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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
150/193

不可侵領域総力戦⑫

バーラやグリムヒルトは、文字通り人類の最高到達点レベルの剣士と魔術師です。

スノトラやシグルドのような「バグ」を除いて、人類が単純な技量と努力、才能で辿り着くことの出来るギリギリの領域。

単純な樹素量や火力、耐久力では原生魔獣や霜の巨人などの他種族の猛者に大きく劣りますが。

ちゃんと対策をしてフル装備で戦うことが出来れば、バーラならば原生魔獣一体程度、グリムヒルトならば霜の巨人族数体程度なら討伐することが出来ます。


【魔剣グラム】


【勇者『ヘグニ=ウォード』の遺した剣、現在は剣士が「熾」の階級に到達した際の授与式にて、儀式品として用いられている】


【緊急時に十三神使族が許可を出した時、「熾」剣士のみが実戦で使用することが許諾される】


【『魔術革命』に繋がる旅路にて、魔界での研磨と小人界での精錬、そして巨人界での『契の儀式』にて強化され誕生した式具である】


【形状は一般剣士に配給される剣と何ら変わらない】


【特筆すべきは魔剣グラムに宿る『術式効果』】


【その効力は『斬撃範囲の拡張』】


【斬撃が空間を伝播して拡散することでその攻撃範囲を瞬間的に拡張することが可能】


【この魔剣を携え、『ヘグニ=ウォード』は秩序アース派閥の神を討伐した】



―ラグナロク確定の時まで残り01:55―


 傷を負った腹部を左手で抑えながら、なんとか立ち上がるグリムヒルト。

 その右手には魔剣グラムが握られている。


(あの剣は……王家軍に代々伝わる……『魔剣』かッ?!)


 剣の正体に気付き、シグルドは本能的な危険を感じ取り一歩下がる。

 その判断が、功を奏した。


 シグルドが一歩下がった瞬間に。

 グリムヒルトは魔剣を振るう。

 と、同時に、斬撃が地面や天井を伝い、十数m離れたシグルドに向かい。

 彼の右頬に切り傷を刻み、血が溢れ出た。


「ッ……」


 後ろを振り向くと。

 シグルドの背面にある「ヴィーグリーズの間」へと繋がる階段に巨大な斬撃の跡が加わっていた。

 もしシグルドが危険を察知し一歩下がっていなければ。

 階段の代わりに切り刻まれていたのは彼の方だったかもしれない。


(まさか、今のは空間を伝う『遠隔斬撃』!!  リーチが長く初速が早いッ! その力は……我の『霊剣』と同じ……成る程、そういうことか)

 

 シグルドは『魔剣グラム』の術式効果を見て何かに気づき、納得したかのような表情をみせた。

 その一瞬の安堵と緊張の抜けた瞬間を見逃さず、グリムヒルトは二撃目の遠隔斬撃を放つ。


 地面を伝った亀裂は、シグルドの真下で斬撃と化し切り裂く。

 シグルドは一瞬対応が遅れたものの、空にジャンプをして避ける。

 

