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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
143/193

吟遊詩人

全く本編に関係のない話ですが。

研究者の機関は「デストルドー機関」と対比語の「エロス機関」って名前にしようと思ったけど。

めっちゃくちゃ馬鹿みたいな名前で笑っちゃったんで、「アモル機構」に変更したという裏話があります。

前半のよく分からない文章は、エッダ写本の内容です。


―契約儀式―

―魔術革命が生じる以前に結ばれていた契約―

―術式回路を体内に持たない人類は代償に何かを捧げる形でのみ術を行使していた―

―供物として捧げるのは、血液、金品類、肉片に臓器。そして核までも―

―世界樹イルミンスールに価値を提供することで代償に術を使用する禁忌―

―アグネ=ド・ノートルダムが魔術革命を成し遂げてから、契約儀式は廃れ、術式回路を持たない人類でも外部に『式』となる媒介物を通す形で術を行使可能となった―

―『(定型)式』は媒介である―

―それは樹素と生命を、否、世界樹と生命体を媒介する契約書のようなもの―

―世界樹とは何なのか―

―それは太古からそこに存在していた―

―異世界が生まれる遥か以前から、ずっと(現実世界に)存在していた―

―それが何であるかは分か(っている)―

―(『知の箱庭』を司る中枢機関であり)全てのエネルギーの根源 樹素を配給することで万物を造化した神に等しい超次元存在―

―世界樹とは意思を有す根源そのもの。森羅万象がそこから生まれ、やがて帰る場所―

―故に、『知の箱庭』で『神』とは世界樹そのものを指す――

―そのために、神である世界樹により創造された神種は『神』ではなく『神』という名を与えられた―

―13対の神種は、神の複製品に過ぎない―

―ではここで問う―

―世界樹イルミンスールのその正体とは―

―何を思い、何を願い、何を望み、何をするためにそこに存在するのか―

―我々は最終的にある結論に達した―

―世界樹イルミンスールは神などでは無かった―

―それを証明するためにまず、この世の理について語らなければならない―

―この世の構造。そしてこの世のあり方を理解しなくてはならない―

―長い長い、世界の三角関係……(此岸と彼岸と『知の箱庭』)。正弦と余弦そして正接。この永久から続く三角関係。その意思のベクトルにわかりやすくこのような名称を科そう―

―我々から言えることは一つしかない―

―『健全なる魂は健全なる肉体に宿る』―

―この警句をくれぐれも忘れないでほしい。我々は同じ大戦を犯してはならないからだ―


(本文最後まで省略)


「樹素」を因果に変換し操ることで、我々は世界の行き着く先を観測する術を手に入れた

それを元に、このエッダ写本となる因果の予言書を作り出した

そこに綴られた我らの未来は“完全なる死滅”。最終的に人類は『寄生樹』に蝕まれ、その魂を完全に『寄生樹』に奪われてしまう

そのため我々は『知の箱庭』ごと、『樹素』をこの現実世界から切り離す手段をとった

その犠牲となったユミル・アウルゲルミルと、竜崎氏の二人は、人類の大罪を背負い、この世界を救い出した救世主として受け継がれていくだろう

いや、我々が受け継がねばならぬのだ

これからの未来のために――


――スノッリ・エッダ・ストゥルルソン 他 アモル機関所属学者 (2111).因果終末論におけるエッダ写本 日本語訳 日文天研――



「もう行くのか?」


 ブラキから話を聞いた後、僕は椅子から立ち上がり、この場を去ろうとした。

 そんな僕をブラキは止めるように声を掛ける。


「ああ、聞けたいことは大体聞けたしな。まだ頭がこんがらがって殆ど理解できたいないけど。結局のところ、青年R……リーヴ=ジギタリスを倒して、巫女ヴォルヴァを救えばいいって話だろ?」

「ああ」

「なら、僕はもうリーヴの元に行くよ。奴を倒して、僕が巫女ヴォルヴァを救う」


 決意して立ち上がった僕を、ブラキは見定めるような視線で見つめ。

 独り言のように呟いた。


「どうしてか。一個人に過ぎぬ『立花陽太』君が、これだけの因果を背負っている理由……私には予測ができなかった。君の存在は……私の神力で綴った旋律書にも一切、記載されていない。まるで旋律から漏れる『非和声音』。……私の予測に過ぎないのだが、きっと巫女ヴォルヴァが、君を求めているのだろう。何故かは知らないが、巫女の魂が君の存在を求めている」

