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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
132/193

不可侵領域総力戦②

空間転移系の術式や能力はいくつかあるんですが、どれも原理は違います。

ヨゼフの霊術は「予め行ったことのある空間同士を入れ替える」ことで転移していますので、どちらかというと空間転移ではなく空間の入れ替え術式です。

大月桂樹も空間転移できますが、あれは術式ではありません、また正確には転移ではなく、因果律の操作に該当しまして、特定の環境下でしか使用できません。

 時はウプサラ神殿内に結界で幽閉されている時点に戻る。

 

「ああ? この結界ごと『転移』させるだとお?」


 フリングニルがアマルネの提案を受け呆れたように声を荒げた。


「はい、結界が破壊できないならば、結界そのものを『空間転移』させて、不可侵領域内部に移動させてしまえばいいんです」


アマルネは冷静な口調で話しを続けた。


「これだけ高度な結界を貼れるのは術者の技量もありますが……一番の理由はこのウプサラの神殿の土地が『霊場』だからです。だから強引に『霊場』から結界を引き剥がすことが出来てしまえば、結界は必ず崩壊します」

「そりゃ口では簡単に言えるが……どうやるんだよ」


 巨人フリングニルからの質問を受け。

 アマルネは胸元にしまってあったペンダントを出し見せて


「これは僕の親友から受け継いだ式具です。これには彼の残した精霊が宿っている。彼は『空間転移』の霊術を使えました。それを利用すれば、可能なはずです」


 ここで口を挟んだのは黙り込んでいた森霊種のベイラ=ビアトリス。


「……確かに原理的には可能ですね。結界の大元を突き止め、その部分に『空間転移』の霊術を施し、この結界ごと不可侵領域に送る……」

「問題なのは、樹素量です。とても……僕の内包樹素量では、それだけ広域かつ超遠距離の空間転移術を発動できない、だから……」

「いいでしょう、私の霊素を使ってください。私も精霊使い……霊素の供給なら可能です」

「ありがとうございます」


 腕を組んでいた獣人ゲリ=ノストラードも話に参加し


「だが、『空間転移』なんて複雑な術を結界自体に施せるのか? 最悪、俺達は全く別の場所に転移させられちまう可能性もあるだろう」

「……ひとえに空間転移の霊術といえど個々に違いがあります。例えば……僕の親友が使っていた霊術は、空間そのものを切り取り、別の空間と入れ替えることで発動する原理でした。だからどちらかというと……空間転移ではなく『空間座標の入れ替え』なんです。だから……一度、訪れた場所ならば、座標の入れ違いなどなく、完璧に行きたい場所に転移できます」

「……なら、アマルネさん、貴方が不可侵領域に過去、行ったことが無ければ発動できないのでは?」

「…………僕は、十三神使族『ネリネ家』の末裔です」

「「「!!!」」」


 フリングニル、ベイラ、ゲリの三名が驚く。


「だから、昔、不可侵領域に連れて行かれたことがあります。そのため、大丈夫だと思います」

「そう……か


 アマルネは冷静な口調で話し続ける。

 三人は納得したのか何も言わず、静かに頷く。

 そうしていると、観客席にいた他の種族も続々と中央に集まり始め。

 

 フリングニルは傘下である「霜の巨人族」の巨人たちに事の顛末を説明し。

 ベイラは森霊種や大精霊に。

 ゲリは連れてきた同ファミリーの獣人に。

 

 他の種族が、一致団結しようとしている。

 リーヴ=ジギタリス、という諸悪の根源その討伐のために。

 そして遠巻きで一人だけ、観客席で傍観していたある者を見つけると、フリングニルは大声で


「おーい。蝿の王、貴様はどうかッ?!」


 沈黙、不干渉を貫いていた「蠅の王」原生魔獣ベルゼブブに声をかけた。


「勝手にやっていろ。……と言いたい所だが」


 意外なことに、ベルゼブブは翅を振動させ空を飛び、中央に集まってきて


「ジギタリス当主の狙いは『神種の全滅』にあると聞いた。……『魔狂徒』ロキ様の命が危ないのならば……仕方がないが、協力せざるをえない」


 原生魔獣であるベルゼブブすらも協力に加担した。

 その様子を見たフリングニルは笑い


「何がおかしい?」噛みつくベルゼブブ。

「いや、なんだかな……ありがとよ、蝿の王」

「今回限りだ。ただし、不可侵領域内部の戦闘で貴様らの命が散ろうが、手助けはせんし、貴様らの指図は聞かん」


 こうして。

 巨人種はかつて敵対した「オーディン」に受肉したリーヴの討伐のため。

 森霊種は大精霊のため。

 獣人種は新時代の始動によるファミリー崩壊の危機のため。

 魔種 原生魔獣は父たる「魔狂徒」ロキのため。

 人類種はリーヴの野望を止めるため。

 

