「座」①
第五章始まります。
そしてここで立花陽太の物語は終わりを迎えます。
リーヴ、巫女、オーディン、ユミル、全ての思惑と因果が絡み合い。
最終的に旋律はどのような譜面を描くのか……どうぞご期待ください。
【エギル=ゼフィランサス】
【約400年前の樹界大戦時にて突如として姿を消した十三神使族『ゼフィランサス家』の当主】
【彼の部屋には『彼岸花』の花びらが数枚、発見された】
【樹界大戦時の混乱期にて不可侵領域に突入し『死をも克服する』彼岸花を採集、それを式に組み入れることで転生術式を発動】
【彼がどこに、どの時代に、どの者に、そして何の目的でーー転生を行ったかは判明していない】
【だが同時期に、ゼフィランザス家の娘も突如として姿を消したことから、最低でもエギル=ゼフィランサスと、ゼフィランサス家の娘、2人が同時に転生したことだけが分かっている】
【王家裏組織ーー通称『デストルドー機関』は彼に関する情報そのものを遮断、隠蔽。その後、計画の核となるエギル=ゼフィランザスの一番娘 通称『21G』が消えたことで崩壊し機能停止を余儀なくされた】
*
「ーー貴様が契約主か?」
「ええ、ジギタリス家211代目当主でございます。我が主『枢軸主』様の顕現成就、真に嬉しく存じます」
オーディンは孵化した直後。
契約主たるリーヴ=ジギタリスの元、即ち人間界の王都へと飛来。
そうしてリーヴの前へその御姿を表した。
リーヴは膝をつき、深く敬意を表している。
「よくやった、褒めて遣わす」
「ありがたきお言葉……」
「不完全顕現ゆえーー私の力はーー樹界大戦時の半分以下ーー悲しきかなーーまだあの狼にやられた傷が疼くーーーーが、問題なく体は動くーーして、ジギタリス家211代目当主、貴様の願いは何だ?」
「……貴殿の目的と同じでございます。この世の旋律を乱し崩す悪魔ーー全13体の『系譜』の討伐と、この樹界の恒常的維持……」
「ふむーー系譜ーーかーーして、今日に至るまでーー系譜は何体ーーこちらの世界へ転移してきた?」
「……樹界大戦時に1体。これは既にオーディン様含む神種によって討伐済み。その後、約3,4ヶ月前に2体目の系譜が一人、こちらは人間によって討伐されています。そして2体の系譜を敢えて呼び出し……貴殿のご復活のために、結託しておりました」
「何ーー系譜と結託だと?」
「申し訳ございません。戦力不足故、致し方なく」
長い顎髭を触り、考え込むオーディン。
「まあ良いーーこうして私は復活を遂げ、旋律は元に戻りつつあるーー私はまず、神界に向かいーー現存する神種の確認と『世界樹』様との接触、そして戦力の確保に掛かる。それまでに貴様はーー逃げられぬよう系譜をここに拘束しておけーー全て私がーーこの手を以てーー屠ってやろう」
「はっ……」
そう言い残し、オーディンの姿は消える。
世界樹の根ーー即ち不可侵領域へと飛び去ったのだ。
リーヴはオーディンが消えたのを確認すると、立ち上がり、玉座へと戻る。
そしてーー傍らにあるレーク碑石を撫でながら、悪意のある笑みを浮かべていた。
*
「……来たな」
オーディンが世界樹付近、不可侵領域に向かったことを確認し。
大月は呟く。
その直ぐ側には黒いコートに身を包んだ、古傷だらけの幼気な少女アザミがいた。
「……作戦通りに行くと思いますかね? アザミは半信半疑です」
「大丈夫だよ、任しておけ。それに今回を逃したらもうチャンスはない。分かってんだろうなアザミ? もしかするとオマエも戦うことになるかもしれないんだぜ?」
「…………場合によっては」
「含みのある回答だな。まあいい、作戦内容は分かってるな?」
「はい、オーディンが冥府から『ヴァルハラ』に呼び出す英雄の魂と共に不可侵領域に突入。その後は……」
アザミと大月のいる場所は。
世界樹から約50kmほど離れた地点。
ギリギリ不可侵領域に入らない場所である。
世界樹を囲うように高度な結界が貼られている場所ーーそれが不可侵領域。
普通の生物は入ることすら敵わない場所。
その不可侵領域を囲うように、とてつもなく大きな山脈が根付いている。
その山脈を登り、不可侵領域、そしてその中枢に生える世界樹を見つめるアザミと大月。
「……ああ、『座』を奪還する」
「つまり……原初ユミル…いや創世時代に結ばれた世界樹とユミルの契約儀式を……」
「破棄させるんだ、今日を逃せばチャンスはないぜ?」
大月は気配を感じる。
アザミも同様だ。
大気中の外界樹素が急速に、世界樹に向け収斂していく。
間違いない、オーディンの『エインヘリヤル』その召喚が始まったんだ。
アザミと大月は話を切り上げ
「さあ、もうお話してる時間はないぜ。クールに行こう。不可侵領域侵入、座の奪還……計画開始だ」
そういってアザミの手を取り、空中に身を投げた。
二人の体は大月の力により歪み、転移し。
二人は、不可侵領域へと侵入する。
座の奪還を目指してーー。