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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
111/193

方針

「作戦会議だ」


 幽霊都市で怪我を負った仲間たち。

 フレン、ミミズク、そしてガルムに僕。

 4名がアマルネの看病室へと集まった。

 真夜中、術式天体のノルズリの煌めく光が真夜中の深淵を割くように輝く。

 

 スノトラはブレイザブリク決戦での負荷によりまだ意識を取り戻してはいない。

 だからスノトラを除いた5名の仲間内で今後の動向の打ち合わせをしていた。


「作戦会議も何も、やることは単純でしょ。ジギタリス家の奴らを全員纏めてとっちめればいいのよ」


 せっかちなフレンが口を開いた。


「残念だが、それは叶わない」


 フレンの短絡的な思考を否定するアマルネ。

 フレンの眉がピクリと、怒りで動く。


「ジギタリス家は十三神使族の中でも一際強い影響力を持つ。僕らのような半端者の、身元も分からないようなものたちの寄せ集め、そんなものの発言を誰も信用しないだろう。だから今、ジギタリス家に反抗した所で相手にされないか、最悪全員纏めて暗殺されて終わりだ」

「じゃあどうするってンだよ」ガルムが欠伸をしながら訪ねた。

「幸いなことに、ジギタリス家は、幽霊都市ブレイザブリクで系譜や原生魔獣を打ち倒した僕たちに、直接何かしら制裁を加える様子は今のところ見られない。これはラッキーなことだ、僕はブレイザブリクでの一件が終わればすぐさま何かしらのイチャモンをつけられ全員纏めて処刑されるかと内心心配していた……だがこの心配は杞憂で終わりそうだ」

「……でもそれって裏を返せば、ジギタリス家はもうすでに目的は達成していて、僕らのことなんかこれっぽちも眼中にない……つまり脅威とすら思っていないってことだろう?」


 原生魔獣や系譜と結託し幽霊都市での紛争を仕掛けたジギタリス家。

 その野望を打ち砕き、少なくとも幽霊都市内に投入された全勢力を打ち倒した僕らを。

 ジギタリス家は何故か放置している。

 確かにこれは謎だ。

 ジギタリス家からすれば原生魔獣や系譜すらも倒した者たちが今でものうのうと生きていて。

 いつ自分たちに歯向かってくるか分からない、そんな状況で。

 その権限を行使すれば簡単に僕らのことを暗殺、処刑できる権力を持ちながら。

 僕らを敢えて野放しにしている。


「単純に考えて、3つ可能性が考えられるな。まず陽太くんが言ったように、『僕らのことなんかこれっぽっちも脅威に感じてない』から何も行動を起こさないという説。2つ目に『僕らの戦力を恐れて何も手を出さない』説、ジギタリス家からすれば僕らは原生魔獣をも上回る猛者たちだからね、下手に刺激して反抗を喰らうことを恐れている可能性。3つ目が『僕らを退治するよりもっと重要度の高い使命に負われている』という説だ。僕的には3つ目の仮説が最も可能性が高いように感じる」

「何故?」フレンが尋ねる。

「先日、ジギタリス家の崇拝神『オーディン』が不可侵領域内に向かったという情報を聞き入れたからだ」

「「!!」」


 フレンとガルムがオーディンという名に反応した。


「みんな知っての通り、オーディンは400年前の樹界大戦時に『フェンリル』によって殺害されている。だが幽霊都市でジギタリス家が復活させてしまった」


 フェンリル。という名を聞き入れ、ガルムの目が凍てつくのに気づく。

 いつも気楽そうで、悩みなんかひとっつもない、そんなガルムのここまで冷酷な表情は、まだ付き合いは短いとはいえ、僕は始めて見るものだった。


「ジギタリス家は現在、オーディンの対応に追われていると思われる。なにせ、400年ぶりの崇拝神の復活だ。浮足立つに決まっている」

「オーディンって神様の……目的はなんだよ……ジギタリス家は何がしたいんだ?」


 異世界の歴史に疎い僕は疑問に思って聞く。


「そんなの決まってるでしょ。ヴォルヴァが言ってたじゃない、神の存在意義は『系譜』の抹殺よ」

「系譜の抹殺……」


 現状、僕は樂具同と須田正義、二人の系譜を倒している。

 そして確認している限り、残っている系譜は2人。

 大月と零式だ。

 つまりオーディンとジギタリス家の目的は大月と零式の抹殺?

 なんだか如何せん、繋がってこない。


 そもそも、系譜と協力していたような奴らが、いきなりその莫大な戦力を切り崩すだろうか?

 ジギタリス家は原生魔獣や系譜と手を結んでいた。

 そしてその過半数を先の幽霊都市で僕らが倒してしまった。

 であるとするならば、ジギタリス家は今、戦力不足な状況。

 

 ならば、わざわざ自分の戦力、仲間である「系譜」……大月は違うが、零式なんかは確実にジギタリス家側についている。

 そんな零式と、自分の信仰神であるオーディンを真っ向からぶつけて戦わせるなんて真似をさせると思うか?

