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リンカーネーション  作者: 鹿十
第五章 ラグナロク編
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「座」②

「あれ? 誰かと思ったら、オーディンさん? 久しいねえ~400年ぶりかな?」


 空に寝転び浮遊する一人の少年。

 目はオッドアイで色が異なり、見た目は16歳程度の少年であるというのに。

 明らかに人間ではない、そんな気配を漂わせていた。


「『魔狂徒』ロキーー貴様、受肉していたのか?」

「ああ、そうそう。この400年間さあ、樹界大戦で仲間が死んだり、眠ったり、引きこもったり、さんざんで遊ぶ相手がいなかったからさ~暇してたんだよね~~」


 ロキは欠伸をしながら気楽に語る。

 対照的に不可侵領域内部へと突入し、世界樹の幹の内部に入ったオーディンは。

 厳格な姿勢を崩さない。


「旋律からーー逃れるためか?」

「いいや、娯楽のため。カミサマって身分にも飽きちゃってさ~、だって樹界大戦以後、僕のやること無くなっちゃったわけだし? 何やったってこっちの勝手でしょ?」

「樹界大戦からーー現在まで。残った神種と、その動向、顛末を説明しろ」

「いきなり威圧的だなあ~復活してもそこん所は変わらないね? せっかく400年ぶりに復活したんだからちょっと遊んでいけばいいのに~~」

「いいからーー早くしろーー小僧」


 遊びに乗ってくれないオーディンに対し、ロキは不貞腐れたような表情をして。


「えっと~、ご存知の通りバルドルは樹界大戦勃発と同時に死亡。フレイは戦死。オーディンさんは言わずもがな。えっとあとは~~ああ、そうだテュールさんも死んだね。トールはヨルムンガンドと戦って~死んではないけど大怪我を負ったからずっと世界樹の根で休眠中~~まだしばらく起きてこないんじゃないかな? ヨルムンガンドは相変わらずだよ、何考えてるか分かんないけど、オーディンさんの復活には一応協力してたみたい。ブラギも変わらず引きこもってるよ、陰気な奴だからさ」

「ーーヘイムダルはーーどうした?」

「ん? そこ聞いちゃう?」


 ロキはははっと爽やかに笑い。

 そして


「僕が殺した、目障りだったからね、あいつ」


 と冷徹に告げる。


「安心しなよ、結局、旋律はアンタら秩序アース派に都合の良いように動いてる。今更僕が、旋律に介入して、一悶着起こそうって気なんかもうないよ。それに僕は受肉を選んだから、到底戦えそうにないしね」


 オーディンの殺気を感じ取り。

 ロキは爽やかに反抗の意は無いことを告げた。


「そっちに都合が良いでしょ? こっち側の最高戦力『トール』は既に休眠状態。頭の『テュール』も死亡。対して『ヨルムンガンド』はピンピンしてて、『ブラキ』は相変わらず。だから僕が『ヘイルダム』を殺したことくらい、見逃して欲しいんだけど。安心しなよ、樹界大戦は、秩序派そっちの勝利で終わったと言って良い」

「ーーそう、ーーだなーー混沌ヴァン派は今更、脅威にはならない。今の脅威はーー悪魔たる系譜だーーーー」


 ロキは何かを思い出したように「あ~」と声を上げた。


「そういえば、僕たちって元は、系譜って奴らに対抗するために作られたんだっけ? ははっ忘れてたよ~」

「大樹様にーー科された使命をーー忘れるとはーー言葉にならないーー愚かなーーロキよ」

「ははっいいじゃないか、別に使命を遂げるだけが人生じゃないでしょ~~?」


 ロキとの会話を切り上げ。

 オーディンは世界樹の枝から降り、そのまま根へと向かう。


「相変わらずせっかちでかたっ苦しいな~オーディンさんは、嫌になっちゃうよねえ」


 そんなオーディンを見つめ、ロキは他人事のようにつぶやき笑った。

 オーディンは世界樹の根の奥深くへと向かう。

 そして着地した。


 そこは。

 世界樹最深部ーー通称「『座』の箱庭」。

 根に絡まった、白色に神々しく光る球体。

 これこそーーユミルの『魂』である。


 オーディンは深く敬礼し、ユミルに敬意を払うかのように


「遅くなりましたーー『枢軸主』帰還致しました」


 と告げた。


「そしてーー早速で悪いのですがーー樹素を供給してもらいたく馳せ参じーーましたーー系譜の抹殺のためにーーそうですーー我が『兵』を召喚したくーーはっーーありがたきーー」


