龍「殺し」の罪
~剣術 神楽流の術まとめ~
・玉響→舞いながら、相手の攻撃、パワーを利用して反撃する術。
・花柳(幽霊都市で「智」剣士ヴァンランディが使ってたやつ)
→緩急を付けた動きで外界樹素を乱し、幻覚・錯覚を創る術
・旻天
→弧を描いたり、曲がりくねる独特の軌道の斬撃を広範囲に連続して浴びせる術
術の起動時間が長くなればなるほど威力・速度が上昇する防御技
・月虹→神楽流最速の刺突術、斬撃の軌道をある程度任意で変更可能。
めっちゃカーブする刺突技とか、予測できない動きで翻弄できる。
剣術の流派にはそれぞれ「家元」がいて、この「家元」は単純な強さだけでなく名家の血筋かどうかとか、流派に属する年季の長さとか、様々な理由で決定されます。
グリムヒルトは神楽流の現家元です。
居合流の現家元はシグムンドです。
ちなみに精鋭部隊「パトリアルフ」にはシグムンドは入隊していません。
入隊できる実力はありますが、彼には他に重大な「任務」があるため、免除されています。
シグルドは単純に階級が「座」なので入隊不可です。「パトリアルフ」に入隊できるのは「熾」階級の剣士み。
神楽流は強いっちゃ強いんですが、カウンター・防御型なので、基本接近&突撃の戦法で戦う剣士には人気がない流派なんですよね。
ちなみに一番人気な流派はダントツで介者流です。やっぱり男はパワーゴリ押しが好きなんですかね。
※あと、タイトル表記が「龍殺し」ではなく、龍「殺し」になっているのはミスではなく意図的なものです。
ちなみにep.23 のタイトル名も同じです。
【黄金龍ファフニール】
【龍、それは空想種に属し、四大精霊と並び、空想種の頂点に座する生物】
【一般的に異世界高度上空を浮遊する『飛竜』とは似て非なる生物である】
【龍族の中でも最大の部類に属する黄金龍ファフニールが触れた箇所は文字通り『黄金化』する】
【生成される物質は黄金だけでなく、他の貴重な鉱石や高濃度に凝縮された樹石なども含まれる】
【その錬金能力ゆえに、黄金龍ファフニールは、主に人類種と小人種などから多く命を狙われるようになった】
【しかし原生生物と同じように、神代時代から連綿と生き続ける黄金龍は、神種と遜色ないレベルに巨大な力を有しており、一般的な種族がその首を取ることは、何百年も掛けてもおよそ不可能であった】
【そんな中、現在から8年前に、十三神使族の『ジギタリス家』が中心となって8回目の『黄金竜討伐宣言』が出される】
【これを受け、小人種の一部は協力を受託。こうして異世界史上、8回目となる『黄金竜討伐』の作戦が、空想界で実行された】
【精鋭部隊『パトリアルフ』や大量の上級剣士・王宮魔術師が討伐作戦に投入。利害の一致した一部、小人種からの式具・技術提供、獣人族の参戦。更には空想種に属する『妖精』の支援を受け、作戦は好調に進み、ついに『黄金竜ファフニール』に大損傷を与えるまでに追い詰める】
【が…窮地に立たされたことにより本気を出した『黄金龍』に三種族共同軍隊は結果として敗北。この戦いにより78名の死者と322名の重症者が生じる】
【またもや『黄金龍』は討伐出来なかった――皆がそう落ち込み戦意を喪失していた時、当時10歳ほどの年齢だった銀髪蒼眼の少年が、鞘から剣を抜いた】
【彼による7連撃での居合流:神速ののち、『黄金龍』は弱点である逆鱗を刻まれ再起不能に】
【こうして、たった一人の少年が長きに渡る『龍』との因縁に決着をつけた】
【ただの剣士、それもまだ少年に過ぎぬ者が、『龍』を討伐したという知らせは瞬く間に異世界全土へと広まった】
【こうして彼はいつの日か『龍殺し』という異名でその存在を語り継がれるようになった】
【『黄金龍』を討伐した成果は、分配され、主に貴重な鉱石類は『小人種』に、その肉体や皮、骨は『獣人種』に、大量の樹石は『人類種』のジギタリス家の宝庫へと分配・保管されることとなった】
