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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
146/193

不可侵領域総力戦⑨

―ラグナロク確定の時まで残り02:45―


 奇しくも。

 スノトラとガルムが不可侵領域に侵入してきたタイミングはほぼ同時刻だった。

 スノトラが不可侵領域を囲う結界を跨いだのと同時に、ヨルムンガンドの目がガルムの爪で割かれ血が吹き出したのだ。

 スノトラは遥か上空を見上げ、痛みで悶え苦しむヨルムンガンドの絶叫を耳を両手で抑えて耐える。

 そして何kmも上空、点ほどの大きさで僅かに映る獣人――ガルムの姿を見て


「ガルムッ!!」


 思わず笑顔で叫ぶ。

 その後、ガルムは世界樹を掛け下がり、凄まじい速度で地表へ落下。

 スノトラの存在など気づきもせずに世界樹の根の入口部分にまで到達した。

 

 その姿を見て、スノトラもガルムの後を追いかける。

 ヨルムンガンドが動く事に拭き乱れる強風で、帽子が飛んでいかないように抑えながら。

 スノトラは小さな体に水の術式を付与し、地面を滑走して追う。

 

 二人がこの場で出会わなかったのは幸か不幸か。

 どちらにせよ。

 スノトラもガルムの後を追い。

 いずれは世界樹の根の最奥 決戦の場「ヴィーグリーズの間」に到達することは明らか。

 

 こうして世界樹に。

 ラグナロクを決定するための過程で。

 因子となる全ての人物カードが場に集い終わったのである。



―ラグナロク確定の時まで残り02:09―


〔〔鉄鎖蝉脱〕『加式』系統は闘素――狂凶暴虐アエーシュマ


 セーブ、抑圧された生物の生命力の枷。

 それらを全て解き放ち、意図的に戦闘本能を激化する。

 獣人種ビースターズに伝わる原型闘術「狂凶暴虐アエーシュマ」。


 その発動は。

 相対しているガルムが、出し惜しみ無く。

 この場で全ての力を費やそうとしている合図である。


 皮膚下にみっしりと実った筋肉ははち切れんばかりに増強し。

 体は鋼鉄のように硬く、溶岩のような熱を持ち。

 かつ、機動力や俊敏力を損なわないよう最低限の質量、体積に収められる。

 肉に埋もれた刃は、五指から凶暴さを隠さずに顕にされ。

 ガルムを覆う銀色の剛毛は、一本一本が針のように強固、鋭利になり。

 理性を消し、生まれ持った闘争本能に身を委ねる。

 

 伝説の枷「グレイプニル」を三本引きちぎったことで。

 ガルムの潜在能力は最大限に開放されており。

 あらゆる何人たりとも、彼を止められず。

 ガルムを絡め縛るいかなる枷や法、因果や物理法則すら、存在しない。

 今現在の、ガルムの肉体は。

 文字通り全てを凌駕していた。


 そうして振るわれた右腕は。

 その瞬間のみは。

 あらゆる因果から開放されていたのだ。


「ッ!!」


 痛みよりも驚きが先に来た。

 気づけば時空が歪み、グングニルを掴んでいた自身の右腕ごと。

 切断され、宙を回転している。


(馬鹿なッ!! 兜をつけたものヒァームベリ形態だぞッ?! 今現在の我は、巫女やユミルを除き、この世でもっとも概念的に上位にあるはず!! 打ち破れるはずが無いのだッ!! 我が『完遂』の神器を――)


