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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
140/193

真実

「さて……どこから話そうか、積もる話も語るべき話も多い」


 洞穴の薄暗い空間の中。

 天井から滴り落ちる水滴が、空間内を反響して響く。

 そこに、ぽつんと、木製の椅子が2つ、丸いテーブルが一つあり。

 僕、立花陽太と、老賢人、ブラキが対面して座っている。


 どうやら神といえど、「吟遊詩神」には僕への恨みも敵意も無いようで。

 ただの穏やかで聡明な、老人にしか見えなかった。


「まず君の名を問おうかね」

「……立花陽太」

「陽太……か、良い名だ、あちらの世界の恒星を逆から呼んだ名」

「!! ……太陽のことを知っているのか?」

「ああ、勿論。私は全てを知っている。異世界の創設期から黎明期、樹界大戦から現在に至るまで。君も……知りたいことが沢山あるのではないか?」

「……教えてくれるのか」

「ああ、情報は……人に伝達してこそ価値が生まれる。私一人で独占していても本来何も意味はないのだ。それを『原初ユミル』様は分かってくれない」


 何やら抱えた事情と責務があるらしいブラキに対し。

 僕は思っていたこと、考えていたこと、感じたことをぶつける。


「まず……リーヴについてだ」

「彼か」

「アイツは何がしたいんだ? 何を思って巫女様の魂を奪った? 何故、異世界の神を蹂躙している?」

「……それについては彼が『記録樹素』を通して異世界全土に語っておっただろう? 『旧時代の神を根絶』し、自らが新たな神の座につく。そしてこの異世界を長年、いや永遠に渡って存続させていくために、この異世界を根本から変える気だ」

「……その話は、他の人から聞いたことがある。そもそも、異世界は消えるって話はどっから湧いて出てきたんだ? 何故、異世界か現実世界、どちらかが消えなくてはならないんだ?!」


【お前さんだから言うが、近い内に、異世界か此岸、どちらかが消滅するんだ】


 ウプサラの祭儀前。

 大月桂樹が僕に向かって語ってくれた衝撃の事実を思い出した。


「その話をするなら、そもそも“異世界とは何か”という話をせねばならん」

「異世界とは何か? ……此岸と彼岸とは別世界の、輪廻転生のサイクルから外れた世界のことだろ?!」

「それは根本的な解になっていない。私が話しているのは“どのようにして異世界が生まれたのか”という発生過程の話だ」

「どうやって……?」

「……」


 ブラキは口元の髭、その先端を指でなぞりながら話す。


「元々、世界には『此岸』、君の言う所の現実世界と、『彼岸』、死者の魂が導かれる場所、その2つしか存在しなかった。その2つだけで足り得ていた、そんな時に、西暦2048年……現実世界で、とある世界的な事件が生じた」


 西暦2048年。

 僕が生まれて過ごした時代より十年以上後の時代だ。


「その事件とは『世界樹』の発見だ」

「……は?」

「これはアイスランドのレイキャネース半島で最初に発見された『世界樹』が特殊な植物であることが知られた年であると言い換えられるな。その植物は、トネリコの木と似た外見を持ち、植物から漏れ出る正体不明の物質は世界中の研究者を混沌に陥らせ、研究意欲を掻き立てた。そのエネルギーは人間の前頭葉から放たれる電気信号に呼応し、共鳴、形状や性質、エネルギー量までも自由自在に変化する、その未知の物質は、『樹素』と呼ばれるようになり、これを利用することで人間の思考や理性、感情、願いを元に、好きなよう樹素を変形させる研究が米国主導で世界的に盛んになった。この研究は9年ほどの月日を経て、見事成功。科学者たちは、『樹素』を変化させる感情・理性のベクトルの指向を決定付けるために『定型式』という技術を生み出した。これは脳の前頭葉にとあるナノマシンを注入した上で『定型式』と呼ばれる言葉を発することで意思や思考を元に自由にその形やエネルギー量を変形させる『樹素』を暴走させないよう、とある一定の方角に出力するために作り出されたものだった。これは巡り巡って、現在では『式』として呼び名を変え、どうにか今日まで伝わっている」

「おい……どういうことだ」

「要するに、現実世界の研究者は『樹素』という万能な物質を制御するために『式』を作り出したってことだ。私たちは当時の研究者が産み出したこの『定型式』という技術の恩恵で『術』を行使できている」

「そういうことじゃないッ! 現実世界に『世界樹』が発見されたってどういう意味だって言ってんだッ!! 『世界樹』は……異世界にあるもんだろうがッ!!」


 意味が理解できなく、焦り、思考が乱れ、大声で叫び、立ち上がる僕を。

 ブラキは黙って見つめる。


「違う。元々は君たちの世界にあるものだった」

「じゃあ、何だってんだよ、異世界ってのは、現実世界と同じってことかよ。

僕の世界も、年月が立てば異世界のようになっちまうってことかよッ」

()()()()()()()()()