【『龍殺し』と呼ばれる少年は、その戦績を見込まれ、出生背景が謎に包まれている(名家の生まれではない)にも関わらず『座』の上位階級を授けられるに至り――】
【『ヘグニ=ウォード』の遺文通り、『黄金龍』を倒した『龍殺し』シグルドに、『魔剣グラム』の正式使用権利が託されることになった】
【だが、『魔剣グラム』の私有化については、『龍殺し』本人が断ったことで、その後も王家の武器庫へと保管されるままとなる】
*
全方位から遠隔斬撃が迫る中。
シグルドは回避に専念し、逃げ場を失い、今は地面を蹴って空中に漂う。
多数の斬撃がシグルドの体表を切り裂く中。
シグルドは巧みな身のこなしで怪我を最低限度に抑える。
だが、それでも限界が来た。
神楽流の剣術を上乗せした状態での遠隔斬撃の猛攻。
いかにシグルドといえど、回避不能。
あと1秒も満たない。
そんな残された限りない時間で。
シグルドは「霊剣」の使用を決意。
空中で回避行動を取りながら、右手を腰の鞘に向かわせ。
〔神器抜刀〕
詠唱をし、「霊剣」リジルを抜刀。
だがーー。
何を思ったのか、シグルドは「霊剣」を完全に抜刀せず。
鞘から少し抜いただけで抑える。
黒い刀身の一部のみが不気味に光輝く。
極めて一瞬のことだった。
だが、その機敏な判断が――勝利の天秤を、シグルドの方へと傾ける。
一部抜刀を行った瞬間。
シグルドの碧色の瞳に、不思議な紋章が浮かび上がり光り輝く。
そして。
瞳が光ったのもつかの間。
シグルドは全てを「悟った」ような呆然とした表情を浮かべ。
全方位から迫りくる斬撃を。
全て、避ける。
最小限の動作と、最低限の力で。
華麗に、とも形容することすら不適切だった。
その姿はまるで――。
(!! ……なんだ……と?! まるで……『予めどこに斬撃が来るのか』予知していかのような動きだッ!)
間髪入れず。
寸での所で全方位斬撃を避けきり、絶望的な状況を打破したシグルドは。
地に足を付けた瞬間、しゃがみ込み。
〔略式。神速〕
――。
動揺しているグリムヒルトに向かって居合の一閃を浴びせた。
グリムヒルトの胸に斜め横の切り傷が刻まれ。
血を吹き出し、ついに倒れる。
「ハア……ハアッ……ハア……」
シグルドは動機を乱しながら、グリムヒルトを倒したことを確認すると。
疲れからか、その場に座り込んだ。
丁度、シグルドとグリムヒルトの対決に決着がついた時。
「審判の回廊」の一本道、入口方面から、幼気な紫髪の少女が杖を持ってこちらに走ってきていた。
その姿を見て、シグルドは、思わず驚いて呟く。
「……お前は……スノトラッ?!」
「シグルド! 久しぶりね!」
「いつの間に、昏睡状態から復活していたのか?」
「うん、私の方は大丈夫。再開の喜びは後、まずは状況整理。この剣士が門番役をしていたのね」
スノトラは倒れるグリムヒルトに近寄りしゃがむ。
「大丈夫。重症だけど死んではいない。こんな重症なら暫く起き上がってもこれないのよ。門番役の剣士はこの赤毛の男一人かしら?」
「ああ、他の『パトリアルフ』は先に突入してきたガルムによって倒されている」
ガルムという名を聞いて、スノトラはハッとする。
「じゃあガルムはもう『ヴィーグリーズの間』に?!」
「ああ、我らも急いで向かい、リーヴとの戦いに加勢しよう」
そう言って、シグルドは疲弊した身体を無理やり叩き起こし。
スノトラを連れて、「ヴィーグリーズの間」へと繋がる空中階段を駆け上がっていった。
こうしてガルムから遅れて、シグルドとスノトラの二人が、最終目的地たる「ヴィーグリーズの間」へと辿り着いたのである。
*
「審判の回廊」最奥の階段前にて。
シグルドとの接戦に敗北し床に倒れているグリムヒルトは。
意識が途絶えゆく中、過去からとある記憶を掘り起こし、夢を見入る。
それは、「熾」剣士としての座についた頃の、数年前の記憶。
そこにはシグムンドに詰め寄るグリムヒルトの姿があった。
「シグムンドさん、約束通り、俺は『熾』の階級まで上り詰めた」
「ああ、よく頑張ったじゃねえか」
