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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
117/193

新神

「我の助けはいらなかったようですね」


 拍手。

 手を打ち付けて鳴る音に、じっとりとした悪意が含まれているような気がした。


「ジギタリス家211代目当主ーー今しがたーー系譜を屠った所だーー丁度よいーーこの者の遺体をーー不可侵領域にまで運んでくれーー系譜の肉体をーー利用されるとーー後々面倒なのでな」

「……」

「どうしたーー211代当主ーー」

「霊体の8割は損傷……神器ありで、呪術も最高級の精度で施した。我の見立てでは、『枢軸主』、貴様が、此奴の処理に、そこまでの損傷を受けるとは思っていなかったな」


 以前とは異なる様子。

 ジギタリス家当主は崇拝神である枢軸主を尊敬する気持ちなど皆目残っていない。

 そんな態度で語りだした。


「神種も落ちたものだ。まあ、我にとっては今この状況のほうが都合が良いがなーー〔『契約儀式』〕」


 リーヴ=ジギタリスは詠唱を始める。

 途端にオーディンの内包樹素が半ば固体化し動きが拘束された。


「〔ーーリーヴ=ジギタリスが命ず。我が血潮となり脊髄を穿つ、生来不滅なりて、救済のためにそして死を踏みにじり、私達の死を屠殺するもの、その慈悲と寵愛を器に藉身せよ〕」


 瞬間。

 オーディンの霊体に宿る神秘性が急速にリーヴ=ジギタリスに吸収される。

 オーディンは抵抗するも、零式により損傷した体で弱体化しているため抗えない。


(これはッーー契約儀式のーー対価!! 今ここで命令権を私にーー使用しーー強制的に彼奴の体に『受肉』させるつもりかッーー!!)


「乱心したかッ!!!! ジギタリス家当主ッ!!!!」

「フィマフェングから、『大樹の盟約』での復活、その契約で得た命令権は我が引き継いでいる」


(くッーー抵抗できん!ーー詰みかッ! 始めからこの男の目的は、系譜を討ち滅ぼすことでもなくッ!

戦闘で弱った私をーー受肉させその力と肉体の主導権を奪うことかッ?! だがッ!!!)


 オーディンの霊体を形作る神秘が、神代時代の太古の樹素が、急速に奪われる。

 オーディンはここで、もがくことをやめ、リーヴの体に取り込まれていくことを選んだ。

 何故なら――。


「うッ!!!」


 リーヴは突然、胸を抑えて動悸を乱し、地に膝を付ける。


(稚拙な策略よーージギタリス家当主ーー『受肉』し、我の核に肉体の主導権争いで勝利できると思っていたのか? 中々見込みのある奴だとーー思ってはいたがーー所詮は浅はかな男よ)


 オーディンはリーヴの体内でリーヴ自身に語りかけるように言った。


【『受肉』】


【この世に肉体を授かることを指す】


【異世界転移者は元の肉体を保ったまま転移をするが、異世界転生者は、此岸から異世界へ転生する上で別の肉体に魂を転写して受肉する必要が出てくる】


【そのため巫術を扱う際は、受肉するための器となる肉体を予め用意する必要がある】


【また、神種や空想種カテゴリーエラーなどの特別な種は実体を持たない者も多く、彼らが他種族の肉体に移る際も『受肉』を行う必要性がある】


【異世界の生物は魂を所有せず、樹素が固定化した『核』を有しているため、受肉できる肉体は異世界の生物に限られる】


【つまり『魂』を受肉させるには此岸の肉体を、『核』を受肉させるためには異世界の肉体が必須なのである】


【そして『受肉』した結果、意識が同一の肉体に重複することになるが、この場合、より神秘性に勝り、より強力な自我を有す『核』が肉体の最終的な指揮権を得て、神秘性に劣っていた『核』は受肉者の内部で破壊され二度と顕現できなくなる】


「予定とは違うがーー丁度、霊体の殆どを失いーー受肉を選択肢に入れていたころだーー丁度良いーーこのまま貴様の自我を潰しーー私がーージギタリス家当主としてーー振る舞ってやろう…………ん?」


 ここでオーディンは異変に気づく。

 神種、彼らは九種族の中でも別格の神秘性と樹素を所有する極めて強靭な核を有す。

 その核が、たかがジギタリス家当主である人類種ヒューマニティに押し負けることなどあるはずがない。

 だから、ジギタリス家当主の肉体に受肉した所で、当主の元の意識は核と共に消滅し、以後、その肉体をオーディンが運用することになるとーー思っていたのだが。


「…………体が……制御できん?!ーー何故だ?!ーーまさかーー私が肉体の主導権争いでーー敗北したとでも言うのかッーーあり得ないーー断じてありえないーーたかが人間一人の核にーー神秘性で負けるはずがないーーーーーー」

