ウプサラの緒戦
またもや修正点
前回、一回戦目は獣人vエルフだと言ってましたが、何故か今回は巨人vs魔族が戦っちゃってます。
二回戦目で彼らは戦わせます。
【巨人種】
【神の天敵とも呼ばれる種族】
【彼らは原初ユミルの肉、骨から作られており、その本体は巨人種の住まう巨人界の肥沃な土地そのものである】
【中でも「霜の巨人族」と呼ばれる巨人族は原初ユミルの『脊椎』を元に構築された種であり、他に比べて圧倒的な力を有す】
【彼らの起源は、太古の神代時代にまで遡る。かつて巨人種は原初ユミルの遺体の一部を埋葬した土壌と一体化していた。原初ユミルの遺体という物質界(此岸)の特異な肉体を埋められた土地は地質が大幅に変化を遂げ、異世界の樹素をかき乱し撹乱する未知なる大地として恐れられるに至った】
【それだけに過ぎなかった土地に、『魔狂徒』ロキが面白半分で神器から神素の提供を行う。結果として莫大な神素と原初ユミルの特異な遺体、そして因果律の条件などが合わさり、土地自体がユミルの魂の片鱗を宿し、『巨人種』という生命体として生まれ落ちる】
【彼らは意識を統合し、記憶、知識、情報を特殊なネットワークを通じて集約させ、固体として異なる自我を有しながらも、個体間で意思や肉体、核、術式回路までをも共有、統括している】
【固体それぞれに『死』という概念は存在せず核が壊され消えれば、その情報と樹素、核が巨人界の大地に還元され、その後、その情報や生態を引き継いだ新たな固体が誕生、生成される】
【死後、異世界の生命体は『座』へと帰還し、その情報や樹素は『記憶樹素』に刻まれた後、『冥府』へと誘われる。しかし巨人種は死後も『座』へ回帰することも『記憶樹素』に記憶が抽出され『冥府』に誘われることもない】
【このように、此岸、異世界どちらの法則にも当てはまらず、巨人種のみで完結した生命循環プロセスを持つ彼らは、その特性から別名『第三の住民』と呼ばれることもある】
*
「なあ、巨人ってどれくらい強いんだ?」
「まあピンキリだけど、巷でよく言われてるのは『魔族を倒すには10人の人間が必要。そんな魔族が3体以上集まってどうにか倒せるのが一般的な獣人種、そしてそんな獣人種が20体集まれば、巨人をようやく1人倒すことができる』って話よ」
「クソ強いな……巨人一人でガルム20人分の強さってことか」
観客席で陽太が隣に座るフレンに尋ねる。
「あくまで平均値の話よ。原生魔獣に敵うほどではないわ、でも……『霜の巨人族』は話が別」
「『霜の巨人』……?」
「ベルゲルミルっていう大昔にいた巨人の血を継ぐ巨人族のこと。ただでさえ強い巨人種の中でも別格に強い集団……その強さはオーディンのエインヘリャルに匹敵するとまで言われているわ」
「エインヘリャルってあれだろ?……あの……オーディンに仕えていた伝説の英兵たち……」
「そう、どれだけ強いか理解できたでしょ?」
「……僕たち、勝てるのか? 今になって無理な気がしてきた」
「無理ね。今までの私たちなら」
鐘の音が鳴り響くと、観客席に取り囲まれた中央――正方形型の闘技場に2つの影が現れる。
片方は十数メートルはあろうかという巨体、歩く事に地響きがなり、屈強な体付きをしていた。
もう片方は大きな蝿だった。
人間ほどのサイズの蝿が、多数あるうちの下側の足だけを使い二足歩行をしている。
それを見たフレンが。
「ベルゼブブ……幽霊都市で戦った奴らと同じ……次期邪神候補の原生魔獣のうちの一体よ」
陽太の頭の中には、メデューサの原生魔獣であるゴルゴンの圧倒的な強さが反芻した。
思わず唾を飲み込む。
緊張を紛らわすために敢えて、話題を変えようとして
「なあ、こんな強者たちが戦って、大丈夫なのか? 周りに被害は出ないのか?」
「問題ないわ。このウプサラの神殿全体に超高度な結界が張り巡らされてる。随分と腕の良い魔術師がいるようね。人間が張ったものに違いないわ」