 明確な回答を探すために思考する暇も無く。

 次は左足の踝の下が消えていた。

 否、ガルムの爪で切断攻撃されたのだ。

 しかし、その速度はおよそリーヴには捉えられない超速であり。

 消えたようにしか、認識できなかった。


「ガッ」


 悲鳴を上げた瞬間に、別の部位が痛む。

 切断箇所に気付いた時には既に、二撃目の攻撃が入っている。

 ガルムの驚異的な身体能力、機動力を前に。

 リーヴは手足を切断され、達磨になるのみ。


 すると。

 リーヴは神器グングニルの「完遂」の効力を切り。

 新たな命令を付与する。


〔欠損、切断部位を補完せよ――投擲〕


 地面に刺されたグングニルはまたもや形状を変化。

 兜をつけたものヒァームベリ形態と、馬にのって突進する者アトリース形態は解除され、グングニルがリーヴの欠損部位を補完するように、体にまとわりつき、いずれリーヴの血肉と一体化。

 そうして、リーヴはグングニルを用いて身体を強制的に治癒した。


 と、同時に。

 今まで目にも止まらなぬ超速で縦横無尽に空間を駆け回っていたガルムが、足を止める。

 四足歩行のガルムは目や鼻から血を充血させており、激しく息切れをしていた。

 その様子を見たリーヴは


「比類なき超速といえど、やはりその分、体力や生命力を大きく消耗するようだな。その顔色…体に大きな負担がかかっている。狂凶暴虐アエーシュマ状態は長く、そして何度も使えるものではあるまい。対して我は、今しがた我が神器に『治癒と補完』の命令を与えたところだ。その命令を『完遂』すべく、いかなる負傷を負おうとも、我が神器が欠損部分を補完し、一瞬で肉体が完治する」

「ハア……何がいいたいンだよ、テメエはァ」

「このまま戦闘を続けていれば、いずれ貴様は我に敗北するということだ」

「ハア……ハア……やってみなきゃ分かンねェだろうが」

「何をしても変えられぬ因果、運命に抗うことこそ『徒労』というのだ」


 リーヴの指摘は的を得ていた。

 神器グングニルの効力により、どれだけリーヴを刻み潰し、引っ掻いても。

 その肉体は一瞬で治癒してしまう。

 対してガルム自身は、狂凶暴虐アエーシュマ状態で自分自身に多大なる負荷がかかる。

 発動できるのは、あともって3回、あともって4分ほどだろう。

 つまり、4分後には、自分は負ける。

 それは揺るがぬ結果であった。


 だが、それはあくまで。

 理論上の話。

 公式から導き出された回答に過ぎず。

 まだ現実は、「そう」なってはいない。


 ガルムは息切れしながら立ち上がり、震える人差し指をリーヴの喉元に向け


「首元」


 と呟く。


「?」


 リーヴは解せない様子。


「……リーヴっつったか? アンタ……オーディンの野郎の霊体を吸収したンだろ? だからその神器を使える。だが、霊体を吸収したということは、オーディンの性質もそのまま受け継いだっつーことだ」

「何が言いたい」

「『神喰い』は、樹界大戦でオーディンの首元を噛み殺した。その傷が、復活後も癒えきってねェはずだ。その傷跡がリーヴ、お前にも受け継がれているはず」

「……」


 リーヴは三白眼で睨みつけるようにガルムを黙って見つめる。


「そこに攻撃を加えたらお前はどうなる……? お前の喉元をよォ、俺が噛み潰してやるよ。今度こそ本当に『オーディン』、お前を殺してやるぜ」


 ガルムは威風堂々と宣言すると。

 再び四足歩行になり。


〔〔鉄鎖蝉脱〕『加式』系統は闘素――狂凶暴虐アエーシュマ


 二度目、枷を外す。



 同時刻。

 スノトラはガルムを追って世界樹の根を潜り。

 ついに、世界樹の根の最下層「審判の回廊」に到着していた。 

 そこに待ち構えていたのは。


 魔術で勝負をしているフレンと、バーラの姿。

 急に突入してきたスノトラを見つめると。

 バーラは驚愕の表情を浮かべた後、舌なめずりをして


「やっと来たわね。スノトラ、ルブレン魔術学校ぶりかしら? アンタと戦うために、アタシはこの回廊で待ち伏せしていたのよ」


 バーラ=アリストロメリアは碧色の瞳を輝かせ、宣戦布告をした。




 





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