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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
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ブレイザブリク㉔ vsゴルゴン(2)

 七代目邪神は圧倒的であった。

 天地をひっくり返し、放った術は永遠に効力が続く、大陸を蹂躙し、赤子の手をひねるように魔界ムスペルヘイムの猛者たちを単独で薙ぎ払っていく。

 その力は神種すらも軽く凌駕するほど。

 

 六代目邪神が死亡したと同時に始まった。

 邪神継承のための選定の儀は。

 瞬きする間もなくあっという間に決着がついた。

 

 あの選定の儀のことを。

 今でも私は覚えている。

 アルガードやブードゥー、他にもファントム、エンプーサ、ベルゼブブ…

 様々な現存する原生魔獣を相手に。

 一切の傷を追うことなく、邪神候補者たちを蹂躙していくさまは。

 まさに私が思い描いた「孤高」の魔族そのものだった。

 

 誰も異論はない。

 その圧倒的な才覚と強さによって頂点へと至り。

 彼女は、見事七代目邪神に選定された。

 

 七代目邪神はあまり政治や争いに感心がなく。

 そもそも統治や権力といった事柄に意味を見い出しておらず。

 ただ自身の術式を惜しげもなく周りに分け与えた。


 それが慈悲による行為ではないことを私は知っていた。

 彼女は全てに興味がない。

 私たちなど、七代目邪神の彼女にとっては。

 植物や虫に過ぎない。

 植物を愛でるように、私達を相手にし、暇を潰す。


 その圧倒的な強さをもって他種族を支配する素振りも見せず。

 彼女は己の才覚をただ、自身の愉悦のためだけに使用していた。

 その傍若無人っぷりも、誰とも群れることなく自身の選んだ道を選択していくさまを。

 そしてそれを実行できるだけの強さを内包した彼女を。


 私は敬愛し、慕い、崇拝し。

 彼女の手先としてーー日々を過ごしていた。

 誰かの下に付きたいと思ったことなどついぞなかった私が。

 古来、神代の時代から。

 まだ世界樹イルミンスールの名が「ユグドラシル」と呼ばれていた時から。

 ずっと生き続けている私が。

 唯一、慕い従ったのが。

 七代目邪神のーー彼女一人だけであった。



「説明を求む……」


 荒れ果てた大地。

 燃え盛る業火。

 どこからともなく聞こえてくる耳ざわりな音響。


 眼の前には。

 七代目邪神のーー血まみれになった、矮小な姿があった。

 もはや死にかけている。

 肺に穴が空いているのか、息を吸う事にゴロゴロと奇妙な空気音を発する。

 四肢はズタズタに切断されている。

 

 樹界大戦時。

 彼女はーーあろうことか、「受肉」を選んだ。

 受肉とは、文字通り自身の核を人間の体に移植する行為。

 つまり、七代目邪神はーー魔族であることを捨て、人間になることを選んだのだ。


 受肉をしたことで、彼女の能力は大きく減退。

 懐古派閥筆頭である私達、原生魔獣のグループと、革新派閥筆頭が結託。

 そしてそこに、神種である「魔狂徒」ロキの力も加わり。

 

 受肉し力を失った七代目邪神を強襲。

 見事成功に終わり、七代目邪神は体をズタズタに引き裂かれ死を待つのみの状態だった。


 周りの原生魔獣たち、アルガードや、革新派筆頭の腑抜けた魔族たちは。

 七代目邪神の息の根が止まりそうなことを確認すると。

 もはや彼女の生死には興味はないといった様子で解散する。


 彼らが狙っているのは八代目邪神の席のみであり。

 八代目に選ばれるためには、七代目邪神を討伐しなければならないから。

 一時的にいがみ合っている懐古派閥と革新派閥が手を組んだだけに過ぎない。


 血迷ったのかは知らないが、あろうことか受肉を選び、人間の体を手にして。

 全盛期の実力から大きく弱体化した七代目邪神など。

 もはや彼らの興味の範疇にはない。

 誰もが「馬鹿なことをした」と心の中で軽蔑し。

 明日には、再び内政やら勢力争いやらに明け暮れ、手にかけた七代目邪神のことなど忘れているだろう。

 それは私も同じだった。

 しかしーーいっときは、七代目邪神に忠誠を誓った身である私は。

 理由を聞きたかった。

 何故、受肉を選んだのか。

 圧倒的な強さをも手放し、何故? と。


「貴方は七代目邪神の座にいる時、何も興味がない方でした。自身の才を己の愉悦のために用い……戦争はおろか、統治までしない……そんな貴方を奇妙がりつつも……私は貴方の生き様に憧れていた……」