 ただでさえ戦力が削られた状況で、身内の、結託しあった仲間内で、内輪揉めを起こそうとするだろうか?

 

 その隙を見計らって、僕らがジギタリス家に攻め込んだらそれこそ一貫の終わりだろうに。

 それか、ジギタリス家にとっては系譜ですらオーディンが復活するまでのつなぎ、捨て駒で、オーディンが復活すれば後は何でも良いのか?

 又は、僕らのことなんて本当にこれっぽっちも眼中にないのか?

 いや、それはないだろう。

 ジギタリス家の……フィマフェングという男が言ってたじゃないか。


【……ああ今は猫の手も借りたいほどだ。深刻な人材不足、王都には兵は殆ど残っていないし、先日、『龍殺し』や残された『熾』の階級の剣士も戦場に導入されてしまった。つまり今現在、魔族フレンや立花陽太くん、スノトラ=ド・ノートルダムなどを抑える者がいない状態なんだ。そんな状態で君たちに反乱でも起こされてしまえば簡単に王都は危機に瀕する】


 あの発言が嘘だったとは思えない。

 王都に兵が足りない状態で、スノトラとフレンの反抗の可能性を念頭に置いていた。

 それだけジギタリス家は逼迫していた状況だったのは確かだ。


 つまりジギタリス家にとっては、「フレンやスノトラという邪魔な強者」を纏めて幽霊都市ブレイザブリクで原生魔獣や系譜と当て殺害する。

 おそらくそんな思惑だったのだろう。

 だがその思惑が見事外れてしまった。

 ならば焦るべきではないか? ならば僕らを治療せず、幽霊都市で弱った所に暗殺を仕掛けるべきだったのではないか?

 

 思考が巡り、空回りする。

 考えがまとまらない。

 ジギタリス家の真意が、目的が見えてこない。

 僕が悶々と答えが見つからない問いに頭を悩ませていると、アマルネが言い放った。


「おそらく、ジギタリス家も一枚岩ではない、ここからは僕の勝手な推察に過ぎないが……ジギタリス家の外交担当を担っていた『フィマフェング』という男が幽霊都市で死亡していたことが明らかになっている。おそらく、踊らされたのだろう……フィマフェングよりも更に上の……そうジギタリス家当主に」

「……ジギタリス家の当主ね」

「ジギタリス家の当主の素性はここ400年間全く明かされていない。ジギタリス家はいつもそうなんだ、当主が顔を出さず、外交担当となる者が積極的に表に顔を出し活動をする、多分、ジギタリス家の当主が全ての黒幕と見て良いだろう。執念深く、警戒心の強い者だ。おそらくオーディンも、系譜も、彼にとっては盤上のコマに過ぎない……最終目的はもっと……深い所にある」

「何よ、最終目的って」

「そんなの僕が分かるわけないじゃないか、あくまでただの仮説だ。腐っても僕はネリネ家の末裔、王家に関する情報は逐一入ってくるし、王家の動向にも詳しいんだよ」


 アマルネが十三神使族、ネリネ家の末裔であることはつい最近知らされた事実である。

 おまけに、どうやらフレンも十三神使族の血を引いてるらしいのだとか。

 スノトラはアグネとかいう偉人の血筋だし。

 僕の周りの奴らは良いとこの生まれが多く、なにもない僕は、少し疎外感を感じてしまう。


「ただ、人間の王家に関しては昔からかなり黒い噂が多いんだ。悪名高いネリネ家の血筋である僕が言うのも何だがね……400年前の樹界大戦終結後から、水面下で少しきな臭い動きが多い。都市伝説に過ぎないが、どうやら王家には裏機関も存在するとか何とか……」

「はあ? 王家に裏機関? 人間の王家は『大樹の盟約』を結んだ『世界樹』に認められた特例の血筋でしょう? いわば血統書付きの正当なる純粋な王族……他の種族は勝手に個人が『統治者』を名乗ってるに過ぎないけど、人間のそれは話が違うでしょ、そんな王家に裏機関? 陰謀論を作るにしてももっとマシな話にしなさいよ」


 フレンが長々と突っ込みを入れた。

 アマルネは耳をふさぎながら


「あくまで都市伝説に過ぎないって言ったろう?」

「まあ、ンな話どうでもいいからよオ~、今後の方針、決めてくれや。話が絡まりすぎて意味分かンね~し」


 フレンとアマルネが言い合っている最中。

 ガルムが横槍をいれる。

 アマルネは「こほん」と分かりやすく咳をしてから


「一番確実な方法は、僕がネリネ家として『大樹の盟約』を結び王家に成り、ジギタリス家当主の陰謀を告発すること」

「それは無理でしょ。ネリネ家の市民からの評判はサイアクよ、王家になんてなれやしない」

「だがそれが一番の、正攻法だ」

「そんなことより、やっぱり奇襲を掛けるべきよ。ジギタリス家当主とか知らないけど、おそらく『オーディン』は『ジギタリス家当主』との契約によって生み出されてる。ジギタリス家当主さえ殺害してしまえば、オーディンも顕現を維持できず崩壊するでしょう」