キセルでタバコを吹かしながら、シグムンドは反応する。
「だから俺を……グリムヒルトを、アンタの一番弟子にしてくれッ! 居合流の家元は俺が継ぐ!!」
「あー……そういう約束だったな、そういえば」
シグムンドはキセルをふかし終わると、そのままズボンのポケットに突っ込み、頭を掻きながら
「すまないな。その話は無しになった」
「え…」
グリムヒルトはシグムンドの言葉を聞いて絶句した。
「この間の黄金龍討伐任務で、龍を殺した銀髪の剣士がいただろ? 俺はアイツの面倒を見てやらないといけないんだ、十三神使族から直々に命令をもらっちまったからな」
「十三神使族からッ?! ……シグムンドさんほどの剣士を、『龍殺し』とはいえ……何故あんな少年の面倒見係に……」
「ああ、これは列記とした俺の『シゴト』だ。やらなきゃならねえ、俺が『龍殺し』の野郎をなんとか見てないといけねーんだ、色々こっちにも事情があってな」
「納得できない」
「納得しなくてもいい、だが現実は受容してくれや」
「約束が違うッ! 居合流を継ぐのはグリムヒルトだって……そう言ってくれたじゃないですかッ」
「約束なんざ、任務の前には無力なもんだ」
「……」
グリムヒルトは黙って拳を握りしめ、歯ぎしりをする。
そんな彼の肩にシグムンドはポスンと、手をおいて横を通りすぎ
「前から言っているが、お前にゃ神楽流が向いてる。かなりマイナーな流派だが、こと防御・対剣士戦においては無類の強さを誇る流派だ。お前は内包樹素を闘素に変換する速度が遅すぎる。こればっかりは体質の問題でな、技術や鍛錬で速度を向上させることは出来るが……限界がある。居合流はお前には向いていない。やりたいこと、理想よりも、自分が出来ることを選べ。道や経路は違えど、見据えている目的地が同じなら、きっといつか辿り着けるっつーもんだ」
そう告げて、シグムンドはグリムヒルトから離れていく。
一人残されたグリムヒルトは。
やるせない、煮えたぎる感情をただ押し殺すしかなかった。
4歳で剣を握り始めた時から、師匠として敬愛していたシグムンドが。
ここ数ヶ月で、突如として話題になったシグルドと呼ばれる存在に。
全て奪われてしまったような感覚。
長らく家族と過ごさず、生まれた瞬間から王家に仕える剣士として。
それだけを目的に剣を振るってきたグリムヒルトにとっては。
師匠であるシグムンドとは父親以上に絆の深く、尊敬できる人物だった。
いずれはシグムンドの居合流を継ぎ。
自分がシグムンドから教わったことを全て門下生に伝え。
シグムンドがかつて自分にそうしてくれたように。
厳しくも優しい鍛錬と、剣士としてのあるべき振る舞いを。
徹底的に後世に伝えようと心の底から思っていたのだ。
その夢は。
「龍殺し」によって全て壊された。
それからというものの。
長い鍛錬と決して楽ではない修行を積み。
ようやく「熾」剣士として花開いたグリムヒルトの輝かしい功績は。
全て「龍殺し」という圧倒的な才を有す少年に吸い取られ。
グリムヒルトはその後、低空飛行を続け。
神楽流を習得しきり、精鋭部隊「パトリアルフ」に入隊することになる。
そこで――彼は精鋭部隊「パトリアルフ」を通じ。
王家に伝わる、眉唾ものの陰謀論。
その情報を垣間見てしまったことで。
大きく、精神を歪ませてしまった。
その頃からか。
グリムヒルトのシグルドへの感情の矢先が。
単なる嫉妬や劣等感によるものだけではなくなったのは。
むしろ、グリムヒルトがシグルドへ向ける、その感情は。
“異質なもの”への嫌悪。
“自分とは異なる生物”の排除。
すなわち。
自分とは全く異質な生物群に縄張りを荒らされることによる本能的防衛反応――とでも言い表せるような。
排他的な感情に変わっていったのは。
王家の裏側に噂話として伝わる、その“悍ましい情報”と。
「龍殺し」との関係性は未だ不明ではあるが。
グリムヒルトの明らかに歪んだシグルドへの感情の唐突な変化を見ると。
どちらも、到底無関係にあるようには。
思えなかった。