 原初ユミルの魂に語りかけるオーディン。

 そうしてアダムの許諾を貰うと。

 オーディンは。


〔『式』系統はーー神素 来たれ英霊よ。主の祝福を受け、馳せ参じろ。名誉ある死を迎えた強者どもよ〕


 オーディンに付き従い、そして死に。

 冥府へと導かれた英霊の核を召喚する。

 そう、これこそ、オーディンの術式により顕現する「エインヘリヤル」である。


 死後、冥府ニヴルヘイムへと導かれた英傑を霊体で召喚する秘技。

 ルーン呪術と並ぶ、オーディンの代表的な固有術式の一つ。


 甲冑を来た英霊が数十体、外界樹素が固体化し顕現する。

 彼らは皆、主であるオーディンに向け片膝をつき、敬意を表す。


「400年ぶりでございますね、『枢軸主』」


 その中の一人、巨人種ジャイアントだろうか、10数mもの巨体で赤毛が特徴的な屈強な戦士が口を開いた。

 

「堅苦しい名で呼ぶのはーーよせーー我が勇敢な子たちよーーおお、ボルソルン、久しいな」

「ええ万物の父、オーディンよ。真に光栄です」


 ボルソルンと呼ばれた英霊はオーディンと抱き合った。

 神種であるオーディンと対等で友好的な関係を築いているようだ。


「では、私たち『死せる戦士』が召喚された意義は?」

「ああーー時代はーー樹界大戦から変化しーー今最大の脅威はーー混沌ヴァン派ではなくーー系譜にある」

「系譜……この世の理から外れし力を掌握するもの……ですよね」

「ああーー彼奴らをーー完全に殺害しーー旋律を元に戻すーーそのためにーーお前たちのーー力を借りたいーーもう少しーーお前たちとの久しい邂逅の余韻に浸っていたい所だがーー時間が惜しいのでなーー系譜をーー倒した後にーー晩餐を開きーーヴァルハラのーー居心地を聞くとしようーーつもる話はこの400年間でーーいくらでもーーあるのでな」

「はっご要望とあらばどこへでも駆けつけます」

「頼もしい限りだ。では私は一旦ーー人間界ミッドガルドに戻りーー契約を果たせねばーーならぬーーお前たちはーー力を取り戻すまでーーこの不可侵領域内でーー準備をしておけーー系譜と戦う際に呼ぶためーー戦闘の準備を怠らぬように」

「「「「「「「「「「「はっ」」」」」」」」」」」


 エインヘリヤル一同が威勢の良い声で返事をすると。

 オーディンの体は再び光となって消え、人間界ミッドガルドへと先に向かう。

 エインヘリヤル達は、400年ぶりにあらためて顕現した仲間たちの顔を見て。

 少しばかりの休暇と会話を楽しもうとした。


 その瞬間ーー。


「――メス


 鋭い声と共に「ドスッ」という鈍い音が響く。

 エインヘリヤルの一人が、背後から木の枝で貫かれ血を吐いていた。

 英霊たちの視線が突如として現れた一人の男に集中する。


「やれやら、お前さん達、英霊だがなんだか知らないが、悪いな。400年ぶりに叩き起こされたばかりで、いきなりだが、そこをどいてくれないか? 邪魔なんでな」


 オーバーオールに身を包み。

 青色のツバの付いた帽子に。

 黒色のスリッパ。


 奇妙な格好をした男。

 内包樹素がゼロの、「根源の異なる力」を有したーー大月桂樹おおつきけいじゅを見て。

 エインヘリヤルたちは400年前の戦闘を思い出し。

 その肉体に刻まれた連戦の記憶を引き出し、すぐさま臨戦態勢に入った。


「なら、纏めて、冥府に送り返してやるとするか、怨霊ども」


 大月は静かな声で啖呵を切った。

 



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