とある物語
場面がごっちゃになってきたので整理します。
下に行くほど深度が深いです。
世界樹の地表部分(不可侵領域)――フリングニル、ベイラ、ベルゼブブたちvsヨルムンガンド
世界樹の根の上層部分――ガルム(どんどん下層に向かっている途中)
世界樹の根の中層部分――陽太?
世界樹の根の下層部分「審判の回廊」――フレンvsバーラ
―――――――ここから下は「記録樹素」で満ちており、アマルネの霊術で転移不可能―――――――
「ヴィーグリーズの間」へ続く「審判の回廊」階段前――グリムヒルト&「パトリアルフ」
世界樹の根の最下層「ヴィーグリーズの間」――巫女ヴォルヴァが安置
世界樹の根の最奥「原初ユミルの魂」
アマルネ
→空間転移霊術で様々な人物を転移し続け奔走中
スノトラ
→ようやく昏睡状態から復活し数時間前に、不可侵領域へと向かい出した
やっと不可侵領域に到着
リーヴ=ジギタリス
→巫女は「パトリアルフ」、各種族の猛者たちは「ヨルムンガンド」に任せ、自分は本来の使命である「11の神種の全滅」に勤しんでいる(残り「魔狂徒」ロキのみ)
小人種たち
→不可侵領域内には謎の廃墟があり、隠れながらその廃墟をピッケルで壊して素材を採集している
「やあ、また会ったね。神種の中で残ったのは僕だけか」
「『魔狂徒』ロキ……」
世界樹の根、その中層部分で。
ロキとリーヴ=ジギタリスは二回目の会合を果たす。
「まさかヨルムンガンドまでそっち側に付くとは、こんなこと聞いてないな。勝ち目なんて無いじゃないか」
「勝ち目など……笑わせるな、貴様たちに滅びゆく以外の運命が待っていると思ったか?」
「どうやら、本当に『原初ユミル』様は君のことを僕達に代わる新時代の神として認めているらしいね。ヨルムンガンドがそっち側に加勢したのが良い証だ。降参だよ」
「では、大人しくしていろ。さすれば楽に仕留めてやる」
「ちょっとお話しないかい?」
木に腰を据えていたロキはひょっこりと立ち上がり。
そのまま悠然と歩いていく。
もはや抵抗の意思を示さないロキに向かって、リーヴは手にしていたグングニルを構え、投擲しようとした。
しかし――その行為は、後述するロキの言葉によって止められる。
「世界樹の奥底、『座』の空間内にて、面白い書物を見つけた」
ピクリ、と振動し。
リーヴ=ジギタリスは完全に静止した。
掲げていたグングニルを下ろし、続くロキの言葉に注目する。
「面白いね。そこには『僕たちが本来あるべき姿』が描かれていたよ。その書物にはこの世界の真実が乗っていた。そこで気付いたのさ、僕達は……ただの『贋作』。僕達の歩む歴史、人生はただのおとぎ話に過ぎないってことを」
「貴様……」
「おや、ようやく僕の話に耳を傾けてくれるのかい? ってことは、あの書物に書いてあったことは本当だってことか」
リーヴは下唇を噛みながら、ロキを睨む。
ロキは相変わらず戯けてふざけた表情のまま話を続ける。
「この異世界ってのは、どこかに存在する現実世界……そこから派生して生まれた一種の擬似空間に過ぎないのだろう? そしてそこで神としての統治を任されている僕らも、所詮、その盤上の駒だ。舞台上で糸で吊るされ、踊らされる人形程度の存在に満たない。その真実を知ってから、僕は生きる気力がてんで無くなった。神として果たす責務を真剣に担う行為がどれだけ愚かで馬鹿げてるか、よくよく考えれば考えるほど、アホらしくなって、ある日から、どれだけこの世界をかき乱して、あるべき形からズラすか……そればかりに尽力するようになった」
「『魔狂徒』……その事実をいつ知ったッ?!」
「樹界大戦の数十年前くらいだったかな。それまでは僕も、真面目に『神』として振る舞っていたんだよ? ――極めて優秀かつ律儀で素直な一人の神として――そんな僕の振る舞いに感心した奴らが僕を『魔教徒』と呼び始めた。それが本来、僕の真名、それが転じて、いっきにだらけてふざけきった神になってしまったから、人々は僕を『錯乱』した『魔狂徒』って隠名で呼ぶようになった」
「……」
リーヴ=ジギタリスは声にならない感情で押し黙り。
怒りや衝撃で震えた拳を握りしめ感情を堪える。
「僕のこの気持ち……分かってくれるのは『ブラキ』さんくらいだったかな。だから……定められた旋律から逃れるために、僕は沢山のことをした。受肉したり、巨人を産み出したり、『バルドル』の野郎を殺す手助けをしたり、混沌派を作り出したり――だが、それも全部、無駄な徒労に過ぎなかったわけだ。笑えるさ、さしずめ僕は、ピエロだったんだ。定められ、変えられぬ物語を、変えるよう無駄な努力をして笑わせる――ピエロ」
