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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
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収拾

長らく続いた幽霊都市ブレイザブリク決戦ーー第四章も今回で終了です。

次は第五章。最終章の前章。

陽太の物語の終わりを描く章です。

「戦争が起きたんじゃ……」


 場面は転換し。

 場所は幽霊都市ブレイザブリクの中枢地点。

 龍殺し、の封印されている場所。

 すなわち陽太たちと樂具同が衝突した地点である。


 炎に焼かれながら語る樂の言葉を聞き入る陽太。


「アンタが転移した後のこと、現実世界で『大戦』が勃発した。そのせいで日本は急速な武力化を求められた……儂のような障がい者は、兵役にも付けないゴミと同類……差別され避難され……生きている意味なぞ無かった」

「やっぱりそうか……」


 陽太の生きていた時代でも予兆はあった。

 テレビをつければ世界情勢の悪化と、各地で頻繁に生じる紛争。

 それに加え、中、露、米、仏、印、独、日本、英国ーー先進国の入り乱れる思惑と供託、騙しあい。

 

 何がきっかけかは分からない。

 だが世界は急速に破滅へと向かっていた。

 だれもが余裕がなかった。

 だれもが夢を語る暇がなかった。


【……緑が語った『世界樹』の話を聞いてさ、今のこの日本の、このどうしようもない状況下で、こんな夢見がちなことを言う人がいたんだって】


 ……。

 だからこそ、僕は、そんな世界情勢下で理想を語る千歳緑に惹かれたことを思い出す。


「夢を……見たかったんじゃ。何も見えない、何もできない、そんな儂でも、……自由に……点字ブロック以外の領域を……歩ける……そんな夢を」

「そうか。同情も否定もしない。僕もオマエも、どっちが正しいかなんて、そんな単純な性悪論で切り捨てることはしない。ただ……僕が偶然、オマエに勝っただけだ」

「勝者が正義か……的を得ておるの、そのとおりじゃ。正義や悪などない、儂もアンタも夢を追い続けているに過ぎない……その運命の天秤が……たまたまお主の方に傾いただけ……の…………なあ」


 突然、樂は口調を変え話し始める。


「陽太先輩よ。アンタさん、今のこと、零式には話さんでくれんか? あの者が命を掛けて戦った日本が、再び大戦に巻き込まれる事実を知ると思うと……不憫でならん」

「ああ、そんなこと、するつもりはないよ。大丈夫だ」

「はッ……さすが、日本人……気遣いはできるの…………ヒヒッ……もう、後悔はない……」


 そう言い捨てると、樂は炎に包まれ焼かれ死んでいった。

 陽太は樂の焼死体に対し、敬意と哀れみを込めてお辞儀をし。

 踵を返し、中央のーー神器 グングニルに貫かれ石化したシグルドの元に近づいていく。


 そして様々な感情が入り交じる中。

 槍を握り、それを引き抜いた。

 大きな光と鼓膜を切り裂かんばかりの高音が発される。


 陽太含む此岸の人間の肉体は神器すらも中和する。

 完全に神器の奇跡を中和し無効化することは不可能だが。

 槍を引き抜くくらいなら容易い。


 そうしてシグルドの胸から槍を引き抜くと。

 石化がボロボロと解かれ始め。

 シグルドが復活した。


「これは……」


 シグルドは周囲をキョロキョロと観察する。

 そしてその側に陽太の姿があることを確認すると、状況を理解し。

 気まずいのか陽太と目をそらした。

 陽太もシグルドと目を合わせない、複雑な表情をしていた。


 それもそうだ。

 陽太とシグルドは友を誓った間柄。

 にも関わらずシグルドは陽太を、あろうことか小手先の卑怯な方法で殺害しているのだ。


 だが、二人の個人的な心境や諍いなどは一旦置いて。

 シグルドはさしあたり現状の確認と状況の改善に勤しむ。


「状況は……?」

「シグルドが石化されてから、ゾンビとメデューサの原生魔獣、そして二人の異世界人……須田正義と同じく特殊な能力の持つ者が敵として現れた。片方はもう幽霊都市にはいない。そしてもう片方の老人の方はさっき殺害した。メデューサの方はフレンが単独で討伐しにいった。スノトラは怪我を負って一旦戦線を離脱。アマルネ、ガルムも大怪我を負ってる。ヨゼフは……死んだ。あと、シグルドが石化した後、オーディンが何らかの契約の元、復活した。十中八九、この幽霊都市のいざこざにはジギタリス家が絡んでいる」

「ジギタリス家だと……?」


 シグルドは驚いた顔をする。

 だが驚愕の感情を一旦押し殺しシグルドは。


「ではまずは重症者の運搬と、残った敵戦力の討伐だな」


 …と言った所で。

 空から大量の血が振り始める。

 それを見てシグルドは。


「どうやら……ゾンビの原生魔獣とやらは祓われたらしいな。それに我を石化させたメデューサの圧も感じない……おそらくフレンが討伐に成功したのだろう」

「……マジか! となると……」

「我の出番はないな……あっぱれだ」


 陽太はガッツポーズをして喜ぶ。

 そうして陽太はガルムとミミズク、アマルネを治療班にまで運ぶ。

 またシグルドは幽霊都市にまだ残っている魔物などを片っ端から討伐して回った。


 3時間後、王都から更に派遣された治癒部隊が幽霊都市に到着した。

 アマルネ、ミミズク、ガルム、フレン、スノトラ。

 全員大怪我をしているが命に別状はないらしい。

 「世界蛇」ヨルムンガンドも、オーディンの復活とシグルドの石化解除と同時に。

 巻いたとぐろを解き、世界樹の元へ戻っていった。

 閉鎖されていた幽霊都市は解放され、自由に出入りできるようになる。


 また王都に残っていた剣士や魔術師も集まってきて。

 こうして事態は無事に収拾され、幽霊都市ブレイザブリクでの決戦は幕を閉じた。


 だが、陽太は知らなかった。

 幽霊都市ブレイザブリクに残された樂具同の遺体が、「ᛇ」の仮面を被った黒いコートに身を包んだ者に回収されていたこと。

 そして陽太が抜いた神器グングニルが、こつ然と姿を消していたことを。


 

 

 



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