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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
129/193

合従連衡

 場面は飛んで不可侵領域内部。

 そこに広がる荒れ果て、朽ちた、文明を見下ろしながら。

 空中に浮遊し移動するリーヴ=ジギタリス。

 傍らには、昏睡状態の巫女ヴォルヴァが空中に寝転び、リーヴと共に浮遊している。

 そうしてリーヴは異世界の中枢ーー世界樹の根の最奥「ユミルの魂」に辿り着いた。


 白色の輝く真球に根と葉が絡まり、甜瓜のような見た目と化している。

 そんなユミルの魂に触れ、リーヴは


「ユミル、貴様の願いを叶えてやったぞ、約束通り、貴様が最も欲している『被検体B201』の魂を持ってきた」

「ーー…ーー……ーーー」


 どくん、と光の真球は鼓動をし、張り巡らされた根や枝が血管のように蠢く。

 まるで、リーヴと会話をしているように。


「貴様が語った通り、これでこの異世界は『恒常的に維持』されうるのだな?」

「ー……ーーー……ー…ーーーー…ー」

「まだ足りぬと申すか? なるほど……確かに……我と貴様が400年前に結んだ『契約儀式』がまだ未遂行だな……面倒だが、契約は契約……良かろう、それを行えば、貴様は確かに維持されるのだな?」


 翻って、リーヴは着用していた長いコートを棚引かせ、浮上する。

 

〔神器武装〕


 詠唱を行うと、骨を砕くような音を発しながら、リーヴの右手に赤色の槍が現れる。


「では取り掛かるとするか、我の使命『旧時代の神の根絶』に」


 悪意を孕んだ三白眼は、目的を見定めるように一点を見つめていた。



「信じられん話だな。十三神使族の当主が、崇拝神たるオーディンを受肉しているとは」

「同意。人間の王家がそんなことするわけない」


 アマルネが幽霊都市での騒動と、ジギタリス家の所業について説明し終わると。

 その場にいた誰もが半信半疑な様子で反論した。


「気持ちは分かります。ですが現に、僕達は結界内に閉じ込められているわけで」

「それは……何かしらの不手際があったから……でなくて?」

「不手際で、僕達を幽閉するような結界を構築するわけないでしょう?!」

「……その通りですけど、今、アマルネ君、君が喋った内容はそれと変わらないくらい荒唐無稽なものだぞ?」

「……本当なんです」


 アマルネは必死に説得し続ける。


「だが、証拠がないのに、信じろと言われてもなあ」


 フリングニルがそう呟いた瞬間。

 結界外の異変に皆が気づいた。


「なんだ……空が赤いぞ?」


 神殿内部にいた誰もが空を見上げる。

 先ほどまで綺麗な青色だった空の色は、不気味な赤黒い色に染まり始めていた。


「これは……」


 森霊種の最長寿種である「ベイラ」はこの異変の正体に気づいたようだ。

 いや、森霊種だけじゃない……400年前から生き続けてる誰もが、確信した。

 同じような現象を、樹界大戦時に体験しているからだ。


「モンガータ現象ッ?!」


 誰かが答えを叫んだ瞬間。

 空に電撃のような亀裂が走り、空間が避け、甲高い不協和音が鳴り響いた。

 あまりの不快さに、皆が耳を塞ぐ。


「間違いないッモンガータ現象だッ! あの時と……同じッ! だがッ何故ッ?! 今に?!」


 フリングニルは驚きながら言う。


「術式天体の軌道が無理やり変更されてるッ?! 特異点が形成されてるぞッ! ここまでのことが出来るのは……」


 ゲリ=ノストラードがこの機会な現象の正体にたどり着いた瞬間と同時に。

 答え合わせをするように、異世界全土の生命体にとある声が、流れ出した。


〔異世界の万物に語る。我はリーヴ。ジギタリス家の当主にして、原初ユミルの意思の代行者なり。我は旧時代の神に代わって、ユミルの意思を遂行するために作られし、新神である。これから『異世界の恒常的維持』のため……原初ユミルとの契約儀式を遂行し、この異世界を確固たる地位にまで押し上げるための儀式を行う。その手始めとして……まずは『旧世代の神々の駆逐』に取り掛かる。対象となる罪人は『吟遊詩神』ブラキと『世界蛇』ヨルムンガンド以外の計11体の神種全てだ。これらを駆逐し神の座から引き下ろすことで……我が新たに空席となった神の座に昇格する。これら旧神は原初ユミルから『神力』を与えられながら、それを独占し、かつ、神としての為すべき使命を果たさぬ不届き者たちだ。彼奴らの血潮を盃に、新時代への幕が上がる。そして我は契約儀式の条件ゆえに、『記録樹素レコード』を通じて異世界全土の万物に直接話しかけている。貴様らに命ずることは一つ、黙って我の世直しを傍観していること。それのみだ。協力は要請しない。黙って見ていればよい。ただし……不可侵領域に侵入し我の行いを妨げる者あれば……その者は新時代の神への冒涜者として、我が主導で作り出す新世界にて、末代までその汚名を背負うことになろう〕


