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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
125/193

ウプサラの決戦

「……ッ……」


 竜の形状をした大量の大水が獣人を襲い、ウプサラの神殿内が洪水で満たされる。

 バーラ=アリストロメリアが張った結界がそれらを排除選択し水が消滅していく。

 その大量の濁流が抜け、現れたのは――なんと森霊種ベイラ=ビアトリスを地面に押し付け。

 彼女の喉元に鋭い爪を突き立てている獣人ゲリ=ノストラードの姿だった。


「何故ッ……」


 歯ぎしりをしながら悔しがるベイラ。

 獣特有の大量の銀の毛を濡れ滴らせながらゲリは語る。


「今のが闘術の真髄『狂凶暴虐アエーシュマ』だ」

「『狂凶暴虐アエーシュマ』……獣人種が使用する原型闘術……しかしどうやって避けたのです?!」

「あア? 知らねェな。『狂凶暴虐アエーシュマ』は相手の闘気に反応して体が勝手に動きやがる。俺でもどう動いて、どう避けて、どう近づいたのかわかンねえよ」

「……私を……侮っていたということですか? いつでも倒せるから、少しでも花を持たそうと?」

「あ? ンなことじゃねえ。ただ単に……狂凶暴虐このわざは体に負担が大きいからやりたくなかっただけだ……クソ、いてえ……こりゃあ筋肉痛で10日はまともに動けそうにないな……こうなっちまったらこの戦いは勝てても、次の戦いでは動けねえ、だからやりたくなかったんだ」

「成る程……つまり……痛み分け……ということですね」

「結果的にはそうなるな。どうする? 俺はもう動けそうにないから勝利しても次の戦いを辞退する。それとも俺が降参してアンタが上に上がるか?」

「いや……それはエルフの長寿種として……勝利に敗したのに、勝ち上がるのは己が許せません」

「そうか。じゃあ――」

「降伏です」


 ベイラ=ビアトリスが降伏を宣言したことで第二回戦目が終了する。

 こうして第二試合 獣人種vs森霊種の対決は獣人種 ゲリ=ノストラードが勝ち上がった。

 そして準決勝には、獣人種、巨人種、そしてシード枠で勝ち上がった人類種の3種が進む。

 だが、獣人種は先ほどの戦いでの体の疲労と限界を理由に戦いを辞退。

 どうやら神聖な御前試合であるウプサラの祭儀に、本気で取り組めないから自ら辞退を表明したらしい。


 そのため準決勝が飛ばされ。

 人類種と巨人種が残され、決勝戦が始まる。

 これに勝利できれば――ついに、「枢軸主」オーディンと対面し戦う機会が得られる。


 場面は飛んで控室には。

 人類種代表であるシグルド、陽太、アマルネ、フレンの4名がいた。

 シグルドは新しい剣を鞘にいれたまま大切そうに腰に付け。

 立ち上がると。


「では、いってくる」

「勝ってきなさいよ、『人類最強』さん」フレンが嫌味っぽく励ます。

「シグルドさんなら大丈夫だ……怖いのはの方だが……シグルドさんなら問題なく使いこなせる」


 アマルネは少年のように目を輝かせ懸命に応援した。

 そして最後に、陽太がシグルドの背中をマント越しにボスンと叩いて


「本気でやってやろう。人類はここまで来たんだってこと、もうお前らなんかより強く成長したってこと、見せつけてやれ『龍殺し』」


 と励ます。

 シグルドの冷徹な表情が一瞬緩み。


「ああ」と返事をして


 シグルドは踵を返して、闘技場へ続く階段を登り――光の先へと消えていった。

 皆の期待と熱を一身に背負って



 戦場に立つは十数mもの大きさを誇る巨人フリングニルと。

 白髪・碧眼の剣士「龍殺し」シグルド。


 試合開始の合図が鳴り響くと。

 フリングニルは緒戦の時とは異なり最大限の警戒を見せ


〔神器召喚〕


 分割されし神器『レーギャルン』を顕現させた。

 パキパキと音が鳴り響きながら、外界樹素が集中しフリングニルの両手に大剣「レーギャルン」が出現する。

 注意深く、顕現せし「レーギャルン」の秘めた神秘をまじまじと観察、分析するシグルド。


(あらゆるモノを強制的に『黒灰化』させる『炎漢』の『神器』……発動条件は『術式での攻撃』?……『黒灰化』は如何なる手段であろうと進行を止めることは不可能と聞く……対立術や保護・防壁術式の編纂も無駄だろうな……)


 シグルドは携帯している二本の剣のうち、片方を鞘から抜いて構える。

 その剣は何一つ特徴のない王都の剣士に配られるもの。


「いきなりですまんが、本気でいかしてもらおう『龍殺し』ッ」


 そう言い放ってフリングニルは大剣を空高く持ち上げた。


(来るッ! 神器での攻撃! 受け流せるか?!)


