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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
137/193

不可侵領域総力戦⑦

「……おい」

「どうしましたか? グリムヒルトさん」

「あの細目の男と、黒髪の男が、来ないではないか」

「「「「「「「……」」」」」」」


 バーラとは分断行動をし。

 「ヴィーグリーズの間」に繋がる「審判の回廊」にて。

 巫女を守るために、アマルネと陽太の襲来を待っていたグリムヒルトら精鋭部隊「パトリアルフ」の一行。


 だがグリムヒルトの思惑とは異なり。

 いつまで経っても。

 アマルネ、陽太は姿を表さない。


 グリムヒルトの貧乏ゆすりがストレスで増す。


「……お前ら、俺は間違ってないよな?」

「……」

「普通、あの状況だったら、あの細目の野郎どもは分断行動をして、先回りして『ヴィーグリーズの間』に現れるはずだよな?」

「……」

「やっぱり、俺達はバーラと一緒に戦っていた方が良かったんじゃないか?」

「……」



 「ヴィーグリーズの間」につながる何百段もの階段。

 それを背にして。

 グリムヒルトら、強引にバーラから引き剥がされた「パトリアルフ」たちは。

 まだ来ぬ陽太たちを座して待っていた。

 

「まさか、このまま放置ってわけはないよな?」

「まさかあ」


 しかし。

 この後、敵戦力がこの場所に突入してくるまで。

 グリムヒルト一行はあと40分ほどここで時間を潰す必要があるなど。

 この時の彼らは知るはずがなかった。

 つまり、普通に放置された。


 

 場面は転換して。

 世界樹の地表部分、不可侵領域内部。

 見たこともない文明の形態、その廃墟を前にして。

 突入してきた小人種たちは、「世界蛇」なんか見向きもせず。

 廃墟の一部をピッケルで破壊し、その建築素材を回収しに回っていた。


「おお、すごい、こりゃ凄いぞ。これが不可侵領域の謎の『古代廃墟』! やはり伝聞は……間違いでは無かった。見たこともない『材料』で出来ている!! 確か『コンコリ』とか言うものだったか?」

「イーヴァルディさん! そこは危ないですッ」


 若い小人種が、眼の前の廃墟に夢中になって周りが見えていないイーヴァルディに注意する。

 イーヴァルディははっと上空を見つめると。

 世界樹の上から巨大な木の枝が落ちてきており


「おっほッ」


 イーヴァルディは間一髪。

 前転することで落下物を回避する。


「そろそろ、違う所に行きましょう! ここはいずれッ『世界蛇』との戦闘に巻き込まれますッ!」

「うむ」


 他、十数名の小人種の部下を連れ。

 イーヴァルディは、探索場所を移動し始める。

 その上空では、ヨルムンガンドと、各種族の猛者たちが凌ぎを削っており。

 小人種は「不可侵領域内部の古代都市群の材料」と「立花陽太の肉体一部」を対価にして、他種族と協力、協力な式具を配ることで戦闘を補佐していた。

 

 だが小人種自体は戦闘に特化しておらず。

 不可侵領域内に侵入してからは、地表付近の廃墟の材料を収集して回っていた。

 イーヴァルディはリュックに「コンコリ」という未知の材料をパンパンに入れて、その場を後にしようとする。

 その前に、空を見上げ


「う~む。『世界蛇』ヨルムンガンドも参戦してくるとは……迂闊じゃったな……これは儂らの負けじゃ。儂らは大人しく、歯向かわず、素材収集に明け暮れるとしよう、裏切りじゃと思うなよ? もともとただの利害ありきの結託関係に過ぎぬからな」


 世界樹の林冠部分で「世界蛇」を相手にしている各種族の猛者たちに。

 申し訳なさそうにそう独り言を呟いた。



 場面はそんな世界蛇の林冠部分に移る。

 数十分前までは数百は超えていた各種族の連合軍。

 だが、圧倒的な災害であるヨルムンガンドを前にして。

 犠牲者は加速度的に増していっていた。

 

