ブレイザブリク㉕ vsゴルゴン(3)
※補足情報です 今までの術式周りの設定纏め。長いので、お暇な時に読んでください
術式について改めて整理します
〈前提〉
術:式で発生する特異現象の総称
式:術を発生させるために必要な媒介物、または行為そのものを指す、大体「詠唱」である場合が多い
例)古紙、刻印、詠唱、儀式、杖、樹石
式に内包樹素または外界樹素を流し込むことで後述の「術」が発動する
術式:術が作用する完成された式のこと
それぞれ種類がある
系統変換:※詠唱の〔『式』系統は◯素ーー〕のところ
術式は樹素の系統を変換→再構築しそれをエネルギーとすることで発動する
詠唱で変換する系統を指定した後、技名を詠唱することがセオリー
〈代表的な術式について〉
魔術:代表的な術式、術式といったら魔術を指す場合が多い
なんでもできる汎用性が売りで、魔種が生み出した
良く言えば万能性が高く、悪く言えば器用貧乏
大体の術を再現できるが、一点特化できない
例)治癒術式は魔術でも編纂可能だが、幻術で発動したものより精度・効力ともに弱く、また樹素の効率も悪い
幻術:魔術、剣術と並んで三大術式の一つに数えられる
治癒、修復、再生に特化している
治癒術式には倍以上の樹素を消費するのだが、幻術を用いることで樹素の消費を抑えることが可能
また浄化作用も付随しておりアンデットなどの魔に特攻
森霊種が生み出したとされる
剣術:三大術式の一つ
武器の使用を前提にした上での術式
居合流、神楽流、介者流…など様々な流派に分かれており多様性がある
歴史が浅く新しい術式。既存の様々な術式を参考に作られている
主に「闘術」から色濃く影響を受けており、系統変換も闘素を用いている
人類種が生み出した術式の最高傑作
妖術:錯乱、洗脳、幻覚など認知機能を惑わすような術が多い
妖魔族と呼ばれる魔族が作り出した術であり、魔種が開祖
難易度が高く利便性、応用性に欠けるため習得者は少ない
闘術:戦闘、機動力に重きをおいた術
四足歩行を前提に構築されているため、人類には適合せず、剣術という形でブラッシュアップした
短期決戦型の術が多く、効力が短いのがデメリット
体内の樹素を極めて速い速度で変換し最大効率で用いれるため燃費が良い
こと単純な迫撃戦において無類の強さを誇る術式である
獣人種が生み出した術
霊術:空想種に属する「精霊」という神霊から「霊素」を提供される形で成立する特殊な術式
正確な名称は「精霊術」であり、短縮化され「霊術」と呼ばれるようになった
精霊を従えれる権能、精霊に好まれる体質が必須であり習得者は限られる空間転移や時間操作など極めて複雑かつ強力な術が多い
呪術:禁じられた術式
特定排斥種の作り出した術
特殊な疫病による大量殺戮、遠隔での呪殺など、極めて凶悪な特性を有す
今現在は対立術式が確立しており呪術の蔓延、拡散は抑えられている
呪術に関する情報は意図的に遮断、黙秘されており一般の人間が触れることは許されない
使用に関しては「ルーン文字」という特殊な言語体系を詠唱に組み入れる必要がある
呪術の式は複雑かつ多くの前準備が必要であり、おいそれと発動できるものではない
巫術:呪術のように禁忌とされているわけではないが、巫術の存在は公にされていない
巫術を知る者は十三神使族や一部の特定排斥種に限られていて神種ですらもその存在は知らない
ある意味では呪術よりも秘匿性の高い術式であると言える
巫女と呼ばれる女性のみが術を編纂することができる
巫女は継承制であり、連綿と「巫女」の称号、役割は受け継がれてきた
元は特定排斥種のとある部族が密かに研究していた術
樹界対戦以後、人間の王家が強奪する形で巫術として完成された
「魂」や「境界門」など、この世界の理や真理を知るための術式とされているが、その原理や詳しい内容は一切不明
また人類の王家が巫術を奪い取り連綿と受け継がせている目的も一切謎に包まれている
〈その他〉
属性:術式には属性がある
火、水、土、風、光、闇、雷…の7つの属性が一般的
術式で得意不得意があるように、属性にも向き不向きの適正が存在する
