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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
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休暇

 体は休暇を求めていた。

 幽霊都市ブレイザブリクの決戦が終結した後。

 僕らは皆、王都へ再び送り戻され治癒部隊による治療が為される。


 契約儀式で「魂」を消費し炎を捻出させたせいか。

 体は完治したとはいえ、何故か胸の中に大きな欠損があるような、そんな欠乏感に襲われていた。

 もう魂を消費した炎は生み出せないだろう。

 そもそも最終奥義だったはずなのに、幽霊都市のいざこざのせいで何発も打つことになってしまった。


 巫女様からは「死にそうなとき以外は絶対使用禁止!」と釘を差されていたのに。

 まあ仕方ない。

 あれが使えなきゃ僕らは確実に幽霊都市で死んでいたから。

 剣術の居合流の基礎の習得に契約儀式でのフレア。

 

 付け焼き刃に過ぎないものだったが。

 余白の休暇期間に王都で身につけて良かったと今になって心底思う。

 やはり無駄じゃなかった。

 パワーアップはできるときにしないと駄目だ。

 

 また幽霊都市での紛争で失ったものも大きい。

 とりあえず目先の脅威は排除できたが。

 結局僕が得たものなどほぼ皆無と言ってよく。


 大量の剣士と市民が死亡し。

 そしてその不運は僕らにも降り注いでいる。

 ボドカさんに、ヨゼフ。

 身近な人だけでも2人も死者が出た。

 彼らの死を無駄にしてはいけない。


 僕以外のメンバーといえば。

 スノトラはまだ休眠して意識を失ったままだ。

 どうやら「重力術式」の編纂のために、術式回路を持たないスノトラは。

 本来、術式回路を経由して発動すべき重力術式の、その多大なる負荷を。

 脳の回路で補っていたらしく。

 体の傷は再生し終わっているものの、まだ意識が戻らないのだ。


 フレンは。

 意識は取り戻している。

 が、体の傷がひどい。

 魔眼での石化攻撃を何度も受け続けたことで。

 体の節々の硬化がまだ解けないのだ。

 石化の後遺症ーーと表現してもよいだろう。

 彼女自身、「特に問題はないわ」と強がってはいるが。

 もう暫く戦闘できる状態ではないことは明白である。

 フレンが習得した究極の浄化、中和作用を持つ原型術式「神聖なる敬虔スプンタ・アールマティ」とやらを。

 習得する以前に石化した箇所の損傷が特にひどい。

 またスノトラほどではないが。

 原型魔術を何度も使用し続けたこと、更には母から受け継いだという「神聖なる敬虔スプンタ・アールマティ」の使用による脳の負荷もかなり大きいらしい。

 彼女も術式回路を持たないので、その分の損傷と負荷が脳へ加わっているようだった。


 アマルネは。

 大体の傷は治ったが、樂具同の力場操作を受け粉々に砕かれた腕を。

 治すのは王都直属の治癒部隊といえ難儀らしく。

 まだ養生中である。

 だが、アマルネに関しては体の傷よりかは。

 心に負った傷が大きく立ち直れそうにないようだ。

 それもそうだ。

 長年の付き合いであったヨゼフとの死別。

 すぐに忘れ去りふっきれるほど彼らの関係性は柔く無かったのだろう。

 精神的にも、身体的にも暫くの休暇が必要だ。


 ミミズクさんは。

 まだ傷こそ完治してないものの意外と前向きだ。

 僕たちの中では僕に次いで怪我が軽かったようで。

 まだ包帯こそ巻かれたままであるものの、剣を振るえるくらい回復している。

 毎日、ボドカさんの墓場にいっては、祈っているらしい。

 流石は剣士だ。

 精神も強く、体も頑強で。

 もう前を見据えている強さは立派だ。

 「剣士が死ぬなんて、日常茶飯事っす。それに、あんまメソメソしてるとボドカさんに蹴られそうっすよ」と軽口を叩く。

 後腐れのない、爽やかな感情だった。


 

 ガルムは。

 精神的な傷を含めなければ、一番の重症だった。

 がーー流石は、獣人族。

 自然治癒力もずば抜けており。

 治癒部隊の治療を受けたとはいえ。

 ボッコボコに砕かれた傷や抉れた肉、内蔵までもが僕よりも早く完治した。

 「獣人は、心臓と脳みそ以外の器官は核さえ無事で、断片が残ってンなら、再生させることができンだぜ?」って。

 ドヤ顔で語っていた。

 正直ドン引きした。

 やはり生物としての格が違う。

 いや、もはや獣人が人間と同じ生物として数えられている方がおかしいくらいだ。

 なにはともあれ、ガルムは元気、ガルムに関しては心配は無用だった。

 必要とあらばすぐさま戦闘に駆けつけられるだろう。


 シグルドは。

 怪我をした皆の元へ向かっては。

 頭を下げ。

 全力で謝罪をした。

 「全ての責任は僕にある」と。

 「我が封印されたのが発端だ」と。

 全ての罪を一身に背負う気だ。

 僕のところにも来た。

 「『龍殺し』として謝罪をしたい」と言いやがった。

 あいつ。

 『龍殺し』として、とか、遠回しなことしやがって。

 それは『シグルド』としては、謝罪するつもりはないって言ってるようなもんじゃねえか。

 つまり、幽霊都市の一件は「剣士」としてなすべきことを為さなかったという義務ゆえに謝罪するが。

 僕を暗殺しようとしたことに関しては、シグルド本人の中でもまだ整理しきれてないってことだ。

 ムカつくよ。

 オマエのそういうところ。

 僕はもう、暗殺のことなんて許してるってのに。

 オマエが謝りに来れば、許してやったってのに。

 アイツは、まだその責任を感じてんだ。


「背負すぎなんだよ、全部……英雄さんよ」


 患者用のベッドに寝転び、窓から月明かりーーいやヴェストリの光を見ながら。

 深夜そう一人で呟いて、僕は深い眠りについた。

 


 

 

 

 

 


 

 

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