!!!)
脇腹に刺さった霊剣の刀身を伝い。
吸収した神器「レーギャルン」の術がシグルドの体内に流し込まれた。
「うッ……がああああ」
そこでリーヴは完全に停止。
冷却されてしまったように動かない。
その不意をついて、リーヴは霊剣での打撃を3発リーヴの身体へぶつけ。
陽太も「打我の篭手」での打撃をリーヴの腹に叩き込んだ。
ここでようやくリーヴは肉体活動を取り戻し。
震えた身体で後退して一時的に距離を取る。
(今のは確かに「レーギャルン」の術ッ! それを我が体内にぶち込んできたかッ! いつだッ……一体いつ吸収条件を満たしたッ?!)
リーヴは余裕がなくなり、焦る。
【霊剣リジルの『可塑性』すなわち後天的な式具の模倣と吸収】
【その吸収条件は“式具所有者の血を霊剣リジルに吸わせること”】
【つまり霊剣リジルで式具の現在所有者、その肉体を刀身で切断することである】
【霊剣リジルは、過去樹界大戦時、『勇者』ヘグニ=ウォードの肉体を貫いたことで『魔剣グラム』を吸収。そして世界樹の根にてリーヴに倒された『星回り』の神ノルンの遺体から血を吸い取ったことで『未来印』と『現在印』。更にはウプサラの祭儀にて巨人フリングニルを傷つけたことで『レーギャルン』。
少なくとも、この4種の式具を吸収・貯蓄してある】
【吸収された時、その術の出力や性能は本家と比べて大きく落ちる】
【ただでさえ神器『レーヴァテイン』を9つに分割した『レーギャルン』その術を吸収したことで、霊剣リジルに宿る『黒灰化現象の誘発』は著しく鈍い性能にまで堕ちている】
【だが、シグルドは霊剣リジルを直接対象に刺し込む上で、体内に『黒灰化現象』を流し込む方法で、著しく低下した黒灰化現象の発生能力を補完】
【リーヴの身体に流し込まれた『黒灰化効果』は結果として――リーヴの内包樹素を著しく乱す効力に変化した】
「うッ……おええええ」
リーヴは思わず吐瀉物を吐き散らした。
四肢の末端が震え、動悸が収まらない。
(これは……我が体内の神素、及び血管中に流し込んだ神素自体が『黒灰化』しているッ!! クソッこれでは基礎的な身体強化術すらままならないッ!)
焦点が定まらず、ふらついた足取りで何とか体勢を保つリーヴ。
そこへ。
陽太の「打我の篭手」で射出した光術式のレーザーが着弾。
更には霊剣での攻撃が加わる。
(今だッ! 今しかないッ! リーヴが怯んだ今ッ!「根源の異なる力」を展開される前に、今ここで潰す!!)
「〔青:現在印〕」
シグルドは霊剣の術式効果を変更。
そして体勢を低くし、霊剣を鞘にしまいノルンの神器「現在印」の術を発動。
瞬間――シグルド以外の全世界の動きが1秒間だけ停止。
そのたった1秒の隙で
〔略式『神速』〕
剣術 居合流の奥義 『神速』を短文詠唱で発動。
シグルドの身体は超高速で動き。
時が再び動き始めた時には。
リーヴの胸元に一閃の深い切り傷が加わっていた。
「がッ」
(ッ……『あの領域』には至れなかったか……)
シグルドは反省した。
「因果を逸脱する一閃」のつもりで放った術はただの居合流の高速移動で終わった。
今回は虚数領域へ入り込むことが出来ず、「因果を逸脱した一閃」不発で終わったからだ。
(やはり何か発動条件があるのかッ?!)
リーヴは自分に問いかけるも、発動条件は推測できない。
そんな中、陽太は身を低くかがめた。
腰に装着した「袋」から、ロングコート型の式具「礼装」を取り出し。
それをリーヴ向かって投げると。
空中で「礼装」は意思を持つように動き、リーヴの元へ向かう。
そして陽太が両の手で縛るような動作をすると、その動作に呼応して「礼装が」リーヴの身体を包み縛り上げた。
陽太は拘束されたリーヴを見て、術の発動準備に移る。
何度も何十回も何百回も何千回も繰り返した挙動、行動を思い出す。
(フレンやナンナさんに……教えてもらったように……もっと優しく……樹素を変換し……もっと奏でるように……)
ウプサラの祭儀前の1ヶ月に渡る血の滲む努力を反芻して。
(今度こそッ!! 僕なら……僕なら出来るッ! 巫女を……緑を救うんだッ!)
そして大月との戦いを思い出し、決意を定め。
左手を前に差し出し、奏でる。
人間の学習領域を超えた「原型」の術――。
「〔『式』系統は魔素――――奔雷〕」
雷撃が発生。
空中を割いて走り、威力が分散することなく。
8m先のリーヴの肉体に浴びせられる電圧。
「ッがッ」
見事、陽太は「原型術式」の発動に成功した。
【『原型術式』の一つ。奔雷の特殊性は『電気への属性の拡張』にある】
【通常、火水土風の4属性以外は、術者に素質が無ければ使用不可能となる。本来、雷の属性は光から後天的に拡張されたものであるとされているが、奔雷は属性が拡張されていなくても、あらゆる術者が雷の術を使えるという利点があり、その特殊性故に人類が模倣できなかった『原型術式』としてカテゴライズされている】
【雷の属性を持つ術は高威力かつ高速度であり、その術を避けられる生命体は存在しない】
【陽太は1ヶ月の空白期間に研鑽を積み、数ある『原型術式』の中から習得する術を奔雷一本に絞って訓練。何故なら陽太の持つ『魂』属性の術はリーヴ=ジギタリスに対し的中するだけで十分な効果を持つからだ。そのため、数ある術の中でも、的中性能に優れる奔雷の習得を選択した】
魂の属性を持った奔雷の雷撃。
その雷撃が、礼装「キャムスト」を通して更に倍加する。
術の直撃を受けたリーヴは、内部の魂を大きく乱されたことで一時的に失神。
もはや戦闘は困難なほどの大ダメージを受けた。
「今だッ!!」
陽太はリーヴの元に駆け寄る。
あと一発。
あと一発何か攻撃を食らわせれば、リーヴを倒せる。
緑を、巫女を救える。
それほどまでにリーヴは追い詰められていたのだ。
シグルドも思いは同じだった。
陽太から一瞬遅れて、リーヴの元へ駆け寄り、霊剣での攻撃を加えようとした。
その瞬間。
「ガコン」
歯車が回るような巨大な音を発した後。
祭壇の上に捧げてあった仮死状態の巫女の身体。
その上に多数展開されていた術式の印が音を立てて回転する。
その音は――巫術の完成を意味する。
強制的な方法で巫女の潜在能力を開放させ、無理やり巫術を完成させたリーヴ。
その儀がついに完成してしまったのだ。
その音を聞いて意識を取り戻したリーヴはニヤリと不敵に笑う。
そして手で印を結ぶような動作をすると――奏でる「此岸への鎮魂歌」。
〔――隔離〕
外界樹素が運動を停止。
瞬間、リーヴを収束地点として引き寄せられていく。
何度も何度も経験した。
これは――「根源の異なる力」その疑義世界の展開予兆。
ついにリーヴはこの最終局面において。
「根源の異なる力」を開放した――。