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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
152/193

不可侵領域総力戦⑬

―ラグナロク確定の時まで残り01:44―


 グリムヒルトを倒したシグルドは、合流したスノトラと共に階段を駆け上がり。

 ついには「ヴィーグリーズの間」に繋がる大扉に辿り着いた。


 巨大な大扉を押して開く時間も惜しかったのか。

 シグルドは体当たりで扉ごと突き飛ばした。

 その向こう側には、世界樹の根が当たり一面に絡みつき生い茂る、薄暗い通路が続いていた。

 明らかに豊満な外界樹素で満たされている。

 

 シグルドはちらりとスノトラと目を合わせ。

 その後、ふたりとも何も言わずして通路の先へと駆け出した。

 シグルドがやや先に、その後にスノトラが続く形で。


 しかし。

 あと少しでリーヴのいる「ヴィーグリーズの間」に到着する手前で。

 床の一部がパネル式になっている箇所をシグルドは踏んでしまった。


 その瞬間。

 シグルドの真下に巨大な暗黒の空間が開き。

 シグルドはその暗闇の中に落ちていく。


(しまったッ! これはトラップかッ?!)


 シグルドは落下中、必死に足場を探し上へと飛躍して戻ろうとするが。

 生成されたトラップの中だと上手く身体が動かせず。

 そのまま無抵抗で闇の底へと落ちていく。


「シグルドッ!!」


 スノトラは振り返って、シグルドを助けようと踵を返すも。

 落下中のシグルドが穴の底から声を荒げ


「我に構うなッ! こちらは大丈夫だッ! トラップから抜け出し、すぐに後を追う! スノトラ、お前は早くガルムの元へッ!」


 その言葉を聞いたスノトラははっと我に返り。

 落ちていくシグルドを無視して一人、ガルムの元へと向かっていく。


 シグルドはそのまま数十メートル落とされた後。

 暗闇の穴の底へと到着し、地面に着地する。

 周囲を確認した所、穴の底はただの巨大な空間だった。

 だが、その空間内に2つ、異様な気配を感じ取った。


「チッ」


 そしてシグルドの前に姿を表したのは。

 かつて王都と幽霊都市で対面し、戦った「原生魔獣 アルガード」と「原生魔獣 ゴルゴン」そして「原生魔獣 ブードゥー」の三体。

 だが彼らに色は無く、形も粘土で作られたように異質だった。


(おそらく……何らかの術で原生魔獣のコピーを作り出したのだろうな。目的は我を足止めするためか)


〔神器抜刀〕


 シグルドは鞘から霊剣を抜き出し


「10分もかからずに、終わらせてやる」


 碧色の凍てつく瞳で敵を見据えた。



 シグルドとトラップで分断されたスノトラは。

 一人、ガルムの元ヘ向かい、ついに「ヴィーグリーズの間」へと辿り着く。

 その場を一言で表すのなら荘厳で巨大なオーケストラ会場のようなものだった。

 先に進むほどどんどんと下に下がっていき、中央の平野広場が一番面積が大きく、そこを超えると再び上へと上がっていく。


 その中央には、祭壇の上に巫女ヴォルヴァの遺体が横たわって寝かされてあった。

 ヴォルヴァの上には複数の魔法陣が重なって出現している。


 しかしスノトラの目を何よりも引いたのは。

 無数の光沢する槍を携え、戦うリーヴの姿。

 リーヴと対決している残像の影はあまりにも俊敏すぎてスノトラの動体視力では正確に捉えることが出来ず。

 数秒遅れて、その残像の正体が「狂暴乱状態で空間を駆け巡るガルムであることに気づく。


 3次元的な機動で空間を駆け巡っていたガルムは、限界が訪れたのか地面に落下。

 対して――リーヴの方はいくらガルムの攻撃を受けても瞬きをすれば一瞬の内で身体が再生していた。

 スノトラは、おそらく完遂の神器の効力だろうと見抜く。


 そして疲弊し身体の節々から血を流すガルムに対し。

 リーヴはゆっくりと近づき、顕現化された槍をふるった。

 その瞬間、スノトラはいても経ってもいられなくなり、走って近づき


〔『式』系統は重力子グラビトンーーエウロパ!!〕

 

