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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
159/193

審判の時間②

大月は因果律を操作することができます。

因果を圧縮したりして空間転移したりできるってことです。

これは「術式」や「根源の異なる力」とは異なる技術で魂を持つ者なら理論上同じことが可能ですが、ナノマシンがないので陽太には無理です。


【大月桂樹の基本攻撃手段は二種類】


【相手と物理的接触を介して発動する『メス』】


【因果を辿ることで遠距離から発動可能な『鑷子ローレル』】


【前者は物理的接触点から『木の柵』が出現し対象を切断、後者は内部の細胞から『木の柵』が出現し、相手の体内を食い破る形で切り裂く】


【また因果操作を行うことで、時間軸を直線上に見立て、とある始点から終点までの因果律を圧縮することで、簡易的な空間転移も可能としており――】


【かつ、因果の軌跡を見ることで、数秒後の未来を予測することが可能】


【因果律については、長年の研究により、大月はあくまで因果を直線上に配置し『編集』することが可能になっただけであり、原初ユミルのように因果自体を抹消・創造する権能は持ち合わせていない】



「ルールは簡単だ。俺は文字通り『片手』しか用いず、使う力も制限を掛ける。大してお前さんは……何をやったっていい……お前さんは俺に『一撃』でも与えることが出来たら、お前さんの勝ちだ」


 大月は階段の上段から、下段にいる陽太に向かって話しかける。

 右手だけをポケットから出し、余裕そうな笑みを浮かべてクイッと挑発するポーズを取った。


 実力を認める――。

 陽太は大月の言葉を反芻して噛みしめる。

 系譜 「根源の異なる力」の持ち主であると思われる大月桂樹。

 彼の能力については既に陽太に割れている。

 木の柵および――それを利用した木製材質の物質の構築と出現。

 それが大月の能力だ。


 何度も稽古をつけてもらったから分かるが。

 大月の基礎体術は並外れている。

 陽太と同じ異世界転移者の一般人でありながら、「術式」も使わずして。

 陽太以上の体術を手にしている。

 体つきを見る感じ、何か特別な格闘技を習っていたような形跡はない。

 つまり、大月の体術には何かしらの種がある。


 兎にも角にも。

 今の陽太にとって、大月は超えるべき壁となっている。

 理由も真偽も定かではないが、これは「審判」。

 大月に一撃入れなければ、リーヴとは戦いも出来ない。


(冗談だろうか?)


 陽太はそう推察したが――その浅はかな思考を大月に読み取られ


「お、言っておくが。俺が言ったことは全部本気だからな? お前が俺に一撃を加えられずに敗北したら、文字通りお前さんをリーヴの元には行かせない、絶対に、だ」

「なんでだよ」

「言った所で無駄死にするだけだからだ」

「そしたら、今度はお前が戦えばいいだろ? 俺が戦って死ぬことに、何の不利益があるんだ?」

「前話さなかったか? 立花陽太、お前は『正の因果の集積地点』なんだ」


 陽太は巫女にも同じようなことを言われたのを思い出した。


「それは偶々、今の時間軸では『そう』なっているに過ぎない。一度、運命が違えれば――お前さんなど、そこらにいるモブと変わらない存在にまで堕ちる。そうなったら? ああ、少なくとも『巫女の予言』の記述からは外れることになるだろうな。はっきり言って、今、この状態は『巫女の予言』にとって都合の良い状況なんだ」

「どういうことだよ」

「……あー……そうだな、言ってしまえばお前さんがこの後リーヴに敗北すれば俺達サイドに勝ち目は無くなる。敗北した時点で『正の因果集積点』はお前ではなくなり、リーヴ=ジギタリスの野郎が、次の集積地点へと昇格される。そうなっちまえばもう、俺達の勝ち目はない」

「そんなこと、やってみなきゃ分からないじゃないかッ!」

「やってみて、敗北したら終わりなんだから。やらなきゃいいんだ」

「は……?」

「つまり、今ならやり直しが効く。お前さんが片手間の俺に勝てなかった時点で、お前は見込んだ器ではなかったということ、俺は因果律に干渉して時間を400年前の樹界大戦地点まで戻し、今現在のラグナロクの結果を変化させる。リーヴにその主導権を奪われる前に、な」


 因果による時間軸の操作。

 因果律に干渉すればそんな荒業すらも可能なのか?

 ハッタリを張っているだけじゃないのか?

 …と陽太は大月を訝しむ。


「簡単な話だ。ちょいと因果を操作して過去に戻り、勇者御一行を俺が抹殺すればいい。そうすれば樹界大戦では秩序派が勝利するだろう。そうなれば、神種が神力を失うこともなくなり、結果として世界樹とユミルは新神たるリーヴを作り出す必要がなくなる」

「そんなことをしても、世界樹……いや寄生樹の思惑通りになるだけだッ!」

「どうかな? 今、リーヴ=ジギタリスに全てを持っていかれるよか、旋律書に従って異世界が運行されていたほうがまだこちらとしても都合が良い。まあ、何にせよ、今はお前が『審判』されているんだ。文字通り、お前に、この後の世界を託して良いか否か、その器を問われているのは他ならぬ、立花陽太、お前だ。いいのか? くっちゃべって立ち止まっているだけで。時間を無駄にするほど、お前さんの敗北の可能性は色濃くなっていくぞ?」