そのため、如何に術式の才覚に優れているものであっても、ある特定の属性の術は全く使用できないという場合も往々にして存在する
例)フレンは「火」「風」の属性に適正があるが「光」は使用不可
中でも「光」「闇」の2つの属性に適正を持つ者はかなりレア
「光」は浄化作用がありアンデットなどの魔族などに効果てきめん
「闇」には邪気、汚染作用があり精霊などの神格的生命体に効果てきめん
属性の拡張:7つの属性は拡張すると別の性質を有すようになる
例1)光属性で代表的な術「フレーム」は最強化符号以上の火力になると光属性だけではなく「爆発」の属性も有すようになる
例2)氷属性の術は水属性の術を拡張、強化することで使用可能となる
→このように基本の7つの属性を使い込むことで、自分なりのオリジナルの属性に変換できるようになる
属性と術式の関係性:属性と術式は必ずしも一致していないが、ある程度の関係性はある
魔術&妖術→「火」「闇」属性と相性が良い
幻術→「風」「光」属性と相性が良い
剣術→特になし
闘術→「土」「火」属性と相性が良い
霊術→「光」「水」属性と相性が良い
(もちろん、魔術で風属性の術が使える。必ずしも属性と対応術式は一致はしないので参考程度に見ておおいてください)
付与記号:術式に付与することで簡単に術の効力、範囲、効果時間が指定できる詠唱記号
定型式と呼ばれる、予め作られた式の一つ
例)最強化符号、テヌート
原型魔術(原型術式):人類が模倣できていない高度な領域にある術式のこと
模倣できていないがために“原型”の名で呼ばれている
最上位魔種など種族内でも選ばれし数名しか用いることのできない極めて難易度の高い術式
魔術に限った話ではなく、原型妖術、原型幻術なども存在する。これら全て纏めて原型術式と呼ぶ
特殊な効力のある術が多い
例)最善なる天則、煉獄
原生魔術(原生術式):樹界対戦より更に遥か太古の神話時代から今日まで生き続けている別格の生物個
体が使用できるオリジナルの術
基本、その個体のみしか使えない技であり固有の術式
その威力、精度共に規格外
術式の常識を無視し逸脱した性能と特性を有す
原生魔術に限らず、原生霊術、原生幻術なども存在するらしい
例)ゴルゴンの「魔眼」、ブードゥーの「黄泉がえり」
対立術式:別名、コンフリクト、対立術、対抗式とも呼ばれる
術式の効果を中和し打ち消す効果を持つ
相手の術と鏡合わせの対極の樹素をぶつけることで相殺する原理らしい
対立術式を編纂するためには相手の術式を完全に看破する必要があるため深く鋭い観察眼と術
式への含蓄、知識、高い能力値が必須
人差し指と中指だけを立てて〔対立術式〕と詠唱することで発動されるケ
ースが多い
これも一応、定型式の一つ
治癒術式:通常の倍以上の樹素を消費することで身体を治癒する術式
燃費がとても悪い
また呪術など、一部の術式で付けられた傷や病などは治すことは不可
一部の凄腕 森霊種ならば致命傷や難病をも完全回復させられるらしい
保護術式&防壁術式:物体の周囲に防御膜を展開することで防御力を高める術
結界術:術式の一つ、界術とも呼ばれる
空間支配系列の能力ということで「根源の異なる力」と似ている所がある
原理としては「結界」そのものを広大な一つの式にして結界内に何かしらの効力を付与する
結界となる土壌、空間は限定される、どこでも発動可能という理由ではない
呪術の大量虐殺などは結界を構築した上で発生する
大規模な術の発動の際は必須な術式
例えばフィマフェング=ジギタリスが結んだ「大樹の盟約」も、幽霊都市ブレイザブリクの土壌と、世界蛇ヨルムンガンドの体表が結界代わりをしたことで半ば強制的にオーディンを生み出せた
無詠唱での術の発動:術を使い込み続けると詠唱(式)無しで術を発動可能になる
原理的には使い込み続けると「脳」の回路が式の役割をするから
高位の魔族や森霊種などは「術式回路」と呼ばれる式の役割をする臓器を保持しているため基本無詠唱で術を編纂可能
しかし術式回路があっても超難易度の術は無詠唱で発動不可らしい
短文詠唱:別名、詠唱短縮、短縮詠唱、略称術式…etc.