「……」
「だからもう、僕は、自分の命に、価値なんて感じていないよ。殺すなら殺せば良い、リーヴ=ジギタリス。だが、覚えておけ、僕を殺し、新たな神の座に昇格することは、僕の苦しみを背負うことと同義だ。今度は君が、僕の苦しみを背負っていくんだ。そうして、偽りの神を演じて、物語を進行させていく番さ」
「……黙れ」
「その苦しみに耐える覚悟はあるかい? 君も……模造品に過ぎないだろう」
「黙れッ!」
「……はあ、分かったよ」
「生命をつなぎ生きることに苦痛を感じているのならば、その生命、我が槍で貫き、射殺してやるッ」
ロキはその場で止まって。
大きく手を開き、顔を上にして目を閉じた。
その姿勢はまるで、貫かれ殺されることを自ら望んでいるような。
もはや生きることに価値を感じない、自殺志願者。
リーヴ=ジギタリスには。
そのロキの様子が、未来の自分の姿と重なって見える。
憐憫。
自分も、いつかは、ロキと同じように、「ああ」なるのか。
絶望。
自分の将来の、情けない姿を見せつけられているようで。
その様子が、リーヴの怒りを買う。
「――異世界を乱し弄ぶ『魔狂徒』の命を射殺せ――投擲!!〕」
いつもより感情が込められ放たれた「完遂」の神器は。
ロキの胸を貫き、その生命活動の一切を停止させた。
ぱたん、と力なく倒れるロキは、死に際に。
小さく儚い声で、こう呟いた。
「その……とある……物……語の……名は……『北欧神話』」
その言葉が、リーヴの鼓膜に引っ付いたように離れない。
「本来の世界からは消え去り、忘れ去られた――とある地域での……伝承だよ」
リーヴは震える手をもう片方の手で強引に抑え。
その足で、仮死状態の巫女の体が安置されている「ヴィーグリーズの間」へと向かう。
使命たる「11対の旧世代の神の死滅」を達成したリーヴは。
乱れ動揺する感情を抱え、それでも、その目は、確かに未来を希求していた。
あるはずのない、未来を――。
*
僕達の作戦はこうだ。
まず、アマルネの転送術でウプサラの神殿を丸ごと転送させることで脱出し、不可侵領域内部にそのまま突入。
僕、フレン、シグルド、アマルネの4名は先回りして、転移霊術でなんとか転移できるギリギリの場所――世界樹の根の中層部分へ行く。
そこで「ヴィーグリーズの間」に行き、リーヴ=ジギタリスが神種を殺害しに回っている間に。
先に巫女ヴォルヴァの体を回収。
シグルドは「霊剣」の効力のため、神種の遺体、数体の元へ。
その作業が終わった後、アマルネの転移術式で合流し巫女の元へ向かう算段だった。
だが、中層からそれ以下の「審判の回廊」にかけて。
「パトリアルフ」という精鋭部隊が巫女の体を守っていた。
そのため、作戦を変更。
フレンだけを、バーラという魔術師の相手に任せ。
僕とアマルネは別ルートで、「審判の回廊」をできる限り通らない経路で、「ヴィーグリーズの間」に向かうため、再び世界樹の根の中層に転移。
こうして、僕とアマルネは先回りして巫女の体を奪還するつもり。
だったのだが――。
「ここ……どこだ」
アマルネと一緒に転移したはずなのに。
隣にはアマルネがおらず、木で覆われ出来た洞穴に僕はいた。
壁には術式で作られた光が灯っており。
薄暗い洞穴内を、微かに照らしている。
「やっぱり……礼装の効力があるといえ……僕を霊術で転移することに失敗したのか?」
本来、僕のような現実世界の肉体を持つ人間に転移霊術を施すことは不可能である。
それは先の幽霊都市ブレイザブリクでの楽具同との戦いから明らかだった。
そのためイーヴァルディから特殊な礼装を借りることで。
心もとない霊術の発動可能性を底上げしていたのだが。
それでも複雑な転移霊術の発動に失敗してしまったのか?
そう思っていた。
だが――
「転移の失敗ではない。私が君をここに呼んだ」
貫禄のある声が洞穴内に響いた。
驚いて声の方角を振り向くと、そこには長い髭を生やした老人がいた。
老人はローブ一枚という質素な格好に、年季の入った杖を持っていて。
杖で体を支えることでなんとか体を動かしている。
「案ずるでない。君の敵ではないよ」
「アンタは……誰だ?」
老人は髭を擦りながら、怪しむ僕の声に応える。
「『吟遊詩神』ブラキ。この異世界で神をやっている。ようこそ、私の家へ、君には聞きたいことが沢山あったのだ、此岸の人間よ」
13対の神の一席。
「世界蛇」と同様に、旧神であるといえ、存在を許された老賢人。
「吟遊詩神」の姿がそこにはあった。