「〔『略式』居合:フチ〕!!」


 一旦、鞘に収められたシグルドの刀が、追突してきた神器の大剣を受け止めた。

 剣術によりシグルドは「レーギャルン」に加えられた力を受け流す。

 自分の攻撃が上手く受け流されたのを見てフリングニルは


(今のは……『フチ』……ほう、成る程。人間が開発した剣術という術式は、多くの既存の術式を参考にして構築されていると聞く……成る程、俺達、巨人族の剣技すらも取り入れられているのか……)


(今のは……介者流の技『牛車ぎっしゃ』ッ?! 噂通り介者流は大剣や棍棒など大ぶりな武具を扱うことが多い巨人族を元に作られた流派なのか……)


 両者ともに見知った技を相手が使ってきたことに驚く。

 剣術は歴史が浅く近代になって様々な既存の術式から知恵を吸収し作り出された傑作の術式。

 その中でも攻撃と力に重きを置く「介者流」は巨人種の剣技をモデルにして作られている。


(……おそらく『炎漢』の神器『レーギャルン』の効果は黒灰化現象の誘発!! ……発動条件は『レーギャルン』で術式を使用し攻撃すること?! ……黒灰化現象をどうにかする術は無いと聞く……つまり当たれば負けの即死技か?! だが先ほどの介者流の術での攻撃では『黒灰化』は受けなかった……どうやら特定の術でしか黒灰化は誘発できないようだ……つまり……あの神器が真価を発揮するのは『火属性』の術式でのみ……ならば、それ以外の術はあまり警戒しなくてもよい)


 シグルドの目論見は当たっている。

 『レーギャルン』の効力を発動するためには『使用者の最適属性での術の攻撃』が必須。

 フリングニルの属性の適応は「炎漢」スルトと同じく「火」。

 よって火系統の術式でしか『黒灰化』は誘発できない。


「〔弾雨だんう)〕ッ!」


 休む間も無く。

 警戒しているシグルドに一瞬で距離を詰め、『レーギャルン』を振るうフリングニル。

 シグルドは再び鞘の中に剣を戻し、フリングニルの攻撃の瞬間に鞘から剣を取り出し受け止める。

 ズンっと、観客席にも伝わる衝撃波が辺り一面に広がった。

 そしてもう一度、ズンっと同程度の衝撃がシグルドに伝わり、衝撃は小さくなりながら続きシグルドの体に負荷を与えた。


(これはッ介者流の「弾雨」! 一度の打撃で二重、三重、四重と続けて複数の衝撃を生み出す技!!)


 ビリ、ビリと、衝撃を受け止めた剣を伝ってシグルドの右腕に痛みが走った。

 

(それもただの「弾雨」ではない! 巨人族の圧倒的な膂力と強化術式を重ね合わせた「弾雨」!! これを何度も受けていれば、右腕が使い物にならなくなるッ!)


「『龍殺し』よ、英雄さんだが何だが知らねーが悪いな。見せ場も持たせず一瞬で終わらしてしまうぞ」


(……居合:神速を使い、下手に間を詰めてしまえば……神器の効力を喰らう危険性がある……かといってこのままでは……ジリ貧だ……よく見極めるんだ。身体能力が高いといえど……速度ではこちらが格段に上! シグムンド師匠に比べればよっぽど遅い……)


 と……油断していたシグルド。

 瞬間、シグルドの30mほど前にいたフリングニルが幻影のように揺らめく。

 シグルドは一瞬で理解した。


(あれは……妖術?! しまった揺動かッ?!)


 巨人族が妖術の幻影術式を使用してくるなど、シグルド含め誰もが想定もしていなかった。

 目視で確認できるフリングニルが妖術で作られた幻影に過ぎないことに気づいた時にはすでに。

 本物のフリングニルは上空200mほどの高さにジャンプしており。

 そして――


「〔飛天〕ッ!」


 「レーギャルン」の大剣と自重、そして樹素での身体強化術を施し。

 200%の上空からの落下技〔飛天〕を繰り出す。

 誰よりも先に、上空のフリングニルの存在を感知したシグルドは。

 

「ッ……〔『略式』居合:淵〕!!」


 咄嗟に詠唱短縮で発動した居合流で「飛天」を受け止めるも。

 耐えきれず右腕の骨と共に、受け止めた剣が崩壊した。

 勝負有り――と思い油断を見せたフリングニルに対し。

 シグルドは折れた腕の痛みを全く気にせず即座に


〔『略式』神速〕


 剣術、最速の技「神速」を発動。

 寸での所でフリングニルは体を曲げ避けるも、肩から胸にかけて一本の切り傷が刻まれ血が吹き出た。


(ッ……腕の痛みを気にせずあそこから反撃に回るとはッ! それに今の速度!! 単に初速が早いだけではないッ……内包樹素を闘素に変換し体に流す速度が0.01秒以下だったッ! なんという神業……『龍殺し』の名は伊達ではない……)


 フリングニルは一旦距離を取り、「龍殺し」の反応速度もとい秘めた潜在能力の大きさに驚く。

 だが


(……ハア……右腕は骨折……剣は打ち砕かれ使い物にならんな……このままでは……)


 シグルドは敗北の可能性を薄々感じ取っていた。

 そして歯を食いしばり、決意を固めて碧色の眼でフリングニルを見据え。


「ッ……そうだ……我は……剣士としてここに立っているのではない。僕は……仲間のために……ここにいるのだ」


 剣士としてのプライドを捨て、ボロボロになった剣をその場に捨て。

 そして左手でもう一本携帯していた剣を抜く。


 異様な樹素。

 霊魂の宿る曰く付き。

 呪われた霊剣。


〔神器抜刀〕


 冷徹な声で詠唱し抜刀されしは――ネリネ家の宝物庫で眠っていた神器。






 

 


 

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