「……え」

「いいから黙って話を聞け」


 ブラキの凍てつく視線に怖気づき。

 僕は、興奮で燃え上がっていた頭を冷やし。

 どうにか興奮を抑えながら、再び席に座り直す。

 僕が大人しく着席したのを見ると、ブラキはまた淡々と話始める。

 

「人々は歓喜した。ナノマシンを注入することで、自由自在に変化するその物質を使い、自分の『理想』通りに世界を構築し、自分の思うがまま、世界を改変しようとした。神様のような子供じみた願望だ。だが、その愚かな欲望を、達成できるだけの力が『樹素』にはあった」

「……」

「しかし一つ、困ったことがあった。構築された第三世界は、他の第三世界と衝突することで分離、崩壊し、世界を保てなくなる。また、第三世界を構築したとしても、現実世界がそれを『押し戻そうとする』謎の力場が働くことが分かった。研究者たちはその力場を『現実世界からの修正力』と呼ぶことにした」


 事実を、ただ語るブラキは。

 まるで歴史の教科書を音読するロボットのようにひどく無機質に映った。


「つまり『樹素』を利用し、自分の思考や願望を構築できるのは――ただ一人。誰もが『樹素』を利用し、自らの好きなようにナノマシンと『定型式』を通じて、好きな世界を作ることは不可能だったのだ。何十億の世界中の人間が『樹素』を使用したとしても――最終的にはたった一人の人間によって、その理想が押しつぶされていく。要するに、『樹素』を使用して、『神』になれるのはたった一人だったわけだ」

「……」

「世界は酷く焦った。国連を通じて巨大な統治政府を作り、その代表者に『樹素』を行使させる案や、民意を反映し、当時、最大の国家であった米国の統治者に、『樹素』の行使権を与えようとする者、他にも、中東では『樹素』の行使権を得るために、核を保有、ナノマシンを所有する者や研究者たちを殺戮して周り、その権利を強引に勝ち取ろうとする野蛮者も当然表れた」

「……」

「南アメリカでそうした戦争に核が使われたことを発端として、世界は三回目の世界大戦へと身を投じていくことになる。この大戦は酷く長く続いた。26年……だったかな? 第三次世界大戦での核の使用回数は計41回。ニューヨーク、シンガポール、香港、モスクワ、大阪……殆どの主要都市に核が投下され、総人口の3分の1以上の人間が死亡する地獄と化した」

「……」

「人々は愚かなものだ。何でも叶えられる理想の力を手にしたが、誰も幸せになることなく、それを巡って世界を絶望に変える。もはや人間には手に余る物質だったのだ。21世紀で見つけるには早すぎた。『樹素』を制御するレベルまで文明段階が発展していなかったのだ」


 歴史を語るブラキの視線は、例えようのない絶望に満ちあふれていて。

 絶えず斜め下の方角に向けられていた。


「そんな時、裏では『樹素』を研究する者たちが集まり、とある機関を設立。終わりの見えない世界大戦に終止符を打つべく『誰が神になるのか』という問題に回答を出そうとした。研究者が汗水垂らして、試行錯誤した結果、強引に『樹素』での物質構築・世界改変の権利を決定するとある方法が見出された」


 ブラキが語る様子をじっと見つめる。

 ただ聞き入る。


「長年の研究により『樹素』は魂の亀裂……『因果』と呼ばれるモノに導かれることが判明していた。そこで一人の人間に『因果』を集中させ、『樹素』の行使権を強引に決定してしまうんだ。つまり争いに疲れ果てた人間たちは、最終的に『強引に神を作り出す』方法で、その争いを終結させようとしたのだ。理屈は単純なものだった。強引に一人の人間に『因果』を集中させてしまえばいい。その方法として取られたのが『一人の人間に対しての2つ以上の魂の重複』。器となる肉体に、『因果』の元となる魂を2つ宿すこと。実験段階では成功していた。この頃には樹素を通じて『魂』や『境界門』に関する研究も盛んに行われて、死後の世界というものが解明されつつあったのだ。余裕がなかった研究者たちは、その実験をただちに実行した」


 生唾を飲んだ。


「器となる人間は誰でも良いわけではない。器足りうる適性者でないと『神』の座は務まらない。そこで、世界中の戦争孤児を集め、適正者を見つけ出す作業に取り掛かった。そして……とある9歳の男児が、最適性者として認定されるに至った」


 世界の真実が暴かれようとしている。

 陽太はその真実を察して、緊迫した表情になる。


「その最適性者の名こそ『ユミル・アウルゲルミル』。この異世界の中枢・枢軸部分におり、同時に、現実世界でも『神』として依代にされし男児だ」


 世界の真実が暴かれようとしている。




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