 ズタズタの、ボロ雑巾のような姿。

 受肉したことで、人間の20歳ほどの女性の姿になっている。

 とてもか弱く、見ていられないほど無様。


 彼女ーー七代目邪神だったもの は唇を震わせて、なんとか言葉を紡ぐ。


「……私は…………ただ……美しいと思っただけだ。魔術も……美しいから……好きだった……国や種族のいざこざなんてどうでもよかった…………小さな時……初めて……使えた魔術…………」


 そう言って彼女は右手の人差し指を振った。

 指は爪が剥がれ、肉が削ぎ落ち、骨が見えている。


 すると一匹の青色の幻想的な光で包まれた霊獣が出現した。

 樹素の寵愛を受ける者に宿るとされている「守護霊獣」それを炎で実体化する術。

 最善なる天則、と呼ばれている原型魔術だ。


「……なんて美しんだろうと、思った。…………私はもっと……美しいものを作り出したかった…………それ以外はどうでもよかったのさ……」

「……最後に、私の手でトドメを刺しましょう。それが私が唯一貴方にできる慈悲だ」

「ゴルゴン……探してみなさい、最後の課題よ」

「……何をですか?」

「私が残した…………一番美しいモノ……可愛らしくて……綺麗で……たくましくて……きっと……私に似て……綺麗な子になるの……」

「何を言っているんですか?」

「……私が『受肉』を選んだ理由は……それを……その子を……愛するため」


 バシュッと。

 私は術式で彼女を攻撃し、息の根を止める。

 七代目邪神だったモノはもう動かない。


 結局、彼女が何故、受肉を選んだのかは不明なままだ。

 その理由を知りたかった。

 それだけの強さと誰もが羨む才覚を持ち。

 なんでもできる能力がありながらも、何もしなかった、そんな彼女を。

 唯一動かし得た「愛」というものを、知りたかったのだ。



 ゴルゴンの脳裏には何故か七代目邪神のことが巡っていた。

 魔族は人間の容姿に対し極めて関心が薄い。

 だがしかし、フレンの容姿が、見た目が、ゴルゴンの瞳に強く刻まれる。

 

 重なる。

 重なる。

 頭の中で振り払う。

 そんなわけはない。

 まさか。


「……もう終わりですか」


 ゴルゴンが考え事をしつつ、片手間に対処していると。

 フレンの方がその場に膝をついて血を吐き出す。

 ゴルゴンにとっては思考にリソースを割いた片手間な適当な戦闘に過ぎなくても。

 フレンにとっては死力を尽くした戦いなのだ。


 そんなフレンの酷く脆く弱い様子を見て。

 ゴルゴンは再び確信する。

 やはりそんなわけはない、と脳内で否定を強める。

 否定を強める。

 重なる前に、真相に気づいてしまう前に、この小娘を殺す。

 そう決意してゴルゴンは魔眼を発動。

 フレンは四肢の末端から石化していき、状態異常回復の術を施すも。

 本気を出したゴルゴンの至近距離での魔眼の石化作用から逃れることは出来ず。

 完全に石化した。


 そして地面に膝をついたまま石化したフレンを。

 弾いて破壊し、息の根を止めようとした。

 その瞬間ーー


「なんだ……?」


 空から飛来した、フレンの守護霊獣ーー「大鷲」。

 ゴルゴンとの戦闘最中、フレンの指揮下から外され自立的に動いていた霊獣が。

 フレンの元にすり寄り、炎の翼でフレンを包む。


 瞬間。

 フレンの石化は解除され。

 体表が剥がれ落ちるかのようにボロボロと石化が解かれていく。


 一瞬で理解した。

 今のはーー究極の浄化作用を持つ原型術式「神聖なる敬虔スプンタ・アールマティ」。

 13神使族のーーアルストロメリア家に伝わる秘伝の術。

 あらゆる術式作用を打ち消す、対立術式の発展・完成形の術。


 疑惑が確信へと変わる。

 神聖なる敬虔スプンタ・アールマティの使用。

 「大鷲」の守護霊獣。

 人と魔族の混血。

 

 そしてーー何よりは。


【私が残した…………一番美しいモノ……可愛らしくて……綺麗で……たくましくて……きっと……私に似て……綺麗な子になるの……】


 「受肉」し人の姿と化した彼女と似た、美しい金色の髪色と。

 ルビーよりも深く紅い、竜の目。


「フレン……いや、フレン=アルストロメリア。貴様、貴様『こそ』がーー


 ゴルゴンの血相が変わる。

 丁寧で紳士的な口調や物腰はもはや残っておらず。

 ただただ、真実に憤慨していた。

 全てを理解し、真実に絶望し、その怒りを全てフレンにぶつけるように語る。


ーー七代目邪神の遺した………娘かッ」


 





     


 






      

      

   

   



   


   

   

   

   

   

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