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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
114/193

「悪魔」対「偽神」①

【秩序派と混沌派】


【両者は約400年前の樹界大戦時に2つに分かれ相克した勢力である】


【混沌派は文字通りカオスを希求した。『吟遊詩神ぎんゆうししん』ブラキの記述する旋律通りに運行される異世界を否定し、世界樹に新たな『契約儀式』を求め、世界の生末を『不確定』に導くことを目的とする勢力】


【秩序派は世界の安定と旋律通りの確定的な未来を希求した。世界樹こそが絶対であり、異世界の中枢たる『原初ユミル』の魂に新たな『契約儀式』を結ばせることを否認。また異世界以外の別世界からもたらされる『根源』や『特異な肉体、物質』『未知の知識』の一切全てを封印し、異世界と此岸を切り離し永久追放することを責務とする勢力であった】


【13対の神種がこの2つの勢力に分かれたことが火種となり、異世界全土を巻き込む過去最大の全面戦争――樹界大戦が勃発する】


【樹界大戦はアグネ=ド・ノートルダムが『原初ユミル』と契約儀式を結び、アグネ一行の活躍により終結へと導かれた。その対価として人類は『原初ユミル』から『式』という媒介物ありの形で術を発生させる――術式の力を手に入れ、以後、指数関数的な成長を遂げ、約216年前に『人類種ヒューマニティ』という名称が与えられ9番目の種族として認定されるに至った。この一連の歴史は纏めて後世では『魔術革命』と呼ばれている】


【樹界大戦の顛末としては、歴史上では『秩序派』対『混沌派』の戦いは痛み分けということで形式上終わっているが、『混沌派』に属する神族はほぼ戦闘不能状態に陥っており、現代でも『秩序派』の指針であった『吟遊詩神』ブラキの綴る旋律通りにおおよそ異世界は運行しているため、実質『秩序派』の勝利であったと言っても良い】


【樹界大戦の被害は大きく。400年経過した今でもその爪痕は残されており癒えていない】


【具体的な被害としては『秩序派』のリーダーであるオーディン、ヘイムダル、バルドル、フレイ、『混沌派』のリーダーであるテュール、スルトの合計6神が死亡】


【『混沌派』のトールは『秩序派』のヨルムンガンドと戦い負傷し、現在まで休眠状態にある。】


【他にも『秩序派』のノルンは神力を失い、『混沌派』のイドゥンは機能を停止、ヘルは冥府へと追放され、ロキは受肉し力を減衰、また神器を使用する資格を剥奪されている】


【このように樹界大戦は13対の神に大きな被害をもたらし、以後異世界の歴史が大きく動いた】


【『秩序派』の神――オーディン、フレイ、ヨルムンガンド、ヘイムダル、バルドル、ノルン、ブラキの7対は『アース神族』。『混沌派』の神――テュール、トール、ロキ、スルト、イドゥン、ヘルの6対は『ヴァン神族』と呼称されることもある】


【そして樹界大戦を経て、神の時代は終わり、旋律は正規から乱れ――人間の時代が到来した】



 某所 王都ギムレーから遥か北方――渓谷グニパヘリル。

 そこへ空から飛来し現れたのは。

 軍服に学生帽、濃い眉毛が特徴的な青年。

 「系譜」――零式。


「はっこれまたっなんと見栄えの良くない場所だなッ!! 我が日本帝国の四季折々の豊かな自然が愛おしくなってくるッ!!」


 大声で一人喋る零式は、真後ろに気配を感じ振り向くと。

 そこには一人の赤毛の剣士がいた。


「誰だ貴様はッ!」

「ジギタリス家に仕える『熾』剣士グリムヒルトと申す。私がリーヴ様の代行役として貴様を補佐する。要件は以前話した通りだ」

「はっ?! 本当に我が郷土に帰れるというのだなッ?! 嬉しい限りだッ!!!!」


 大日本帝國、太平洋戦争最中に生きた零式は異世界に転移。

 その後、幽霊都市ブレイザブリクでジギタリス家に協力しオーディンを復活させる対価として、此岸に帰るために必要な「彼岸花」を貰う――そのような計画の元、彼らは手を組んでいた。