「……そうか」

「フフ……昔を思い出すよ」


 突然、低い声で笑い出したブラキ。

 今までは堅苦しい表情しかしてなかったブラキの表情がここで初めて解けて、僕は少し驚く。


「何がおかしいんだ?」

「いや……大昔に、君と似たような存在が、私の元へやってきたことがあってね。そう……400年前の樹界大戦時に、だ。もしかしたら――君は、彼の――」

「?」


 イマイチ要領を得ない話をしたブラキに対し疑問符を浮かべていると。

 はっとブラキは我に返り


「いや、いいんだ。こちらの話だ、君には関係ない。それと……そうだ……リーヴと戦うのであれば……これを持っていくと良い。見た所、君もリーヴと戦うために精一杯の武装をしているようだが、それでは心もとない。これを使え」


 そう言って、ブラキがこちらに向けた右掌。

 大気中の樹素が集まり、一本の小さな――

 見たこともない、芳醇な樹素が宿っている式具だった。


「かつての友が使用していた神器だ。此岸の肉体を持つ君ならば、神素でなくても、この神器を起動できるだろう。この神器はリーヴとの戦いできっと役立つ」


 僕はその鎚を手に取って訝しげに見つめ。


「いいのか? ブラキさん……アンタの友達の神器なんだろ?」

「いいんだ。もう彼は死んでいる。それに――何もせずに倉庫にしまってホコリ塗れにしておくよか、彼も君に使われる方が喜ぶだろう」

「……ありがとう」

「ではこれからその神器の効力の説明をする。その後に、この扉を潜れ。扉の先は『審判の回廊』に繋がるよう細工してある」


 そう言って僕は、貰った神器の説明を受ける。

 説明が終わった後に、扉の前に立ち、準備運動をした。

 そうして、扉をくぐり抜ける。

 巫女ヴォルヴァの奪還そして、リーヴ=ジギタリスの打倒のために。

 全ての「理想」を背負って――。



 陽太が扉をくぐり、「ヴィーグリーズの間」に行った後。

 一人、洞穴に残されたブラキは、緩慢な動作で椅子に座り。

 天を仰ぎながら、一人ゆっくりと語りだした。


「……そうか、もう400年も経つのか……」


 ブラキの脳内にはかつての樹界大戦時の記憶が蘇る。

 忘れていた記憶、薄れていた思い出、消えていた情熱。

 400年前に交わした。

 一人の、金髪の兵士との何気ない会話が、想起される。


【じゃあブラキさん、アンタの真名は『吟遊詩神』にしよう】


【何故だ】


【アンタの夢は、この薄暗い洞穴から抜けて、詩人、音楽家として世界を自由に見て周ることなんだろう? 巷ではそういう奴は『吟遊詩人』って言うんだ。だからそれをモジッて『吟遊詩神』だ! なかなか良いだろ?】


【理想だ。私が『世界樹』や『ユミル』から開放される未来はない】


【そうとも限らないぜ? 大丈夫だ、僕達が、アンタの夢を叶えてやる。樹界大戦が終わったら、アンタを縛る奴らなんていなくなる】


【そうか。半分、期待だけしておくとするか】


【僕達を信じろって。だって僕らのパーティーには、アリストロメリア家の愚王と、七代目邪神のアイツ……それとユミル様と同じ力を持ったコイツと……あと……頼りないが、手品くらいはできる……アグネ=ド・ノートルダムがいるんだぜ? 僕らに任せろよ、神様!!】


 それはかつて。

 人類が術式を使えなかった時代に。

 たった4名で、魔界に渡り、七代目邪神を仲間に取り込み。

 いずれは異世界全土に波及する樹界大戦そのものを勃発させ終結へと導いた、奇跡のパーティー。

 


「……立花陽太を見ていると、君を思い出すよ……なあ『ヘグニ』君」


 ブラキが、立花陽太を見て想起したのは。

 アグネの一行、その中の一人にして、パーティーのリーダー。

 樹界大戦終結へ導いた影の英雄、魔術革命の真の立脚者。

 たった一人の、何でもない人間。

 「()()()」の存在だった。







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