表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REALIZE ~スピンオフ~  作者: しんた☆
1/4

Half Moonでよろしく 1

REALIZE1でリッキーがやってくる前のお話です。

ご自身もお店でコーヒーを飲んでいるつもりで、お楽しみください。

一話完結型です。

「Half Moonでよろしく」


 定時が過ぎて、ぞろぞろとビルから多くの人が出てくる時間。仕事を終えた達成感と心地よい疲労感を感じながら、駅に向かって歩く。


「よぉ、坂田。今帰り?」

「あれ? 山下先輩、出張から帰ってたんですか?」

「おうよ。これでやっと一息だよ。なあ、ちょっと寄ってかないか?」


 山下が目で合図したのは駅から近い場所にあるコーヒー専門店「Half Moon」だ。いつもこの前を通るとき、香ばしいいい香りがしてるのを坂田も気づいていた。

 カランと明るいカウベルの音が響いて、珈琲の濃い香りが一気に体を包む。カウンターに空席を見つけて二人で座り込む。


「いらっしゃいませ」


 薄茶の髪の美形なマスターが笑顔でメニューを置いていく。それを開いて山下がはぁとため息をついた。


「腹減った。俺、今日は昼めし抜きだったんだよ。ちょっと食べてもいいか?」

「ああ、どうぞ。」


 山下はさっさと注文を済ませて、ちょっとためらった様子で水を飲む。


「坂田はさぁ、彼女とかいるの?」

「えっ?彼女ですか? あぁ、いや。いませんね」


 山下はふ~んと気のない返事をしながら、ちらっと坂田の顔を見る。背中に嫌な汗が流れるのを感じながら、見られていることには気づかないふりをしている。坂田には今触れてほしくない質問だった。つい昨日、隣の課の女子に告白されたばかりだ。その前は出入り業者の営業の子にも手紙をもらっている。つまりモテるのだ。


「お待たせしました。ミックスサンドとホットコーヒーです」

「ああ、ありがとう。」

「トマトジュースです」

「ああ、どうも」


 人当たりの良いマスターがにこやかに去っていくと、すぐさま山下から突っ込みが入る。


「お前、せっかくのコーヒー専門店でトマトジュースはないだろう?」

「あは、すみません。ちょっと胃の調子が…」

「ストレスかよ」


 苦笑いする坂田を、山下は片眉を上げて見返す。そう、胃が痛いのだ。昨日告白してきた女子は山下の想い人なのだから。わざわざ声を掛けてきて、何を言うつもりなのかと、内心ひやひやなのだ。


「おまえさぁ、モテるよなぁ」


ああ、ついに来たか。


「はぁ、俺もモテたいなぁ。お前の行ってる美容室ってどこ?服はどこで買ってる?」


え? そこ?


「先輩、モテることが良いことだと思ってます?」

「当たり前だろう!モテる男にモテない男の気持ちは分からないだろうなぁ。くそぉ」

「…」


 サンドウィッチを完食した山下は、つまようじで歯の間の食べかすをほじる。坂田は思わず止めた。


「先輩、そういうのはちょっと…」

「なんだよ。口の中、気持ち悪いだろ」

「いや、だから。せめてトイレに行くとかしましょうよ」


 山下は一瞬意味が分からないような顔をして、ハッとした。


「そうか、これか!よし、分かった!」


 山下は意気揚々とトイレに向かっていった。


 はぁ、悪い人じゃないんだけどなぁ。おおざっぱというか、デリカシーがないというか。山下の後ろ姿を見送りながら、小さなため息をつく。


 坂田が入社したての頃、面倒を見てくれたのが山下だった。説明は理路整然とはいかず、困惑することも多かったが、付き合っているうちに、人柄の良さが分かってくるタイプの人間だ。長く付き合えば、いい人だって分かるんだけどなぁ。最近の女子に伝わらないのだろうか。後輩として、ちょっと悔しくも歯がゆい気分だった。


「いらっしゃいませ」

「マスター、こんばんは~。今日は友達と来たの。」

「やぁ、佐伯さん。いつもありがとうございます。奥にお席が空いております。どうぞ」


 にぎやかな女性客が数人でやってきた。「かっこいい」、「すてき」、「やっぱりハンサムねぇ」などと、言いたいことを言いながら奥の座席へと流れて行った。女性客を案内したマスターはカウンダ―へと戻りながらささやかにため息をつく。そうか、マスターだって仕事でやってるんだよな。坂田は妙に納得して、マスターの動きを見ていた。

 マスターはカウンターに戻りながらちらっと坂田の視線に答え、ちょっとだけ眉を下げて笑って見せた。


「またせたな。どうだ?」


 山下はニカッと少年のような笑顔を見せた。


「ぶはっ」


 坂田は思わず噴き出した。そして、心底思うのだ。この人の想い人に、どうか先輩の良さが伝わってくれと。



おわり


珈琲の香り、届きましたでしょうか? w

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