審判の時間③
この作品も話数を踏む事に能力的なものが多くなってきたため、今回全部羅列しました。
作中で出てくる全能力は、この4つの中の何れかです。
また
異世界=異界=知の箱庭、現実世界=物質界=此岸、彼岸=霊界・魂界
…となっていて、言い方が違うだけで全部同じものを指します。
これら3つの世界が「境界門」という出入り口で繋がっていて。
どこにも属することのない真の虚無空間を「虚数領域」と呼びます
(詳しくはep55の挿絵をご覧ください)
【異世界で利用される力・技術は計4つ存在する】
【まず①術式。これは式という媒介を通すことで術という特異現象を発生させるもの。原則、系譜――すなわち魂を2つ以上保有する者は使用できない】
【次に②根源の異なる力。これは魂のエネルギーを利用し脳の波状に沿った個々個人の疑似世界を構築するもの。構築段階と構築維持に樹素を利用するが、元々のエネルギー源は魂であるため、系譜以外は使用不可】
【③契約儀式。魂を相手に『契約』を結ぶことで発生する『等価交換』が原則の儀式。術式とは異なり何かを対価にしなければ恩恵は得られない。元はと言えば①術式――も原初ユミルの魂と異世界の万物が『契約』を結び成立している儀式の対価に過ぎない】
【④因果律操作。魂の欠片である因果を操作することで使用できる技能。魂を持つ存在――現実世界の人間ならば使用が可能であるが、その操作を実現化するためにはナノデバイスと特殊な訓練が必須である】
*
(大月はおそらく②根源の異なる力 と ④因果律操作? を上手く併用することで戦闘をしている。あの木の柵での攻撃は②根源の異なる力、だろう。さっきの謎のワープ……大月が『cut』と言っていたあの能力は④因果律操作、だ)
陽太は大月の現状開示されている手札を頭の中で整理した。
(とにかく時間がない……今はただ責めるッ)
〔居合流〕
陽太は身体に流す闘術の量を一時的に倍増させ、身体速度を強化した上で動く。
殴りかかりに行くも……猛攻撃は全て見切られ、余裕で大月に回避された。
それで陽太は負けじと接近戦を挑んでいると。
グサリ、と。
肉の絶つ音がなった。
痛みを感じて左足を見ると、地面から一本の木の枝が生えており。
それが陽太の左足を貫通して動きを制限していた。
「ックソッ」
動けぬ間、隙を見て大月は陽太の右脇を蹴る。
ずきん、と骨が軽く砕ける音がなり、陽太は左側に吹っ飛んだ。
「……鈍いぜ」
大月は悠々自適と言う。
陽太は傷ついた左足を土で型取り、そこに治癒術式を流すことで傷を負った左足の部位を再生。
再び口元の血を拭い立ち上がる。
(接近戦では勝ち目がない……使うか……だが、隙がない……)
陽太は思考する。
どうやって目の前の、大月を倒せばよいか。
(……限界か? やはり立花陽太……お前さんは……器ではないのか)
大月は黙っている陽太を見て、失望を顕にした。
やはりこれでは到底、リーヴに勝てる未来が回目見えなかった。
そんな時
陽太が覚悟を決めたような顔つきをして
〔略式〕
短文詠唱をしながら床に手を置くと。
そこを起点に、床が土化、大月の足元は完全に流動体と化す。
大月は底なし沼となった床から抜けようとするが。
「ん……?」
大月は沼の中で身体を動かそうと藻掻くが。
段流動化した土が瞬時に固まっていき、大月の身体を拘束する。
〔『式』系統は魔素――
陽太はその隙を見逃さず詠唱を唱え始めた。
だが、沼で下半身が拘束されている大月とは、距離が10m離れている。
(この距離なら、『cut』で転移する必要もなく、立花陽太から発される術なら何でも避けられるだろう……)
そう判断して、緊張を緩めたその瞬間。
陽太から繰り出されるは。
(……思い出すんだ。フレンとの稽古を……僕ならば……出来るはずだッ!)
1ヶ月の準備期間を経て。
陽太が唯一、習得寸前にまで至った――「原型術式」。
――奔雷〕
一本の雷撃が、空間を伝い、陽太の左人差し指から放電される。
バリッという雷鳴の音が甲高く鳴り響き。
30万km/sもの速度を誇る放電は流石の大月でも避けられはしなかった――が。
大気を割いて進んだ稲妻は、大月に届くまで距離5mほどの場所で威力が散り、弾ける。
(「原型術式」……発動は出来たものの……上手くコントロールは出来なかったか――)
大月ががっかりとした表情を浮かべる前に。
陽太はニヤリと笑う。
気づけば、眼の前には「陽太の左人差し指の爪」が大月の元まで移動されており。
その爪が
〔略式ッ!〕
陽太の後追い詠唱によって術の効果を発動。
爪が式の役割を担い――勢いよく爆発のように発火。
大月は先程の奔雷発動の失敗によって完全に油断しており。
不意を疲れた大月は、考える時間も与えられず、少々焦って、その爪を。
ポケットから左手を出してはらった。
はらわれた爪は床に落下し勢いよく発火。
瞬間的な威力に重点を置いたためか、一度発火したあとは直ぐ様鎮静し、黒く変色した爪だけが残された。
「……成る程、さっきの電撃術で……予め術を仕込んだ爪を運搬……そして後から術を発動させたのか…………」
大月はここで深い溜め息を吐いた後、いつものニヒルな表情に戻して。
両手を上げ、降参のポーズを取りながら
「クソ、一本取られたな。今、俺は約束を破って戦闘にうっかり『両手』を使っちまった。提示した条件を破っちまった、もしかして、元からこれがお前さんの狙いだったのか? ……俺の負けだな」
陽太は大月の敗北宣言を受け、ガッツポーズで答える。
こうして立花陽太は無事に――大月との審判を通過した。