不可侵領域総力戦④
【『世界蛇』ヨルムンガンド】
【神種の中で核を持たない化け物】
【また神器も所有せず、その身ひとつで樹界大戦を生き残った超越生物】
【樹界大戦では秩序派に属し、神種の中でも最強と名高い『雷帝』トールと対戦し、大怪我を負ったものの無事生還】
【歴戦の死闘を経て生存し、全盛期と比べてもその神力を一切失っていない】
【もはや天災や天変地異に近く、生物という枠組みを超えている】
【樹界大戦後、世界樹イルミンスールは、『世界蛇』のみが自分の意思と目的を代行するに足る資格と実力を持つ者と認定。以後、神種は特異な任務と役割を持つ『吟遊詩神』ブラキを除き、全て神の座から降ろされることが正式に決まった】
【つまり世界樹は、樹界対戦以降、こう判断したのだ――『世界蛇』のみで、神種含む全ての異世界の生命体を統括、全滅可能であると】
【ただ神力を与えられただけの蛇が、ここまでの超生命体と成った正確な理由は未だ解明されていない】
*
「では我は――残りの神種の討伐に向かう。ヨルムンガンドよ、こやつらの駆逐を任せた」
リーヴはヨルムンガンドの体表を撫でながらそう伝えると。
神器グングニルと共に姿をくらませた。
「待てッ」
フリングニルが追おうとするも。
ヨルムンガルドがそれを許すはずがない。
分泌された強烈な分化作用を持つ液体の毒素が。
世界樹の樹冠に巻き付くヨルムンガルドの体表から洪水のように滴り落ち。
それを浴びたフリングニルの傘下「霜の巨人族」の巨人数名は。
一瞬のうちに肉体が朽ち果て、分解され、毒素に触れた部位がゲル状となって溶け出す。
阿鼻叫喚の絶叫が鳴り響く。
が、フリングニルは大剣「レーギャルン」を傘にし、雨のように滴り落ちてくる毒素を防ぎながら駆け上がり。
〔――燼滅〕
レーギャルンの効力を発動させた。
振るった炎はヨルムンガンドのウロコに着火し、黒灰化現象が生じる――が。
フリングニルは異変に気づいた。
(黒灰化現象の誘発が遅いッ?! 成る程な……リーヴ=ジギタリスと同じく……『世界蛇』の体表が『外界樹素を乱している』!! だから進行が遅い……これでは……火力が足りない……)
ヨルムンガンドの全長は、大陸一つ分に匹敵する。
黒灰化は確かに発動するとはいえ、ヨルムンガンドのその体質ゆえに進行は遅く。
ヨルムンガンドを完全に黒灰化するためには、何千、何万年もの月日が必要だろう。
(クソ……9つに分割された『レーヴァテイン』では火力が足りないかッまるで効果がない……巨大な山をピッケル一つで崩そうとしているのと同じ!!)
するとヨルムンガンドは、その巨大な体躯を世界樹の枝に巻き付け、締め上げ、強引に幹から切断。
フリングニルたちが乗っていた巨大な枝は上空5kmの高度から落下し。
地表の不可侵領域内部のセメント塗装でできた廃墟をぶち壊しながら墜落。
またしてもフリングニルたちは不可侵領域の地表――すなわち世界樹の林床
部分に落とされた。
ヨルムンガンドは、世界樹の幹に体を巻き付け、ぬるぬると気持ちの悪い動きで、林床部分へと移動する。
ヨルムンガンドが動く度に、大陸そのものが揺れ、大地が轟く。
「いってえ……クソ、どうやってあの怪物を倒しゃいいんだ?」
地表へと強引に落とされたフリングニルたちは。
ヨルムンガンドの蛇目を睨み返して、呟いた。
*
場面は不可侵領域の真下。
地下深くに張り巡らされている世界樹の根の部位に移る。
根で覆われたとある空洞内部に、シグルドとアマルネ、フレン、陽太の4名がいた。
彼らの前には、既に殺害された、とある女神がいた。
「これが『星回り』の神 ノルンか……」
シグルドは彼女を見て呟く。
「やはり既にリーヴ=ジギタリスによって殺害されていますね」
アマルネがそう言うと、シグルドを置いて
「では、僕達は予定通り、先に巫女の救出に向かいます。シグルドさんは、用事が済んでから……僕を呼んでください、転移霊術ですぐ向かいます」
「ああ」シグルドは答えた。
そうして、シグルド一人残しアマルネ、陽太、フレンは空間転移の霊術でその場から消え、巫女の元へと向かう。
シグルドは一人残され、一本の刀を抜き
〔神器抜刀〕
詠唱し抜刀されたのは『霊剣』リジル。
刀身の9割が欠落していて、黒く染まっている。
シグルドは、神種ノルンの死体に近づくと、両の手でリジルを掴み。
【……『リジル』についてはワシらが作ったモノではないから知らん。だが……大抵の式具ならば……見ただけで……大体の効力は分かる】
不可侵領域突入前の小人種「イーヴァルディ」のことを思い出しながら。
「信じるぞ、小人種!!」
そう言って、リジルの刃先を『星回り』のノルン――その死体に突き刺した。