「そんなやり方じゃ、誰も付いてこない。血塗られた歴史の上に成立した王家なんて……遅かれ早かれ滅びる」

「それは理想論でしょ? そんな楽観的な話をしている隙に、アタシたちが全滅したらどうすんのよ」

「駄目だ。こればかりは譲れない。殺戮と暗殺、強硬的な手段で達成した王の地位など意味がない」

「アンタの家系の評判がどうとか、アタシにとってはどうでもいいわけ。ネリネ家の汚名を返上したいの? アンタ」

「違う。王として、人民を纏める立場にあるものが、そのような手段で上に立っても意味がないと言っているんだ。それではジギタリス家の当主とやっていることが同じ。正攻法で、王にならなければ、その上で、ジギタリス家当主を告発する。正当な手段で、正当な法律に則って」

「バカの言う言葉ね。アタシ、アンタのこと前から気に食わなかったけど、謙虚で現実を見れている所は好感をもってた。でも今じゃ、そんな影すらないのね」

「……僕も、フレンを見て魔族に対する偏見が無くなりかけていたんだが、どうやらただの思い違いだったみたいだな。やはり魔族は野蛮で後先を考えずに人を殺したがる」


 場の空気が悪くなる。

 フレンとアマルネが対立している。

 あくまで上に立つ者の資格として、王としてのあり方に拘るアマルネと。

 あり方や矜持などはどうでもよく、非道な手段を使ってでも目先の脅威を退けようとするフレン。


 どちらが正しいのかは分からない。

 いや、どちらも正しいのかもしれない。


 空気が強張り、張り詰めた沈黙が続く。

 その空気を破壊したのは、意外にもガルムだった。


「ンだ、おまえら、さっきからグチグチと。話が複雑で分かりにきーンだよ」

「ガルムには分からない話だ」

「つまりアレだろ? 糸目は『マトモな手段で勝ちたい』。フレンは『非道な手段でも勝ちたい』ってコトだろうが? なら話は簡単だぜ。どっちもジギタリス家のアホ野郎に勝ちたいってだけの話だ。じゃあ、真っ向から勝負を挑んでぶちのめせばいいじゃねェか」

「……」

「7月6日にオーディン復活を祝うため『ウプサラの神殿』でオーディンの野郎との模擬試合が行われる。これには十三神使族や人間だけじゃない、ありとあらゆる種族の偉い奴らが集まって、オーディンの『戦士』どもとドンパチ戦えンだ! ここでオーディンとジギタリス家当主を真っ向からぶっ潰してやりゃいいんだぜ」


 名案かのようにガルムが語った。

 フレンはため息を吐いて呆れ顔をする。

 が、その話を聞いていたアマルネは真剣な顔で数秒の間考えてから


「……成る程。オーディンの復活の祭事だからこそ、十三神使族だけじゃなく、他の種族の統治者たちも訪れる……また崇拝神だからこそ……流石のジギタリス家当主といえど、顔を出さないわけにはいかない……しかも模擬試合とはいえ……エインヘリヤルの勇姿を讃えるために全力で戦闘をしても全く問題がない……そこで打ち勝てれば、ネリネ家の末裔である僕の話も聞かざるを得ない……全世界の統治者が集まるから、ジギタリス家の悪行を広めることができる……模擬試合は聖なる戦いだから、ジギタリス家といえど変な策略は練れず、正々堂々と戦うことを強いられる……まさに最適な環境だ。逆になんで僕はこの方法を考えつかなかったんだ?」


 アマルネの顔が晴れ、ガルムに向かって笑顔を見せる。

 ガルムは腕を組みながらうなずき、ドヤ顔をして見せた。


「話が単純になってきたね、つまり僕たちがやるべきは……オーディン復活の模擬試合で……」僕が言うと

「エインヘリヤル含む、オーディン、そしてジギタリス家当主を打ち破ってジギタリス家の本性をばらし」フレンが口を挟み

「……僕……アマルネ=ネリネ家が『大樹の盟約』を結び王となり、ジギタリス家当主を告発する!!」


 僕らは突破口が見つかって皆で顔を合わせて頷きあった。

 これなら、この方法ならイケる。

 正攻法で、しかも相手が策略を練ってくることもなく、正々堂々と。

 ジギタリス家当主、諸悪の根源を、打ち砕ける。


 僕らが解決の糸口が見つかって喜び合っていると。

 

「ーーその作戦、我も参加してよいか?」


 アマルネの看病室の扉が開き、その向こう側から。

 「龍殺し」シグルドが腕を組みながら、僕らに向かってそう呟いた。

 

 

 

 




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