「なにはともあれ、結界で守られてるから安心っつーことか」
「フレン、陽太、戦闘が始まるようだよ。集中して見ておくといい、次に戦うことになるかもしれないんだから」
アマルネの注意を受け、陽太とフレンは話を中断し、中央の闘技場へと注意を向ける。
神の御前試合でぶつかる、各種族の統治者同士の別格の戦いに。
*
視点は中央の闘技場にいる巨人と原生魔獣に移る。
「では始めるとするか、虫よ」
自分の棍棒を片手に何度も打ち付け終わると、巨人は立ち上がり原生魔獣に向けて言った。
「虫?」
蝿の王 ベルゼブブは巨人の言葉を聞き、翅を細かく振動させ答えた。
ジジっというノイズ音のようなものを響かせながら語る。
「傲慢なものよ、のお。巨人よ。吾輩に向かって『虫』とは――」
「おお、俺からすればオマエは大きい虫でしかないからな」
「吾輩は『蝿の王』、ベルゼブブ。若造に舐められてはしめしがつかん」
「ああ、自己紹介どうも。俺も名乗った方が良いか? 俺の名はフルングニル。『霜の巨人族』っつーところで、参謀を任されてる」
「……巨人、汚らしい土壌から生まれるらしいがあ、こうまで『土』臭いとはなあ」
ベルゼブブの煽りを受け、フリングニルの眉がピクリと動く。
「……蝿の王よ、俺の故郷だけは侮辱してくれるな。ユミル様より受け継がれし神聖な大地を……『汚らしい土壌』だと? 今は聞き間違えたことにしてやる、だが次はない」
「聞き間違えたならばもう一度言ってやろうのお。肥溜めのような土壌から生まれし巨人よ」
「……そうか、虫風情が。御前試合といえど、関係ない、オマエの死体を我が神聖な故郷の肥料としてやる」
「やれるものならやってみろ。〔粗陋蟲〕」
瞬間。
ベルゼブブの体から大量の小さな羽虫が生成され、群をなしてフリングニルに特攻する。
フリングニルはそれらの羽虫を棍棒で薙ぎ払うも、破壊するより生成される量のほうが大きく、捌ききれない。
(術式が付与された特殊な蟲か!! 無尽蔵だなッ?! 破壊が間に合わん……!! ならばッ……)
フリングニルは蟲をいなすと、両足に大きく力を溜め曲げる。
力が込められたフリングニルの両足の太ももははち切れんばかりに肥大化。
そしてそのまま大きく天高くジャンプをした。
最高地点およそ上空から約2kmに一瞬で達すると。
特殊な形状をした棍棒を両腕で掴み。
「〔飛天〕ッ!!」
短文詠唱をすると。
自重落下と共に、そのままベルゼブブのいる地表へと思い切り棍棒を振り下ろした。
フリングニルの体が闘技場へと落ちると共に。
凄まじい衝撃波が周囲の観客席に押し寄せる。
だが、バーラ=アリストロメリアが事前に張ってあった結界によって衝撃波は軽減され、周囲を破壊せずに終わる。
「ッ……」
フリングニルの攻撃を一身に受けたベルゼブブは。
何本もの細い腕を使ってその衝撃を受け止めるも、受けきれず。
防御に使った四本の足が全て粉砕され、青い血を吹き出していた。
(単純な樹素による強化術でこの威力!! 内包樹素量だけでいえばこちらの方が数倍上なはず!! だが……その不利すら覆すほどの圧倒的な腕力!! 吾輩の保護術式すらも全て破壊してきた……腕力、パワーは相手が数段上……だが……)
ベルゼブブが思考をしている間に、一気にフリングニルは棍棒片手に距離を詰める。
そして棍棒を振るが。
まるでその動きを予測していたように避けるベルゼブブ。
間を開けず追撃を続けるも、ベルゼブブに攻撃があたることはなく。
寸でのところで避けられてしまう。
ベルゼブブの体から分離して出現した蟲の大群は纏まって一つの大きな波のようにフリングニルに襲いかかった。
それを見て、フリングニルは追撃を止め、一旦、距離を取る。
(予知? 俺の攻撃をギリギリで上手く避けやがる。蝿の野郎の身体能力はそこまで高くない。速度だって俺より何倍も下だ……なのに何故、俺の攻撃を避けられる? ……まあ、考えられる要因は一つか)