「略式」という短い詠唱のみで術を発動する技
その代わり、完全詠唱した式より効力・威力は減退する
契約儀式:術式ではない
神代時代では「式」といえば「術式」ではなく「契約儀式」を指し示していた
「魂」と契約を結ぶ行為を指す
何かを代償に差し出す形で何かのメリットを得るーー等価交換が原則
王家が結んでいる「大樹の盟約」、他にも「魔術革命」も契約儀式にカテゴライズされる
「大樹の盟約」は厳密には「世界樹」そのものと契約を結んでいるわけではなく「世界樹」中枢にある「原初ユミルの魂」と契約を結んでいることになる
アグネ=ド・ノートルダムが結んだとされる「契約儀式」のおかげで人類も「式」を媒介にすることで術が使えるように進化した
こちらもアグネがユミルと「契約儀式」を結んだからである
術式回路:魔族や森霊種、一部の獣人などが生まれつき体内に持つ器官
式を組まずしての術の発動が可能となる
人間はこれを持っていないため魔術革命以前は術式が扱えなかった
〈おまけ〉
武術:人類が闘術を元に生み出した術式
素手で戦うことを前提としているが、その結果、ただの闘術の劣化版になってしまい廃れた
その後、武術で得た知識や教訓が応用され「剣術」として完成された
だが、愛好家も多く「武術」を代々受け継いでるモノ好きな一家もいたりする
伝統と格式がある。が、あまり強くはない。闘術の劣化版。
占術:術式天体の軌道を観測するための術式
術式天体から直接樹素を供給してもらおうとする働きが一時期活発だったが失敗で断念
棒術:これまた剣術が完成される前に導入された試作型の術式
後世になって「剣術」の槍部門に接収され併合
【アリストロメリア家の愚王】
【樹界大戦時、アグネ=ド・ノートルダムと共にパーティを組み世界樹へ契約儀式を結びにいった5名のうち一人】
【『アグネと天体周期』では横暴かつ身勝手でいたずら好きな愚王として描かれている】
【『アグネと天体周期』では人間界から始まり獣界、森霊界、小人界、魔界、巨人界、神界に至るまでが描かれるのだが、アリストロメリア家の愚王は旅の道中の魔界で魔に見初められたとされている】
【『魔に見初められた』とは。一体どういうことなのか? 詳しく内容は記載されておらず暈されている】
【だが学会の研究によると、『魔に見初められた』という一文の意は、アリストロメリア家の愚王が『魔族と交わり子を成した』ことを指すとする解釈が最も主流であるらしい】
【だが、どの魔族と子を成したのか。本来生殖器官の持たない魔族が人間と子を成せるのか、については議論が絶えず、上記の説はあくまで解釈の一つに過ぎないという位置づけに置かれている】
*
(七代目邪神は子を成したのだ。人間との間の子を。そのために受肉を選び邪神の位を捨てたッ! ……
相手はおそらくアグネの仲間の……アリストロメリア家の愚王!)
守護霊獣「大鷲」は七代目邪神から。
原型術式「神聖なる敬虔」はアリストロメリア家の愚王から。
それぞれ引き継いたもの。
そうして生まれたのがフレン=アリストロメリア。
「……訂正しよう。杞憂ではなく、今ここで貴様を殺す。明確に、意図をもって」
ゴルゴンのボルテージがあがる。
七代目邪神が、その圧倒的な才覚と地位を捨て去ってでも。
生み出し、愛した――フレンというこの少女。
魔族として。
いや、魔種として。
原生魔獣として。
いや、かつて七代目邪神の側近におり、彼女に恋い焦がれ、敬愛した者として。
確かめなくてはならない。
フレンが、この小娘が――七代目邪神がその力を捨て去るに値するべき存在なのかということを。
使命感。
ゴルゴンを突き動かす。
運命的な歯車が噛み合っている。
八代目邪神になるための障壁として、七代目邪神の遺した娘であるフレンを倒すことは。
これ以上ない祝福、祭儀、通過の儀礼として至福であり最適。
(これは私への挑戦だ。七代目邪神からの、いや『ユグドラシル』が私にもたらした、運命の悪戯……フレン=アリストロメリアを超えて、私は、正式に八代目邪神へと成り、腑抜けた魔族を支配し統治するッ!)