 ヨルムンガンドが体を少しうねらせるだけで。

 大陸自体が蠢き、大量の犠牲者が生じる。

 もはや残っているのは――各種族の頂点に君臨する統治者集団のみ。

 巨人フリングニル、ハイエルフ ベイラ=ビアトリス、原生魔獣 ベルゼブブ、獣人 ゲリ=ノストラード、それと他数名。

 奇しくも、最後に残ったのは、ウプサラでの祭儀にて、代表者として戦場に立った実力者のみ。


「クソッ、『霜の巨人族』も3分の2がやられたッ。もうまともに戦えるのは、俺達しかいねえッ」


 焦るフリングニルに対し、森霊種のベイラが近づき


「冷静に。ここは一旦、『世界蛇』を無視して……私たちだけでもリーヴ=ジギタリスの元へ向かうべきでは?」

「そんなこと、あの蛇が許してくれると思うか? 見ろあの目を……」


 フリングニルは肩に背負っていた大剣「レーギャルン」の刃先で、遥か高く、世界樹の幹に巻き付いているヨルムンガンドの蛇の目を指して


「あんだけノロノロ動いているクセに、目だけはこっちをしっかり捉えてやがる、『世界蛇』はこれを戦いだとも思ってねえのさ、ただの狩りだ。本気の欠片も出してねえ、俺達がリーヴの野郎の元へ行こうとすれば瞬殺だろうよ」

「……やはり私たちは……」

「ああ、先に世界樹の根深くに侵入した『龍殺し』らに任せるしかねえ、とりあえず俺達は、ここで『世界蛇』の時間を稼ぐッ」

「しかしそれでは……私たちは」

「ああ、全滅だ。時間の問題だろうよ、だが、やるしかねえ。今この瞬間、命を掛けなきゃ……異世界全土がリーヴの手に堕ちる……そうなれば……少なくとも」

「神種だけでなく、他種族も全滅させられるでしょうね」

「そうだ」


 フリングニルは震える足を叩き、そのまま空高く飛び。

 世界蛇を相手にする。

 もはや全滅は時間の問題。

 世界蛇の乱入によって、全ての勝機は奪われようとしていた。

 その瞬間だった――。


 今まで穏やかな動きを見せていた「世界蛇」。

 その蛇の目が、まるで脅威を前にするかのように開き。

 体の動きが止まり、一点を凝視した。

 その蛇の目の視線の先には――。


 巨大な一匹の竜が飛来してきている。

 だが。

 ヨルムンガンドが真に警戒しているのは、突如、不可侵領域内に侵入してきた竜そのものでは無かった。

 正確には――竜の背中にいる「一匹の獣人」。

 

 彼は。

 銀色の逞しい毛並みに。

 溢れんばかりの筋骨隆々な鍛え上げられた肉体。

 右足、左足、右手には――鎖が引きちぎられた金色の手錠が3つ。

 

 猛スピードで飛来してくる竜の背に仁王立ちで乗り。

 風を受けながらも、全く動じることなく、両の手を組んでいる。

 その獣人は、竜の背から勢いよく飛び上がると。

 空中で身をよじりながら、世界蛇の頭に接近。

 

 そして両の手をクロスさせ、輝く爪を出し。

 繰り出されるは樹界大戦にて、枢軸主を屠った「神喰い」の秘伝。


鳥葬パールスィーッ!!〕


 十字状の巨大な傷が、世界蛇ヨルムンガンドの左目を切り裂く。

 大量の血が流れ、爪は世界蛇の体表を深く抉り。

 ここでヨルムンガンドは400年前の樹界大戦以降、久しぶりの「痛み」を思い出し、大声で鳴いた。


 世界蛇を切り裂くその姿が。

 その様子を傍観していたゲリ=ノストラードには、とある姿と重なる。

 そう、あれは。

 ファミリー内で伝聞され、おとぎ話として何回も何回も聞かされた。

 あの「神食い」フェンリルの戦い様。


「……ッスコルッ?!」


 ゲリは思わず叫ぶ。

 突入してきた獣人――ガルム=ノストラードは。

 世界蛇が痛みで苦しむ様を見ながら


「ァアッ?! 神さまっつってもこンなもンかッ?! 蛇野郎ッ!!」


 突如として乱入してきた獣人の先制攻撃を受け。

 意思を持たぬ怪物「世界蛇」ヨルムンガンドは。

 切り裂かれた蛇の目で、獣人ガルムを捉え。

 彼をそこらの有象無象の「獲物」でも「玩具」でもなく。

 「雷帝」トール、「神食い」のフェンリルなどと同じく。

 「敵」として再認識した。





 



 






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