第7章 面会
僕はメッセージをもらった東の太陽という人に返事を書いた、『会って話をできないか』と。すぐに彼から返信があり翌日、ジュリアンと一緒に会うことにした。場所はロサンゼルス郊外の平民の住居地区の中の公園だった。その冴えない風景を見て、5年前まではこういう場所で生活していたことを思い出し懐かしかった。公園のベンチで待っていると彼が現れた。50代後半位の東洋系の顔立ちをした男性だった。
「初めまして、ヤマエルと言います」
「初めましてポールとジュリアンです」
「あなた方はよく存じ上げています。今や有名人ですから。ここでは人の目がありますからあちらに行きましょう」僕達は促されるままに彼に付いてさびれた建物の裏手に廻った。
「ここにでも掛けましょうか」そこにあった水道管のような管の上に腰掛け、ヤマエルと向き合った。
「それでご存じというのはどのようなことでしょうか?」早速、僕から話を切り出した。
「私があなた方を脅迫しようとお思いかもしれませんがご心配は無用です。大変、失礼なメッセージをお送りして申し訳ありませんでした。しかしああいう書き方をしないとお目にかかれないと思ったので」ヤマエルは冷静な顔つきで淡々としゃべった。
「私の祖先は日本人です。私の曽祖父の、そのまた父にあたる人がアメリカに住んでいたために日本沈没の難を逃れました」
「そうだったんですか」
「あなた方のギャグを聞いたときに、これは聞き覚えがある、日本のものだとすぐに分かりました」
「どういうことです?」僕は反論した。
「しらを切られても私はその元の動画を持っていますよ」
「元を観たことがあるというのですね。でもなぜ今まで黙っていたのですか?」
「私のような貧乏な中年の発信力では誰にも信じてもらえませんよ。それで少し調べさせてもらいました。そうしたらジュリアンさんの曽祖父がベナード教授だということが分かりました」
「俺のひいおじいちゃんだ」ジュリアンが同意した。
「実は私の祖父はベナード教授に多くの資料を渡していたのです。祖父も日本の大衆文化を愛していてデータを保管していたので研究の一助になればと提供しました」
「なるほど」
「私も日本の大衆文化が好きです。これがこのまま埋もれてしまうのはもったいない。あなた方は日本のお笑いを広めてくださいましたが他にもアニメや漫画、音楽、小説などたくさんのいい作品がある」
「僕達も観ました。どれも今のものとは違う面白さがある」
「そこでそれらを普及させるためにあなた方のお力を借りたいのです」
「どういうことでしょう?」
「あなた方は引続き日本のお笑いネタを自分達のオリジナルとして活動されて構いません。それらのオリジナルが日本の物だということを私達が秘密にする代わりに、他の日本作品を普及するために資金援助をしていただきたいのです」
「誰が普及活動をするのです」
「私と他の日本人の仲間達です」
「私達はお金を出すだけでいいのですか?」
「はい。実はあなた方がヒットしたお蔭でAIが日本風の面白さのエッセンスのディープラーニングを始めています。日本のコンテンツのデータは既にほとんど消滅してしまっていてデータベースにも残っていないのですが、AIが日本風の文化を模倣するのも時間の問題です」
「その前に現存する日本の文化をアピールしたいと」
「そういうことです」
「それでどの位の資金を出せばいいのです」
「あなた方の収入の90%です」
「え?」僕達は唖然とした。収入のほとんどではないか。しかしネタ元をばらされれば僕達の収入はゼロ、もしくはいかさまだったということで訴訟になるかもしれない。そのリスクを考えると同意せざるを得なかった。