「出し惜しみはしないぞ、小娘」
「はあ……はあ……」
(今のは何? アタシの守護霊獣が勝手に術を使った……アタシが使える原型魔術じゃない……あれは……)
フレンは推測する。
自身が生まれた瞬間から手にしていた守護霊獣「大鷲」。
そして霊獣を炎獣として顕現化する「最善なる天則」。
どちらも後天的に得たものではない、先天的に有していたものだ。
先天的に有していたとすると話は簡単だ。
これらは祖先から受け継いだモノであるということ。
(アタシの……親のもの? さっきの浄化術式も……アタシが発動したものじゃない……守護霊獣が……この子が自発的に発動したんだわ……)
「最善なる天則」を始めて発動した時と似た感覚。
元から自分の手足であったような、元から自分の一部であったような。
そんな感覚を、フレンは「神聖なる敬虔」からも感じ取った。
フレンは立ち上がる。
赤色の瞳に宿る闘志と理想は消えない。
むしろより強く、色濃く燃える。
その熱意が、ゴルゴンの原生魔獣としてのーー八代目邪神候補としての矜持を刺激した。
〔ーー魔眼〕
不可避の蒼光がフレンに向け放たれる。
硬化速度は先ほどよりも更に向上している。
だが、フレンの大鷲が彼女を守るように包み「神聖なる敬虔」を使用。
究極の浄化作用による術式の完全なる中和と無効化。
いかにゴルゴンの魔眼といえど、その術中下にあった。
だが太古の新和時代から生き抜いてきた生命個体であるゴルゴンが。
その程度で怯み戦闘を止めることはない。
「神聖なる敬虔」は完全なる術式の無効化作用を持つといえど。
術が実際に発動準備を終えその作用が開始される前には。
必ずラグが存在する。
その僅かなラグを見逃さず、魔眼で一瞬石化した時に攻撃を仕掛けていく。
かつてシグルドがフレン相手に行ったような戦法と同じだ。
またゴルゴンは「魔眼」発動に用いる樹素を己の内包樹素のみに限定。
99.9%…およそ百%に近い精度で原生魔術「魔眼」を発動させていた。
内包樹素での術式の攻撃は、外界樹素で構築された術式よりも極めて不干渉性が高い。
それは系譜や転生者などの此岸のものだけに限定された話ではない。
外界樹素はある程度術師としての才覚を有すものならば「対立術式」などで中和することが可能だ。
だが、内包樹素…すなわち術師の体内の樹素を用いて編纂された術は。
体内で「霊素」のように樹素が微弱ながらもその人物に適した形で変換される。
よって「対立術式」などの中和、削減する術を編纂することが困難。
(原生術式を内包樹素でのみ発動してきた…流石ね、私の霊獣の浄化術式も……その分効き目が弱くなる……それに相手の方が術師としての力は何十倍も上……ダラダラ戦っていたら勝ち目がない……唯一のアタシの勝機は……守護炎獣に浄化術式を発動させながら……アイツに向けて特攻させること!!)
「神聖なる敬虔」ならば。
ゴルゴンの「魔眼」を術式ごと中和・無効化し……。
完全にその力を機能停止に追い込める。
だがゴルゴンもそんなフレンの策略には当然、気づいているはず。
(だから距離を取っている。霊獣の浄化術式を警戒視しているのね?)
対してゴルゴンも。
冷静な顔をしてフレンに術式での攻撃を仕掛けていたが。
内心では焦りを見せ始めていた。
(まずい。あの黒髪の少年から受けた炎……その対立術式・治癒術式を編纂し続けるのに大量のリソースを割かれている。「神聖なる敬虔」を発動しているのはフレンではなく大鷲の霊獣の方だろう……今この状態で「神聖なる敬虔」を自らに付与した大鷲がこちらに特攻を仕掛けてきたら? ……まず間違いなく私の「魔眼」は機能の永久停止に追い込まれるだろう)
ゴルゴンは陽太の魂を捧げた契約儀式の炎により永久に燃え続けている。
その炎を対立術式と治癒術式を常に己の体に作用させ続けることで。
焼かれた肉体を修復・契約儀式の炎の効力を減退させていた。
だが治癒術式は極端に大きな樹素の消費を必要とし。
対立術式は相手の術を看破・分析しなくてはならないため編纂の過程で術式回路を大きく酷使、疲弊させることとなる。
一般的な人間の数千・数万倍の内包樹素量を誇るゴルゴンといえど。
陽太の炎が直撃されてから約4時間30分の間、ずっと治癒術式で焼けた体を修復させ続け。
原生魔術「魔眼」を最大出力で十数回も使用し続けていたため。
現状、内包樹素量は半分程度にまで減ってしまっていた。
また術式回路も疲弊し術の精度、効力共に大きく弱体化している。
(……となると、こちらも長くは戦っていられません。少し小賢しい手を使いましょうか)
(こっちも覚悟を決めるしかないわね。一発でこいつを仕留めるッ)
フレンは。
己の最大火力の術を編纂するため、ゴルゴンと距離をとり詠唱を始める。
〔『式』系統は魔素ーー煉獄〕
フレンの頭上に。
直径50mにも及ぶ、渦を巻く巨大な炎が生成。
小さな恒星が出現。
フレンの内包樹素をほぼ全て費やし構成した原型魔術である。
そのあまりの規模の大きさを見て。
思わずゴルゴンですらも後ずさりした。
(アタシの作戦……煉獄の炎の中に……守護炎獣を忍ばせる……守護炎獣をゴルゴンに悟らせないために、守護炎獣を包む炎にアタシの全ての樹素を費やして気配を消す!!)
