第6章 発見
「なんか面白い物を見つけたぞ」歌い過ぎで疲れて寝坊していた僕のところにジュリアンが声をかけてきた。
「うん、何?」
「ひいおじいちゃんのメモリーカードを見つけた。50年位前のものだ。大衆文化を研究していたって言うから面白い物が見れるかもな」ジュリアンは端末にカードを入れて中身を開いた。画面にタイトルが映し出された。
『偉大だった日本という国に捧ぐ』
「日本?何だそりゃあ」ジュリアンが言った。
「日本、聞いたことがある。確か70年前に戦争と地殻変動で消滅した島国」
「ああ、あの極東の…… ほとんどの国民が一瞬の内に消滅したという」
「アメリカと中国の戦争に巻き込まれ核ミサイルで破壊され、ほとんど同時期に地殻プレートの変動で水中に沈んだ」
「日本沈没……教科書に書いてあったな。でもどんな国だったのか全然知らない」画面は更に進んだ。
『日本、それは大衆文化の宝庫だった国。歴史的に視ると、古代にはアジア大陸の中国や朝鮮の文化から多大な影響を受け、大航海時代の後には欧米の文化を貪欲に吸収しながら、島国という閉鎖的な国土の中で独自の大衆文化を育んだ。近代ではアニメーション、漫画、ゲームなどで国際的な評価を受けたがそれ以外にも多くの大衆文化が存在する。しかしそれらは日本語という特有な言語のため広く知れ渡ることはなかった。私は一瞬にして滅び去ってしまったこの国の稀有な大衆文化に畏敬の念を覚え、ここにできうる限り収集しアーカイブとして保存することにした。このアーカイブが後世にまで引き継がれ、語り継がれることを望むものである』
「へえー、そうなんだ。日本の文化なんて知らないな」ジュリアンが僕の方に振り向きながら言った。
「ひいおじいちゃんはこうやって残して後世まで語り継ごうとしたけど誰にも伝わらなかったみたいだな」それから僕達はそのアーカイブされた作品を観ることにした。アニメーションは面白かった。想像力豊かに描かれた世界に繰り広げられるストーリー展開、スピーディに流れる画面、生き生きとしたキャラクター。VRではなく色数の少ない2次元で描かれた画面だったが今の映画に負けず劣らず面白かった。漫画は白黒の静止画にセリフと効果音だけで描かれていて最初は読むのに苦労したが、コツを覚えると読むことにリズムが出て、ストーリーに引き込まれた。音楽は独特の節回しが興味深かったが、歌詞が日本語のため訳を読むしかなく、頭の中で歌詞と曲のリズムが同期できないために心に沁みにくい面があるのは残念だった。
「面白いな。今の文化と違うところがあって刺激になる」ジュリアンが喜んでいた。
「これを見て聞いて、新しい曲とかできればいいけど。まだイメージが膨らまない」
「ピカソって画家はアフリカの原始美術に感化されたって言うじゃないか。俺達にもこのアーカイブは刺激になる」
「確かにここには僕達の常識とは違うところがあって心に刺さる」
「もっと観てみようぜ」僕達は更にそのアーカイブを観続けた。多くの作品があったので1週間近くずっと観続けても10%も消化できなかった。
「ははは、何だよこれ、おかしい、ははは」ジュリアンが腹を抱えて笑い転げた。彼が見ていたのはコメディ、お笑いだった。
「そう来る。ははは、あり得ないよ」僕も一緒にのめり込んで笑った。一人、二人、三人以上といろんな構成で繰り広げられる漫才と呼ばれる会話やコントがバカバカしくて面白かった。言葉は英訳の字幕になったが、それでも人や文化の愚かな面や滑稽さが満載で今まで感じたことがない新鮮さがあった。
「これおかしすぎるだろ、こんな感覚味わったことないよ」ジュリアンが嬉しそうな笑顔で僕に語りかけてきた。
「今にはない感覚だな」僕も素直に答えた。
「これやってみるか?」
僕達はマネをしてサイトにUpした。
『だちょーん!』
アクセスが急上昇した。調子に乗った僕たちは立て続けに日本のお笑いのギャグをコピーしUpした。そして僕達はヒーローになった。