 各自、志や動機は違えど。

 世界危機を前にして団結したのである。


 だが…

 未だ沈黙を貫く一つの種族がいた。

 それはーー小人種。


 小さな背丈に、短い四肢、そして剛毛な髭のドワーフは。

 集団で観客席におり、腕を組みながら傍観していた。

 そんなドワーフたちに近づく、フリングニル。

 交渉して協力してもらうとするが、頑固拒否。

 頑なに首を縦に振らない。

 アマルネも参加し、頭を下げ小人種に協力を要請する、が


「やらんといったらやらん」


 強情に拒否をする。


「ど、どうしてですか? 異世界の危機なのに」

「ワシらは異世界がどうなろうと知ったこっちゃない。そもそもワシらはオーディン様にも恩がある。そんなオーディン様が受肉先に選んだのがジギタリス家当主の体!! ならば黙って彼に従うのが良いのではないか」

「だが、お前さんたちの技術や式具は、これからの不可侵領域内の戦闘に必須だ」

「やらんと言ったらやらん。そもそも、貴様らの中にはあの長耳野郎どもがいるではないか?! あんな奴らと協力だと? 笑わせるな」


 どうやら小人種たちは、森霊種と手を組むのが嫌らしい。

 その話を遠巻きで聞いていた森霊種 ベイラは


「あらあら。皆様方、もうその汚らしい小人に構うのは辞めた方が良いですよ。そいつらはクソほど頑固で、言っても言っても、い~~~~くら言っても、絶対に森林伐採を辞めないクズどもですもの」

「黙れや、ババア」

「ッ!!! 今、私に向かって『ババア』と言いましたッ?! この汚らわしい汚物どもがッ。手先が器用なだけの達磨!」


 森霊種と小人種の喧嘩を収めるよう、フリングニルが間に入る。

 そんな不毛な喧嘩を続けていると、シグルドが慌てた様子でアマルネを呼ぶ。


「どうしました? シグルドさん」

「陽太が大怪我をしている。右手が切断されていて大量の出血が……なんとか治癒魔術で治したが……あと一歩遅れていれば……」

「!! そんな……」


 シグルドと共に陽太の元へ駆けつける。

 陽太は右腕に血の滲んだ包帯を巻き付けており、右手は無い。

 悶え苦しみ、汗を流していて。

 その傍らにはフレンが心配そうな様子で必死に治癒魔術を施していた。


「陽太くん、大丈夫かッ」アマルネが声を掛ける。

「あ……ああ……クソ……リーヴの奴にやられたッ……それに巫女ヴォルヴァさんが……魂を……奪われた」

「そんな……」


 思わず絶句するアマルネたち。

 何を思ったのか、今まで傍観を徹底していた小人種、その長が観客席から立ち上がり、陽太の元までやってきて


「お前、名前は」


 いきなり問う。

 

「た……立花陽太……だ」

「そうか。お前さん、この世の者ではないな?」

「「!!」」


 いきなり確信をついてきたドワーフの長に。

 驚きを隠せない陽太とシグルド。


「隠さんでもいい。何も取って喰おうってわけじゃない」

「なんで……分かった?」

「体が外界樹素を乱している。別の世界の構成要素で作られている証拠だ」

「……だから……なんだよッ」


 陽太は痛みで苦しみながら問う。

 すると、小人族の長は長髭を触りながら数秒考え込んだ後


「取引だ。不可侵領域内での戦闘が終わった後、貴様の体の一部をワシらに提供しろ、それを飲むなら、仲間になってやる」

「!! ……なぜ……そうか」


【その死体を変なことに流用されることがあるんだ。特に……神種や小人種に見つかっちまうとやばい。アイツらからすれば物質で構築された俺達の肉体は希少な金属と同義……遺体を使って変なモノを構築されたケースが過去にあるしな、だから俺が回収しておいた】


 陽太は頭の中で大月桂樹とのやり取りを思い出した。


「……分かった。協力してくれ」


 陽太は速攻に同意を示す。


「……いいのか、陽太」


 シグルドは静かな声で聞く。


「いいんだよ……僕が少し犠牲になるだけなんだから」


 陽太はシグルドの問いに答えた。


「話が早くて助かる。何、足や手の一本貰おうってそこまで強欲じゃない。髪や爪、血液、唾液にしょんべん、汗……この際、糞や精液でもいい。それらをワシらにくれれば良い」