  杖を振るい詠唱を行うと。

 視覚化された重力の力場が網目状になって出現。

 網目状の力場は中央部分がボコリと凹む。

 次の瞬間。

 その凹んだ箇所に、重力での圧力攻撃が加わった。


 ズンッと、リーヴの身体が地面ごと大きく上から圧力を受け。

 リーヴは身体を全く動かせなくなる。


 何がなんだか状況を把握していないリーヴに対し。

 スノトラは、その隙を見逃さず


〔『式』系統は重力子グラビトン――イオ〕


 引力の発生地点を数十メートル後方に出現させ。

 術の対象を「リーヴ=ジギタリス」にのみ限定し式を発動。

 結果として。

 リーヴの身体は、ぐおん、と後方へと無理やり引力で引っ張られていく。

 重力術式を利用した物体操作である。


 そしてスノトラは疲弊したガルムに近づき。


「ガルムッ!」

「テメエ……スノトラッ!! 生きてやがったかッ! 俺ァ信じてたぜッ」


 ガルムは酷く疲れ果てているものの、スノトラの無事を見て歓喜の表情を浮かべた。


「待ってて、今、治癒術式を編纂するから」


 そう言って、スノトラはガルムの背中に手を当てると。

 治癒の幻術を付与。

 ガルムの疲弊し傷ついた身体は緑色の幻想的な光に包まれ、みるみるうちに再生、修復されていく。

 ガルムは治療を終えると、立ち上がり、肩を回した。


「だいぶマシになった。サンキュ、感動の再開話はリーヴあいつを倒した後だ」

「私が、ガルムの動きを補佐する。重力術式は危険だけど、きっとガルムなら誤爆してしまっても耐えられるから、好きに動いて」

「……ははッ、いつもの戦闘方法だなア。覚えてるか? 俺らァ、ギルドのパーティになった時、いつも俺だけ先に突っ走って。スノトラが遅れてやってきて……俺の無茶苦茶な動きを補佐する……で、任務が終わった後にゃ、スノトラに怒られるってのが、通例だったよな」

「……覚えているけど、何で今になってその話を?」

「……わかんねェ……けど、なんとなく……話しておきゃなきゃならねェ、そんな気分になっただけだ、おら、リーヴの野郎が戦闘態勢に入った、話は後だ、俺の動きについてこい、スノトラ」

「うんッ」


 ガルムは再び四足歩行に戻り、狂凶暴虐アエーシュマの術を発動。

 スノトラも木の杖を両手で握りしめ、重力術式の編纂準備に入る。


 その様子をじっと観察し分析するリーヴ。


(侵入してきたのはド・ノートルダム家の子孫か。奴は幽霊都市で『架空の力場』を用いる術を習得したと聞く……今の引力がそれか……とてもではないが、あの術式を解明・再構築して『対立術』を編纂することは我の力量では不可能に近いな。だが、その術の複雑性ゆえに、使用には脳の回路を著しく損傷すると聞く……現にド・ノートルダムの子孫は、幽霊都市で新規の術式を長時間・最大出力で行使した反動で1ヶ月に渡り寝込んでいた……となると、ド・ノートルダムの子孫も、あの強力な力場術式をそう何度も扱えるわけではあるまい……)


 リーヴは思考を続けながら右手にグングニルの分割体を顕現させ構える。


(やはり危険なのはあの獣人!! だが、二人とも長時間での戦闘は不可能であろう?! ならば……我の勝機は……このままグング二ルの『完遂』の効力を己の身体の復元に費やし……傷を終えばその分、神力は失われていくが……そのデメリットを飲み込んで、長期戦に持ち込む事!! そこで獣人ガルムとド・ノートルダムが戦闘で疲弊した確実な隙を狙い、我が『完遂』の神器で命を射抜くのみ!! どちらにせよ、こちらが有利なことは変わらないッ!)


 思考を纏め、最適解を導くとほぼ同時に。

 ガルムが5度目の「狂凶暴虐アエーシュマ」での暴走状態に突入。

 猛攻撃がリーヴを襲った。

 

「ッ……」


 その猛攻撃をなんとか神器でいなすが。

 殆どが対応できず、足や頭部、脇腹などがガルムの爪で抉られていく。

 だが、抉られた瞬間、「身体の補完」の命令を受けた神器が。

 その意思を「完遂」すべくリーヴの身体を治癒、補完していった。


 リーヴは自分の喉元に右手をおいて、そこにだけは攻撃が向かわないよう最善の注意を払った上で、ガルムの猛攻撃にただ耐えていた。


(ッ……激しさが増しているッ! だが、先程の発動から読み取れた……獣人ガルムの術の発動時間はおよそ1分。1分経過すれば獣人ガルムは、一旦術を解き警戒する時間を稼がねばならないッ! そこへ神器を投擲するッ!)