ゴルゴンならば。
フレンの最大火力の煉獄とはいえ。
避けるはずはないだろう。
それよりも、最善なる天則の方を警戒するはずだ。
だから煉獄の中に「神聖なる敬虔」を付与した大鷲を忍ばせて、そのまま特攻させる。
もちろん、これを外したら後はない。
大鷲の気配を悟られないために、煉獄に全ての樹素を費やしてしまっている。
そのため、もう後がない。
対してゴルゴンは。
巨大な炎の渦を眺めながら。
何か詠唱を唱えていた。
…と同時に何十もの保護術式の層がゴルゴンを包む。
(保護術式を詠唱で掛けたのね……アイツといえど、アタシのこの炎を警戒している……)
「……ゴルゴン……って言ったっけ?」
フレンは。
煉獄の射出直前。
あろうことかゴルゴンに向け語りだす。
「邪神候補の原生魔獣ならば、このアタシの術を真っ向から受け止めてみなさい」
そして敢えてゴルゴンのプライドを刺激し。
ゴルゴンを逃げさせないようにして。
渦を巻いた炎の球体を、ゴルゴンに向け放った。
地面に炎が達すると。
巨大な振動と爆音が生まれ。
周囲の廃墟や瓦礫は高温で一瞬で融解し溶け出す。
その炎を、真っ向から受け止めるゴルゴン。
時間にして十数秒間。
ゴルゴンが完全に真っ向から煉獄を受け止め。
そして煉獄の火力が底をつき、術が解かれようとしたその瞬間。
煉獄内部からーー炎の大鷲・フレンの守護炎獣がゴルゴンに向け特攻。
ゴルゴンは突然のことで避けれず直撃。
フレンの狙い通り。
「神聖なる敬虔」はゴルゴンの魔眼に作用し。
魔眼の術式すらも完全に中和・破壊するかと……思いきや。
なんと「神聖なる敬虔」を喰らった、ゴルゴンの体自体が黒く染まり、液体と化して弾けて消滅する。
「は?!」
フレンがその様子を見て呆然としている。
そんな時に。
フレンの左腹部に向け、風の刃が飛来し。
フレンの左腹部を肉ごともぎ取った。
「ッ……」
フレンが腹部を抑え、術の発生方向に目をやると。
そこには平然としたゴルゴンの姿があった。
そしてゴルゴンは種明かしをするように状況を解説する。
「……貴方が放った原型魔術を受け止めたのは、妖術で作り出したアタシの模造品です。原型妖術の一つ……私の古い友人から教わった術で、でしてね。その精度の高さゆえに、術が難解で私といえど詠唱無しでは発動できないんですよ」
やられた、とフレンは下唇を噛んだ。
(ゴルゴンが詠唱していたのは原型妖術を発動するためか?! アタシはあの詠唱を保護術式を自分に掛けるためだと勘違いをしてしまった! アタシはゴルゴンの偽物に向かって……術を放ってしまった……)
フレンの紫色の血が腹部から垂れ流され、地面を染める。
フレンはその場に座り込む。
額からは汗が流れる。
「……この程度の術も見破れないとは呆れますね。7代目邪神も可哀想なものだ。この子を孕み愛するためだけに受肉し……全てを捨て去るとは」
「何を……言って……」
「自分の出生について何も知らないのですか? ……フレン=アリストロメリア。まあ、知らない方が良いでしょう。貴方に乗せられた期待と重圧そして過去が、今現在の貴方の実力とあまりにも釣り合っていませんので。知っても自己嫌悪に打ちひしがれるだけでしょうし……ですが一つだけお聞きしたいことがあります……貴方は母親から……何か……大切なことを……教えられたりはしていませんか?」
「……何も知らないわ。母親……のことなんて」
ゴルゴンはため息を吐いた。
そしてフレンを見限って
「そうですか。では、さようならーー〔魔眼〕」
不可避の。
石化攻撃を仕掛け。
7代目邪神と、その過去、その運命を。
完全に捨て、忘れ去ろうとした。
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