 陽太は決心する。

 理由がどうであろうと、眼の前に立ち塞がる障壁は全て取っ払っていけばいいだけの話だ。


〔『式』系統は魔素――ノーム・アニマート!!〕


 陽太が詠唱をした後、左手の平を床につけると。

 ボコッと階段が土状になり、亀裂が走る。

 

「お?」


 大月の体勢が乱れた瞬間、陽太はすかさず。

 左手をピストル状にして、指先を大月に向け


〔略式〕


 短文詠唱を行うと。

 水の指向砲が大月に直撃する――かと思いきや。

 大月はその攻撃を瞬時に見切り、避ける。

 そして落下したまま陽太に近づき、無防備な頭に向かって蹴りを入れた。


「ッ……」


 陽太も負けじと近づいてきた大月に向かって左手で殴りかかるが。

 その攻撃をも楽々と避け、陽太の背中側に周り。

 大月は陽太の背中に手のひらを押し付け


メス


 瞬間。

 ドスっと、大月の手の平から木の枝が出現。

 背中側から陽太の右腹に向けて、木の枝は貫通し、思わず陽太は血を吹き出した。

 それでも負けじと、陽太は口から血を吐きながら左手を後ろ側にふるう。

 が、それも当たらず回避される。

 

「がッ……くそッ」


 陽太は口から血を垂らしながら、自分の右腹を抑え


〔『式』系統は――幻素。ノーム・スピリトーゾ〕


 その途端。

 陽太の右腹に空いた傷口にドロが発生。

 その泥は陽太の傷口を塞いだ後、その泥を伝って陽太の身体を治癒し始めた。

 陽太はなんとか立ち上がれるまでに回復し、戦闘態勢を取る。


 その一連の様子を見て、大月は思わず感心し


「ほう……」


 と小さく呟いて


(先ほどの水の高圧噴射……あれは最強化符号フォルテシモ高速記号アレグレットが付与された魔術での水属性攻撃だった……それを省略形の詠唱で発動してきたか…………それに俺の「メス」に耐えきるほどの保護術式を常に纏っていて…………極めつけには、幻術と土術式を合わせた形で独自の治癒方法をも確立してきたか……通常、幻術で治癒する際は肉体ごとそのまま復元するが……土術式を通すことで治癒難易度を下げ、樹素の消費量も抑えてきた……なかなか考えたな?)


 大月が思考している間。

 陽太は間髪入れずに。


〔略式。アニマート〕


「むっ」


 短文詠唱を唱えた瞬間、大月の視界が光に包まれる。


(――閃光弾か)


 気づいた時には既に陽太は大月の死角に回っており。

 左腕をふるって、攻撃しようとするも。

 寸前で回避――。


(何だ?)


 だが、今までの単純な回避とは異なり。

 大月の姿形がグニャリと歪曲した後。

 気づけば、大月が陽太から数メートル離れた位置に転移しており。

 審判の回廊の隅に立っている柱の上へと移動していた。


「今のは……空間転移?」


 陽太はひとり呟く。

 対して大月は


「ふう、思ってたよりやるな。思わず使っちまったな、『cut』」

「大月、お前、術式が使えるのか?」

「ん、いいや今のは術式じゃない」

「なんだよ」

「教えてもやらない」


 陽太は「そう言うと思ったよ」という苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


(基本四属性だけではなく、光術式まで使えるのか? しかも光術式の三発連続発動、それも全て閃光弾として用いるために瞬間的に火力を増強させる付与記号まで付けて、短文詠唱で――だ。はは……思った以上だな。幽霊都市での紛争以前、手合わせをしていた時の立花陽太の魔術師としての腕前はよくてギルド隊員の中級上位レベルだった。しかし今現在の腕前は――少なくとも王家軍隊の中級術師クラスにまで飛躍的に向上している。単純な術式練度だけではない……常に保護術式を多数展開している所から……外界樹素を取り込む技術も……それに、剣術の基礎分野を利用した身体強化術も、著しい向上を見せているな)


「幽霊都市での戦闘に、ウプサラの祭儀前の準備期間……その様子を見るに、遊んで過ごしていたわけじゃないみたいだ」

「当たり前だろうが」

「少なくとも、リーヴとやり合っても即死……は無いな」


(それに加え、まだ使用していない正体不明の式具を……目視可能な限りでも3つ……これらを立花陽太が的確に扱えるとしたら……?)


 大月は陽太が右手に装着している「義手」。「礼装」「袋」の3つの式具をじっと観察する。

 どれもこれも、不可侵領域突入以前に、小人種ドワーフから借りたものだった。


(これに龍「殺し」もいるならば……リーヴ打倒は不可能ではない……か)


 あくまで分析した上導き出された理論値に過ぎない。

 だが、大月は今現在の成長した陽太から、勝利の可能性を確かに感じ取った。


「はは……まあ、それくらいは成長しててもらはないとな。式具は使わないのか?」

「お前も、『根源の異なる力』を制限してるんだろ? じゃあ僕も本気は出さない」

「ん……?」

「術式だけで、大月、お前の提示した勝利条件を満たしてやる」


 大月は陽太の強気な発言を聞いて、ニヤリと笑い


「そうか、舐められたもんだな。じゃあ25%くらいの力は引き出してやるか」


 大月は柱の上から飛び降りてそう言うと。

 らしくなく、本気で立花陽太という人間自身に、向き合おうと決意を定めた。

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