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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
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ブレイザブリク㉖ vsブードゥー

毎度の如く修正

✕〔鉄鎖離脱〕→◯〔鉄鎖蟬脱〕 どっちも同じ術です。ガルムが使ってたやつ

 目が覚めた瞬間、スノトラは自身が置かれている現状を理解した。

 忙しなく動く物陰と喧騒、そして自分の体に流れる他者の樹素。

 重い体を上げ、簡易的に作られたベッドから起き上がると傍らにいた救護班が声を掛ける。


「あ、まだ起き上がっちゃ駄目。まだ完全に治癒できてないから」


 白い服に身を包んだ王都直属の救護班の魔術師だ。

 だがスノトラは彼女の言葉を無視し、ベッドの横に置いてあった自身の杖を手に持ち歩き始める。

 魔術師が止めようとした時、スノトラは自分の右手で首を掴み。

 自身で無詠唱で治癒術式を編纂。

 回復途中だった喉元の傷を完治させる。

 その様子を見ると、魔術師は唖然とした。


 スノトラは記憶をたどる。


(そうだ。あの老人の力で……喉元をナイフで貫かれたのだわ。……私が気を失っている間、ヨゼフがこの場所に転移してくれたのね。……戦況はどうなっているのかしら?)


 スノトラが陽太達を心配し、幽霊都市ブレイザブリクの中心地ーー樂の元へ戻ろうとした瞬間。

 近くから、莫大な内包樹素の反応を感知した。


(この内包樹素量!! まさか……あのゾンビの原生魔獣?! 妖術で姿を消していたけど、現れたのね!……それもかなり距離が近い!!)


 スノトラは周りを見回す。

 王都の治癒部隊、その魔術師の生き残り3,4名がヨゼフにより集められている。

 おそらくどこかしらの廃墟の地下だろう。

 簡易的なベッドやシーツは敷かれている。

 そして数少ないシーツの上には……出来る限り集められた剣士の怪我人が十数名いた。

 皆、傷を痛み苦しんでいる。


(まずいわ。もしこの場所に気づかれたら……)


 数少ない救助者が皆、死んでしまう。

 

(やるしかないわ)


 スノトラは廃墟に作られたこの簡易的な救助室全体に。

 結界を張り、そこに妖術の作用を付与して内部の人間の気配を消した。

 その様子を見ていた治癒部隊の魔術師数名は呆然としていたが、口を開く。


「何を……」

「近くに敵がいるのだわ。結界を張ってこの場所を感知しづらくしたの。その間に私がそいつを倒しに行く」

「そんな無茶です」

「そいつを倒さないと街中に湧いているゾンビは消えはしないのよ。ブレイザブリクの出入りが制限されている今、遅かれ早かれ戦って倒さないといけないことになる。あっちから姿を表してくれたのだからやるしかないのよ」

「一人では無茶です! 精霊使いの……クローネさんを待つべきでは……」

「戦える人はこの中にいるかしら? 治癒部隊は戦闘は専門じゃないのよね?」


 戦闘する決意を曲げないスノトラを見て、治癒部隊の魔術師たちはため息を吐き。

 スノトラの背中に手を乗せた。

 するとスノトラにーー魔術師の内包樹素が供給される。


「!!」

「私たちの樹素を供給しました。僅かばかりの量ですが、少しは足しになります。それと……この樹石を。半分くらいは樹素が残っているはずです」

「それを貰うと、あなた達から剣士たちを治癒することができなくなるのよ、いらないわ」

「いいんです、どのみちアナタが敵に負ければ私達も全滅する」

「……そう、なら貰っておくのよ」


 スノトラは体に巻かれた包帯を取り。

 乱れた前髪を整え、廃墟から出ようとする。


「スノトラさん、頑張ってください」


 魔術師たちは精一杯の心からの応援をした。

 スノトラはフッと笑い


「当たり前なのよ。安心するのだわ。貴女は負けたりしないのかしら」

 

 と言い、原生魔獣ブードゥーの元へ向かっていった。



 ブードゥーはいつもどおり廃墟の上からあたりを見回す。

 体はグツグツと煮込まれたように煮立ち、腐敗臭を垂れ流す。

 そこへ現れたのは、スノトラ。

 当然、ブードゥもスノトラの存在に気づく。


「ブ? ……」

「久しぶりね。原生魔獣。そろそろ貴方のお遊びも終わりかしら」

「ブヒッドゥ!」


 ブードゥは小馬鹿にするように笑うと。

 自身の腹の中に手を突っ込み、臓物を取り出しそれをスノトラ向け投げ捨てた。

 臓物は地面にぶつかりあたり一面に散り、そして。

 それら全てが増幅し巨大化し、人形並の大きさに整えられブードゥの形に変化する。

 その数、6体。


(……原生魔術による分裂……あのゾンビの腐肉はおよそ尽きることがないのね。少しでも腐肉があればそこから無限に増殖するイタチごっこ……アイツを完全に倒す唯一の方法は、アイツ全てを一瞬で消し炭にすることのみ……)


 屋上のーー本体であるブードゥはケタケタと笑っている。

 分裂した6体のブードゥはジリジリとスノトラに近寄っていく。


「あら、何か勘違いしてるのね。貴方」


 しかしスノトラは以前とは異なり。

 逃げも隠れもせず、冷静に、可憐に。


「まだ自分が『狩る側』だと思ってるのかしら? 残念だけど、もう編纂は完成したのだわ」


 そしてゆっくりと式を詠唱した。


〔『式』系統は重力子グラビトンーーエウロパ〕


 ズンっと。

 分裂した地上の6体のブードゥに重力が降りかかり。

 ぐしゃり、と勢いよく潰れて散る。


 その様子を見て本体である屋上にいるブードゥは驚愕した。

 何故?と。

 知能の低いブードゥでも理解していた。

 スノトラの使うあの術式はまだ未完成で扱えないはずーーと。


 だがしかし、彼女は既にその身を以て体験している。

 異世界には存在しない「架空の力場」ーー重力を。

 樂具同の「根源の異なる力」にはーー。


【力場にはーー此岸の「重力・・」が用いられており、外解樹素を魂で重力子に変換することで力場を構築するのが樂具同の「根源の異なる力」である】


 偶然のめぐり合わせ。

 樂具同の「根源の異なる力」は「重力」力場を発生させる。

 その攻撃を喰らい、その目で観察したことで。

 スノトラは重力術式を完全に「モノ」にしていた。


 指数関数的な成長曲線。

 魔術革命樹立者 アグネの子孫。

 彼女は魔術に愛され、魔術のために、魔術をもって生まれてきた貴女。


 「龍殺し」とは別ベクトルの、彼に匹敵しうる才能の持ち主。

 アグネの「願い」と、アグネの「想い」、そしてアグネの「契約」故に。


 生まれたーー因果の収束地点。


「早く降りてくるといいかしら? それとも私と戦うのが怖くって?」


 その余りある才能を小さな身体に濃縮して爆弾した逸材。

 人は彼女をーー稀代の魔術師と呼ぶ。

 






 


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