 そのまま天井にまで届き、逆さになって天井を踏み台にして、シグルドは居合の構えを取り


〔略式。神速〕


 居合流:神速を放つ。

 が、グリムヒルトは魔剣グラムの棟でシグルドの刺突攻撃を完全に防いだ。

 魔剣グラムの棟に、神速での刺突を加えたことで、逆にシグルドの持っていた剣のブレイド部分が完全に粉砕される。


「馬鹿なッ……」


 宙に浮き、シグルドが無防備な間。

 その一瞬の隙にグリムヒルトは魔剣グラムに剣術を乗せカウンターを狙う。


〔略式。月虹〕


 弧を描いた曲線での刺突攻撃が、無防備なシグルドの首元めがけ高速で接近。

 シグルドは空中で身体を回転させ、なんとか致命傷を避けるも。

 魔剣グラムの術式効果で拡張された遠隔斬撃は避けることができず。

 首に大きな切り傷を負った。


 追撃されれば敗北。

 そう覚悟していたシグルドだが。

 グリムヒルトも腹部に大怪我を負っているせいか。

 これ以上、激しい動きは出来ず、片膝を地面について乱れた息を吐く。


(これが魔剣グラムの術……斬撃範囲を瞬間的に拡張することによる、超遠隔斬撃。もはやあれは剣というよりも……飛び道具に近いな……機動力では我がグリムヒルトよりも数段上だとはいえ、接近してのヒットアンドアウェイ戦法では、リーチを伸ばしたグリムヒルトには敵わないか……)


 シグルドは首元を手で抑えながら思考を続ける。


(使うべきか……『霊剣』をッ?! だが……ウプサラの祭儀で分かったであろう? 我にはまだ『霊剣』を使う資格がない。また暴走をすれば……)


「何度も言わせるなッ! 考える……暇があると思っているのか? 『龍殺し』!! 随分と……ガッ、まだ……余裕があるようだな……その淡々とした態度……虫唾が走る!! 貴様の表情から……余裕の「よ」の字が消えるまで、徹底的に……刻み込んでやる!」


 グリムヒルトは腹部の痛みに耐えながら、啖呵を切った。

 彼は剣士御用達の赤色のマントを手でちぎって、腹部の傷口に巻き応急手当を終えると。


 両の手で魔剣グラムを握り、神楽流の構えを取り。


〔『式』系統は闘素――器は『剣』 神楽流:旻天〕


 剣術を使用。


 瞬間――。

 範囲を空間に拡張した無数の遠隔斬撃がシグルドを襲う。

 その斬撃数は、三本、四本……十本、二十本と加速度的に増えていき。

 斬撃自体が生き物かのように、弧を描くような軌道で、逃走するシグルドを追尾していく。


(ッ……神楽流の剣技を乗せた重複遠隔斬撃!! これは……避けられないッ!)


 神楽流の強みは「舞うような鮮やかな剣技」。

 しかし、その発動形式は、居合流や介者流とは異なり。

 受け流し、その反動を攻撃に利用するカウンター・防御型である。

 そのため攻め手が少なく、攻撃面に弱いことが欠点となっていたが。

 

 魔剣グラムがその欠点を完全に補完。

 超遠隔斬撃と圧倒的な術式発動の初速上昇により。

 今のグリムヒルトは攻守共に一切の隙が無い。

 完全な迎撃要塞と化していた。


 神楽流 家元たるグリムヒルトの卓越な剣技が。

 魔剣グラムの術によって底上げされ。

 両者の長所を潰し合うことなく、見事に調和。

 

 シグルドの眼の前には幾重にも重なる自動追従する遠隔斬撃が。

 逃げ道はどこにもない、かのように見えるほどに。

 斬撃はシグルドを全方向から囲い。

 1秒後には、斬撃がシグルドを襲い、八つ裂きにされる。


 その運命は確実。

 死を悟ったシグルドは。

 下唇を噛み、手にしていた壊れた剣を捨て。 

 もう片方の「霊剣」を抜く。


「神器抜刀」


 小さく呟かれた詠唱。

 周りには無数の斬撃の雨。

 勝負はコンマ数秒後に決まる。

 そんな土壇場で、ついに。

 シグルドは、霊剣の抜刀を決意した。


 だが、この全方位斬撃に囲まれた危機的状況下で、今更神器を抜刀した所で。

 一体どうなるというのか。

 グリムヒルトはもはや勝利を確信しており。

 シグルドが神器を抜刀しても尚。

 剣術での遠隔斬撃を続ける。

 

 だがシグルドの凍てつく瞳には。

 まだ敗北の色は無く、希望が宿っている。

 こうして。

 「ヴィーグリーズの間」へとシグルドが至る前座ーー剣士同士の頂上決戦はまもなく決着がつこうとしていた。

 

 


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