「……」


 フレンは軽蔑するような目で小人の長を見つめた。

 そして契約が成立したかのように思えたその時。

 ドワーフの長は目線を陽太ではなく、シグルドの腰に携帯していた剣に向け


「お、それは……『龍殺し』あんたの持ってる……その剣は『リジル』か?」

「!! ……小人種よ、知っているのか?」

「ああ、神器についてはワシらは詳しい。なんなら神器の何本かはワシら小人種が作り出したモノだからな」

「では……この『霊剣』の効力も知っているのか?」

「……『リジル』についてはワシらが作ったモノではないから知らん。だが……大抵の式具ならば……見ただけで……大体の効力は分かる」

「教えてもらえないだろうか? 我はこの『霊剣』について何も知らないのだ」

「そりゃ無理な話だ。そんな重要情報をおいそれと教えられない。ワシらはあくまで同盟しているに過ぎず、お仲間ではないからな」

「……そうか」


 シグルドと小人種の長との会話が終わろうとしたその時

 割って入ったのは陽太だった。


「小人種さん。シグルドに教えてやってください」

「だから無理だ」

「……交渉があります。僕の右手……さっき切断されたヤツが……地下通路に転がっているはずだ……それをアンタたちにやる」

「!!」


 小人種は驚く。


「だからその対価として、『霊剣』を調べてやってください。僕らが勝つには、シグルドの力が必須だ」


 その交渉を受け、小人種は笑い


「はっ、いいぜ。ほれ、見せてみろ、その霊剣を」


 二つ返事で交渉が成立した。

 シグルドから受け取った霊剣を、片眼鏡を装着し調べ始める小人種は。

 霊剣を調べながら


「ワシの名は『イーヴァルディ』だ」


 …とだけぶっきらぼうに伝える。

 アマルネは、陽太に耳打ちをして


「凄いじゃないか陽太くん」

「何がだよ」

「ドワーフは滅多に自分から名なんか名乗らない。それなりに認められないと話すら出来ないんだ。君は今、彼に認められたってわけさ……しかも『イーヴァルディ』に……彼は『グングニル』の精錬に携わった伝説の鍛冶職人だぞ」



 そうして15分後。

 ウプサラの神殿内部にいた猛者たちの戦闘準備、交渉が全て終わり。

 アマルネの空間転移の術で転送する準備が整った。


「では……皆さん、行きますよ?」


 アマルネは会場中央内で声を出す。

 フリングニルが剣を掲げると、彼の配下である「霜の巨人族」が雄叫びを上げる。


 アマルネは神殿の中心、闘技場の上にたち。

 胸のペンダントを片手で握りしめ念じる。


(……ヨゼフの精霊たちは僕に従ってくれるだろうか? ヨゼフは何を思って、自分の精霊を僕なんかに受け継がせたのだろうか?)

 

 そして反芻するヨゼフとの対話、生活の日々。

 ちょっとしたことが、今となっては儚く輝かしい思い出となっている。


(僕は『分相応』な働きをしているだろうか? ネリネ家の末裔として……そして……ヨゼフの友として……僕は何をしてあげただろうか?)


【……アマルネが忘れないように、だよ。自分の罪をな。僕はまだアンタを許しちゃいない。いや、死ぬまで許さないだろう。だから死ぬまで君のそばにいる。君が罪の意識にずーっと苛まれていられるよう、死ぬ気でサポートして守ってやる。君の先祖が呪殺した以上の数の人間を……君が救う……その日まで、そのマルカトーレの名を罪の証明といて背負い続けろ】


 うん、ヨゼフ、君はいつでも僕のそばにいてくれたね。


【千万弱の間違いだろ】

【そうか、はははッ、じゃあ合わせて千三万千二百名救うまで、死ねないな、僕たち】


 千人すらも救えずに死んじまったじゃないか。


【――貸しだぞ、アマルネ。僕との約束、絶対守れよ?】


 うん、いつだって忘れたことはない。


【まあ、アタシの方はアタシで解決するわ、それよりアンタの方はどうなの?】

 

 【フレンは両手を腰に置いて、アマルネに尋ねる。】


【問題ない。調伏の必要がないからね。おそらく僕のことも気に入ってくれるはずだ。だからウプサラの祭儀までに何とか術式を仕上げるよ】


【は~どうかしらね、アタシだったら1ヶ月で別の男に心代わりするなんてありえないけど】


 その通りだ。

 だけど現に、ヨゼフの精霊は僕に懐いてくれている。

 それはきっと……ヨゼフが僕のことを、本当に、僕と……友達だったから。

 だから、大丈夫。


「行きます……僕が術を発動すれば不可侵領域内です……いいですか?」


 皆がこくりと静かに頷く。

 そしてアマルネは


〔『式』系統は霊素ーーノタ・イゴ・エレゴーー


 ヨゼフを思い、馳せるように、詠唱を奏で始めた。

 こうして各種族の猛者たちは、不可侵領域内部に突入する。

 異世界の安定を願ってーー。






 




 


 

 

 

 


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