 あらゆる万物に干渉できる樹素「記録樹素レコード」を通し。

 全異世界の生命体の脳に直接、情報を送るリーヴ=ジギタリス。

 彼の宣言は「ブラキ、ヨルムンガンド以外の全ての神種の死滅」。

 それを対価にして、彼は空席となった神の座に居座るつもりだ。


「……成る程、話が見えてきましたね」森霊種のベイラが語りだす。


 周りの者たちも頷きながら


「アマルネ君が言ったことは正しかったようだな。おそらくこのウプサラの祭儀そのものが罠!!」

「俺達、各種族のトップを集め、自分に反抗する邪魔者たちをウプサラの神殿内に結界で閉じ込める、これがジギタリス家当主の最初からの狙い……まんまとはめられたってわけか」


 フリングニルは大きな肩を落とし、落胆の表情を顕にした。


「結界の方は破壊不可能なのか?」

「無理でしょう。神素が構成要素に使用されていますし、それに……結界の大元がウプサラの神殿地下深くにある。この場所は『霊場』でしょう? そう容易く結界が破壊できるわけがないわ」

「ベイラ=ビアトリス嬢が無理だというなら、無理なんだろう」


 獣人ゲリ、巨人フリングニル、森霊種 ベイラは手詰まりな状況に苦悩していると。


「結界の大元は特定できますか?」


 アマルネが割って入った。

 少し考えてから、ベイラは


「ええ、それなら。ですが大元が特定出来たところで破壊は……」

「僕に考えがあります」


 アマルネは、ヨゼフから託されたペンダントを握りしめ、熱い眼差しで語った。

 何やら策があるようだ。



「ーータ」


 声が聞こえる。

 聞き馴染みのある声だ。

 だが、誰の声だろう?


「どうしたの陽太くん?」

「ああ、ごめん、緑、ちょっと耳鳴りがして」

「大丈夫?」

「ああ、平気だよ、それより……」


 桜丘第一高校の校門前。

 高い丘の上にそびえ立ち、下には広がるビル群や都会が一望できる。

 そんな絶景の場所、夕方。日が落ちかけていたころ。

 校門前には2人の生徒がいた。


「これ、面白かった。最後の展開が少し急だったけどね」

「良かった」

「でもなんで僕に? 緑には他に友達がいるだろ? 美咲とか」

「嫌だよ。自分で書いた小説なんて、見せられないもん恥ずかしくて」

「ふーん」

「何?」

「僕には見せても恥ずかしくないんだ」

「まあそこまで接点がないからね、むしろ気楽に見せれるっていうか?」


 陽太が少し不機嫌そうな顔をすると

 緑は笑いながら


「冗談よ。冗談。次の話が出来たら、また読んでくれる?」

「ああ、勿論」

「ありがとうね、……私これから塾だから、家、逆方向でしょ? じゃあ、気を付けて帰って」


 別れようとする緑に対し、陽太は何かを気づいたのが、声をかけ


「これ、この栞」


 緑が書いた本に挟まっていた栞を渡す。

 押し花の栞だった。


「……ああ、ありがとう…………」


 緑はそれを取ろうと手を伸ばすが、数秒何かを考えた後、伸ばした手を引っ込めた。


「?」

「それ……陽太くんが持っていてよ」

「これ?」

「そう、私の小説、全五巻まである予定だから、それを全部読み終わったら、本と一緒に返してね」

「……ふーん、まあ分かったよ」


 陽太は栞をポケットの中に入れた。

 

「じゃあね」


 そうやって校門を抜け、丘を駆け足で下っていく緑。

 その後姿が遠ざかるにつれて、胸の奥に言いようのない寂しさが募ることを。

 それが恋って感情の前兆だってこと、その時の僕はまだ理解出来ていなかった。


「……『彼岸花』の栞か……」


 ポケットから栞を出し見つめる。

 緑の自作は今2巻。

 あと3巻。

 あと3巻……それを読み終わってしまえば、もう彼女との関係は消えてしまうのだろうか?

 この彼岸花の栞を渡す時が、僕と彼女の関係に終止符が打たれる時なのか。

 ……。

 それは嫌だ。


「ーータ」

 

 また耳鳴りがする。


「ヨーーーータ」


 耳鳴りが大きくなる。

 いや、耳鳴りじゃない、誰かが僕を読んでいる。

 誰だろう?


「ヨ……タ」


 僕はこの声の主を知っている。

 知っている……だけど、どこで出会ったんだっけ?

 

「ヨ……タ、起ーーき」


 ……そうだ。

 僕は、この世界からーー。

 理想を追って、出たんだ。


「ヨータ起きて!!」


 はっと目を覚ますと。

 フレンの膝の上に寝転んでいた。

 僕が目を覚ましたのを確認すると、フレンの赤色の瞳から大粒の涙がこぼれ、僕の顔を濡らした。


「良かった……」


 フレンは鼻水をすすりながら泣いた。

 僕は起き上がり、状況を確認する。

 

「ッツ……」


 胸に痛みが走る。

 僕が傷んでいる様子を見て、フレンがまた心配する。

 が、何故、胸がこんなにも痛いんだろうか。

 怪我を負ったのは右腕のはずだ。


 いや、これは痛みじゃない。

 喪失感…?

 僕の中の、何か大切なものが無くなってしまったかのような。

 空虚感、欠乏感、虚無感。

 心臓でもない、もっと根本的な、何かーー僕が僕であるための存在証明となるもの。

 きっと無くしたものはーー


「……魂?」


 陽太は一人頭を抱えて呟く。

 そんな時、真横にいたシグルドが


「……起きたか、陽太、良かった」


 ほっと胸を撫で下ろし、今までの状況について説明してくれた。



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