 ただ耐えていれば、勝利できるはずだった。

 そのリーヴの見込みは間違っていない。

 だが、それは“今まで”の話。

 今現在は――稀代の天才「スノトラ」がそばにいる。


〔『式』系統は重力子グラビトン――イオ〕


「なッ」


 リーヴの身体が引力で空高く持ち上げられ、体勢を崩す。

 その隙に、ガルムは凄まじい速度で強襲した。


(クソッ、獣人ガルムの猛撃をド・ノートルダムの小娘が、引力での術を使用し補佐しているッ! これではッ!)


 見事に噛み合った連携。

 ガルムの驚異的な速度、機動力を損なわない形で。

 リーヴの隙を作るために見事なタイミングで重力術式でのサポートが入る。

 長年二人でコンビを組み戦ってきた経験が培うコンビネーションは圧巻であり。

 ガルムを常にサポートし続けたからこそ、ガルムの動きの癖を本能的に理解しているスノトラは。

 完璧なタイミングで重力による補佐を行うことが出来ていた。


(これではッ……まずいな……狂乱の術が終わるまであと21秒!! 耐えきれるかッ!)


 完遂の神器。

 主を補完するという命令を受けたグングニル。

 その圧倒的な再生能力をも。

 真正面から削り取られ。

 もしも、喉元に爪での攻撃が当たってしまったならば――。


 ガルムの宣言通り。

 「枢軸主」オーディンの喉元の古傷が。

 受肉体であるリーヴにも受け継がれているとしたら――。

 そこが弱点になっていることは間違いない。


(あと16秒ッ!! 大丈夫だ、耐えて見せるッ!)


 リーヴは必死の猛攻をいなしつつ。

 頭の中でガルムの術の効力時間が終わるまでの残り時間を数え続けた。

 これさえ耐えてしまえば――。

 少なくとも、ガルムには隙が生まれる。

 その隙にガルムを殺害し。

 そして一人になったスノトラを屠れば。

 リーヴの勝利だ。


(あと5……4……3……2……1……我の勝ちだッ!!)


 そう心の中で勝利を確信した時。

 ガルムの狂乱術が解ける一秒前。

 遠方から透き通った声の、スノトラの詠唱が響いた。


〔『式』系統は重力子グラビトン――ジュピター〕


 瞬間、リーヴを中心に。

 超高圧力が加わる。

 それは幽霊都市にて使用し、無限の再生能力を持つ原生魔獣ブードゥーすらも、真っ向から押し潰したほどの超加圧。

 リーヴの神器による修復で、流石にリーヴ自体を押し潰し殺すことは出来なかったが。

 その引力は、リーヴをその場に完全に拘束する程度の力はあった。


(なッ……力場術式によるッ最大出力攻撃!! だがそれに何の意味があるッ!! 我の近場にいる、獣人ガルムもその引力を受け、動きが完全に停止されてしまっているz……!!!! 馬鹿なッ!)


 眼の前のガルムは。

 「ジュピター」による最大出力の引力攻撃を受けても尚。

 圧倒的な怪力で、なんとか身体を動かしていた。

 

 ガルムは身体から血を吹き出しながら。

 一歩、一歩、ゆっくりと、超加圧を受けながらも、リーヴの元へ近づいていく。


(何故動けるッ?! 我と同じ、引力での攻撃を受けッ何故その肉体は動くッ!!)


「スッノ……トラッの野郎!! 俺を巻き込ンで術式を発動……させッ……やがってッ!! だがッ……これでやっと、オーディン……無防備な……テメエの元へ近づけるッ!!」


 進めた歩は、ついにリーヴの元へと辿り着く。

 そして重力術式を受けながらも、それでも放たれるは。

 かつて「神喰い」フェンリルが刻んだ。

 神殺しの一撃。


 喉元に狙いを定め。

 放つ。


鳥葬パールスィーッ!!〕


 ついに。ガルムの爪が。

 リーヴ=ジギタリス、神の喉元へと辿り着き、切り刻んだ。









 



 

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