フリングニルは棍棒を後ろの肩に乗せると
「全部、見切ってやがるな。動体視力が段違いなのか?」
「察しだけは良いな……土塊の巨人よ」
【ベルゼブブ】
【魔蟲と呼ばれる魔族の一族の長であり原生魔獣の一体】
【彼は体の中に大量の魔蟲を貯蔵しており、それを使役して戦闘を行う】
【また特殊な目を持ち、1秒間に約1万2千の光の点滅を認識できる。これは人間のおよそ200倍である】
【その目ゆえに、動体視力がずば抜けて高く、連続的な1秒間の運動を1万2千に分けて映像として認識可能。ベルゼブブにとっては周りの動きがほぼ停止しているように見える】
【その1万2千もの膨大な静止画像を処理する負担は術式回路に任せ、そのエネルギーはベルゼブブ自体の圧倒的な内包樹素量で賄う。またベルゼブブの体に貯蔵されている魔蟲との視野の連携も可能であり、結果としてあらゆる攻撃をあらゆる角度から即座に分析でき、かつ極めて鋭敏に対応できる超動体視力とも呼べるべき能力を手に入れた】
「どれだけ速度が早かろうと、認識できねば意味はない。お前の攻撃は吾輩にはもう当たることはない、そして――〔虫酸〕〔『略式』殃禍〕」
ベルゼブブを中心にして360度全方位に周期的に風刃が炸裂する。
フリングニルの右肩と左足が風で引き裂かれ、血が吹き出した。
「ッ……何故……そうか『音』かッ?!」
「察しが良い、だが気付いたところでもう遅い」
フリングニルは風で傷ついた自身の右肩に異変を感じた。
密かに忍ばせた、魔蟲の一匹が右肩の傷口からフリングニルの体内に侵入したからだ。
「条件は揃った……さらば、愚劣な土壌から生まれし土塊よ――〔『式』――系統は魔素。腐肉の饗宴〕」
【原生魔獣である魔蟲の王、ベルゼブブが用いる固有術式、『腐肉の饗宴』】
【対象者の体に術で傷をつけ、その傷口に魔蟲を入れることを条件として発動する原生魔術である】
【ベルゼブブは蠱毒により厳選された666体の魔蟲を体内に飼っており、その魔蟲の幼体である蛆を対象者の体内に侵入させ内部から蝕む術】
【蛆は対象者の内包樹素を吸収して急速に分離、無性生殖での増殖を繰り返し、対象者の血肉を貪り喰うことで成長】
【その魔蟲一匹一匹の力は大きいとはえいないが、この原生魔術の恐ろしさは666匹もの大量の種の魔蟲が一瞬にして体内に侵入、寄生することにある】
【666匹の中で、対象者にもっとも『害』を為す魔蟲のみが対象者の体内で増殖。他の種はその糧となり食い散らかされ、更に成長。結果として666匹のうち対象者に一番効果のある魔蟲のみが厳選されて増殖するため『対立術式』などの施術も困難。一度蝕まれてしまえば、止める術はほぼ無く、対象者の骨の髄まで食い散らかされるまで、魔蟲の侵攻はとどまることを知らない】
【傷をつけ、そこから蟲を取り込ませる――たったこれだけの条件で成立する必殺の魔術】
【脅威度、凶悪性、致死性のみならば、数ある原生術式の中でも随一の性能を誇る】
(音……あいつは……自身の翅で空間を振動させ……その音を『式』として術を発動できるのか?! ……そしてこの術式!! ッ……体内から蛆が……俺の内包樹素を吸い取って成長しているのかッ?!)
「がッああ」
巨人は膝を地につき、嘔吐する。
吐瀉物の中には生きの良い蛆が大量にうごめいていた。
「土塊の巨人よ……原生から生きる吾輩に楯突いたこと……地獄の底で後悔させてやる」
ベルゼブブは原生魔術の出力を更に高めようとした。
その瞬間、下唇を噛みながら、何かを出し渋る素振りを見せていた巨人フリングニルが立ち上がり。
「蝿ごときに……使いたくは無かったが……お許しくださいスルト様……〔神器召喚〕」
フリングニルの震えた右手の中に外界樹素が急速に集まり。
顕現するは――樹界大戦にて全てを燃やし付くさんとする業火を放った『神器』。
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