「『枢軸主』よくやった」


 気づけばオーディンは実体を持たぬ存在のまま。

 真っ白の虚無の空間ーー虚数領域へと投げ出されていた。

 そこには霊体たるオーディンと、ジギタリス家当主のみがいる。


「貴様の働き、中々のものだったぞ。だが、呪術の大規模発動を受けた手負いの系譜相手に、そこまで追い詰められるとは、期待外れだ」

「き、貴様ーー貴様は誰だ? 何故、私がーー受肉し自我を潰したはずであるのにーー貴様はまだ生き残っている?!」

「【健全なる魂は健全なる肉体に宿る】」

「……は?」

「これで理解できたか? 『枢軸主』」

「……そうか、貴様まさか――」


【つまり『魂』を受肉させるには此岸の肉体を、『核』を受肉させるためには異世界の肉体が必須なのである】


【健全なる魂は健全なる肉体にしか宿らない。逆に、健全でない魂、その贋作たる『核』も健全でない肉体、その贋作たる『樹素で構築された体』にしか刻むことができない】


【リーヴ=ジギタリスは、巫女より伝授された『樹素の物質化』の技術を活用し、自身の樹素で構築された肉体を、素粒子・物質で構築された此岸の肉体に変換】


【それによって、今現在のリーヴ=ジギタリスの体は、立花陽太や零式などの此岸の人間と同様に『大気中の樹素を乱す』特異体質に変換されている】


【魂の贋作たるオーディンの『核』が、健全なるリーヴの此岸の肉体に受肉したことで結果としてバグが発生】


【オーディンの『核』自体がリーヴの肉体に拒絶・撹乱されーー存在を保てず】


【結果として、リーヴの肉体内で弾け散り破壊される】


「ーー貴様は一体ーー何者だッーー」


 虚数領域で、もはや残り火となったオーディンの霊体が、リーヴの核に話しかけた。


「400年の眠りで忘れてしまったのか? あの時、我が名を名乗らなかったな。今教えてやろう、我が名はリーヴ=ジギタリス」

「ーーリーヴーーだと?」

「思い出したのか? そうだ樹界大戦後、『炉神』イドゥンが機能を停止したことで、『世界樹』は神種を自身の代行者、伝導者として不適切だと判断し、『世界蛇』ヨルムンガンドと『吟遊詩神』ブラキを除いた全ての神種を、その神の座から降ろそうとした。そして降ろされた貴様らに代わって、『世界樹』から伝導者の役を与えられたのが、我だ」

「あの小僧かーー」


 樹界大戦終了時に、不可侵領域で時折見かけた、謎のみすぼらしい少年の姿をオーディンは回想した。

 そうだ、彼も、同じーー三白眼で白髮の容姿だった。


「安心しろ。貴様の役はもう終わった。用無し、ということだ。貴様の神器も、貴様の神秘も全て我が受け継ぎ、世界樹の使命を全うしてやる。安心して散れ、かつての神よ」

「私こそーーこの『枢軸主』こそーー神の意思を代行するに相応しきーー相応しきーー神種なのだッ!!!!!」


 感情を荒げて叫ぶオーディンに対して。

 リーヴ=ジギタリスは冷静に


「〔神器〕」


 短文詠唱をすると、リーヴの右手に光が集まり、やがて一本の赤色槍の形状になる。

 そして


「私こそがッ私こそがッそのグングニルはッーー私がッ原初ユミル様から頂いたッ神器なのdーー」


 伸ばした手はーー空虚をつかみ。


「〔ーー投擲〕」


 リーヴ=ジギタリスが放った神器グングニルが。

 かつての忠誠主であったオーディンの首元を貫いた。

 オーディンの霊体は完全に消滅し。

 リーヴと、神器グングニルのみが残されーー。


「さらばだ、神秘を独占し義務を全うすることも出来ぬ、あわれな偽神よ」


 ここに神種オーディンの神秘を完全に継承したーー。

 新しい「神」が爆誕する。

 

この話に、フリーメモ内に書いたつもりのネタバレメモ書きが、間違って含まれていたことに気づきました。めちゃくちゃネタバレしてました、見なかったことにしてください(._.)

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