「しかし……なにゆえ、このような味気ない場所で?」

「大規模な転移術式を組むためには、巨大な結界を張る必要があるからな。王都周辺では出来ない」

「ふむ、自分は『マジュツ』とやらには疎いため分からんが、色々事情があるのかッ」

「そうだ、お前にはまず、紋章を刻まなくてはならない」

「紋章?」

「転移術式の対象を指定するための紋章だ、それを今から施す。じっとしていろ」

「しかし自分の体には『マジュツ』とやらは効かないのではなかったかッ?!」

「だからお前にも効くように、徹夜でリーヴ様が編纂してくださったのだ。良いから早く背中を向けろ」

「そうか! まあ無事に帰れるならなんでもよい! ほらッ早くしろッ!! もたもたするなッ!!」


 零式はその場にドスンと胡座をかいて座り、来ている軍服を脱ぎ背中を向ける。

 そこへ剣士グリムヒルトは刻印を刻み、式の構築を開始した。


「お、ッああッやめろッそこはこそばゆい!! バカタレがッ! そこを触るな! じれったいッ! やめろッ脇の下はッ! だからそこはやめろッ! うわッだッ、なんだこれはッ気持ちが悪いッ!」


 刻印を刻んでいる間、零式はくすぐったいのか一人で大声で笑いながら騒いでいた。


(全くうるさい奴だこいつは……)


 側で刻印を刻んでいた剣士グリムヒルトに怒りが蓄積されていく。


「終わったぞ」


 十数分後、零式の体に刻印が刻まれ終わる。


「やっとか、では早速転移させてくれッ」

「まだだ、今から術師が祈願を行う」

「何だまだ工程があるのか……早くしろッ」


 真っ白な服に身を包んだ女性3名が零式を囲い、舞を披露する。

 零式はその中心で胡座をかいている。

 顔がカクリ、カクリと動き、飽きて眠りかけていると。


「祈願が終わった」


 剣士グリムヒルトの声で起こされた。

 零式は眠い目を擦りながら明朗快活に。


「そうかやっとか! では自分の故郷に帰るとしy」

「次は供犠だ。術式の完成度を上げるために供物を捧げる」

「まだあるのか……」

「そしてその次に送葬、貴様の魂と自我をこの異世界から引き剥がし、冥府へと誘わせる」

「全て終わってから起こしてくれ……」


 零式はまだまだ工程が残っていることを知ると、不貞腐れたようにその場に寝転び。

 大きなイビキをかいて熟睡し始めた。

 そして2時間ほどが経過した後。


「おい、起きろッ零式ッ!」


 グリムヒルトの大声に起こされ、体を起こす。

 どうやら術式の編纂が終わったらしい。

 零式は立ち上がり、ぐっと伸びをしてから拳と拳をぶつけ。


「よしッやっと終わったかッ! 君たちの協力、真に感謝する!」と礼を述べた。

 

 渓谷の崖上にいるグリムヒルトはニヤリと悪意混じった笑みを浮かべ。

 

「〔ᚪᛋᚴ, ᚪᚾᛞ ᛁᛏ ᛋᚺᚪᛚᛚ ᛒᛖ ᚵᛁᚡᛖᚾ ᚤᛟᚢ; ᛋᛖᛖᚴ,

ᚪᚾᛞ ᚤᛖ ᛋᚺᚪᛚᛚ ᚠᛁᚾᛞ; ᚴᚾᛟᚳᚴ, ᚪᚾᛞ ᛁᛏ ᛋᚺᚪᛚᛚ ᛒᛖ ᛟᛈᛖᚾᛖᛞ ᚢᚾᛏᛟ ᚤᛟᚢ:〕」


 術式を発動した。

 瞬間――零式の体に激痛が走る。

 

(なッんだッこれッはッ……)


 刻まれた刻印――ルーン文字体系が黒く光り、赤く染まる。

 そしてそこへ投擲されるは。

 「完遂」を司る神器グングニル。


 零式の左肩を貫き。

 血が吹き出た。


「ッがッあああああああああッ……」


 零式は急いで左肩に刺さった槍を抜こうと握りしめると。

 光の粒子となって槍が消える。

 そして再び姿を現した時には。

 ある一人の、賢者のような神々しさを放つ男神がグングニルを握りしめていた。


「して――始めるか――調和を乱す『悪魔』の討伐を」


 渓谷の底にいる零式を見下ろすかのように。

 「枢軸主」オーディンは審判を下す。

 その一連の様子を見て、零式は、静かに、そして冷静に。

 全身に走るルーン呪術の痛みなど、皆目気にもしていない様子で。

 冷徹に、怒りをあらわにした。


「……どうやら、自分は騙されたようだな」


 神と悪魔。

 調和と撹乱。

 相反する超越者同士の決戦が始まる。











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